宇宙世紀0079、1月15日。
サイド5―ルウム空域。
虚無を宿した漆黒の宇宙。
全ての物質、そして我々人類や母なる地球の根源でもあるこの宇宙。
それは眺めれば眺めるほど美しく、人の心を狂気的なまでに引きつける黒色である。
その景色は生も連想させるし、死も連想させる。
しかし、少なくとも今俺の周りの宇宙で繰り広げられているプロセスは死のみだ。
そして俺達は…もう”俺達”と呼べるほどの数が生き残っているかも定かではないが…必死に自らの生を守るべく操縦桿を握っていた。
俺が駆る”航宙戦闘機セイバーフィッシュ”のコクピットからは、破損したスペースコロニー、撃墜された敵機や味方機、そして戦艦群の残骸が宙を漂っているのが見えた。
そして自機の横を、敵機の機銃弾がすり抜けてゆく。
もうどれくらいの間戦い続けていたのか、その感覚もすり減っていた。
「旗艦アナンケ、応答無し!」
「将軍は!? レビル将軍は無事なのか!?」
「本艦”フォボス”被弾多数、大破炎上! 総員最上甲板!! 繰り返す…」
「ランチ発進準備急げ!!」
「食い止めろー!! 撃ちまくれぇ!」
無線からは雑音に紛れて味方艦を飛び交う怒号が絶えず響いている。
しかし俺にはそこに耳を傾ける余裕などない。
初めて体感する実戦の恐怖に心を昂らせながら、俺はただ精神を研ぎ澄ませて目前の敵を攻撃するのみだった。
緑色をした巨人、ジオンの”モビルスーツ”という兵器らしい。
戦闘機との戦闘を仮定したやり方では全く歯が立たない相手だ。
変幻自在の動きでこちらの攻撃をかわし、強力な近接攻撃で瞬く間に味方部隊を滅ぼしてゆく魔の巨人である。
俺自身、未だにどうやってこの巨人を仕留めればいいのかは分からない。
”モビルスーツ”は俺の機を正面から見据えた。
不気味に光るモノアイと俺自身の目がかち合ったとき、人生で最大級ともいえる緊張が全身に伝わった。
モビルスーツが乱射するマシンガンの弾をかわしつつ、俺はモビルスーツにミサイルの照準を合わせる。
再び宇宙に静寂が取り戻されるとき、俺は辺りを漂う藻屑の一片と化しているのだろう。
ふとそう思った。
虚空をバルカン砲の弾丸が縫い、ピンクやイエローのメガ粒子砲が闇を彩る。
各所で命を糧にして幻想的な光が湧き上がった。
全てが、音もなく燃えてゆく。
静止した漆黒の宇宙も綺麗だが、数々の命の血と涙にまみれたこの宇宙はさらに美しい。
この瞬きが宇宙世紀の間にあと何百、何千と繰り返されることか、それは誰にも分からなかった。