才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた 作:小中高校道徳の成績5でした
パイプ椅子に座らせられ、ズボンをたくし上げられて消毒液を吹きかけたガーゼが貼られる。擦り傷に染みる。
「風船を取るためでもあんな危険なことはしないでください」
「あれ以外方法が思いつかなかった」
「だとしてもです!」
「じゃあ君は取れたの?」
「ゔっ!」
叱りたいが叱りきれず、怒った表情に困惑が混じる。
数カ所あった擦り傷はそれぞれにあった絆創膏がはられていく。上半身はパーカーを着てたこともあって対した傷じゃないから腕を捲くる程度で済んだ。脱げとか言われたら全力で逃げる。こんなお人好しに首を見られたら面倒だ。
「傷なんて作ったらせっかく可愛い顔が台無しだよ」
そう言われて右頬にも絆創膏がはられた。
「それよりもいいの、部外者の…私を勝手に入れて」
「怒られるのは私だから大丈夫です」
この子はやると決めたら意地でもやるタイプの人だな。
そんな子に連れてこられたのは【シキセツプロダクション】と言うアイドル事務所だ。そういう場所に入った事はないが、ゲームで見たのと大体似てる。おそらくPのと思われる書類の置かれた机。近くで見なければわからない小さな書き込みのあるカレンダー。大雑把な目標や予定の書かれたホワイトボード。廊下には階段があるからそこを登れば練習する場所でもあるのだろう。
「……ありがとう」
「何もしてない。それに私のセリフです」
「私のセリフでもあるよ。私じゃあの風船は取れなかった。数人いたから出来ること沢山あったのに、取れる方法が思いつかなくて、なのに貴女は一人で風船を取っちゃった。おかげであの子に嘘をつかなくて済んだの。だからありがとう」
申し訳無さそうにしながら救急箱を片付ける。
「あ、でも私が取ってあげるって言ったから結局は嘘だった!」
救急箱を元あったであろう場所に戻す。置く音だけが事務所内に響いた。
俺が怪我したことに責任を感じていると解釈する。だから嘘だと少し自嘲気味に思考が進んだのだろう。
でもお人好しな彼女にはそれは慣れてないかもしれない。救急箱を置いた場所から動かない。次の言葉を用意してなかったのか、俺の返答を待っていたのか。どちらかはわからないがえっと、と彼女の目は気まずそうに泳いでいた。
「元々風船を取る気はなかった。君に言われたから仕方無しに取っただけ。だから私に声を掛けた君も風船を取る手助けをした。直接触れてはいないけど、風船を取った一部は君の功績でもあるよ。そして数人いたにも関わらず一人で勝手にとったから怪我は私の責任」
そういえば用事は手当だけだ。もう済んだから帰ろう。いや、パソコンのスペックがクソだったから秋葉にでも寄るかな。あ、でも金が無いか。小遣いは貯めてるみたいだがオーディションの交通費やらで沢山あるわけでもない。
事務所を出る。
「ありがとう。気を使ってくれて…………て、あれ?!」
彼女は何か言ってた気がするが互いにもう用はない。この世界の交通費はどのくらいか?
「ま、待って!」
金髪の子は慌てて追いかけてきた。振り返ると困惑気味に驚いた表情で俺をマジマジに見る。そんな目を見て気づいた。
彼女の目は紅い。透き通った紅だ。そんな目に見とれた。
「私!
なんでそんな事、ああ、スマホの待受か。友人らしき人物と一緒に撮った写真。制服を着てるからわかったのか。
「その弗愛高校に転校するんです高校2年で!」
「2年、私と一緒だね」
「本当?!」
同じ学年と言う事が彼女を笑顔に変える。
「私の事嫌いって言ってたけど、私は貴女と友達になりたいです! だから名前を教えて下さい!」
言ったな。
友達とか。俺が人気になるためにはある時間全て曲につぎ込んで、才能無い部分を埋めなきゃいけない。なのに友人なんて増やしたらその分俺は俺の夢から遠ざかる。
「菜野乃至。どうせ同じ学年なら教えても教えなくても変わんないし」
「さいの、ない。さん?」
「私のなまえ。でも宮坂さんのこと嫌いだから友達になる気はないよ。あとこんな初対面で敬語使わない同級生なんて常識ないでしょう。そんな子と仲良くするなんて嫌でしょ。それじゃ、私は帰る」
俺はスタスタと早歩きでその場から離れる。
「え? まってくださ……………」
無視して帰る。流石に追ってくることは無かった。
金髪。いや、黄色って言ったほうが似合うかな。紅葉したような紅い目。智“秋”。ぴったしな名前だな。
友達いらないのが菜野乃至(前世男)スタイル。