この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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投稿頻度高くするのは……ちょっと、出来ないかもです……(><)


第33話 この哀れなぼっちに厄災を!

 「バニルさんから聞いて、バニルさんのご友人の方の魔法でこっちに飛んでくることに成功したんですけど……正直、状況がよく分からなくて。バニルさんは世界の危機がとか言ってましたけど、その辺りの事情をご存知ないですか?」

 

 オドオドした様子で私の顔色を窺うゆんゆんちゃんに、ニッコリと微笑んで。

 

 「さぁ、私はよく知らないなぁ。でも外に女の子を放り出す訳には行かないし、事情がハッキリするまで此処にいなよ」

 

 …………しれっと大嘘を吐くことに成功した。

 

                    ◇◆◇

 

 この紅い瞳。あの魔法。

 十中八九、この子はめぐみんちゃんと同じ類いの子だろう。……あの爆裂っ子と同じ。

 つまり、そんな恐ろしい女の子二人を同じ場所に居合わせることなんて出来ない。加えてカズマ君やアクアちゃん、ダクネスのような頭のおかしい人達も一緒なのだから尚更だ。

 

 だから、私は嘯いた。

 関係ないフリをしよう。心の中で強く誓って、現在、社員寮から離れたセーフハウス――私がマフィア時代に使っていた仮宿にいるのだ。仕事はしばらく休むことにする。

 

 女の子と二人きりはまずい? まさか。何処ぞの変態じゃあるまいし、こんな純粋そうな子に手を出すなんてことはしない。

 ……それに、正直今はそんな気分じゃないし。

 

 「あ、あの! 名前を教えてくれませんか?」

 「……へ?」

 

 全く違う方を向いていた思考を正すと、ゆんゆんちゃんの紅い瞳が強い輝きを放ちながら私を見つめていた。

 名前……そんな質問をされるなんて思ってもみなかった。誰かに自己紹介をする機会がめっきり減ったからだろうか。

 

 「私は……太宰治。姓でも名でもどっちでもいいよ」 

 「ダザイオサム……ダザイ、オサムさんですよね。じゃあオサムさん……えっと、お世話になります!」

 

 ………………沈黙。

 年齢も性別も住む世界も違う私達に、そんな諸々の壁を超えて盛り上がれる共通の話題など存在しない。当たり前だ、あったら逆に驚く。ゆんゆんちゃんが気まずそうに髪をいじり、私はソファにダイブする。寝るから話す気は無いという意思表示。女の子相手に酷いじゃないかと思う自分も居るのだが……正直今はそんな気分じゃない。

 

 ――咖喱が食いたいな……。

 

 煙草の煙が見えた。二度と目を開けることの無い友人の指の隙間から立ち上った煙は、部屋の空気に溶けて消えていく。

 ……本当に、嫌なことを思い出してしまった。

 

 そんな、気まずく苦しい沈黙を破ったのは、甲高い電子音だった。

 発音源は私のスマホ。着信は――非通知。

 

 「オサムさん、それ何ですか? 音が鳴ってますけど……」

 「スマホだよ。遠隔連絡機器兼、何でも出来る万能グッズさ」

 

 感情の入らない自分の声を遠くに聞きながら、スマホを耳に押し当てる。

 

 『――ポートマフィア元最年少幹部、太宰治。お前の仲間はあと三日で死ぬ』

 

 ……嫌なことは続くものだ。私は漏れる溜息を止めることが出来なかった。

 

                ◆◇◆

 

 「オサムさん、何処に行くんですか?」

 「……さっきの電話の発信主を突き止めに、ね」

 

 時刻は正午近く。指定された場所に早足で向かうと、ゆんゆんちゃんも着いてきた。

 

 「ねえゆんゆんちゃん。多分、私はこれからかなり危険な案件に巻き込まれるのだよ。近くに居たら君まで巻き添えを食うかもしれない。それでもいいの?」

 

 わざと声に苛立ちを滲ませながら云う。本当は「邪魔だからついてくるな」と云ってしまいたかった。いつものようにオブラートに包んで笑顔ではぐらかすだけの元気が、今の私には無い。だからせめてゆんゆんちゃんが私の意図を汲み取ってくれるように話したつもり、だったのだけれど……。

 

 「何言ってるんですか! 行く宛てのない私を拾ってくれた優しい人に恩返しをするのは当然です!」

 「……君が来たって出来ることなんか、」

 「あります。これでも紅魔族の端くれです。貴方よりはよっぽど戦えます」

 

 その強い口調に、思わず彼女の顔を見返した。煌めく紅い瞳が真っ直ぐに私を射抜く。

 ……こんな年下の子に、こんなに面と向かって反論されたことなんて未だかつて無かった。

 

 不思議だった。何の面識もない、生きる世界が違うこんな女の子にちょっと喝を入れられただけで、こんなにも気が抜けるものなのか。

 けれど、きっとそれだけでは無い。この子の持つ真っ直ぐな優しさが、私の中の何かを解した。

 

 「『仲間は三日で死ぬ……』仲間。オサムさん、この仲間っていうのが誰なのか分かりますか?」

 「さあね。何人を指すのか誰を指すのか全く分からない。……けど、」

 

 ――この子なら、信じてもいいのかな。

 

 その瞬間まで、私は彼女をこの案件に深入りさせるつもりは無かった。けれど、たった今決まった。

 

 「指定された場所は此処だよ」

 

 ゆんゆんちゃんの視線を、目の前のその店に誘導する。

 夜ならばネオンサインが煌めき、昼の今は静かに暗く存在するその店――"Lupin"。

 

                 ◇◆◇

 

 階段を下りた瞬間、オサムさんが顔をしかめて言った。

 

 「駄目だゆんゆんちゃん、やっぱり戻ろう。嫌な予感しかしない」

 「えっ、どうしてですか?」

 

 私が訊き返しても、オサムさんは答えない。店の奥に苦々しげな視線を注いでいる。

 誰か知り合いでも居るのかな。そう思って店の奥を覗き込み――

 

 「ちょっ――」

 

 直後、右耳を何かが掠めたと思ったら、オサムさんが身体を横に逸らしていた。私の視界の右側に、黒い何かが映り込む。

 コンマ数秒遅れて状況を理解した私は、オサムさんを庇うように立っていつでも魔法を発動できるように構えをとった。

 

 「……ヘェ、コイツは驚きだ。太宰、手前がこんな年下のオンナノコに守られるような雑魚だったとはなァ」

 

 特徴的な黒い帽子。黒いジャケット。小柄ながらも引き締まっていることが分かる身体。そして……バーの席に座っていながらも正確にナイフを投擲し、続く動作をオサムさんへの攻撃に繋げようとしたその判断力。

 ただ者じゃない。強い魔物とは何度も戦ってきたけど、この人にはそのどれとも違う、独得の威圧感がある。

 

 青く鋭い瞳に気圧されないように睨み返すと、私の後ろから溜息が聞こえた。

 

 「はぁあ~……本っ当に最悪。しかも、この子は私を守れるような子じゃないよ。普通のか弱いお嬢さんだ」

 「ハッ、抜かせ。手前が此処に誰かを連れてくるってこと自体が異常だろうが」

 「……で、君は何の用?」

 

 オサムさんと少年は先程の鋭い空気から一転、気の置けない友人同士のような砕けた雰囲気になって店の奥に歩を進める。

 ……この人達はどういう関係の人達なんだろう。友達ってこういうものなの? 出会い頭に殺し合い紛いのことをするの? 私もめぐみんにこういうことしたら認めてもらえるのかな……今度やってみよう。

 

 少年が店の奥の席に座り、次にオサムさんが座ったので、私はその隣に腰を下ろす。二人がお酒を注文するのを横目で見ながら、私は何も頼まずに二人の会話を聞いていた。

 

 「どうも最近、不審な事件が頻発してる。万引きに窃盗、路上での殴り合い……そして、謎の青髪芸人の出現。手前が一枚噛んでるんじゃねェのか?」

 「……う、うーん。私は知らないよ。最後のひとつとか、特に知らないなぁ~」

 「特に知らないって何だ、日本語おかしくなってんぞ」

 

 青髪芸人……それを聞いて何となく思い出すのはアクアさんのことだ。青髪といえば、あの人も綺麗な青色の髪をしている。まぁ、この世界にいるはずがないのだけど。

 

 「しかも今日に至っては不審電話だ。手前が俺の電話番号を誰かにリークして、何かやらせようとしてるとも考えられる」

 「電話……それは私も受けたよ。三日後に仲間が死ぬってやつ」

 「――他には?」

 「え、他って……それだけだけど、他に何が――」

 

 私には見えた。二度目だったからかもしれない。

 けれど、二度目にして初めての現象。

 ――その攻撃には、本気の殺意が乗せられていた。

 

 「『ライト・オブ・セイバー』っ!」

 

 オサムさんの首筋を狙って振られた銀の刃を、私の両手から迸った光の刃が切り裂いた。

 光の隙間に微かに見えた、少年の獰猛な笑み。切り裂かれた空気の裂け目から聞こえてきた、微かな呟き。

 

 私はオサムさんの身体を抱えてバーの階段を駆け上がる。

 ……まさか、この世界に来て早々、こんなトラブルに巻き込まれるなんて。

 

 「――俺の電話にはまだ後がある。探偵社員、太宰治もしくはそれ以外の社員全員を殺さなければ、マフィアの構成員を全員殺す、だ」

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