大丈夫でしたらこのままお楽しみください。
+初心者ですので温かい目でご覧ください。
第一話:〈都市伝説〉の消えた八人目
──ねえ、学園都市には七人の
──そりゃあ常識だからね。
──消えた八人目の
──消えた?
──あ、その噂知ってる! 確か、
──
──よく分かんないけれど、字面からして何か駆動させるんじゃない?
──曖昧な。
──でねでね、その能力者は黒猫みたいな姿をしていて遭遇すると不幸になるんだって!
──不幸? オカルトでよく言う黒猫が横切ったらなんちゃらってヤツ?
──それとは違くて。凶暴だから会うと能力で殺されちゃうんだって!
──へえ。普通に怪談になってんじゃん。
──あー信じてないなあ!?
──信じられるわけないでしょ。
──まあ、それは言えてる。
──ちょっと、信じてよーっ!
──────…………。
手にストローボトルと呼ばれる、医療業界で使われるような簡素な水筒を持つ少女。取り立てて特徴のない高校のセーラー服を着ている彼女の鼻歌が、夜道に響く。
その少女は濡れたように光る黒髪ロングの猫っ毛をハーフアップにして、猫耳ヘアにしている。
エメラルドグリーンに輝く、吊り上がった猫のような瞳。生粋のアイドル気質の顔立ちはあどけない様子で整っていて、愛くるしい。
顔立ちが幼くても、彼女は決して幼児体型ではない。一五九㎝にDカップという、女性の理想のモデル体型と呼べる体つきをしていた。
少女は鉄橋の上で立ち止まって柵に寄り掛かり、ストローボトルの中身の経口補水液を飲むためにストローを口にした。
「お前が
水分補給をしようとした少女は、声を掛けられて振り向く。するとそこには数人の不良がいて、少女を取り囲んでいた。
「強すぎて順位付けから外された
自身を取り囲んで下品な笑い方をする不良を、少女は一人ずつ見つめる。
その視線に不良たちが警戒心を露わにする。だが少女は興味を失い、彼らに背を向けて学園都市の夜空を眺める。そしてストローボトルに口を付けて、チューッと優雅に水分補給する。
「舐めやがって、このアマ!」
少女の余裕そうな態度を見て、男が一人襲い掛かる。
少女の身体に拳が叩きこまれる瞬間、少女が身に纏う見えないシールドによって男の拳が阻まれる。そして
「うぎゃああああああああああっ!!」
男は皮膚がめくれ上がって焼かれる激痛に身悶えして、のたうち回る。
少女は面倒そうにちらっとそれを見ると、柵に寄り掛かるのを止めた。
呆然とする不良の前で、少女の姿がいきなり変化する。
猫耳ヘアの丁度真上。
そこに、大きな三角形に正三角形が二つ付いた蒼閃光によって形作られた猫耳が、ぴょこっと現出する。
そして、同時に少女のお尻を包むセーラー服の上から蒼閃光で造られた四角い帯のような猫の尻尾が現れる。その尻尾の付け根には三角形が二つ、リボンのように帯を挟む形で携えられる。
少女はネオンのような蒼閃光の煌めきでできた猫耳と尻尾を纏って、ストローボトルを持っていない人差し指をピッと不良に向けた。
すると。蒼閃光を纏ったエネルギー球が、少女の指の先から撃ち出された。
そのエネルギー球は不良たちの目の前で爆発し、少女を取り囲んでいた不良全員を凄まじい爆発の熱で焼き焦がした。
ぷすぷすと肌が焼け焦げる匂いを漂わせながら、声にならない悲鳴を上げて不良はその場に次々と倒れ伏していく。
少女は能力を解放するのを止めて蒼閃光でできた猫耳と尻尾をフッと消すと、柵に寄り掛かって再び学園都市の夜空を見上げた。
彼女の視界には夜空だけが見えているわけではなかった。
どこかの女子制服を着た小学校高学年くらいの年齢の少女が、ぷかぷかと宙を浮いている姿が見えるのだ。
『さっすが、真守ちゃん! イチコロだね!』
猫耳ヘアの真守と呼ばれた少女──
「深城、お前どこ行ってたんだ?」
真守はダウナー気味ながらも可愛らしい声で、宙に浮いている少女──
『タダで映画見てた! でもその映画あんまり面白くなかった~。B級ってやっぱり千差万別だよね~今度は大々的に宣伝されてる恋愛ものを見に行きたいな~チラッチラ』
「……今度一緒に見に行けばいいの?」
思わせぶりな深城の発言に真守は小首を傾げながら訊ねる。真守が首を傾げると、あからさまに深城は顔を輝かせ、ガッツポーズをして笑顔を浮かべた。
『やった、一緒に見よぉ! その映画ってあたしの好きな三角はおろか、四角にも五角にもなるような昼ドラよりもドロッドロな恋愛モノなんだ! 真守ちゃんと一緒に見られてうれしい!』
「やっぱり嫌だ」
真守は深城のセンスに顔をしかめながら、ストローボトルを鞄の中に片付ける。
そして鞄の中から氷砂糖の袋を取り出してバリッと開けると、中から一粒取り出して口に含んだ。
『え~なんでよぅ!!』
深城は真守の拒否に『一回良いって言ったんだからいいでしょぉ!』と抗議する。だが真守は断固拒否といった雰囲気を醸し出して、氷砂糖の袋を鞄に仕舞った。
『ねえねえ、真守ちゃん! あたしが映画見ている間何してた?』
深城は今度また誘おう、と意気込んでから柔らかく真守に問いかけると、真守はその問いかけに氷砂糖を口の中で転がした後に淡々と告げた。
「学校」
『学校終わった後は?』
「不良に絡まれてた」
『もう! その前その前! 学校終わって不良に絡まれる間の出来事!』
真守は深城の必死の問いかけに顔を上げた。
そして、深城の絶壁と呼んで相応しい胸をじぃっと見つめて微笑を浮かべる。
「深城の残念な胸に合う服を見てたんだ。そのナリだからこそ、ワンピースはよく似合うよな」
『まーもりちゃあああああん!!』
深城はバッと胸元を隠して顔を真っ赤にして失礼な真守に向かって怒鳴る。すると真守はそれを受けて、ふふっと柔らかく微笑んだ。
「可愛いのがあったからテーラーに頼んだ。きっと気に入る」
深城は真守に体型の事をイジられてぷんぷんと怒る。だが真守が自分を想ってくれる気持ちは本物だとして、真守を許して柔らかく微笑んだ。
『真守ちゃんが選んだお洋服ならばっちりだね』
「当たり前だ」
真守はふふん、と得意げに笑うと、柵に寄り掛かるのを止めて歩き出す。
そんな真守の周りを中心に、深城は泳ぐように宙を舞ってから真守の斜め前に落ち着き、後方に見える不良を視界に入れる。
『それにしてもぉ、真守ちゃんは相変わらず人気者さんだねえ。
「前に言ったかもしれないけど、都市伝説として根付いてるんだ」
深城の質問に真守は簡潔に答えた。
『都市伝説?』
真守は携帯電話を取り出して即座に操作、そして都市伝説サイトにアクセスして深城に画面を見せた。
「消えた八人目は黒猫みたいな外見の女の子なんだと」
そこには八人目の外見の特徴と、能力を発動した際に現れる身体的特徴が、しっかりはっきりと書かれていた。
『あ~真守ちゃんは、美人さんでお高い黒猫さまだからにゃあー』
深城は[高貴な黒猫の印象ながらも能力者を殺す不幸の象徴!]と書かれている都市伝説の一文を読んでから、にゃんにゃんと招き猫のポーズをして微笑む。
「上層部は私が本当は
真守の目の前にいるのは源白深城本人ではない。
源白深城は現在、幽霊のようにそこら辺を漂っており、本体は昏睡状態で別の所にあるのだ。そんな深城は他の人間には見えず、真守にだけしか見えない。
誰にも認識できない深城。それでも深城は楽しそうに、真守の周りをふわふわと浮いて微笑む。
『実は、消えた八人目は昏睡状態で入院中なのです! そんな人間を
「そう。そして深城を
『不良もきちんとした敵でしょぉ? ……あ、危険度の問題だっけ?』
深城の問いかけに真守は手に持っていた携帯電話をフリフリと横に振ってから、真剣な表情に切り替えた。
「うん。上層部の情報を鵜呑みにして深城に会いに来るヤツらは、消えた八人目を利用するしか考えてないと思った方が良い」
真守は深城が深く頷いたのを確認すると、携帯電話を仕舞ってから深城を安心させるように柔らかく微笑んだ。
「大丈夫、深城は私がいれば死なないから」
その真守の表情と言葉に、深城は頼もしさを感じてうっとりするように微笑んだ。
『一人にしないでね、真守ちゃん』
「ずぅっと一緒だ。私にはその力があるから大丈夫」
真守がふにゃっと照れたように笑うと、深城も釣られて笑った。
真守は深城と微笑み合いながら、夜の学園都市の街を歩く。
──────…………。
第八学区。とあるホテルの最上階フロア。
深夜の街並みを睥睨する一人の男子高校生がいた。
高級仕様のクラレット色のスーツ。シャツの前を全て開け、その下にワインレッドのセーターを着こなす、女子受けが確実に良い顔立ちの整った少年だ。
「
少年は背後のソファに座ってマニキュアを塗っているピンク色のドレスを着た女子中学生──
「ええ。アレイスターの『
「じゃあ誰が『
心理定規は男子高校生の滲み出る苛立ちを知りながらも、どこ吹く風で答える。
「──消えた八人目」
「八人目だと?」
怪訝そうに問いかける男子高校生に向けて、心理定規は興味深いとでも告げるように柔らかく微笑む。
「八人目の幻の
「そんなクソどうでもいいこと聞くんじゃねえ。質問に答えろ。その八人目はなんでランク付けされてないんだ」
世間話を一蹴した男子高校生は
「上層部が制御しきれなかったらしいわ。手が付けられないからそのまま放置されているってことよ」
「……ってことは
学園都市第一位、一方通行も一方通行で十分脅威的だが、その一方通行は第一位の枠組だ。
その枠組に制御できなかったから入れられていない八人目とは、相当にぶっ飛んでいる。
男子高校生の問いかけに心理定規は種明かしをするように告げる。
「
「それって新たなベクトルを自在に生み出せるって事か? そりゃあ既存のベクトルを操る一方通行の面目丸つぶれだな」
男子高校生は自分よりも上位に位置している一方通行がコケにされるような能力があるのかと知って、呆れたように嘲笑する。
「ええ。そんな怪物をどうやって倒せばいいのかしら?」
心理定規がからかうように男子高校生に問いかけると、その疑問を男子高校生は一蹴した。
「テメエ舐めてんのか? 俺の
そう。
男子高校生は
そして暗部組織『スクール』のリーダーである闇の住人だ。
そんな彼の部下である『スクール』の構成員、心理定規は楽しそうに問いかける。
「それで『
「アレイスターの『
垣根は傍らで青い顔をしていた『スクール』の構成員に命令する。その構成員は何度も頷くと、顔を青くさせたまま奥へと引っ込んでいった。
「──
垣根帝督はまだ見ぬ八人目の事を考えながら、鼻で嗤った。