この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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今回は少し長め。


第8話 この双黒に悪運を!

 老若男女、年齢層を絞らない。幅広い世代からの受けが良い、落ち着いた雰囲気のお洒落な喫茶店。

 私の隣にチュウヤが。チュウヤの向かいにめぐみんが。そしてその隣には――

 

 「こんにちは、お嬢さん達。こんなチビに連れられていて可哀想だね」

 「誰がチビだこの野郎」

 

 爽やかな笑顔で暴言を吐く、整った顔立ちながらも胡散臭い、全身包帯だらけの男が一人。

 ……私の好みとは違うタイプのダメ男の予感がする。

 

                   ◇◆◇

 

 チュウヤと共に街に繰り出した私とめぐみんだったが、アクセルの街との違いにいちいち驚きの声を上げてはチュウヤに急かされていた。

 硝子のショーウィンドウからは、季節に合ったお洒落な衣服が姿を覗かせたり。無骨なビルから綺麗な女性がぞろぞろと連れ立って出てきたり。触れずに開く扉、馬も居ないのに勝手に走る鉄製の何か。

 本当にここが「異世界」なのだと改めて実感させられた。

 

 そして、驚いたことがもうひとつ。

 

 「い、良いんですか……? 本当に?」

 「罠とかでは無いのだろうな?」

 「いちいち失礼なんだよお前らは。……まァ、迷惑料にしちゃ安過ぎるか?」

 「「とんでもないです!」」

 

 どうやら、チュウヤはチュウヤなりに私達を半ば無理矢理犯罪組織であるポートマフィアに引き込んだことを申し訳なく思ってくれているらしい。……どうしよう、私の好みのタイプとは正反対のはずなのに、マトモな人間に出会えたことがこんなにも嬉しいなんて。今まで奇特な人間しか周囲にいなかったからだろうか、こういう人柄に触れると心が温かくなる。

 

 恥ずかしそうに後頭部を掻くチュウヤに、私とめぐみんは全力でお辞儀をした。

 ……と言うのも、チュウヤは様々な女性物の衣服が取り揃えられたお洒落な服屋に連れてきて、「好きな物を好きなだけ注文していい。金の心配はするな。後で本部に送らせる」と言ってくれたのだ。カズマとは対極の位置に居るような男だと思う。本当に。

 

 「……なあめぐみん。本当にチュウヤは人殺しなのだろうか……」

 

 好きな衣服を数着、遠慮しながらも注文し、街の中を歩いていても平気なようにと常時着用の服も着せてもらった後。

 人混みの中、私達の少し前を歩いているチュウヤには聞こえないようにぽそりと。

 隣にいるめぐみんにだけ聞こえる声量で呟くと、めぐみんはチラリとこちらを見て。

 

 「……きっと、根は良い人なんでしょう。けれど、彼の中に根差す『何か』が、人を殺してでも街を守りたいという強い思いを持つモノなんじゃないでしょうか。人間、特別な感情を抱いた相手には影響されやすいものなんですよ」

 「それは――ひょっとして、」

 

 カズマのことか、と言おうとするも、めぐみんの指によって続く言葉を遮られる。

 めぐみんは寂しげに微笑んだ。

 

 「私も……カズマと居るようになってから、本当に変わりましたね」

 「めぐみん……」

 「カズマが他の女の人と話していると、胸がモヤモヤしたり。その中身が魔法に関するものだと知ると胸がキュッと苦しくなって、更にその女性が初・中・上級全ての魔法を使える魔法使いという事実を知って無邪気にはしゃいでいるカズマを見ると、女の人に爆裂魔法を撃ち込みたくなるんです」

 「なあ、それは違うんじゃないか? 悪い意味で影響されている気がするのだが……」

 「『エクスプロージョン』っっっ!!」

 「「あっ」」

 

                   ◇◆◇

 

 そして冒頭に戻る。

 

 「なあ太宰……頼むから、こいつらをマフィアから追い出してくれ……俺が莫迦だった。認めるから、まだこいつら手は汚してねェから、頼むから探偵社に移籍させてやってくれ……」

 「え、なに、怒ったかと思えば急に消沈? しかも"こいつら"って――」ダザイと呼ばれた男が怪訝そうに私達の表情を窺った瞬間。

 

 「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の爆裂魔法の使い手にして、"頭のおかしい爆烈娘"の通り名を持ちし痛ああああああ!?」

 

 徐ろに立ち上がって名乗りを上げためぐみんの頭をチュウヤがひっぱたいた。

 ……めぐみん、自ら頭のおかしい爆烈娘を名乗るのか。しかし、今の叩きは音が良い。是非一度私もやられてみたいものだ。

 めぐみんは涙目になってチュウヤに掴みかかろうとするも、チュウヤはひょいと躱して口を開く。

 

 「街中であんな異能なのか何なのか判別すら出来ねェ大爆発起こす奴があるかこの糞餓鬼!! 明日からマフィア内での手前の通り名をその通りにしてやろうか!」

 「ええ、ええ、やってみるがいいです! そんな事をした次の日には、ポートマフィアのビルがネリケシと化しているかもしれませんけどね!」

 

 ……もうこの二人は放っておいた方がいい気がする。

 開き直って二人を居ない者として扱うことにした。周囲からの視線が痛いのは気の所為だろう。

 正面を見ると、ダザイとばっちり目が合って。ダザイは柔和な笑みを見せると、

 

 「とても綺麗な方ですね……もし良ければ、私と共にこの世界に別れを告げ、天で一緒になりませんか?」

 「……」

 

 私の好みじゃない!

 

 「違うだろう、そこはそうじゃない! 『ハッ、この雌豚……イヤらしい顔しちゃって。なぁに、お仕置して欲しいの? 未だだァめ。死ぬギリギリまでたっぷり可愛がってあげるから覚悟しときなよ……』と! 頬を上気させ、欲に塗れた瞳で貴様はそう言うのだ! そうだろう!?」

 「えっ……いや、え、は?」

 

 狼狽えるダザイ。だがしかし、私はここで止まる訳にはいかないのだ!

 バンッと机に掌を叩きつけて立ち上がる。気づけば隣の二人の喧嘩も収まっていて。後は私が言うべきことを言うだけという状況だ。

 

 「さあ言えダザイ! その綺麗な顔の下に隠した、私の身体への欲望をさらけ出せ!」

 「ねえ中也どうしよう、こんなに怖い美人さん見たの初めてなのだけれど」

 

                   ◇◆◇

 

 「……で? あのメールの内容は何なんだ?」

 

 めぐみんとダクネスを脅して黙らせた後、携帯のメール画面を太宰に翳して見せる。

 それを送った張本人は、画面を見て口角を引き上げた。

 

 「うふふ。……まァ聞いてよ。実は昨日、探偵社にある女の子と男の子が入ったのだけれど――」

 「はァ? 新入社員? ……異能は?」

 「うーん、もし知っていても云うわけないけれど。生憎、異能なのかなんなのかよく分からない力を持っているらしくて。今日なんか探偵社に殴り込んできた安吾の部下をその謎の力で追い返してしまったのだよ」

 「あの教授眼鏡の部下……結構強ェんじゃねぇの?」

 「それが問題。実は、その手口って云うのがね……」

 

 太宰曰く、"教授眼鏡の部下には一切触れずに"武器の日本刀を奪って殴り昏倒させた後、その刀をネットで売り飛ばしたのだと。

 

 「触れずに武器を奪う……ダクネス、もしかしてこれは……」

 「あぁ、私も同じことを思ったところだ。刀を売るというのも、あの男の手口によく似て……」

 

 「だから、近い内にマフィアと探偵社で合同任務を行って、マフィア側から見たあの二人の力について意見を聞かせて欲しいのだよ」

 「やべェのは片方か?」

 「いや、多分両方。どちらかと云うと男の子の方が危ないね」

 「そうかよ……そう云えば太宰」

 「なんだい」

 「――なんか、外騒がしくね?」

 

 見ると、喫茶店を囲むように、黒いスーツの男数十人が立っていた。

 見たところ目立つ武装はしていない。マフィアの人間では無いな……となると、

 

 「参ったね。どうして特務科が此処に、」

 「ああああああのスーツは見覚えがあるぞっ! この前私に痴女罪だなんだと言い掛かりをつけてきた男が着ていた……!」

 「「「それは多分事実だと思います」」」

 

 さあどうするか。真逆真昼間からマフィア幹部が出張ってドンパチやる訳にもいくまい。それは太宰も同じだ。昼の人間が昼の人間相手にどう戦うと? しかも、相手の方が地位も権力も上。一介の探偵社員である太宰に特別なことができるとは思えない。

 

 「こいつら……一体何が狙いなんだ?」

 

 すると、集団の中から一人が代表らしく前に出て。

 握ったメガホンを口元に翳し、すうっと息を吸い込むと……。

 

 「探偵社員、太宰治! 私の刀を売り飛ばした佐藤和真とやらは何処にいる!! 今すぐに居場所を教えろ、一発で拘置所送りだ!」

 「「「えっ」」」

 

 太宰とダクネスとめぐみんの声が重なる。三人は顔を見合わせて――

 

 「……ダザイ、話は後です。今はここを乗り切らなければいけません」

 「そうだね……めぐみんちゃん」

 「ああ。まず私が真ん中に突っ込んで気を引くから、ダザイは後を頼む」

 「嫌です」

 「なっ……! し、しかし、即断即決も中々――」

 「無理です」

 

 莫迦なやり取りをしている間にも、教授眼鏡の部下はヒートアップしていき……!

 

 「俺が佐藤和真だあああああああ!!」

 「そして、ヒキニートを支える女神、アクア様の登場よ!」

 

 ――どこからともなく二人の少年少女が男達の中心に現れた瞬間、莫迦なやり取りがピタリと止んだ。

 

 

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