この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

32 / 37
第三部に入ります。


第三部
第32話 この孤独な青年にコミュ障を!


 それは、カズマ君達が来てから最早当たり前となっていた、莫迦みたいな一日の始まり。

 

 「ちょっとこれどういうこと!?」

 

 その莫迦みたいな一日の始まりに私が加担しているというのは非常に嫌なのだけれど、仕方が無いと思う。

 ……仕事机のパソコンを開いた瞬間、「購入完了」という文字と共に表示されたとんでもない値段――「世界三大珍味、三ツ星シェフの料理直送コース ¥870000」が目に入ったのだから。

 

 「あ、ダザイじゃない。なんか美味しそうだったから、社のみんなで食べようと思って買ったわよ?」

 「ねえ、君の目は節穴なの? この値段について何も思わなかったの?」

 

 無邪気な笑みを見せるアクアちゃんを見ていると、純粋な殺意が湧いてくる。というかどうやって私のパソコンのロックを解除したのだろう。機密保持の為に何重にもパスワードロックをかけていたというのに。この子は時々摩訶不思議な行動で私を驚かせる。

 

 「円って日本の通貨よね。八十七万ってそんなに高いの? クエストに行けばすぐ稼げるでしょうに」

 「君達の世界と違って、こっちはモンスター倒してすぐ稼ぐなんてことは出来ないの!」

 「でもカズマさんが『いいかアクア、この世には教師っていうモンスターがいてな、悲しい悲しい不登校の少年を無理矢理外へ連れ出そうとするんだ』って……」

 「罰としてこれ没収ね」

 「あっ!」

 

 アクアちゃんの言い訳は聞くに堪えず、このまま聞いているとアクアちゃんをカズマ君諸共二回殴って五発撃ってしまいそうだったので、怒りを抑えるためにアクアちゃんの羽衣をするりと奪う。

 アクアちゃん曰く、「これは女神のアイデンティティ」らしいので罰には丁度いいだろう。

 

 目を吊り上げて掴みかかってくるアクアちゃんをいなしながら八十七万について考えていると。

 

 「あれ? 太宰、お前何やってんだ?」

 「カズマ君、アクアちゃんが君から変なことを教えこまれたせいで私のお金はピンチになりそうなのだけれど」

 「かじゅまさああああああああああん! この包帯男が私の羽衣盗ったあああああああああっ!」

 

 任務を終えたらしいカズマ君が部屋に入ってきて、その後ろから青い顔をした国木田君が続く。……きっと今日もカズマ君に苦労させられたのだろう。

 アクアちゃんが凄まじい勢いでカズマ君に抱き着き、カズマ君は「どうせお前のせいなんだろ」と正論を投下。アクアちゃんはとうとう地面に転がって暴れ出した。

 

 「太宰、そろそろこの駄女神のせいで苦情が来そうだから返してやってくれ」

 「ごめんそれは無理」

 「……はあ、なら仕方ねえな」

 

 だんだんアクアちゃんを見るのが楽しくなってきた私はカズマ君の提案を断った。……あとからこの決断を後悔することになるとは知らずに。

 

 「運勝負だ、太宰。俺が今からスティールを使う。羽衣を盗れるかどうか――」

 「へえ、面白そう。この私と運で勝負だなんて、いい度胸じゃあないか」

 

 カズマ君も段々ノッてきたのか、嬉々として右手を突き出した。いつの間にか社員の視線が私達に集まっている。この莫迦な喧嘩の行方を知りたいらしい。

 

 「じゃあいくぜ――『スティール』っ!」

 

 カズマ君の右拳から眩い光が溢れ出す。その手に握られているのは、アクアちゃんの羽衣――ではなく。

 

 「チッ、失敗か……何だこれ。写真?」

 「カズマ君、それ……」

 

 ――四年前、私がバーで安吾と織田作と撮った、最初で最後の写真だった。

 

                  ◇◆◇

 

 爽やかな風が私の頬を撫でる。

 足元にまばらに並ぶ小さな墓標を避けながら、大木の根元の『それ』に近づいて。

 

 「……久しぶりだね、織田作」

 

 その下に眠っているであろう旧い友人に微笑んだ。

 

 ――あの後、社にいるのが気まずくなった私は適当な理由をつけて社を飛び出し、無我夢中に走って……気がついたらここにいた。足が勝手にここをめざしていたらしい。

 カズマ君とアクアちゃん、ダクネスとめぐみんちゃんを見ていると、何だか以前の私達を思い出してしまうのだ。

 趣味が合う訳でも無いし、喧嘩だってするけど、仲のいい四人。……そんな四人を羨ましく思っている自分がいる。

 

 「あああああああぁぁぁあ!! そ、そこのアンタ! 助けてくれ!」

 

 そう、この孤独の一生から救い出して欲しいと思っている自分が……。

 …………助けてくれ?

 

 背後から聞こえた断末魔の悲鳴。思わず振り向くと、そこには涙と鼻水で凄いことになった顔を此方に向け、必死に手を伸ばす中年の男性の姿が。

 

 「ええと……何をなさってるんですか」

 「女が! 女のガキが、ここまで追いかけてきて――」

 「待ちなさい!」

 

 ――男性の背後から、険しい声と共に一人の少女が現れた。

 緩く結った黒髪。赤いリボンで飾られた胸元を露出した独特の服。短いスカート、長い靴下。黒いマント。一見した印象は、魔法学園の生徒という感じだ。そこまで考えて、私は気がついた。

 ……燃えるように紅く煌めく、少女の瞳に。

 

 「よくも、よくも私の大事な日記帳を盗ってくれたわね! アレには今まで話しかけてくれた人のリストや、一緒にご飯食べてくれた人のリストが載ってるの! 命にも代え難い大事な物よ! 早く返しなさい!」

 「悪かった! でも俺は交番に届けようと……」

 「問答無用よ! 『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 少女の瞳が一際強い輝きを放った瞬間、男性が突如足元に現れた沼に下半身を沈められた。

 ……嗚呼、どうして今日はこんなにロクなことに巻き込まれないのだろう。

 

 「えっと……君、そういうのは良くないよ。やめてあげ給えよ」

 「えっ! え、ええと、貴方誰ですか!? あっ違う、こういう時は名乗るのかしら……うう、でも嫌だなぁ……」

 

 私が話しかけた途端、先程までの勢いはどこへやら、突然狼狽え始めた謎の少女。まあ聞かなくても何となく分かる。

 やがて少女は意を決したように顔を上げ、両手を身体の前で組むと……!

 

 「わ……我が名はゆんゆん。 アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!

 

 着ていたマントをバサッと翻すゆんゆんちゃんを見ながら思った。

 ……カズマ君が来てから、変なことしか起こらないなぁ……。




というわけで……第三部は太宰とゆんゆんのお話です。後から誰か追加するかも?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。