才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた 作:小中高校道徳の成績5でした
当たり前にあるもの。斬新でブームになったもの。革新的なもの。
どれにも必ず一人いる。
例えば合成音声で作られた歌。誰もが最初は青い歌姫を思うだろうが実際は違う。火付け役が使った合成音声がたまたまその歌姫だっただけに過ぎない。当時種類は少なかったが。
それでも原点と呼ばれた合成音声への憧れから俺も例外なく使い曲を作った。けれど、既にブームは去っていたからか、それともありふれた曲だったからか、俺の作った曲は全て陽の目を見ることは無かった。
動画投稿サイトに投稿した曲はざっと50曲以上。どれも1万もいかない再生数。
最初は再生数なんて気にしてなかった。初めはこんなもんだろうと。純粋に作る過程や完成した曲を聴くのが楽しかったから。
だけど今は再生数ばかり考える。どうすれば人目を引くか。どんな曲が受けるか。流行りは何か。
どれも失敗に終わる。
嫌でもわかる。音楽の才能が無いと。50曲と聞けば多い方に聞こえるが実際は流行りに寄せた似たような歌。あえて曲同士に繋がりを持たせリズムを使い回せる手抜きだったり。いやどれもこれも何かにインスピレーションを受けて何かに似てる歌で、それでもなお孤立してる歌があるとしたら
片手で数えられるぐらいしか無かった。
嫌でもわかる。才能がない。
人気が欲しい。
沢山の人に褒められたい。
コメント欄が称賛の嵐で埋まってほしい。
世間が歌う曲が俺の曲であってほしい。
膨れ上がっていく欲。増えない再生数。
なんで?
もっと斬新なモノが欲しい。
誰もが目を引くような事がほしい。
今までにない発想がほしい!!
無理だ。どう足掻いたって俺には無理だ。プライベートの時間を注ぎ込んでも、睡眠を削っても、友人関係を断ってでも。親の縁を切ってでも。
才能が無い
それ一つで誰も注目しなかった。
才能が無い俺がどうすれば注目される? 何を注ぎ込めば新しい曲が作れる? 今俺には何がある?
あるのは己の身一つだけ。
「はは」
自嘲気味に笑う。
最後の手段で仕事を辞め貯金を使って新たな発想を得ようとした。それでも無理だった。
もう無理だ。諦めよう。音楽なんて。死んだら元も子もない。バイトしよ……………
絶望から救われる。人目を引く方法が。人気を得る方法が。
思い立ち椅子に座りパソコンに向かう。
今までにないぐらい手が進む。今までにないぐらい思いつく。一つの発想を中心に渦巻く感情がキーボードを打つ音と呼応して画面に現れる。
画面に黒い所が表示される度に酷く窶れた笑顔が映りそれを見るたびに楽しみで仕方ない気持ちが思考を支配し曲が99%完成する頃にやっと自分が飲まず食わずの2日間で作り上げたことに気がついた。
あと少しで自分は人気者になれる。あと少しで俺は奇跡の一曲を作り上げる。
最後の仕上げだ!
「これで、これで!!! 俺は人気者だァァァ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」
とある格安マンションの一室。近隣住人がこぞって玄関前に集まっていた。理由は一つ。煩いと注意しに来たのだ。
しかしいくらインターホンを押しても返事はない。
一人が鍵がかかってない事に気づく。そっとドアを開けた。
机は乱暴に端にどかされ真ん中には倒れた椅子。
ギイギイと音を立てながら、その上で縄が音を奏でる。
「キャーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
一人の女性の響き渡る悲鳴。
それを引き金にその一室を借りていた男性は有名になった。彼の作った最期の曲は瞬く間に再生数を10万、100万と伸ばしていく。
彼の目論見通り人気者になった。
テレビでも取り上げられ、ネットニュースで一位になった。動画サイトでも話題になり彼関連の動画がアップされる。だがどれも同じ事を喋っていた。
『彼は自分の命を使って曲を完成させた』