この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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第35話 この双つの黒に優しさを!

 「つまり……私がめぐみんやダクネスさんやカズマさんやアクアさんに会ったら面倒なことになると思って、敢えて何も知らないフリをしていたってことですか?」

 「その通り!」

 「『ライトニング』!」

 

 太宰さんの断末魔をBGMに、私はホテルへと足を踏み入れた――

 

               ◇◆◇

 

 「ところでダザイ、ここは普通のホテルだが、……未成年の私達を連れてきても良かったのか? カズマ曰く、未成年は何かと制限があるらしいが。普通のホテルとはいえ、未成年を連れてきてもいいものなのか?」

 「……え、ごめんごめん待って、二人とも未成年だったの?」

 「ぶっ殺」

 

 ……どうやら私は未成年だと思われていなかったらしい。

 大人っぽい雰囲気のあるダクネスさんはともかく、私までそんな風に思われてたなんて……心外だなあ。

 ダクネスさんの猛攻をひらひらとかわすオサムさんに、私はひとつ溜息をついて。

 

 「もう……じゃあさっきあの人が言ってた青髪芸人って、アクアさんのことですか?」

 「多分ね……はあ、もう最悪だよ! めぐみんちゃんと似たような子が増えるのかあ……胃痛が……」

 「私をあんなのと一緒にしないで下さい!」

 

 私はいつまでも爆裂魔法に拘ってるような馬鹿な紅魔族じゃない!

 でも……めぐみんは馬鹿だけど……。

 

 初めて見た爆裂魔法。あの時の衝撃は忘れられない。

 圧倒的な破壊力。ド派手な魔法発動。全てを蹂躙する力。……めぐみんがあの魔法に心酔している理由が、ちょっとだけ分かった気がした。

 

 「それにしても、ゆんゆんはどうやってこっちまで来たのだ?」

 「バニルさんに言われて……ウィズさんの魔法でこっちに来ることに成功したんです。それで、偶然オサムさんに会って……」

 「まあその話は後だ。まずはさっきの話の続きをしようじゃあないか」

 

 オサムさんがベッドに腰掛ける。オサムさんの全身から漂う空気が一気に冷え、部屋の温度が下がったように錯覚させられた。

 ダクネスさんに向けられたオサムさんの視線が、絶対零度の鋭さを以てダクネスさんを貫く。

 

 「ダクネス。君はどっち側?」

 「ど……どっち側とはどういうことだ」

 「異世界から来たとはいえ、今はマフィアに身を置いてる。……ねえダクネス、君は自分がマフィアの一員だと、本当にそう思ってるの?」

 

 ――オサムさんの言葉の意図はよく分かる。

 恐らく、ここでダクネスさんがマフィアの一員だと答えれば、何らかの方法を使ってダクネスさんの動きの一切を封じてしまう気でいる。

 そうしなければ、オサムさんの身が危ないから……。

 そうだと分かってはいても、ハラハラせずにはいられない。

 

 でも、ハラハラしている場合じゃない。

 オサムさんもダクネスさんも、私にとっては大事な人だ。二人の身に何かあるようなら、私は全力で二人を守らなきゃ。

 

 数秒の後、ダクネスが口を開く。切れ長の瞳には不安の色が見え隠れしている。

 

 「……私は此方の世界のことはまだよく分からない。だが、ひとつ分かるのは、此方の世界は私達の世界とは全く別物だということだ」

 

 黙るオサムさん。沈黙の音が耳に痛い。

 ダクネスさんは慎重に言葉を選びながら話し続ける。

 

 「マフィアにいればよく分かる。人殺しイコール悪人ではないということが。きっと、何らかの事情でそのような道を歩まなければならない者で出来た組織なのだろう。だとすれば私はマフィアにはなれない。私には重い過去なんて無いし、命の危険を感じる毎日なんて、冒険者稼業をやっているとはいえかなり縁遠いものだ。……だが、」

 

 オサムさんが息を呑んだ。私も思わず息を呑んだ。

 ――ダクネスさんが、笑っていたから。

 花が咲いたように可愛らしい、けれど真摯な笑顔。

 

 「冒険者になって、屋敷の外に出て……初めて、守りたいと思えるものが出来た。信じられない方法でパーティ勧誘をしてきたクリス、変な最弱冒険者のカズマ、綺麗なのに馬鹿なアクア、頭のおかしいめぐみん……。出会ったばかりの頃は、まさかここまで大切な友人やパーティメンバーが出来るだなんて思ってもみなかったのにな。今でも不思議だ」

 「ダクネスさん……」

 「もし私がマフィアで、あの三人と同じように大切な人を見つけていたのなら、私はマフィアの一員になっていたのだろう。でも違う。私の居場所は、馬鹿で滅茶苦茶な奴ばかりのあの街で、馬鹿な三人がいるあの屋敷だ。私はやっぱりマフィアにはなれない」

 

 ダクネスさんは息を吸って口を閉じる。話の終わりだ。

 暫くの間、再び訪れた沈黙が部屋の中を支配した。

 オサムさんは何かを考え込むように唇をきつく閉じている。伏せられた睫毛の影が目元に落ちている。

 

 「……ダクネス」オサムさんが云った。「君に全部話すよ。君にも手伝って貰おう」

 「……ってことは!」私は思わず声をあげてしまった。オサムさんがにっこりと微笑んで、

 

 「変態だけど、マフィア側では無さそうだし……ステータス自体は高そうだから戦力にはなるだろうしね」

 「最初の一言には異論があるが、私はこれでも上級職だ。どんな攻撃も防いでみせる!」

 

 こうして、私とオサムさんとダクネスさんという臨時パーティーが結成された。

 

                   ◇◆◇

 

 「で……わざわざ八百屋に謝りに来たのは、それだけが理由じゃないんでしょう?」

 

 爆裂魔法をぶっぱなして営業妨害の疑いをかけられた(いやまあ、モロ事実なんだが)めぐみんを連れて八百屋に謝りに行った、その帰り。めぐみんが紅い瞳を興味深そうに輝かせて首を傾げる。

 

 「……まあな」

 「さっきの悩み相談ですか? 何かあるんなら言って下さいよ」

 

 ……此奴は、少し頭がおかしいだけの良い奴だ。そしてそれはダクネスも同じで。

 だからこそ巻き込みたくない――つい先程まで俺の頭の中心に突き刺さっていた重い思考が、瞬時に取り払われる。

 此奴なら、突拍子もない案で無茶苦茶なことを仕出かしてくれるかもしれない。

 

 「実は、ちっと困ったことになりやがってるンだよ」

 

 ということで、全てを洗いざらい打ち明けることにした。

 妙なメールのこと。最近、不審な事件が頻発していること……。

 全てを聞き終えると、めぐみんがふんふんと頷いて。

 

 「不審な事件……メール……。あ、もしかして!」

 「もう分かったのか!?」

 「……いえ……分かったわけではないのですが、ちょっと思いついたことがあります。チュウヤ、ついてきてください!」

 

 真剣な表情で振り向いためぐみんが、俺の手をとって駆け出した。

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