あと、ストーリーに大きく関わるような重要な話とは対極の話な気がします。
窓の外を見れば、爽やかな朝日がこの街――横浜の街を美しく照らしていて。
この世界も悪くないかもしれない、なんて思ってしまったけれど。
「カズマもアクアもいない上に、私達がこんな組織に入ってしまったなどと知れたらどうなるんでしょうね……」
――昨晩、任務が終わった後。チュウヤが私達と一緒に部屋に戻ってくるなり、私達を椅子に座らせて真剣な顔で口を開いた。
「お前らがかなり無理矢理マフィアに加入させられることになったのは分かってる。だから、ここで一度、この組織について説明しておく」
チュウヤ曰く、ポートマフィアとは横浜の三大組織の内のひとつなのだと。
昼の世界の治安を守る軍警。夕方の世界を取り仕切る武装探偵社。そして、夜の世界をナワバリにするのがここ……ポートマフィアなのだという。
軍警は最も政府に近く、法を遵守する組織。武装探偵社は、政府とはあまり関わりがないが、法は一応守っている。最後に、ポートマフィアは――法はほとんど守らない。やっていることは横浜に危害を加える犯罪組織の撃退、滅殺だが、犯罪組織を撃退するなら此方も犯罪で対抗するしかないというわけで。
また、証拠を残すようなこともしないポートマフィアは、そのような観点からも政府から見て見ぬふりをされているようなものらしい。
また、そこで重要になってくるのが"異能力"――人間が起こすことの出来ない超常現象を容易く起こしてしまう超能力だ。
私達の世界で言うと、スキルだとか魔法だとかいったものだと思う。
チュウヤの身体能力が特別高いと言うよりも、チュウヤの異能力……重力を操作する異能が強力だっただけなのかもしれない。
「……チュウヤはどこかに行ってしまいましたね」
「そうだな。彼奴はこの組織でも立場がかなり上のようだから、何かやるべきことがあるのかもしれない」
私の隣で、薄いネグリジェ姿のダクネスが厳しい表情で虚空を睨む。
ダクネスとは先程、互いの考えについて話していた。
私は、恐らくここはアクア達の言う「異世界」なのではないかということを。ダクネスは、二人がいるのなら探してみたいということ。
……私も考えは一緒だ。
「よし。じゃあ、今日は街を探検しましょうか」
「そうだな。準備をして出発しよう」
こうして私とダクネスは部屋を出て、マフィア本部ビルを出るべく歩き出したのだが。
「おい、見ろよ……あの二人だぜ」
「あの二人か……身体を売って中原幹部に取り入ってるっていう……」
「つーか、片方は売れる身体無くね?」
「「おい貴様ら、誰のことを言っているのか聞こうじゃないか!?」」
道中であらぬ陰口を叩かれ続けて我慢の限界に達した私達は、黒いスーツ姿の男達に掴みかかった。
相手が年上の男とはいえ、ステータスは低くない。本気を出せば引けは取らない筈だ。
そんな自信から脅迫していると、男達は顔を見合わせて。
「だったらお前達、なんであんなに幹部と親しくできるんだ? 普通、加入したばかりの……しかも異能も無いただの女二人が呼び捨てにできる人間じゃないぞ。下手したら首が飛ぶ」
「「えっ」」
今度は私達が顔を見合わせる番だった。
あれ、チュウヤってひょっとしてめちゃくちゃ権力もってるのでしょうか?
そしてそんな相手に初対面で爆裂魔法をぶっぱなしてしまった私は一体何をやっているのでしょうか?
……まあいい。
私は権力には屈しない男を恋人にもつ女。つまり私も不当な権力には屈しない。
「めぐみん、震えているぞ。大丈夫か?」
「――我が名はめぐみん! 爆裂魔法を操りし者にして、不当な権力には屈しない女!」
だから私は爆裂魔法を撃った。
……マフィア本部ビルが五割方消し飛んだ。
◇◆◇
「おい」
「貴方には分からないのですか!? この、爆裂魔法と言う素晴らしき魔法が! 私はこの魔法を覚えてからというもの、全てのスキルポイントをこの魔法の威力上昇、詠唱速度短縮に突っ込み――」
「訳分かんねェことほざいてんじゃねェ!! どうしてくれんだ、こんなことしたの手前が初めてだぞ!」
「いやぁ、それ程でも……」
「褒めてねえ」
異能というのは便利なものらしく、あの後、マフィアお抱えの異能者数人が泣きながらビルの再建をしていた。
己の愛する組織のビルを立て直せたことが余程嬉しかったらしい。
「お前らいい加減にしろよ。首領から直接『その子達にはちょっとお仕置しといて』なんて云われたの初めてだぞ」
「何故そこに私も入っているのか解せないが……お、お仕置だと!?」
ダクネスの瞳が輝き、頬が上気し始める。
これはまずい。
「き、貴様!! 首領から言われたからという大義名分を振りかざし、私の身体を目当てに好き勝手要求してくる気か!」
「はァ!? 何云ってんだてめ、」
「その視線で私の身体を舐め回し! 更には個室に二人きりなのをいいことに、夜に私の身体を押さえつけ、『声を出したらどうなるか分かってんだろうなァ……?』と言いながらそれはもうすんごいことをする気だな!?」
「ダクネス、二人きりじゃないです。私もいます」……無視された。
「おい、待て。落ち着け。その顔を何とかしろ。あと俺に近寄ってくんな」
チュウヤが頬を引き攣らせて怯えている。これは流石に可哀想だ。
「……もういい。俺は今日はやることがあるから手前らは大人しく拠点にいろ」
「あ、あのう」
「ンだよ一体!」
チュウヤの顔には「もうお前らとは関わりたくないんだよ」と書かれていた。
犯罪組織の幹部から避けられる私達って一体……。
だけど、チュウヤの言葉に少し興味をそそられて。
「私達も一緒に行っていいですか?」
「……断ったらどうなるんだ」
「く、くぅ……っ! 遠慮がちに誘えば、遠回しに断られる……これも中々新しい。カズマはいつも容赦なく断るからな……新感覚だ、新感覚だぞ……!」
「分かったもういい、もういいから連れてってやる!」
……チュウヤ。激しく同情します。
こうして私達は、犯罪組織の幹部と街を歩くことになった。