才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた   作:小中高校道徳の成績5でした

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更新は不定期です。あとL4D2やってました。


おめでたい世界

「は?」

 

 

菜野乃至(今の俺)のパソコンを弄くり回す。まるで大掃除でもした後のような整理整頓された部屋でマウスのクリック音だけが響いていた。

 

この世界は俺の知っている世界じゃない。だから前世の俺の曲は存在しない。作り直すしかない。しかし

 

「音楽ソフトが、ない?」

 

俺の全てだった合成音声ソフトが存在しないのだ。いや、存在はする。しかし、それはあくまでロボットに搭載されているような無機質な声。音階など設定できない。【歌姫合成音声ソフト】ではない。いわゆる【調教】が存在しない。

 

 

動画サイト、検索サイトで調べる。当たりだ。この世界では機械に曲を歌わせる文化は無い。

曲を歌わせる文化は無い。

 

 

 

アイドルが根強いから機械の歌と言う発想がない。と言う訳じゃない。それだけでその発想にたどり着く奴がいなくなる訳じゃない。

 

なら複数の理由がある筈だ。仮説は立てた。確認だけだ。

 

 

パーカーを着て家を出る。首周りに跡が残っているのでチャックを上限まで閉める。

 

 

マップアプリで現在地を確認しながら自分の世界と差異を見つける。

 

 

住宅街はそんなに変わらないようだ。

 

だが駅周りは明確に違う。

 

街にある看板のどれもこれもが美男美女を広告イメージキャラクターとして起用している。美肌用品とかならまだわかるがゲームショップ、本屋、文房具店、サイクルショップまで、その全てに人が掲載されている。

 

 

それだけじゃない。歩く人々殆どが顔が良い。

 

顔面偏差値が高めなんだ。乃至の顔はどうだろうか。俺自身は可愛いと思う。美少女だ。だが特徴があると聞かれたら、あまりない。美人だがぱっとしない。モブに混じってても違和感は無いだろう。

 

 

街を見渡すために上がった歩道橋。不意に子供の泣き声が聞こえる。

 

「うえええん!! 風船が飛んでっちゃったァァァ!!」

 

 

歩道橋を渡った先の所の木に赤い風船が引っかかっていた。それだけの事。なのに、歩行者が数人足を止め、どうやって風船を取るか会議していた。

 

たかが風船一つ、また買えばいいだろ。

 

「うええええん!!」

 

「大丈夫! お姉ちゃんが取ってきてあげるから!」

 

笑顔で言う金髪のポニーテールの少女は一緒に立ち止まっていたお兄さんの一人に肩車を提案し、少し高くなった景色から精一杯に手を伸ばす。それでも風船には届かない。

 

「も、もうちょっと」

 

後少しで届きそうで片腕を肩に乗せてアンバランスになってもギリギリまで伸ばそうとする。他の人は彼女が落ちたときの為に受け止める準備をしていた。

 

たかが風船一つの為に随分な人数だな。それほどお人好しが多い平和なのか。

 

 

気になって手すりにもたれ掛かってスマホで治安を検索する。思った通り、何か事件が起きる度に大々的に取り上げられている。一つ一つの事件が少し過剰じゃないかと思うぐらいに騒がれている。

 

それほど平和なんだ。平和で悪い人が少ないから顔を晒すのに抵抗が薄い。容姿が良い人が多いからアイドルも必然的に多くなる。素性を隠す人が圧倒的に少ない。知らない人同士でさえすぐに協力できる程円滑な世間観。どれもアイドル文化を後押しする世界事情だ。

 

軽く検索したがどの国も前世と比べて治安がいい。

 

 

なんともめでたい世界だ。平和賞をこの世界にあげたいぐらいだ。ボカロPがいないのも納得が行く。 

 

 

「そこの人! すみませ〜ん! 歩道橋にいる人!」

 

巻き込まれた。反応して下を見る。

 

「この子の風船が木に引っかかってしまったの! そこから届きませんか!」

 

「届かない」

 

即答する。そもそも取る気もない。だから届かない、取れないと事実を答えた。

 

「自撮り棒かなにか持ってませんか!」

 

「持ってない」  

 

財布とスマホ程度だ。 

 

俺に何を期待していたのか、ションボリする。

 

「風船…………」

 

風船がいまだ取れてないことに子供が諦め始めたのか静かになって俯いた。

 

「だ、大丈夫! 絶対に取るから!」

 

金髪の子は笑顔で言うが取る算段が無く困った表情で辺りを見渡す。他の人も一緒だ。背の高い同士で肩車しても届かない。

 

「向こうで風船配ってるからそれは諦めて貰ってきたら」

 

歩道橋の高さから視野が広い事を良いことに遠くで風船を配ってる人を見つけて伝える。

 

「それじゃあだめなの! この子、赤いのが好きで赤い風船が今引っかかってる一つしか残ってなかったの!」

 

色とか知ったことか。どうせ萎むんだ、どうでも良いことにこだわって……………

 

 

 

こだわり過ぎた俺が何を思ってるんだか。

 

 

「…………持ってて」

 

「え?! ちょっ! とと」 

 

 

スマホを金髪に投げてその場から離れる。軽く跳んでから手すりの上に登って助走をつけて跳ぶ。

 

木の横を通り過ぎるように、風船を掴んでそのまま地面に足から落ちて着地できるはずも無くあちこち擦って倒れる。

 

「…………ッ」

 

 

いってぇ。

 

風船が無事なのを確認すると子供に渡す。跳んで風船を取ったのがヒーローに見えたのか目を輝かせてた。

 

「お姉ちゃん凄い! もしかしてヒーロー?!」

 

「残念ながら違うね。風船、もう離すなよ」

 

「うん! ありがとう!!」

 

そう言って子供は嬉しそうに歩いていった。

 

金髪は俺の方を見てあ然としてた。

 

「スマホありがとう」

 

そう言ってスマホを取って俺もその場から離れようとした。

 

「ちょっとまって!」

 

腕を掴まれた。

 

「理由がない」

 

「私にはある! 擦り傷だらけよ貴女! 血だって出てる! 近くに私のいる事務所あるからそこで手当てを」

 

かなりの剣幕で俺の腕を引っ張る。

 

「いらない」

 

「だめ!」

 

「離してくれなかったら嫌いになりそう」

 

「なら嫌いになってもらうから! 早くこっち来て!」  

 

そう言って引っ張られる。こいつ嫌いだ。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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