アルトリア・キャスターとの日常   作:粗茶Returnees

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 前作の1LDKの続編ではありません。世界線、世界観も別物です。一部要素は引き継いでます。


4話 お嬢様なバーヴァン・シー

 

 彼女の名をバーヴァン・シー。妖精騎士トリスタンという二つ名を持っていたり、スピネルという愛称も持っているお嬢様だ。日本の男子の平均身長に迫る身長の持ち主で、170cmある。海外ではどうなのか慧は知らないが、少なくとも日本の女子の中では高い部類だ。実は着痩せするタイプでもあり、わりと胸もデカイ。ルックス最高なため、一部の男子から人気が高い少女だ。

 なぜ一部の男子からかと言うと、性格と言動に難があるから。とてもドギツイのである。彼女の堪忍袋を刺激すると、人を殺せるレベルで鋭い視線を向けられることも。そのため彼女を避ける生徒もそれなりに。

 

「そんな奴の相手なんてしないけどな」

 

「そうだろうな」

 

 バーヴァン・シーと慧の席は前後同士である。慧が前でバーヴァン・シーが後ろ。ちなみに彼女は最後列である。授業と授業の合間の10分間は、アルトリアよりもバーヴァン・シーと話す方が多い。彼女から話しかけてくるから。

 

「面倒事起こすとお母様に迷惑だし、うるさい奴もいるし」

 

「うるさい奴……ああ、風紀委員の」

 

「それもだけどそっちじゃなくて。家庭の方」

 

「へ~。お兄さんかお姉さん?」

 

「ま、そんなとこね。それより、なんで今日はあんなに朝早く来てたのよ」

 

「想像はつくんじゃないか?」

 

「うわっ、アブノーマル~。私でもドン引きだぜ」

 

「何想像したんだよ変態」

 

「一緒にしないでくれるかしら?」

 

「誰が変態だ」

 

 攻守が一瞬で逆転した。慧はやれやれと苦笑し、バーヴァン・シーがしたり顔でにやにやする。口論ともなればバーヴァン・シーは弱くなるのだが、これくらいの掛け合いだといつも慧が押される。

 見当はついているのだろうが、彼女はそれを口にせず、両肘を机に置いて両手を頬に当てた。前のめりにした体をそうやって支え、目を細めて慧を見つめる。自分の口で言えよと、その目にはっきりと書いて。彼女相手なら別にいいかと、慧はため息まじりに軽く話すことに。

 

「早く行けば教室を独占できるってアルトリアが張り切ってな。なんか今日は職員会議が早かったから、教室の鍵は取れなかったんだけど」

 

「それで小窓から入ったわけ? 腕白小僧じゃん」

 

「こういうの、やりたくなるもんなんだよ」

 

「ふーん? それで、私が来なかったら2人で何しようとしてたのよ」

 

「知らね。そこまでは聞いてないから」

 

「つまんねー。話のオチとしちゃ3流だぞ」

 

「3流として評価してくれてありがとう」

 

「はぁ!? 評価なんてしてねぇから!」

 

 自己採点では3流以下。それを3流と言われたら、評価されてるようなものだ。

 目を鋭く細めて睨むバーヴァン・シーをなんとか宥めると、彼女は身を起こし、背もたれに体を預けて髪をくるくると指に絡める。

 

「慧ってアルトリアに合わせ過ぎじゃない?」

 

「……まぁ、心がけてることだし」

 

「慧がそうしたいならそれでいいと思うけど、私とでも刺激的なことしない? アルトリアじゃ味わえないような、い・け・な・い・こ・と」

 

「たとえば?」

 

え、食いついちゃうの? うそ……え?

 

 適当にあしらわれると思っていたバーヴァン・シーは、慧に追及されてしどろもどろになる。視線をあちこちに泳がせて、恥ずかしそうに髪を絡める指を加速させた。

 

「えっと…………廊下を走る、とか?」

 

「かわいいかよ」

 

「かわっ!? な、なっ、にを!」

 

「いや、だってなぁ? あれだけアダルティに誘っておいてその中身が小学生レベルなんだから。他に思いつかなかったのかよ」

 

「……考えてなかっただけよ。そういう慧は聞かれてパッと言えるの? 言えないでしょ」

 

「買い食い」

 

「うっそ……まじかよ……。なんでそんなのすぐに出るのよ」

 

「お菓子食いてーなって思ったから。今日の帰りにどうだ? 一緒に」

 

「え……。デートのお誘いのつもり? それにしては場所が幼稚じゃね?」

 

「来たくないなら別に。どのみち俺1人で行くことにはならないし」

 

 それを聞いた瞬間ちらりと斜め前の席を見た。クラスメイトと話しているアルトリアがそこにいるのだが、慧の声が聞こえたのかそわそわしている。駄菓子屋に絶対について行くのは、それだけで読み取れる。

 校内でも一定距離内に必ずいる2人が、登下校を一緒にしているのはと周知の事実だ。アルトリアの編入初日から、2人乗りで登校している姿も目撃されている。ならば、今日の学校帰りも当然一緒というわけである。そのことを失念していたバーヴァン・シーは、つまらなさそうに肩を竦めた。

 

(早とちりして損したぜ)

 

 2人で遊ぶ機会が早々ない。どちらも部活には所属していないし、委員会にも入っていない。放課後に学校での予定は何もない。そして慧はいつもふらっと帰宅する。

 反対に、バーヴァン・シーは()()()()()()()()()()()のだ。彼女の家からこの学校までの距離は遠く、短く見積もっても自転車で1時間。電車を使う距離なのだが、彼女の保護者が心配性なので車での送迎だ。それも時間が決まっているから、放課後に遊びに行くことができない。

 だが、そうならない日も偶にあるのだ。今日のように、早く学校に着いていたらその証。

 

「行かないとは言ってないだろ。その遊びに付き合ってあげる」

 

「はいはい。となると、お前の保護者に連絡しないとな」

 

「たしかにそうね。迎えはそこにしたらいいのよね?」

 

「いや、送って帰るよ」

 

「送るって、遠いわよ?」

 

「放課後に連れ回す責任を取らないとな。じゃないと保護者さんに呪われる」

 

「あ~……そうね。でも、お母様のあれは慧を信用してるからよ」

 

「わかってるよ。だから俺はバーヴァン・シーとトモダチでいられるわけだし」

 

「……そうね」

 

 バーヴァン・シーが学校に早く着く日は、決まって帰りも遅くなる日だ。親の仕事の都合で、彼女の登下校の時間が変わる。本人はそこを煩わしく思わない。親が好きだから。

 そういう日だから、慧もバーヴァン・シーを遊びに誘えるわけで、そして家まで送り届ける義務が発生する。冷静なようでいて娘を溺愛しているお母様が、信用している数少ない相手の1人。それが芦田慧なのだ。彼がいなければ、放課後に遊びに行くことに彼女の親は渋い顔をする。

 

「慧は、そういうのがなかったら送ってくれなくなる?」

 

 いつも刺々しい彼女からは想像もつかないような、大変珍しい発言。彼女の純粋な部分から出た言葉。

 言ってから後悔したようで、バーヴァン・シーはまた視線を逸らした。そこを突いて揶揄うのも一興だろうが、慧はそれを選ばない。珍しいことなのだから、真剣にそれに答える。

 

「なくったって送って帰る。お前もアルトリアも自覚が足りないようだけどな。お前らかわいいんだぞ。一緒にいるだけで他の男子が羨むぐらいに」

 

「よ、よくそんなこっ恥ずかしいこと言えるわね……」

 

「事実だからだよ。だからさ、そんなつまらないこと聞くなよ。それに、かわいさよりもだ。バーヴァン・シーだからだよ」

 

「は?」

 

「女友だちにはこうする」

 

「……バカ」

 

「いてっ」

 

 言い方が大変卑怯だった。少しドキッとしてしまった。それを次の瞬間には冷めさせられたのだから、1回スネを蹴るぐらいなら許されるだろう。

 

「私がもし男だったら?」

 

「1人で帰れって言う」

 

「……あはは! 慧ならそうよね!」

 

 こういうことで思うのはどうかと自分で思うけれど、女でよかったとバーヴァン・シーは漠然と思った。

 

 そんなこんなで放課後。授業で当てられてはハッキリとした元気な声で、「わかりません!」とアルトリアが言うのもいつものこと。ふざけもせず、悪びれもせず、素直に言っているのが誰にも伝わるからか、教師陣は簡単なものをまずアルトリアに問うようになってきている。

 それをするから、家に帰ってから慧がアルトリアに解説する日々になっているのだが。彼女が毎日教科書類を持って帰るのも、そこが理由である。

 

「アッシーくん行こう! お出かけに!」

 

「お出かけってほどでもないけどな。俺の小遣いからある程度は出してやるから、その中で選べよ」

 

「1万円!」

 

「しばくぞ」

 

 バイトしていない高校生にその金額は高過ぎる。ましてや、持っているとしてもほいほいと人に渡す金額でもない。

 正直に白状すれば財布の中には1万以上ある。長い歴史のある魔術師の家系でもあるから、実はお金持ちだったりする。だが金銭感覚は一般人と変わらない。母親が徹底してその感覚を叩き込んだから。欧州で動き回って仕事している大黒柱の父親ですら、財布の紐は母親に握られている始末。母は強しというわけだ。

 

「お菓子ってどれぐらいするの?」

 

「今から行くとこだと、安くて1個10円」

 

「そんなに安くていいの!?」

 

「まぁ、若者に人気だから、なんとかやっていけてんじゃない?」

 

 駄菓子屋は次々と潰れている。子どもにとっては、溜まり場であり遊び場。遠足等でお菓子を買う思い出の場所。それが次々姿を消すのは、慧も寂しく感じているが、まだ残っている店もある。その1つが、学校から徒歩で10分弱の場所にある。今から行くのもそこだ。

 靴を履き替え、急かすアルトリアを慧が待たせる。今日は2人で行くのではなく、3人で行くのだから。その事に、アルトリアはちょっと不満そうだが、その相手が嫌いというわけでもないので言葉にはしない。

 

「連絡はできたか?」

 

「バッチリ☆ そうそう、お母様から慧に伝言あるぜ」

 

「伝言?」

 

「無事に届けてくださいだって。お母様も心配性よね~」

 

 そうは言うも、バーヴァン・シーは嬉しそうだ。慧は以前に軽く聞いているが、彼女の母親は不器用な人である。愛情や好意を上手く伝えられない。それですれ違っていたこともあったようで、そこが改善されたのもわりと近年。

 そんなわけで、バーヴァン・シーは親の愛に飢えていた部分があり、それを明確に感じられる時は今みたいに表情に出る。

 だが、慧にとってそれは意味が違う。溺愛ぶりは知っているから、何かあったらと思うと背筋が凍る。

 

「アッシーくん?」

 

「大丈夫大丈夫。何も起きない。大丈夫」

 

「うわっ、大丈夫じゃなさそう」

 

「それじゃ行きましょ!」

 

 壊れたように苦笑いする慧と、それを心配するアルトリア。対象的に上機嫌なバーヴァン・シー。

 この3人による駄菓子屋冒険が始まる。

 

 

 

 

「自転車って3人乗りは無理でしょ? そんなわけでアルトリアが走ること」

 

「はぁ!? アッシーくんの後ろはわたしって決まってるから! 走るのはバーヴァン・シーだから!」

 

「決まってないからな?」

 

「慧との付き合いは私のほうが長いの。私が後ろに乗るのが当然でしょう? 田舎娘は走ってる方がお似合いよ」

 

「ははーん? 走ったらすぐバテるんでしょ。体力に自信がないんだ? もやしっ子お嬢様だもんね?」

 

「喧嘩なら買ってあげるわよ!」

 

「もうお前らが自転車使えよ……」

 

「慧は黙っててちょうだい!」

「アッシーくんの後ろじゃないと意味ないから!」

 

「えぇ……」

 

 仲裁も無理そうだったので、押して歩いて先に出発。それに気づいた2人が慌てて追いかけるのだった。

 

 

 




バーヴァン・シー 慧とはトモダチ。友達ではなくトモダチ。恋愛感情はないけれど、相手に何かあれば必ず駆けつけ合う間柄。

お母様 娘大好きな人。娘が自立のために合わせ鏡を返却したことに泣いた。今は使い魔を必ず飛ばしている。

次の更新は明後日の予定です。
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