「ーーーやっと目覚めたかい?」
私が目を開けると、そこはアヴァロンだった。
彼等と来た、アヴァロンなんかじゃなくて…本物のアヴァロン。
空気も風も何もかもが心地よい暖かさ。
一面の花畑に純粋無垢な妖精達が水場で遊んでいる。
鳥達は空高く飛び、遠くには獣が子供と戯れている。
争いが必要としない、何もかもが揃う空間。
やっと辿り着いたんだ。
ずっと聞こえていた鐘の音も消え、私は役目を終えたんだと理解した。
決して楽しい旅なんかじゃない。
苦しくて辛くて、理不尽だった。
けど、名無しの森で□□□に出会った。
彼と出会ってからは…毎日が楽しかった。
特別な才能がある訳でもない凡人、けど…私と違って諦めない、不屈な精神があった。
庭で貴方には挫けて欲しかった。そして私と一緒なんだって、自分を慰めたかった。
けど…貴方は立ち上がる。
どんな壁だろうと、どんな理不尽だろうが、戦かって、戦かって戦かって……
どうしてそんなに頑張るのって聞くと、□□□、貴方は必ず自分は何時だって代わりだった、代わりがいなかったから自分がやるしか無かったって言う。
逃げてもいいんじゃない?
逃げない、逃げられないんだって真っ直ぐな目で私を見る。
最後は…うん、自己犠牲になっちゃったけど…彼は私の意思を最後は尊重してくれた。
大事な、大事な人。
マシュには悪いけど…私は□□□が好き。
私と同じ弱い人。
けど、真っ直ぐな力はどこまでも強かった。
その背中に、私は憧れていた…
そんな彼にも会えない、と。
あれ……
やだなぁ……
笑って別れたのに…
どうしてこんなに悲しいんだろう。
何時もなら悲しい感情なんかは消しちゃうけれども…何故かしたくなかった。
この胸の痛み、擦っても、擦ってもずっと出る涙。
見かねた妖精達が近寄って来てくれて背中を擦ってくれる。
「大丈夫?」
心の底から私を心配してくれる声。
ーーー大丈夫で、す!大、丈夫です!
喋ろうとしても…一面の花畑に私は嗚咽を響かせる。
「痛いの…?悲しいの…?」
痛い、うん。
体の内側からの鼓動が止まらない。
でもモルガンの玉座を使ったみたいな痛みじゃない。
後悔ーー
笑って、自分の役目を果たしたのに、後悔という感情のみが私を締め付ける。
痛い、痛い…痛い!
本音は…彼と一緒に世界の外を見たかった。
彼は人は妖精と変わらない、君が見たくない感情を持ってるかもしれない、と言った。
でも、それでも…彼は美しいものがあると言った。
そして一緒に見に行こうって言った。
精神も肉体もボロボロの…私と似た少年。
それでも彼は『予言の子』では無い、弱くて…小さな手の私を握ってくれた。微かにこの先の未来に震えながらも…
光が見えたーーー
悲しい、うん。
でもこれは私の記憶の…忘れたい記憶なんかじゃ無い。
永遠と楽しかった思い出を振り返ってしまう。
勇敢なガレスちゃんや円卓の騎士、代わりと言いつつも、私よりも立派だった…パーシヴァル。
お節介焼きな見た目に反してお爺ちゃんみたいな村正。
厳しくも、正しかったグリム。
何処までも美しい精神で円卓を構えるマシュ。
そして私と似た彼。
日に日に自身の役割を認識させられたけど…楽しかった、ずっと旅をしていたい程に楽しかったあの数十日。
目を閉じれば思い出される、黄昏の国。
正しい結末を迎えた、けれども…最後まで…隣にいたかった。
この記憶は、思い出すと美しく…そして失ったのだと気付かされる。それが悲しかった。
役目を終えたんだ。
彼にちゃんとお別れを言えなかったけれども…うん、最後だって結局、村正が肩代わりしてくれたお陰で…□□□への気持ちを気づけたんだ。
今は…辛い事ばかりだった旅に幸せを見つけて、それを失った悲しさで苦しんでる。
でも、その痛みや苦しみは…感じる程に幸せが産まれる。
悲しい涙しか知らなかった私。
けど、これは後悔と…思い出に浸る為の涙。
私は心配する声を掻き消すほどに…泣き喚いた。
そして意識は途絶えた。
ーーー
「起きて、また眠るのかい?アルトリア」
意識を戻す。
目を開けると痛みが走る。
赤く腫れているのが分かった。
声の正体、マーリンから白いコップを受け取りそれを飲み干す。
口に入れるとハーブの匂いがツンと伝わり、カラカラになった喉を染み渡らせる。
「…あ"ー、あー…、んん!はい、ありがとうございます、マーリン」
「君の為したことに比べたら…お安い御用さ。でも君があそこまで泣くとはね…」
見られてて当然だけど…はっきりと見られるのは恥ずかしい。
「ア、ハハハ……え、えぇーとですねぇ……」
「いや、言わなくて大丈夫さ、君は自由になった。何をしても縛られるものは無いよ」
見透かされている様に言われ増々、顔が熱くなる。
「君も苛めるのも…まぁ良いけれども、君が眠った後から彼等がどうなったか知りたいだろう?」
「ーー!はい!無事、だったんですよね…」
神核が露わになった後から私は知らない。
勝てたならば良いけれども…
「色々と誤差があったけれども…結果的には特異点ブリテンは修復。その後は崩壊を見届けて…まぁ、その後も似たような困難で…うん。世界は救われたさ!」
「端折りましたね!?」
「アハハ、面倒だからね。話してもいいけれど…過程は決して美しものでは無かった。結果的に見たら『世界は救われた』で終わる。それで良いんだ」
「むむむ、まぁ…□□□に聞けば良いです」
彼の名前を出すとマーリンは苦い顔をする。
まさか、彼に何かあったのか!?
「い、いやぁー、まぁ…何…というか…」
「一体何があったんですか!」
「……記憶の削除、□□□が『日常』を取り戻す為にはこれが必要だった、いや、結果的に『日常』が戻っただけで…彼は利用された挙げ句に用無しになったのさ」
「ーーーーは!?誰がそんな事を!」
「…現実の社会は神秘の暴露を許さない。固定された未来を持つカルデアを解散させて未来の確保…だっけな?
芸術家や探偵ですら退去した。
胸糞悪いけれども、永遠にあの組織がある事は未来や過去に問題があるという事…それも踏まえて、□□□が『日常』に戻るためには必要だった事。
何なら記憶の削除のみで済んでいるのは協会側の彼への敬意でもある。魔術士でも無い一般人が世界を3度も救ったんだ。
まぁ…辛い記憶が消えて幸せなのか、記憶が消えて辛いのか、私には分からない」
「……きっと□□□は、笑顔でそれを受け入れたんでしょう?」
「あぁ…『大丈夫、何とかなるさ』って彼は笑いながら『日常』に戻った。その後は私は見ていない。彼が何処で暮らして、どんな生活をしているか、私は見る資格は無いだろう」
私は驚いた。
人、一人に入れ込まないマーリンが□□□をここまで気に入っていた事に。
「アルトリア、君も休みなさい。まだ起きたばっかりだからね、君の寝床は…そうだなぁ…今は作れてないから、そこのソファで寝るといい」
そう言うとマーリンは花とともに消えていった。
暇そうに見える彼だが…色々と世界の為に働いて忙しかったようだ。
後々マーリンから聞いたのだけど…私と村正が作った聖剣は概念となって聖剣の担い手では無いけれど…聖剣作成のアルトリアが産まれた。
そして□□□を救ったらしい。
私であって私ではない存在。
彼女もまた私の記憶を持ち、私もまた彼女の記憶を持つ。
アルトリア・キャスターはカルデアに召喚されて酷使されて過労死寸前の記憶が流れてくるが…私じゃなくて良かったと思っている。
私はふんわりと花の香りがするソファに寝っ転がる。
天井は透明になっており、星空が見える。
そしてまだ光は見える。
あの光は何なのか、結局分からないけど…□□□にも見えてるといいな。
ーーー
アヴァロンで目が覚めてから数ヶ月が経った。
聖剣を触媒にした魔術を作り、マーリンをボッコボコにする毎日。
私は着々と普通の生活がやっと送れているのだと実感した。
でも……
私は……
私は楽園の妖精。
『聖剣の騎士』の概念の私はサーヴァントとして登録されたけれども私はそれを許されない。
『聖剣の騎士』の概念は楽園の妖精の記憶から再現したようだけど、それは同一人物の様で夢の様な存在。
□□□と共に旅をした私はまだここにいる。
諦めきれない自分がいる。
まだ□□□に会える可能性があると信じている。
いや……?
確か…彼の世界にも洞穴はあるとマーリン言ってたな…?
「マーリン、話があります」
「なんだい、アルトリア。私は今、物体Xを他の世界に放り出している最中なんだ、静かにしておくれ」
「何ですかそれ…まぁ、良いとして…私は今から□□□に出会いに行っていきます、お世話になりました、また戻ります」
「あー、行ってら………は!?」
マーリンが幽閉塔から走ってくる。
あれは多分、分身のような物だろうがあんなに必死に走るとは…
飛べばいいものの。
「どうしたんです、マーリン?少し出かけるだけじゃないですか」
「君は自分の存在を理解してるのかい!?君は星の内海の妖精。本来ならばアヴァロンで生活できるのも紛れだ。君が言うのは自殺行為に等しい…って聞いているのかい!?」
私は白い服を着て碧色の帽子を被る。
礼装なので動きにくいけれども、最初こそはこの服が良いですよね。
「………いいかい、例え…世界に出れたとしても、アヴァロンは隔離した世界、外なる理想郷。君が何時、何処で出れるかも分からない。もしかしたら□□□が死んだ後の未来かもしれない。はたまた何百年も前の世界かもしれない。そしてアルトリア、君は□□□の本当の名前を知らないだろう?」
……□□□が自身の名前を言うとき、私は見えてしまった。
自分自身を騙すための嘘をついているって。
理由は分からないけど、□□□に縋ってた。
私がその名前を呼ぶと、彼はそれに笑顔で答える。
自分を騙すための嘘の名前。
嘘は嫌いだけど…何だか□□□の名前は強がりで…私のようだった。
「………マーリン、貴方は彼の名前を知っていますか?」
「いや、知らない。彼の名や時間、場所全てが見えない。私も今は見えるけど、過去や未来までは…あくまでも予測に過ぎない。だからこそ、私は君を止めるべきだと思う。危険すぎる、見つからない人を、何億といる人の数から探し出す。私ですら何十年とかかるんだ。そして……君の眼では、辛いだろう…」
妖精眼、人や妖精の本音が見える…私の眼。
忌々しくも…便利に思えてしまう歪な眼。
マーリンの様に精神が成熟していれば私も…辛くはなかったんだろうけど…
「……でも、私は…あの□□□と約束したんです。きっと、彼も…忘れてても、どっかの頭の…奥底に、忘れてて欲しくないなって………我儘だけどね…」
ーーーまた後でね
私がケルヌンノスを食い止める為に玉座に行く前、彼は本当は、私を止めたかった心を殺して…私が消えちゃうって分かってるのに…彼は私に満面の笑みで手を振った。
足が震えるのを我慢して走った彼。
手に力が入らなくても握り締めて無け無しの魔力を振り絞った彼に勇気を貰った。
前の私ならば諦めていただろう事を為し、一人の未来を願った。
聖剣を作った時点で私の役目は終わりだった筈なのに…彼に付いて行きたくなった。
消えるけど、離れたくなかった。
感情を消して、口に出したくなることを抑えた。
きっと言えば彼は私の為に進んでしまうから。
うん、私の答えは決まっている。
マーリンが私を本気で心配していることが分かる。
例え、口下手だろうが空気を読めないだろうが…何時だって彼はアルトリアの味方だったのだから。
それがハッピーエンドに必要な道具としての愛なのか、一人の少女を狂わせた贖罪だったのか分からないけど…
それでも私は彼を尊敬する。
そして心配するマーリンを振り払ってでも、私は行きたかった。
「マーリン、これは私の旅。予言の子でも訳の分からない使命なんかじゃない、私だけの私の為の旅。
私が出来なかった…一人の村娘の、大冒険!!
『物語は終わっても、人生は続いてる』
そうですよね、マーリン」
笑顔で私は言う。
マーリンは私を見つめて、やれやれといった表情で杖を取り出す。
ーーーー選定の杖
「…そう言われたら、うん、私も力を貸そう。預かっていた、選定の杖。これは君の旅、□□□達との旅の記憶が詰まった杖。彼に出会ったら、うん、頭をポンって叩いてやりなさい」
マーリンは微笑み杖を渡してくれた。
浸すら彼に魔術を教えて貰えた日常が思い出す。
きつい記憶にある小さな幸せ。
彼はきっと、今のような…優しい父のような表情で教えてくれたのだろうかーーー
ーーーー
「……行くのかい?」
「えぇ、私は『約束』したので。妖精に約束をした事は重い事を体験してもらいます!」
「記憶を失っていたとしても、かい?」
「それはそれで…今度は、普通の出会いで良いと思うんです」
予言の子として義務付けられたアルトリア・キャスターはいない。ただの村娘、そう!私は彼と同じ…ちょっと魔術ができる女の子、アルトリアです。
待ってて下さい、□□□。
今の貴方の生きている時代も、どんな姿をしてるか、そして本当の名前は知りません。
けれども、長い長い時間を掛けても…必ず、必ず!見つける!
『聖剣の騎士』の概念の私が一度きりの手助けって言ってたけど…私はまだ彼女の様な堅物にはなってないからそんなの気にしないで貴方に会いに行きます。
待ってて下さい、□□□!
え、マーリン、何ですか?いい感じに締まったのですが………手土産は持ってかないのかい……?
うーん………
ーーー手土産と言えるのか分かりませんが………私は一つの想いを手渡ししに行きます!
勢いのまま書いたので…
誤字脱字、文章がおかしい場所があると思います