[終了]葉隠透オリ主短編集   作:高鹿

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▽男性・他校生/高校時代/友情
キミと、鼓動と、あふれる強さ


もう二度とこの門をくぐる事なんてないと思っていた。見上げたゲートは堅く堅く他者を拒むような威圧感を放っていて、どうにもこうにも受験の時のあのやるせなさを思い出す。

 

自分の心臓の音が痛いぐらい体の中で反響して、具合が悪くなりそうだ。

 

「何してんだ、早くいこーぜ」

 

そうクラスメイトに促されて、あぁ、と敷地内に踏み出す。春先に流れたニュースのような警報は鳴らない。それはそうだ。新幹線の中で引率の教師から渡されたIDカードはしっかりと首に掛けている。これをつけていないと学校中のあらゆる防護壁が作動するらしく、その作動金額なんて聞きたくないレベルだろうから絶対に肌身離すことのないようにと心に堅く誓った。

 

俺は今日、雄英生との演習交流会に来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺達が来た頃、雄英の方はまだ登校者もまばらだったところから簡単に分かる通り、まだ誰も来ていないようで更衣室はガランとしていた。これ幸いと広々とした場所で持参したコスチュームに腕を通し、渡された地図に書かれている指定区域までぞろぞろと連れ立った。

 

受験した時にも思ったけれど、でかい。演習場というより演習街だ。これがいくつもあるっていうんだからくらくらする。うちの高校だって小さいわけじゃないが、雄英と比べるとどうしても見劣りしてしまうのが現状。国立で最高峰の場所と比べること自体が間違っているとはいえ、だ。

 

そんな風に団体行動を乱さない程度に雄英の見学をしていると、俺達が来た方からまたぞろぞろと人影が現れた。どうやらあれが雄英生らしい。

 

「2、4……19人か? なんか半端だな。誰か休んだかね」

 

そうクラスの奴が言うモノだから、訂正を入れる。

 

「いや、20人だ」

 

胴着の帯をぎゅっと締めている奴の横に、見えはしないが一人いる。わりと騒がしいタイプみたいで、その気配が少しうるさい。

 

「ってことは透明化個性か」

「あぁ。合流してから人数数えて今に至るまで姿が見えねぇってことは、息を止めてる間だけ、みたいなチンケなもんじゃないのは確かだな」

 

透明。そんな個性でどうやってここに入ったんだ。

ぎしりと心臓が軋んだような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、君らもわかっているとは思うが、今日は朝から一日かけて京都名状高校の生徒との演習交流会だ。名状のみなさん、どうぞ宜しく。俺はこいつらの担任、相澤消太です」

 

包帯のような拘束具のようなよくわからん細長い布を巻きつけた雄英の教師がそう喋る。暗いと言うよりは黒い。ただただ黒い。

 

「チーム分けは、雄英と名状の一人ずつペアとする」

 

事前説明で聞いていたとはいえ、雄英の奴とペアか。辛いな。だってあいつら、全員戦闘個性持ちだろ?ほんともうやだ。見るからに強そうなやつたくさんいんじゃん。ちくしょうが。

 

するとうちの担任が前に進み出る。

 

「ただし、こちら、名状は十人が戦闘個性、もう十人は支援特化個性となっていますが、今一度よろしいでしょうか?」

「えぇ、大丈夫です」

 

そう、名状の人間は全員が全員、戦闘特化ってわけじゃない。前衛ヒーロー科と後衛ヒーロー科のそれぞれ上位十人が選ばれてこの特殊演習に連れてこられた。まぁ攻撃個性が多いからって、後込みして終わるつもりなんかさらさらない。むしろ相手が攻撃個性ペアであったって、そんなん支援で覆せるって、証明してみせる。そのために俺はここに来た。

 

「今回、ヒーローチーム、ヴィランチームなどはお互いが接敵するまで相手が誰か分からない形を取る」

「講評はどうされるのでしょうか?」

 

かなりやばいぐらいにきわどいコスのポニテ女子が手を上げて質問をすると、雄英の担任は、あぁそのことか、と頷いた。どうでもいいけど雄英のサポート会社こわ。女子にあれを着せるとか関東こわ。そしてそれを平然と着るのもこわい。

 

「各所にあるカメラロボが余さず録画するからそれを使う。いいか、これは同時多発襲撃だ。刻々と事態は変化していく。それを覚えとけ」

 

その言葉に雄英の奴らの顔つきが変わる。あー、春先にあった事件を模した的な感じか?正直土壇場の経験値が違い過ぎる。

 

「ヒーロー側もヴィラン側も演習開始の合図と共に各立場ごとで連絡を取りあっていい。全体とチームメイトへの連絡を使い分けてうまくやれ」

 

つまり自分の相手がいち早く誰なのか把握して、穴を埋めていきゃいいわけだ。

 

「他に質問なけりゃ始めるぞ」

「はい」

 

手を上げると促されるので口を開く。

 

「対戦相手の個性など既知の情報は"知っている"前提で動いていいんでしょうか」

「あぁ。ヴィランがお前らの個性を知らないとも限らねぇからな」

「ありがとうございます」

 

なるほど、それならこの勝負は俺に限って言えばほとんどもらったようなものだ。

 

「じゃ、さっさと始めるぞ」

 

傍らに用意されていた箱から順に引いて行って、該当するアルファベットでペアを組むことになった。

 

 

 

 

「Eの奴ー」

「おーい、Fこっちこっち」

「LL! L!」

 

くじを引いて至る所から自分のペアを探す声が飛び交う。俺の手元にある赤いボールにはQと書かれていた。きゅー、きゅーか。

 

「Qの人いませんかねー」

 

ボールを掲げながらやたらと大柄な奴らの間を抜けていくと、ふと髪が逆立った赤い奴と視線がかち合った。何を示し合わせたか同時にボールをバケモントレーナーよろしく向け合うと、そいつが持っているのは間違いなく黒のQ。俺のペアの相手だ。

 

「よう、Qってお前か!」

「あぁ」

 

頷いて名乗ると、握手を求められ応じる。

 

「俺は切島鋭次郎、よろしく!」

「よろしく。個性の話は……あんた声でかそうだから後でな」

 

そう茶化しはしたが、周り全員が組分けによる挨拶をしながらじわじわと張り詰めているのがわかった。誰が誰と組んだのか。片方がわかればもう片方も決定するこの形を暗記しようと必死に。

 

 

 

 

それから1チームずつバスに乗せられ各演習場に連れていってもらえるらしい。すごいな雄英。バス完備かよ。とりあえず席が向かい合わせになってるところで横に並んで座った。

 

「そうだ、個性話してなかったな。俺は硬化。切り裂くことも出来るぜ」

「へぇ、カッコいいじゃん」

 

グググ、とナイフみたいになって行く手を見て口の端が歪んだ気がする。いかにもヒーローって感じの個性だ。

 

「お前は?」

「俺はライフセンサー。全力出せば半径3kmにいる生物の心音を視ることが出来る」

「心音を……みる?」

「あぁ、今もお前の心臓を中心に鼓動の波が広がっていってるのが視える」

 

普段もある程度は視えるけれど、集中すると辺りは暗くなり、視界に映るモノの輪郭線だけが白く浮かび上がる。そしてその中に異常なまでに鮮烈な赤い波が現れる。それが心音。生きている以上誰も隠すことの出来ない代物。

 

「つまり、支援特化だ」

「……」

 

切島は目を丸くして俺を見ている。地味だとでも思ったか。まったくこれだから攻撃特化の雄英は。 と思ったところで、肩を掴まれる。

 

「すっげぇな! お前がいれば相手が葉隠でも関係ねぇのか!」

「……葉隠?」

「あぁ、個性が透明のやつでさ、偵察が主体なんだ」

 

あぁ、あいつかと頷く。あのやたらとうるさい心臓の持ち主だ。偵察主体、か。

 

「俺の相手がそいつならいいんだけどさ」

「そう都合よくはいかないだろうなー」

「だよなぁ」

 

そんなことを言いながら、バラバラの時にどこに敵がいるかを教える符丁などをすり合わせていたらいつの間にか会場であるコンクリビルの前に着いた。

 

 

 

 

バスを下りた後、外で待機しろと命じられたことから、俺たちがヒーロー側ってことだろう。ガードレールに腰掛けて心臓を落ち着け、演習が始まるまで、なるべく個性は抑えておく。何階にいるかぐらいはわかっちまうけど、なるべく情報取得は他のチームと合わせておきたい。

 

「あぁ、そうだ。先に言っておく。俺はある程度は戦えるけど、ある程度までだ。前衛特化したお前らと長時間渡り合える訳じゃねぇ。いざとなったら俺は一人連れて逃げ回って、最悪の2対2の形にならないようにする」

「わかった。それでいいぜ」

 

そう切島が頷いてくれた瞬間、ノイズがマイクに入り込むのがわかってガードレールから腰を浮かし、

 

『演習開始!』

 

その宣言と共に一気に該当ビルの窓から見えない物陰に滑り込む。感覚を解放して足元からずわり、各地へ。まずこのビルの中は────今日の俺は最高にツイてる。

 

「中にいるのは風個性の風洞って奴と、いるぜ、葉隠」

「お、そうか」

「ちょっと待ってくれな」

 

じわじわと感覚を伸ばしていくと近隣にある二つの会場も補足する。ん、視えるのはここまでか。耳元のマイクを全体に切り替え声を吹き込む。

 

「こちらQチーム。相手は風洞と葉隠。宰野と蛙女子、お前らの相手は要柱と口模様コスの奴。二人とも五階。旗立と金髪メッシュ野郎、お前らはご愁傷さまの首割と轟だ。それぞれ五階と二階」

 

この演習では全員を直前に視ていたおかげで、認識できた心音の持ち主が誰なのかかなり正確に把握出来た。だからこそ演習前に訊いたんだ。"既知情報を使っていいのか"って。

 

それにしても首割と轟の心音は二人揃ってあほみたいに気持ち悪いな。どんだけ平静なんだよ。本当に人間なのか?

 

「あとの7チームは悪いが自力で捕捉してくれ。Qからは以上」

『十分だって!』

 

音声吹き込みボタンから手を離すと、名状の奴らの声と一緒に雄英らしき聴き覚えのないやつの声もちらほら返ってくる。支援特化の力を思いしれこんちくしょうが。

そうして、接敵前にチーム名と名前が短く続いていく。つまり誰が敵にいるかはこれでわかった。体育祭優勝野郎はこっちっかわか。

 

「じゃ、行くぜ」

 

切島が腕を硬化させながらにやりと笑ってそう言った。

 

 

 

 

俺たちはバラバラに中へ入る。何たって誰が何処にいるのかなんてわかりきっているし、万が一にも葉隠に切島が確保されるわけにはいかない。そんなことになったら敗けが確実になる。

ただ葉隠はおそらく九割程度の確率で自分が不意打ち出来ると信じてる。たぶん支援特化が実際にいる演習はしたことがねぇはずだ。

 

────この曲がり角、向こうにいる。背中を取ってる形だ。

 

息をゆるめ、相手の心音と自分のを重ねていくことで自分の存在を希薄に、認識しづらくしていく。

 

「……」

 

切島の方も敵を発見できたみたいだ。いつでもいいぞ、という合図で三秒間こちらのマイクをオンにする。切島ならマイクの微かな雑音で理解してくれただろう。なんたってこっちは絶対に音を立てられねぇ。雄英に合格する透明人間だぞ。見つかる前に、やる。

 

そしてやるなら、同時奇襲。

 

『3……2……1』

 

カウント。

 

『0』

 

曲がり角を飛び出し一気に葉隠へ距離を詰めれば、相手は俺の存在に気が付き動揺した鼓動を視せる。やっぱりお前、見つかることには慣れてねぇだろ!

 

いいさこのまま心臓正確に掌底で打ち抜いて終わりにしてやる────!

 

 

 

 

 

 

 

雄英の入試は、案の定落ちた。少なからず体は鍛えていたとはいえ、他の戦闘系に比べたらないも同然だ。普通科でも体育祭から持ち上がるやつがいるのは知ってる。でも毎年恒例の最終種目でのサシ勝負なんて無茶だ。期待を持つことすら無理だ。つーか、予選通過すら危ういだろう。

 

だから、滑り止めとは表現されちまうが、ほぼ本命同然の支援特科のある学校に入ったんだ。雄英には勝てない永遠の二番手校と揶揄されていてもそれでもいい。支援でトップを目指す。そう決めた。その為にはまずヒーローにならなくちゃいけない。

 

攻撃型個性じゃなくても、

それでも、

俺は、

 

ヒーローになりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

心臓を正確に打ち抜かれてどうともならねえの何てガチの筋肉バカぐらいだ。そこに掌底をぶちこめば必ずそいつに隙が生まれる!

 

触れた掌。やわらかい。人の肌。体温。あたたかい。やわらかい。

 

「────!」

 

入った掌底は相手の体制を崩させはしたけれど、驚いて俺も一歩退いちまって対峙の形になっちまう。でもしょうがねえだろ、だって!

 

「おまえ、何も着てねぇのかよ! 全裸か!」

「さ、触ったね!?」

 

今まで掌底でも声を出さないようにしてたんだろう相手が、心音の歪み的に胸の前に手を重ねながら慌てた声を出す。声の高さからしても、触れた肌の感覚からしても、どう考えても、女子。女子だ。女子の胸を触っちまった。

 

ギリギリレオタード女子がいると思ったら今度は全裸女子とか雄英怖すぎだろ!

 

「うるせぇ痴女かよ! なんてとこだ!」

「ちっ、痴女じゃないよ!」

 

そう透明女子が叫んで背中を向けて走り出した瞬間、上階にいる奴が凄い勢いで動き出す。

 

「おい、四・ホク・階!」

 

四階、北、階段に向かってる。符号を叫べば耳元で声。

 

『オッケー!』

 

吹き込みながらこっちも追いかける。合流したいんだろうけど、合流に一番近い階段は俺が取ってる。遠回りせざるを得ない筈だ。

 

それに全裸ってことは、つまり武器とかを自分の延長線上として隠せるわけじゃないってこと。徒手空拳だ。

 

追いつけるかあるいは逃げても無駄だと思わせたら、俺の勝ちだ。

 

 

 

 

ぺたぺたぺたぺたと裸足の音が廊下に響く。

 

透明個性。明らかな後衛支援個性。この走りからして体だって特に鍛えてあるようには思えねえ。だけどわかってる。不意打ちが出来るってのがどれだけ恵まれたことか。俺の個性は完全に対生物だ。機械相手には意味がねえ。雄英の試験結果は、正直受ける前からわかってたさ。それでも諦められなかった。

 

相手は引きはがせない俺に諦めたのか、くるりとこっちを向く。どう見たって小柄で、華奢で、それこそ不意打ちでなけりゃ支援特化の俺すらも倒せない。

 

────ちくしょう、ちくしょう!

 

「なんで、何でお前みてぇなのがここのヒーロー科にいるんだよ!」

 

踏み出し一歩、もう躊躇わねぇ!ここにいるってことは、つまりそういうことだろ!

 

「三ナン廊!」

『移動していくなぁ! ────見つけた!』

「場所、バレて」

 

掌底を打ち込む瞬間、ほぼ真上に移動してきた心音位置を叫びながら懐に入り込んで、ドン、と揺らいだ心臓を殊更に強く穿った。

 

「……っ」

 

心臓がそこにあるってことは、ふらついた人間の首と腕と足は、ここ!形は変則だけど小内刈り!

 

「嘘!?」

「だらっしゃあ!」

 

まさか自分が柔道技をかけられるなんて思ってなかったんだろ。個性に驕ったな!

 

頭を打たねえようにしっかりと首元を抑えて受身を取らせ、直ぐ首に手首から隠してた確保テープを出してするりと上腕から上腕に掛けて巻く。テープだけが浮いたように見えるそれは、だけど確実に葉隠に巻いたんだと言うことを知らしめた。

 

「透明確保! そっちに向かう!」

『いや、こっちも終わったぜ』

 

思わず上を向けば、心音の速い二人が視える。それでも、立ってるのは切島で。

 

「「……っし!」」

 

……ん?何だ今の。

 

俺がガッツポーズしてちょっと口から勢いが零れた瞬間に、くしゃみが聴こえたような……。

 

音の方向を視れば座った葉隠。テープだけが浮いている。よく見れば小型マイクも。

 

いまは秋口だ。そして葉隠は、全裸。

 

「……」

 

ため息を吐いて俺は着こんでたジャケットを脱いでかけてやる。先生からの宣言がない以上、テープを外してやることは出来ないけど、せめてもの気休めだ。風邪引かれても寝覚めがわりぃ。

 

「あ、ありがとう……」

 

まさか敵チームからそんなことをされると思ってなかったんだろう。戸惑った声。うるせぇ。俺だって戸惑ってるわ。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、刻々と事態は変化していくと脅されたあれは、実は全部の会場を俯瞰して見ると歪な3-4-3の形だったらしく、隣り合ったビルを同じチームが取ればそこでラインが作られ一ポイント換算されると言う、いかに連携して相手を追いつめられるかが肝だったらしい。

 

そうして制覇拠点数は同数だったにもかかわらず、ヒーローチームは、負けた。一ポイント差で。

 

 

 

 

講評は全部のチームの映像を見ながらいろいろ意見を言い合う形で、最後の方で顔だしてくれたオールマイトや他の奴らにそこそこ褒められはした。だけど、「あの"ご愁傷様"だけは本当に頂けなかったな」と窘められもした。士気を下げてどうするってことらしい。……確かに、演習だと舐め切った発言だった。

 

あー、生オールマイト視たってのに気分が上がらねぇ。というか、なんか、オールマイトの心音ちょっと変だったな。大丈夫なのか?

妙に心筋が弱くなってるような音だ。それこそ"どうして今こうして立っているのか不思議なぐらい"レベルの心臓。オールマイトほどのヒーローなら専属の医者ぐらいいそうなもんだけど、誰も止めてねぇのかなと少し不安になった。俺の気のせいならいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

更衣室に帰ろうとしたところで、聴きなれない女子の声に呼びとめられて振り返れば中空に水色の手袋が浮いてた。見れば今は靴もはいてやがる。そりゃジャケットは講評前に返されたけど、どんだけマニアックな格好してんだ。

 

「透明の奴か」

「うん」

「何か用か」

 

とはいえ、何の用かなんて分かりきってる話だ。

 

「何で、私の位置が正確に分かったの? 驚いてたし、見えてたわけじゃないんだよね?」

 

ほらな。透明になれる奴は絶対に俺にこういうことを訊いてくる。支援科にも葉隠ほどじゃないけど、透明になれる奴はいた。お前ら完全に透明になって自分が存在感消せてるとでも思ってんのか。

 

「俺の個性だ」

「それはわかってるって」

 

察しろ!言いたくねえんだよ!

 

無言でその場を離れようとしたところでグイと横から首に腕が絡んで来て、コイツの個性はライフセンサーだからな、と得意げに答える同級生の声が聴こえてきた。おいおいおいおい、と勢いよく体を反転させてそいつの片襟を掴む。

 

「な・ん・で、人の個性についてお前が答えてんだ」

「いや、だって答える気なかっただろ?」

「……」

 

当たり前だ。相手に手の内を見せる何てこたしたくねえ。それが雄英なら猶更だ。バレたって誰にもどうしようもない個性ではあるがそれはそれだ。

 

「いやー、ごめんな、コイツ雄英コンプ激しくてさ」

「……うるせぇ、悪かったな」

 

そんなクソみてえな煽り文句が聴こえてきて、緩慢に腕の中から抜け出して歩き出す。

 

「……」

 

それでも透明女子は隣を付いてくる。何も言わず。とことことことこ。このままだと更衣室の中まで入ってきそうだな。つーか何で透明なのにそんな存在感あるんだよ。

 

はぁ、とため息を吐いて立ち止まる。

 

「俺は、人の心音が視えるんだよ」

 

とんとん、と自分の胸を突っつきながらそう言った。

 

「心音……あっ」

 

俺が真っ先に胸(正確には心臓)目掛けて掌底したことを思い出したのか、手袋が心臓を隠すように重ねられた。いや、隠せてねえよ。

 

「悪かった、何て言わねえぞ」

 

戦闘に全裸で出てる以上、ああいった状況だってこいつは飲み込んで出てきてるわけだ。胸を触っちまったとしてそんなん事故にもなりゃしねえ。

 

「言われたら怒るよ。私だって真剣だもん」

 

だけど、意外な言葉が飛んで来た。

 

「……そうか、悪い」

「えっ、そこで謝るの!?」

「今の悪いは、お前を女子だって侮ってたことだ。さっきの件についてはぜってぇ頭下げねえから安心しろ」

 

そう発言したところで男子更衣室に着く。女子更衣室は隣、演習場側の方に併設されてる。だって言うのに葉隠は俺についてきて男子更衣室の前まで来ちまってた。

 

じゃあな、こっち入ってくんなよ、と言って相手が怒ったところで俺は扉を開けた。視界の端でさっき俺の個性をバラした奴がにやにやして立ってたから後で殴ろう。

 

 

 

 

中にはいると名状と雄英がぞろぞろ着替えててくっそうるせえ。

 

「お、Qチームのやつか!」

 

自分の荷物を預けたロッカーを開けたところで雷って言葉に色がついてたらこんなんだろうな、みたいな髪の毛の奴が声をかけてきた。

 

「あぁ、メッシュ野郎か」

「上鳴電気だ、よろしくな」

「……」

 

よろしくするつもりはないが、相手が名乗ったのにこっちが名乗らなきゃ一方的に礼儀がなってねえみたいじゃねえか。俺の素行が悪いのはともかく学校側の評判が下がることだけは避けたい。故に名乗っておくだけはおこう。

 

「開始直後の通信助かったぜ!」

「負けてたじゃねえか」

「そうだけどよー!」

 

まぁあの轟と首割の共同戦線なんて恐ろしすぎて俺は戦いたくなかったけどな。

 

「あ、葉隠と戦ってたやつだよな。VTRの戦闘シーン、解説入れてもらったけど全然わかんねえな!」

「そうだろうな」

「シャドーボクシングみたいな感じになってたぞ」

「どうやって見分けてんだ?」

 

ずい、と他のやつも入ってきて、雄英の人懐っこさと心音の密度にくらくらする。あぁ、クソ、馬鹿馬鹿しくなってきた。わかってるんだこいつらが悪いワケじゃないって。俺の努力が足りなかった、だから届かなかった。それだけのことだ。

 

「……心音、視えるんだ。演習の後の更衣室とかほんと最悪だわ」

 

視界がうるせえったらありゃしねえ。

 

「なるほどな。じゃああれは心臓に向かって攻撃してたわけだ」

「ってことはバレてたのおまえの個性か」

「あぁ。どっちもそーだよ」

 

肯定しながら脱いだジャケットを折り畳んでケースに仕舞い込む。ズボンを制服に履き直して上を着替えようとしたところで、裾が引っ張られる感覚。

 

「なぁ」

「ん?」

 

声につられて視線を下ろすと何かやたらとブドウっぽい奴が俺の足元に居た。

 

「心臓に対して攻撃するに加えて途中のあの反応って、もしかしておっぱい触ったのか!?」

「なっ……!」

 

誰も突っ込んでこなかったからそのままスルーしようとしたのに最後の最後で何訊いてきてんだこいつ!

 

「その反応は触ったんだな!お願いだ感触教えてくれよ!」

「うるせぇ、なんだお前!!」

 

足にまとわりついてくるそいつは離れる気配がない。

 

「おい、お前らのクラスメイトだろ、どうにかしろよ!」

「スマン、峰田はこういう奴なんだ」

 

六本腕?あるいは触手を持つ顔を半分隠した奴が受け取りに来た。どうでもいいけどこいつたぶん苦労人だ。

 

「葉隠の透明オッパイの感触教えてくれよおおおおお!」

「あぁもうお前らの心音うるせぇ!時蕎麦は耳そばだてんなあと特に隣の葉隠うるせーぞ!」

 

名状の前衛ヒーロー科の奴の名前を叫んでから、さっきから話題に上がってるせいで特に目に入ってくる心音の持ち主に叫ぶ。

 

「私のせいじゃないのに酷くない!?」

「クッソ、そんな風に足にまとわりついてきたって俺は喋んねぇからな!離れろ!」

 

ブドウ頭が足にくっついちまって離れる気配がまるでない。なんだこの執念。

 

ほんと雄英は怖いところだな!!!!

 

 

 

 

ぐったりするような演習交流会が終わって、俺は半分屍になりながら授業終了後の集合場所になっていた講堂を出た。

 

「ねぇ!」

 

もう今日だけで何度聞いたのかわからねぇ声がして、そっちを向いてみれば制服が浮かんでた。……そうか、そうだよな。演習じゃなけりゃ服着てるよな。よかった。

 

「なんだよ、まだ何か用か?」

 

俺はもう地元に帰りてえんだよ。土曜日だってことで後泊するやつもいるみてえだけど正直気が知れない。

 

「アドレス教えてよ!」

 

その手にある端末を少し振りながら、葉隠はそう言った。

 

「────」

 

なんで、そんなことを言うのか、言えるのか、俺にはまるでわからなかった。だって俺、態度悪かっただろ。ずっとしかめっ面で、わかりようのねえことだったとはいえお前の胸触っちまって。

 

「なんで」

「え? だって、すごいなって思ったし、いろいろ教えてもらいたくって」

 

偵察ってことから前衛支援になることが多いだろうけど、後衛支援のこと知ってたらもっと動けるようになると思うんだ! そう溌剌とした声で言う葉隠が、すげぇいい笑顔だってのが見えなくても、心音を視ようとしなくても、わかっちまって、どうしようもないぐらい自分の心音がうるさくなるのがわかった。

 

「……わかった。その代わり、どんな授業やってるかお前も教えてくれよ」

「うん、いいよ!」

 

画面に表示させたコードを読み合わせて、アドレス帳に登録する。はがくれとおる。すげえ名前だな。ぴったりじゃん。

 

「お、連絡先交換してんのか? 俺も俺も!」

 

今日散々耳元で聞いた声が飛んできて、ほんと雄英には敵わねえなぁなんて、一人笑っちまった。葉隠も切島も不思議そうにしてたけど、あぁたぶん俺、お前らのこときっと好きになると思うんだよ。きっとな。

 

「ありがとな」

「え、どうしたの?」

「いや、何となく言いたくなった」

 

そんでいつかお前らと一緒に戦えたらいいなって、思う。

 

 

 

 

葉隠透は、今は(・・)敵わないヤツだ。

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