アルトリア・キャスターとの日常   作:粗茶Returnees

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 今回のを書きながら、学園ものにしたいのか自問自答しました。特にそうしたいわけではなかったので、学園要素は薄めでいきます。その影響で今回迷走気味。申し訳ない。


5話 デカ イ、バーゲスト

 

 学校での過ごし方は人それぞれなわけだが、委員会に所属している上で真面目な生徒はその仕事を遂行する。

 

「芦田慧はいるか」

 

「あ、バゲ子だ。これみよがしに見せつけてくるバゲ子だ」

 

「どうどう落ち着けよ。被害妄想が過ぎるぞ」

 

「男ってなんでデカイのが好きなの? そんなに好きならゴリラにでも飛びついたら?」

 

「メスゴリラのってあんなにデカいか?」

 

「貴様ら聞こえているからな? 失礼な上に品のない話をするな」

 

 律儀にも教室の外で待っているのは、風紀委員の1人であるバーゲスト。決して悪い生徒ではないのだが、仕事に真面目過ぎる点が傷である。そしてデカイ。いろいろとデカイ。

 

「どうせアッシーくんもおっきい方が好きなんでしょ」

 

「決めつけるなよ」

 

「じゃあわたしの方が、……ぅぅ……えっと……」

 

「自滅するなよ」

 

 机の上にあった教科書でアルトリアは顔を隠し、そういう反応をされるものだから慧も視線を泳がせる。

 

「ま、絶壁よりある方が好きだな」

 

「だ、誰が絶壁だー!!」

 

「誰とは言ってないだろ! あとお前はある方だろ!」

 

「ふゃぁ!? どこ見てんだ変態! バーカバーカ!」

 

「どこも見てねぇよ!」

 

「こら待て2人とも! 廊下を走るな!」

 

 教科書を片手に慧を叩こうとするアルトリアと、そのアルトリアから逃げていく慧。用事があって来たはずのバーゲストは相手にされず、廊下を走り回る2人を足早に追いかけていく。

 

「何してるのだか」

 

 そんなドタバタした展開を、バーヴァン・シーは教室にいたクラスメイトたちと見送った。

 

 

 

 

「まったく、人の話を聞かないどころか廊下を走るとは。君たちはマナーをなんだと思っている」

 

「お前が追いかけてくるからだぞ」

 

「アッシーくんが走って逃げるから!」

 

「どっちもだ!」

 

「「お前もだろ」」

 

 走っている2人に追いつく速度なら、それ相応の対応である。

 

「ふん。私のあれは競歩だ。決して走ってなどいない。歩幅の違いでそう思われたかもしれないがな」

 

「チビで悪かったなこんにゃろう! どうせバゲ子にはわたしぐらいの身長の人たちの苦悩なんて分からないんだ! デカイから! ふざけんなこんにゃろう! その有り余ってる脂肪ちょっとぐらいよこせ!」

 

「すまない。嫌味を言うつもりはなかったのだ。それとあっても困るぞ。肩がこるからな」

 

「聞いたアッシーくん!? ねぇ聞いた!? あれこそ持たざるものからしたら一番嫌味に聞こえる発言ナンバーワンのやつ! ……誰が持たざるものだ!」

 

「どっからツッコめばいい?」

 

「そうだったのか。今後は気をつけて他のデメリットを言うことにしよう」

 

「真面目に受け止めるなよ」

 

「ふむ……。私の場合という前提にはなるのだが、正直に言うと足元が見えなくて支障が出る」

 

「はあぁ!? 足元が見えなくてって! 見え……え? どういう世界なのそれ……え……え?」

 

 想像もできないようで、アルトリアの目からハイライトが消えた。相当なショックだったのだろう。立つのもおぼつかなくなり、慧がそれを支える。

 

「……彼女は大丈夫か?」

 

「この話題はもうやめてやれ。ショック死しかねない」

 

「そ、そうか」

 

 生気すら薄れているアルトリアを目にすると、慧の発言が大袈裟とも言えなくなる。バーゲストは「今後この手の話題は人にしないようにしよう」と教訓にしたとか。ただし、持つもの相手ならしてしまうことだろう。

 

「それで、用件はなんだったわけ?」

 

「ああその件か。君に用があるのは私ではない。メリュジーヌに頼まれてね」

 

「あの人自分で呼びに来いよなー」

 

「忙しい身なのさ。今も仕事に追われていて、手が空いている私がこうして来たというわけだ」

 

「へー。まぁでも、風紀委員に呼ばれるとか説教方面だよな。俺なんかやっちゃいました?」

 

「廊下を走った」

 

「現行犯かー」

 

 この学校の風紀委員は堅物の集まりである。ユーモアがないわけではない。あくまで、校則を破る者に対して容赦がないだけだ。その長なのがメリュジーヌ。校内でトップ争いをする人気者。束ねるのは向いてないと本人は言っているのだが、その人気が原因で長の座に就いている。本人は、バーゲストに任せたかったらしい。

 メリュジーヌもバーゲストも、慧からすれば先輩にあたる。上の学年の人たちだ。それなのにタメ口なのは、「バーゲストなら許してくれる」「メリュジーヌとは顔見知りである」の2点だ。アルトリアは敬語なんて知らない、ということにしている。

 

「私の意見としては、君が毎日登下校を自転車で2人乗りしていることを咎めたいがね」

 

「徒歩では遠いんだよ。電車を使う距離でもないし、アルトリアは1人で自転車に乗れない」

 

「真似する者が増えては困るが……、これは生徒会と話し合うものか」

 

「俺に言っても仕方ないからな!」

 

「開き直るな! 生徒会長とメリュジーヌが黙認しているから良いものの。それがなければ咎めているからな!」

 

「はははは」

 

 本気でそう思っているようで、目つきが大変鋭い。慧は形だけ笑い、困ったものだなと思考の半分を割いた。

 アルトリアが自転車に乗れるようになれば解決だ。彼女自身も、出会ったときから興味深そうにしていた。だが、あまり練習したがらない。負けず嫌いの頑固者なのに、できないものをできないままにしている。慧はそれに釈然としないものがあった。彼女らしくない気がするから。

 

「乗れるようになったらいいなとは思うよ」

 

「お、復活した」

 

 肩に手を回すことで支えられていたアルトリアが、ケロッとした様子で話し始めた。ひとまず立ち直れたらしい。

 

「でも、別にいいかなって思うところもあるから」

 

「漕ぐの俺なんだが?」

 

「何も良くないぞ。校則どころか法で決まっていることなのだからな」

 

「ええー」

 

 隠すことなく、不満そうにする。

 

(やだなぁ。慧に乗せてもらうの好きなのに)

 

 合法的に距離を縮められるから。

 気持ちを隠すつもりはあまりないけれど、照れくさいものはあるのだ。触れるだけでもどきどきする。叶うのなら、ずっと見ていたいし、ずっと側にいたい。

 ぎゅってしてもらったらきっと心臓がもたない。でもしてほしい。

 もし好きって面向かって言われたら倒れると思う。でも言ってほしい。

 

 矛盾するとこもあって、正直になるのが怖い。だけど、この気持ちに嘘はつきたくない。

 だから、2人きりでいられるあの時間が好きで。距離を縮められるあの乗り物が好きで。これからもずっとって欲張る。

 

「うん。やっぱりわたしは自転車練習しないのがいいと思う」

 

「……何か言ってやれ芦田」

 

「まぁ軽いからいいけど、夏場はしんどいかも」

 

「それは乗せる前提ではないか?」

 

 バーゲストの指摘に慧は顔を逸らした。慧もまた、別にいいかなと思っているから。何よりも、アルトリアのことに関しては彼女の意見を最優先。そう決めていることが大きい。

 

「そういえば、バーゲストが乗れる物ってあんの?」

 

「ここが学校で良かったな貴様。外なら今頃宙を舞っているぞ」

 

「そうだよアッシーくん。学校の床ですら耐えてるんだから乗れるやつくらいあるよ」

 

「フォローになっていないぞ。味方と見せかけた敵か?」

 

 ある意味敵である。

 

「バーゲストって自転車通学じゃなかったよな?」

 

「電車と徒歩だな」

 

「え、電車が壊れないの!?」

 

「おい貴様いい加減にしろ!」

 

 女の子に重さの話は厳禁である。それはアルトリアも分かっている。同じ女性として理解を示せる。けれど、その同性でも思ってしまうのだ。それぐらいバーゲストは、スケールが大きい。

 ただし、断じて太ってはいない。高身長で体格に恵まれているだけ。あとは、本人が鍛えているのもあって筋肉がしっかりついているぐらいか。

 

「その程度で壊れるようなものが、毎日何千何万と人を運べるものか!」

 

「あっ、言われてみればたしかに」

 

「悪いなバーゲスト。こいつ結構バカなとこあるからさ」

 

「バカってなんだー!」

 

「君も人のことを言えないだろうに」

 

「おっと」

 

 冷静な判断で牽制された。特に言い返すこともないため、慧はやれやれと肩をすくめてアルトリアから手を離す。彼女が残念そうにしたのは、一瞬だけだったから誰にも気づかれない。

 慧は話を戻すことにした。つまりは用件を済ませることにした。バーゲストではなく、メリュジーヌと話をしないといけない。「後日にでも」とか言って帰ることもできなくはないが、それこそ後日に本人が、とても良い笑顔で駆けつけてくるかもしれない。

 付き合いは程よく、そして怒らせない。それがメリュジーヌとの付き合い方なのである。少なくとも、慧にとってはこれが最適解だと考えている。

 

「他人を使ってまで呼び出すっていうのがなぁ。大抵のことは自分で片付けるはずだし。よっぽどの事なんだろうな」

 

「そのよっぽどの事に心当たりは? 何かやらかしていないのか?」

 

「バーゲストさんや。あんたの中で俺の評価はどうなってんだ」

 

「どうとも。それを下せるほど、まだ君のことを知らないからな」

 

 これから知るつもりだと締めたバーゲストを、アルトリアがむっと顔をしかめて見やる。放っておいても何も問題はなさそうだけども、牽制くらいはしておかないと落ち着かないらしい。

 そうこうしながら足を進め、メリュジーヌがいる場所へ。生徒会のように、専用の部屋などない。放課後に空き教室の1つを使っているだけだ。そこにはメリュジーヌの他に、数人の生徒。けれど入れ替わりでそのほとんどが教室を出た。見回りとか、帰宅とか、提出物とか。いろいろだ。

 

「お帰りバーゲスト。お使いさせて悪いね」

 

「気にするな。ところでメリュジーヌ……今何をしているのだそれは」

 

「え? 弟の部活の様子を双眼鏡で見守っているだけだよ? どうかした?」

 

「……いや、いい。頭が痛くなってきた」

 

「大丈夫? 休んだほうがいいんじゃないかい? 君も働き過ぎだからね」

 

 原因の心当たりは、残念ながら無いらしい。

 

「っと、呼び出したのに待たせるのは悪いね。久しぶりだけど変わらず元気そうだね慧」

 

「最近会ってなかったからとか、そういう理由ではないよな? というか、俺のことならパーシヴァルに聞けばいいわけだし」

 

「けど慧とあの子はクラスが別じゃないか」

 

「まぁたしかに」

 

「それはそうと本題だね」

 

 雑談を始めたいところではあったが、メリュジーヌはそれをしなかった。アルトリアが早く本題に入れと目で語るから。

 

「君、昨日の放課後に買い食いしたよね?」

 

「なんだと! それは本当なのか芦田!」

 

 詰め寄ろうとするバーゲストを、メリュジーヌが手で制した。彼女にとって、そこを追及することは本題ではないからだ。

 メリュジーヌは真面目な雰囲気を消した。それこそ、見た目年齢に合わせて子どものような、そんな調子で。

 

どうして誘わなかったんだ! ボクも行きたかった!

 

 思いっきり拗ねた。

 バーゲストはずっこけた。

 

 

 




バーゲスト デカ イ。自分より強い奴が好みなのに、自分に勝つ相手がいないせいで彼氏ができない。霊長類最強とか言われてる。

メリュジーヌ 芦田慧とはパーシヴァルを介して知り合った。休んだ日に風紀委員になっちゃったから仕事してるけど、本音は「弟と買い食いとかしたい」である。慧が抜け駆けしたので拗ねた。

パーシヴァル 校内1のイケメン。慧の男友達。
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