この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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アクアは本当に……馬鹿ですよねぇ……(´-д-)-3


第7話 この奇妙なコンビに不信感を!

 この二人は怪しい――。

 今朝の一件で、元々二人に抱いていた悪印象と不可解な部分が倍増した。

 あんな多彩な異能は見たことがない。しかも、連携は息ぴったりで。一人も殺さずに仕留めたその手腕。

 

 「おいアクア。炭酸買ってこい」

 「はあー? ヒキニートが誰に向かって命令してんのよ」

 「ゼル帝」

 「分かったわ、分かったからそれだけはやめてお願いよおおおお!!」

 

 ……こんな莫迦な会話をしていても、重武装の男達を仕留めたのだ。疑わなければならない。

 泣き叫びながら探偵社を飛び出していくアクアちゃんに僅かな同情を覚えつつ、カズマ君をじっと観察する。

 昨日与えたデスクに座り、何やら真剣な顔でキーボードを叩いている。気配を消して背後から忍び寄ると、

 

 「何やってんだ太宰」

 「え、なんで気づいたの?」

 

 歳上に対する呼び捨ての姿勢は敢えてスルーしてあげた。

 カズマ君は私が画面を覗こうとした瞬間にホーム画面に切り替えると、くるりと振り向いて軽く睨みつけてくる。……本当に謎だ。気配を消すのは得意なのだけれど、どうして分かったのだろう。不思議でならない。

 

 「まあ、俺の特殊スキル、かな……」

 「……」どうしよう、この子もしかしたらある意味で私以上の才能があるかもしれない。

 

 誤魔化しているのか本気なのか何も考えていないのかよく分からない返答に戦慄しつつ、表情では笑みを維持したまま探りを入れる。ここでこの私が負けてなるものか。

 

 「ところでカズマくん、昨日は凄かったねえ。不思議な力を使っていたようだけれど?」

 「あれは俺の中に眠る破壊神が目覚めちまったからさ……」

 「……そう」どうしよう、この子本当に面倒臭い。私が今まで出会ったどんな人間よりも難敵だ。

 動揺せず、焦らず。次の質問で核心を突こうと――

 

 「この野郎おおおおおおおああああああ!!」

 

 断末魔の悲鳴と怒りの絶叫を混ぜたような獣の咆哮が響き渡ると同時に探偵社の扉が開け放たれた。

 立っていたのはスーツ姿の男。日本刀を携え、きちんとした身なりのその男の姿には見覚えがある。

 

 「君、安吾の所の……」

 「太宰治。今日はお前に用があるんじゃない」安吾の部下は怒りに身体を震わせながら、真っ赤な顔でびしりと指を突き出すと。

 

 「そこの異能者! 異能乱用の容疑で書類送検させてもらう!」

 「……は?」

 

 ――カズマ君が突然の指名に固まった。

 

 「えっ……と、ってあああああああ!! お前、昨日俺をつけまわしてきた……!」

 「「つけ回した!?」」安吾の部下ってそんな趣味あるの!?

 「な、何を言っている貴様ァ! 公園で子供に向かって異能を使用していたと報告があったのだぞ! しかもあの後、金髪の女と私を一緒に縛ったせいで、公職の私が不審者扱いされたのだ!」

 

 ……異能ねえ。

 さて、謎の少年カズマ君はどう対応するのかなと様子を窺ってみる。

 

 「知るかよ、何が異能だ! 厨二病ってのはな、ロリ少女についてこそ属性になるんであって、お前みたいなクソ男が厨二病でも何も美味しくないんだよ!」

 「ち、厨二病!? 貴様、自分が異能者であるにも関わらず、異能をそのようなもの扱いすると云うのか!」

 「だっから、異能って何なんだ!?」

 

 幼稚な口論が繰り広げられ、緊迫していた社内の空気が段々と呆れたものになっていくのが分かる。

 というか、カズマ君は本当に異能者では無いのだろうか……異能者でないという嘘をついているにしては、異能者のことを貶し過ぎているような気がする。

 けれど、そんな空気が続いたのも僅かな間だった。苛立ちがピークに達したらしいカズマ君は椅子を蹴って立ち上がると、

 

 「よーし、そんなに言うならとっておきの『イノウ』を使ってやるよ……『スティール』っ!」

 

 突き出した右の拳が青白い光に包まれる。昨日は出さなかった「手」だ。

 刹那、探偵社が再びカズマ君の右手を食い入るように見つめ――

 

 「はあ? 貴様一体何を……ってあっ! わ、私の刀が……!」

 「はっ、刀が無いと戦えないってのかよ!」

 

 カズマ君が刀を横にして安吾の部下の脳天に振り下ろした。ゴンッと鈍い音が響き、安吾の部下は白目を剥いてバタリと正面に倒れる。

 ……その光景を、社内の全員が息を詰めて見守っていた。

 詳しいことは分からないが、ただひとつ分かるのは。

 

 ――カズマ君が、謎の力によって刀を安吾の部下から奪い取った。

 

 矢張り、この少年は普通では無い。異能にしては弱すぎるけれど、あまりにも多彩だ。使い方次第では化けると思う。本当に。

 ……そんな力を、少年は巧みに使いこなしていた。

 

 「ただま……ってあら、カズマさんってばまた姑息な手段で何かやったのね? そうなのね?」

 

 そんな時、緊迫した空気をぶち壊したのは炭酸片手に帰ってきたアクアちゃん。彼女はぶっ倒れた安吾の部下と、刀片手に立っているカズマ君、そしてそれを見守る探偵社一同という世にも奇妙な光景を前にしても一切動じない。それどころか鼻歌でも歌い出しそうな軽やかさでカズマ君に茶々を入れる。

 

 「うるせえよ宴会芸の女神」

 「なんですってこの童貞!」

 「ゼル帝」

 「ねえ、カズマさんって何かそこはかとなくいい感じよね」

 「……無理して褒めろとは言ってない」

 

 ……そろそろ私達はアクアちゃんの学習能力の低さに気づき始めた。

 興味無さそうに刀を一瞥したかと思うと、カズマ君は突然椅子に座り直し、パソコンを弄り始める。

 

 「えーっと……カズマ君、なにやってるの?」

 「この刀売ろうと思って」

 「「えっ」」

 

 予想外の答えに仰け反る敦君……と、アクアちゃん。

 そして、私達は気づき始めた。……カズマ君は私とは正反対の方向に思考能力が進化しているらしい。

 

 カズマ君に呆れた視線を向けるアクアちゃん。うっひょー高値で売れるぜと飛び上がって喜んでいるカズマ君。

 

 「……貴様ら、いい加減にしろ」

 

 まあ、そんな二人を前にして、我が社の仕事の鬼であり生真面目の鏡であるこの人が黙っているはずも無いよね。

 

 昨日と同様、社の真ん中で若い男女二人が正座させられて説教されているというカオスな光景に紛れて、私は携帯を確認しながら社を後にした。

 

 

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