国木田の説教の傍ら、太宰の気配が消えた。本当にさり気なく、誰にも気取られないようにフッと。
それが気になった俺は、怒鳴る国木田を無視して窓に駆け寄り、出て行った太宰の動向を千里眼スキルで追う。
こんなタイミングで出て行くということは、遠出するつもりは無いだろう。なら、後は千里眼スキルの届く範囲で太宰が動いてくれることを願う。俺の高い幸運値頼みだ。
「カズマさんカズマさん、流石に説教の途中で窓の外を見出すのはクズマさんを通り越して肝が据わってると思うの」
「ありがとな」
「褒めてないんですけど」
「おい青髪の小娘、貴様もだ!! 他人を貶せる立場か!?」
「あーら言ってくれたわねこのノッポ! その眼鏡ダサいと思わないんですかー!? そこはかとなく童貞臭漂うその眼鏡、ダサいと思わないんですかー!? プークスクス!」
「な、なんだと……!」
何やら喧嘩を始めた二人を無視して太宰の動向を追い続けると、やがてある喫茶店には入っていった。
入り組んだ路地の中ではなく、探偵社から見渡せる範囲にあるお洒落な喫茶店だ。やはり運は最強。
暫くの間喫茶店を見ていると――
「ん……おお……!?」
赤茶けた髪をした、全身黒ずくめの……紅魔族の琴線に触れそうな格好の少年が喫茶店に入る。そしてその背後にいる二人の少女に俺は視線が釘付けになった。
金髪碧眼の美人。黒髪赤目の美少女。二人共何故か格好は違うが、あれは確かに俺のポンコツパーティメンバーだ。
そして、三人は太宰と同じ席に座る。黒ずくめの少年の隣にダクネス、太宰の隣にめぐみん。
何だ? めぐみんがこの世界にいたということで一先ず安心したが、謎の面子に不安が止まらない。
――という訳で、ここで読唇術スキル発動!
「カズマ、何か分かったのかしら?」
「ああ、結構ヤバいことが分かっ……。……なあアクア、国木田がそこで倒れてるのはなんでだ?」
「貴方、そのままだと一生童貞のまま孤独死するわよって言っただけなんですけど」
「原因それだろ。ってか童貞舐めんな」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら腕を振り回すアクアを抑え、先程聞いた黒ずくめの少年と太宰のやり取りをそのまま伝える。
「なるほど……つまりあのダサイとかいう男は、私の女神オーラにとてつもなく警戒レベルを引き上げているという訳ね?」
「ダサイじゃなくて太宰な。あとどっちかっつーと俺の方が警戒されてる」
「嘘……こんな、こんなニートが! あんな初級の雑魚スキルで警戒されてるなんて! プークスクス!」
「『クリエイト・ウォーター』、『クリエイト・アース』」
「ごめんなさいごめんなさいそれだけはやめてえええええ!!」
しかし、喫茶店の周りに黒スーツ姿の男数人が集まり、その中の一人が前に出てメガホンを口元に寄せた時、俺の中の警戒レベルが瞬時に引き上げられる。
『探偵社員、太宰治! 私の刀を売り飛ばした佐藤和真とやらは何処にいる!! 今すぐに居場所を教えろ、一発で拘置所送りだ!』
俺は反射的にアクアの首根っこを引っ掴んで探偵社を飛び出していた。
◇◆◇
「俺が佐藤和真だあああああああ!!」
「そして、ヒキニートを支える女神、アクア様の登場よ!」
敢えてド派手に登場してみると、まあ勿論その場の皆さんの視線は俺達に釘付けに。
「カズマ、アクア! いたんですね!」
「おいカズマ、昨日はよくも私を置いていってくれたな! ……だが、たまにはああいう放置プレイも悪くは……」
「黙れよお前、感動の再会が台無しじゃねーか」
喫茶店から飛び出してきためぐみんとダクネスに視線を送ると、俺の隣でアクアがフッと笑う気配がした。
「変ね。四人揃えば何でも出来る気がするのってどうしてかしら」
「本当だよ。こんなポンコツパーティのハズなのにな」
「何を言いますか。魔王を倒した最強のパーティと言ってください」
「な、なあ、私はあまり活躍出来なかったような気がするのだが、気のせいだろうか……」
「気にすんなダクネス、お前も充分貢献してたよ。まあ俺の方が活躍したけど」
「この男! 本当にこの男は、素直に人を慰めるという行為すら満足に出来んのか!」
いつもの俺達の、馬鹿なやり取り。
世界が違ったって何も変わらない、ポンコツパーティ。
「佐藤和真ァ!! 未成年だろうがなんだろうが関係無い、貴様は一度政府のブラックリストにでも載せた方が世の為だ! そうなりたくなければ大人しく投降しろ!」
成程、つまりコイツらは国のお偉いさんと。
……俺はそんな相手からスティールで刀を奪い取って殴った挙句、ミツラギと同じように刀を売っぱらったと。
「カズマ、顔を覆ってしゃがみこんでどうしたのですか?」
「そっとしておいた方がいいわ。カズマは今、学生時代の恥ずかしい黒歴史を思い出している気でいるのよ」
こいつ後で殴る。
けどそう言えば俺って、王族のお嬢様に若者言葉を教えこんだり、お兄ちゃんって呼ぶように言ったり、今よりも普通にヤバいことを色々仕出かしてきたんだよな。
……なら大丈夫なんじゃね?
「突然カズマの顔がゲスくなったな……なあカズマ、お仕置をするなら二人きりの時の方が良いのだが……」
「それ以上言うならお前が紅魔の里でやらされたのと同じように今ここで名乗りを上げさせるぞ」
「うう……」
赤い顔で引き下がるダクネス。尚も緊迫した空気を消さない政府のお偉いさん達。
――やってしまうか。
キョトンとした表情のめぐみん。好戦的にファイティングポーズをとるアクア。
――こいつらさえいれば、俺はなんだってできる。
「よしお前ら、緊急クエストだ! その名も――」
パッと瞳を輝かせた馬鹿三人に振り向くと、俺はニヤリと笑ってみせた。
「"異世界で大暴れ"だ!」
「ねえカズマ君やめてお願いだからやめてそれ後で怒られるの多分私だから!」
喫茶店から飛び出してきた太宰が何か言っているような気がするが気のせいだろう。
そして、「太宰がそんなに狼狽えてんのは面白ェ。おい、佐藤和真とやら。叩きのめしてやれよ」というチンピラっぽい煽りコールが聞こえたのも気のせいだろう。
こうして、俺達は日本政府に喧嘩を売ったのだった。
◇◆◇
結果から言おう。
大勝利である。
「ねえ、これをどう以て大勝利って云えるのか私には全く理解できないのだけれど?」
ポートマフィア(この組織についてはよく知らないが、めぐみんとダクネスが流れで入ってしまった犯罪組織らしい)本部、会議室にて。
俺、めぐみん、ダクネス、アクアは、太宰、黒ずくめの少年、福沢と言う探偵社の社長、謎の医者風のオッサンと向かい合って座っていた。
話し合い――と言う名の説教が始まるであろうことは、俺達全員、本能的に理解している。
俺達はゴクリと生唾を飲み――
「はん、アンタの頭が足りないからよこの包帯男! ミイラ男みたいな格好しちゃって、そんなに私に浄化されたいのかしら? 泣いて土下座するんなら、女神である私が特別に浄化してあげてもいいけど?」
訂正。一人の宴会芸の女神を除いた俺達三人が理解している。
……あの後の戦闘の展開は単純だった。
「かかってこい貴様ら、全員ぶっ殺してやるっ!」物騒なお嬢様がその場の代表的な男に殴り掛かり。
「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」洪水と見紛うような水流が政府の人数人を押し流し。
「『クリエイト・ウォーター』! 『フリーズ』!」俺が残りの数人の足元を固定し。
「『エクスプロージョン』っっ!」俺がドレインタッチでアクアから吸った魔力を受け渡すことによって魔力を回復しためぐみんが、本日二度目の爆裂魔法を上空にお見舞いした。
政府のお偉いさん達は泣いて帰っていった。
そしてその後、俺は殺気の籠った笑みを浮かべた太宰と、真顔の黒ずくめ少年に取り押されられ。
四人揃った感動の再会を味わう暇も無く、ここに連れてこられたという訳だ。
「めぐみん君、ダクネス君。中也君が問い詰めても、君達は自分達の素性について明かさなかったみたいだけど」医者風のオッサンがニコニコ笑いながら言う。「政府まで敵に回すようなら、流石に見過ごせないねぇ」
こんな格好をしているが、威圧感がハンパねえ。流石、犯罪組織ポートマフィアの首領なだけはある(さっきめぐみんにコソッと教えてもらった)。
するとめぐみんはバンッと机に手を着いて勢い良く立ち上がり。
「だから、私は前にもチュウヤに言いましたよ! 紅魔族随一の爆裂魔法使いで、前世は破壊神。だから何を壊しても許されると!」
「なあ、破壊神の下り多分俺聞いてねえぞ? あと何を壊しても許されるワケねえだろ」
軽く引いている少年に、今度はダクネスが立ち上がると。
「私はダスティネス・フォード・ララティーナ。ダスティネス家に生まれた貴族だ。先程は無礼を働いたこと、誠に申し訳なく思っている」
「ふーん貴族かあ。私にセクハラしてきた貴女、貴族なんですね」
「なっ、し、信じていないな!? しかしそんな疑いの視線も中々……!」
「無理です」
……ダメだ。こいつらには任せられねえ。
確かに、昨日アクアが言っていたことも理解はできる。敵か味方かも分からない人間に、素性やスキル、魔法をホイホイ教えるなという理屈。
だが……。
「まあ待てよ。こいつらを代表して謝罪する。政府のお偉いさん達にあんなことして悪かったな」
「その政府のお偉いさんの刀を売り飛ばしたのは何処のどいつだ」
「ただ、俺達にも事情があるんだ。少しでいいから聞いて欲しい」黒ずくめの少年の言葉はスルーした。
この土地を統治している組織の長二人を目の前にして動揺しない訳が無い。殺気も威厳も申し分無いのだ。
だが、貴族であるダクネスを筆頭に、クリスもとい女神エリス様や、領主のアルダープ、王女のアイリス、果ては魔王とも対面したことのある俺にとっては何ら強い恐怖を感じる理由がない。
だから賭けてみようと思う。
こいつらがどこまで俺の話を信じるか。
――どこまで頭が切れる奴等なのか試してやろう。
こうして、俺は語り始める――