才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた 作:小中高校道徳の成績5でした
ちなみに【4Season's】のプロデューサーは仕事が忙しいほど楽しそうにしてます。依頼が多いのは彼女らの人気の証。
何気に父親の名前初登場だな。今何話目よ。
「もう少し左によったほうが良いんじゃないか?」
「わかったー」
仮面を付けた乃至をビデオカメラで追いかける。一面草原のどこか、車じゃないと行けない距離。表情が見えないのに楽しそうなのがよくわかる。それでもカメラを回した瞬間、一瞬時が止まったかのように感じ、すぐにまるで誰もいないかのように振る舞い、草種と舞う。
その集中力は何度も見た。一度やると決めたらずっと突っ走る性格は乃至の努力の原動力。それは変わっていなかった。昔からずっと、そして今も。
アイドルになる夢は諦めた。でも夢は新たな姿になり追いかけ続ける。それはきっとこれからも続くのだろう。努力しているときの乃至の姿は、凄く楽しそうだ。輝いて見える。
土曜日の夕飯、娘に唐突に聞かれた。何事かと一瞬思った。最近別人のように変わってしまってから明らかに減った食事中の会話。決して無いわけじゃない。だが基本的にこちらから話しかけないと会話は始まらなかった。こうやって乃至から話しかけることはあまりない。
内容は『MVの撮影を手伝ってほしい』だ。
娘に頼られるのは嬉しいことだが今は複雑な気分だった。絶望してなお、また努力の道を進んでいるのに。
乃至が曲の販売の同意を得ようとしたとき、話し合った。売れなかったらどうするのか、何か算段はあるのか。
「今知り合いに頼んで機械のボーカルソフト作ってもらってる」
「…………は?」
詳しく聞けば今はアイドル(生歌唱)時代。そこにあえて編集だらけの機械に歌わせ動画サイト事に載せる事で話題と独自性をえるということ。歌って踊るアイドルと一線を画す事ができ需要あるものからの顧客を独占することができる。それなら多少人気が出なくても食っていけるとのこと。
その時は言いくるめられたがよく考えればそれは自分の夢に『自分』を切り捨てる行為なのではないかと思っていた。
そして完成した曲は乃至の言ったどおり一部で話題になっていた。圧倒的にアイドル人気には劣っているがそれでも一個人の人気としては素人目で見ても凄いほうだ。もし何か一曲、アイドル達にも話題になる曲があれば、乃至は夢に向かう大きな大きな一歩を踏める。
父親としては何が正解かわからない……だけど、少なくとも支え続ける。それだけは正しいと思いたい。
「どうだった?」
「バッチリ撮れてる。もうちょっと右に動きながら撮影したほうが良いかもしれないな」
「確かに、他でも良くやっている画角だけど定番は大事だしね」
音楽に真剣に向き合い、試行錯誤、当然一日で終わらない。来週の土日も付き合う事になった。
「どうしていきなり草原に?」
「強い風が吹いてる! 夕方! ラスサビにピッタシなの!」
別の場面に移ろうと室内に移動しようとしたらいきなり言い出すものだからびっくりした。自然の気まぐれは最高の舞台にしてくれるらしい。
夕日に照らされながら靡く風。少ない時間ギリギリを使い撮影する。何だか娘が遠くにいるように見える。挫折して夢を諦めた俺と、夢を変えてでも諦めない乃至。その差は何なのか、若いか若くないか、いや、何か決定的な何かか違う。けれど……わからない。
より一層強い風が吹く。つけていた仮面が外れ飛ばされる。乃至は走り出した。ここは草原だ。地面に落ちれば草花が邪魔でそう簡単に飛ばない。歩けば良いのに。そう思いながらも追いかけ…………
乃至は飛ばされている仮面をキャッチしては直ぐに付け直し演技を続けた。
「………ああ、そっか」
娘は、乃至は諦めないんじゃない。止められないんだ。止まり方を知らないんだ。どんなに変わっても、どんなに挫折を味わっても、走るのを止められない。もしも神がいるのなら、止まることを知らない魂には止まらなくても耐えられる体を与えたのだろう。
だとしたらどんな言葉を綴っても意味はない。乃至は一生努力を続ける。だとしたら俺は父親として間違っていても……背中を押さなければいけない。
数時間後撮影は終わり、その翌日にはMVが公開されていた。
忙しいのにかける時間がある理由? 不眠症だからさ!(今日からお薬)