とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一〇話、投稿します。
次は八月一五日日曜日投稿予定です。
※誤字脱字をご指摘くださり、ありがとうございました。
 修正させていただきました。



幻想御手事件篇
第一〇話:〈心配憂慮〉が心に灯る


垣根は携帯電話が震えているのに気が付いて顔を上げた。

『スクール』の仕事をこなしていた未明くらいまでは記憶があったのだが、どうやら寝落ちしてしまったらしい。

 

時刻は昼過ぎ。

随分と明るくなっている。

ぼんやりとした頭で携帯電話の着信を見ると、そこには『スクール』の構成員である誉望万化からの着信だった。

 

「なんだ」

 

〈……っあの、少し気になる情報を見つけまして。ご連絡を〉

 

あからさまに機嫌の悪そうな垣根の声に、誉望はビクつきながらも要件を説明する。

 

流動源力(ギアホイール)関連の情報で気になるのを見つけまして〉

 

「話せ」

 

〈朝槻真守が流動源力(ギアホイール)に仕立て上げられてます。そして、掲示板でターゲットとされて襲撃を受け続けています〉

 

「……真守が? どういうことだ、オイ」

 

朝槻真守は力量装甲(ストレンジアーマー)大能力者(レベル4)だ。

それなのに何故そんな事が起きているのか。

 

垣根は頭を即座に覚醒させて問いかけた。

 

〈分かりません。ただ、流動源力(ギアホイール)の外見が朝槻真守として掲示板にアップされて、そこを利用するユーザー……まあ、不良が多いんスけれど。そいつらがゲーム感覚で朝槻真守のことを襲撃していて。……あ、今。朝槻真守が撃退したって書かれました。どこの方面に逃げたかも書かれてる。足取りが完全に追われています〉

 

「狙われ続けてるって事か?」

 

〈はい。逐一情報がアップされていて、これじゃいつか疲弊して叩かれるのは確実ですね。結構な数を撃退しているんですが、それを面白がって他の掲示板でも騒がれるようになってて。情報が拡散しています〉

 

垣根はそこで真守のことを思い出した。

自分に向かってくる人間は容赦なく叩き潰すが、命は絶対に獲らないし自分から手を出す事なんてしない。いつでも真守は相手の自滅を待っている。

何度刃向かってきてもそのスタンスを崩さないので垣根が注意したところ、真守は『挑戦することは良い事』だと言い放って自分を呆れさせた記憶がある。

 

真守は人間に対して優しすぎる。人を疑おうとしないのだ。

人の好意に裏があるかもしれないのに。

 

悪党であり、裏がある自分の好意を素直に受け取って、真守はいつも微笑んでいる。

控えめで自分のしたいことはあんまり言わない。

それらすら周りの人間に迷惑をかけたくないという優しさが根底にあるのだ。

 

垣根が遠慮することないと言った時には、はにかみながら律儀にお願いしてくるのだ。

優しさに慣れていないから、照れ隠しにいつも微笑むのだと、真守の過去を調べた垣根は知っている。

 

そんな心優しい真守が、襲撃を受け続けている。

 

真守は絶対に何も悪いことをしていない。

あの能力は絶対防御だから、面白おかしくゲーム感覚で狙われているのだ。

 

そんなの、許せるはずがなかった。

 

「────情報を集めろ」

 

垣根は空間をヂヂィッとひりつかせる殺気を出しながら誉望に命令した。

誉望は電話越しにさえ感じるその威圧感に顔を真っ青にして吐く直前になりながらも声を絞り出した。

 

〈…………はいっ…………!〉

 

誉望はそこでガチャガチャッと電話の向こうで動きながら通話を切った。

垣根は即座に携帯電話を操作して真守に連絡を取った。

 

 

 

 

──────…………。

 

 

 

垣根と誉望が連絡を取っている間、真守は絶賛撃退後だった。

真守は能力を行使してビルの屋上まで一気に飛び上がると、柵の上に立って辺りを見回していた。

そこら辺に不良がうようよして、真守を探しているようだった。

 

(おかしい。不良の強度(レベル)が異様に高い……)

 

真守はいつものゲームとは違う雰囲気を感じ取っていた。

真守は自分で生成する源流エネルギーを体に薄く膜のように張っているので、自分の身に攻撃は絶対に通らない。

だが、そのシールドに加えられる衝撃を感じ取ることができる。

 

それが異様に強いのだ。

 

しかも銃火器やナイフといった小手先の武器ではなく能力を使って、真守を襲撃する不良がいつもより圧倒的に多い。

 

(武装無能力集団(スキルアウト)だけじゃなくて普通の学生もちらほら混じってるし。それにしても強度(レベル)が高すぎる。おかしい。絶対に何かある)

 

真守はそう推測するが、それを調べるための行動に移る事ができない。

 

襲撃が止まないのだ。

勿論、真守もただ襲撃され続けているのを黙っているような性質ではない。

 

持ち歩いているPDAによって電撃使い(エレクトロマスター)のように掲示板にハッキングを仕掛けて、自動で自分の情報を削除するようにプログラムを組み上げてある。

だが面白がって対抗するハッカーがいて、情報の拡散が止まらないのだ。

 

先程、ダミー情報をばらまいた真守はそのままホテルに逃げ込んで三〇分程仮眠を取った。

 

だが夜通しのインデックスの治療の疲弊がやはり抜けない。

真守は学園都市の街並みを見下ろしながらため息を吐いた。

 

(いつもみたいに誰が最初に掲示板に私の事を書き込んだか分からなかった。それに関しては()()()が仕掛けたって分かってる。でも、絶対にそれだけじゃない。何かが今回のゲームに絡んでいる。偶然とは言い難い何かが。……どっちにしろ、一筋縄じゃいかない)

 

真守が危機感を抱いていると、着信があり携帯電話が鳴り響く。

真守が確認すると『垣根帝督』と表示されていた。

 

「垣根、どうした?」

 

真守は疲労を感じさせないようにケロッとした声を出しながら、器用に柵に座ると、足をぶらぶらとさせる。

 

〈どうしたじゃねえよ、テメエ〉

 

しょっぱなからキレ散らかしている垣根の声を聞いて、真守は思わず耳から携帯電話を離して目を見開き、携帯電話を見つめてしまった。

 

真守を襲ってきた不良に対して、垣根は容赦なく怒りを向けたりするのだが、その怒りのまま垣根が真守に話しかけてきたことはなかった。

 

「なんで怒ってるんだ?」

 

真守がびくびくして声をかけると、電話越しで垣根が息を呑んだのが聞こえた。

どうやら怒ってはいるが、真守を怖がらせるつもりはないらしい。

 

〈……わりぃ。お前に怒ってるわけじゃない。いまどこにいる? 朝からずっと襲撃され続けてんだろ〉

 

「なんで知ってる?」

 

自分の現状を垣根が知っているので真守は不審がる。と、すぐに思い至った。

流動源力(ギアホイール)の情報を収集している垣根であれば、気づくに決まっている。

 

(まずい。下手な事言ったら事態がよりややこしくなる……!)

 

真守が何とかして切り抜けないと焦っていると、通話越しに心の底から心配している声で垣根が訪ねてきた。

 

〈掲示板であれだけ騒がれてたら嫌でも気づく。で、お前今どこにいる?〉

 

「……なんで?」

 

真守が自分の居場所を聞いてくるので、警戒の度合いを引きあげて訊ねる。

 

こういう場合は情報を簡単に渡してはダメだ。

 

真守が心の中でそう考えて質問に質問で返すと、垣根が怒鳴った。

 

〈なんでって、お前。自分の状況考えて言ってんのか?! 不良って言っても物量で圧されたらお前だってマズいだろうが!! 助けが必要じゃねえのかこのバカ!! お前一人で対処できるはずがねえだろうが!!〉

 

真守は心が締め付けられる想いだった。

 

垣根は真守の事を流動源力(ギアホイール)としてではなく、力量装甲(ストレンジアーマー)として認識している。

力量装甲では防戦一方だと考えて垣根は真守を本気で心配しているのだ。

 

(垣根は私を助ける気だ。でも、この状態で手を出されたら確実に私が流動源力(ギアホイール)だって事がバレる! バレたら消えた八人目の事を敵視している垣根にどう出られるか分からない。最悪戦闘になるかも。……第二位。超能力者(レベル5)の、それも第二位だ。この世に存在しない物質を生み出すって事は『無限の創造性』があるって事。不良なんて比較にならない手数で圧される! 今のままじゃ追い詰められる!)

 

いつもの真守ならば、相手を言葉で誘導して、簡単にこの状況を切り抜けられただろう。

 

だが真守は現在疲弊している状態であり、不良に追われながら掲示板を確認してハッキングしたり、裏で誰が糸を引いているのかなど、既に並列処理で思考している状態だ。

だから垣根への対策にまで即座に思考を巡らせる事ができなかった。

 

〈真守? 大丈夫かオイ。襲われてんのか? 今どこだ! 早く教えろ!〉

 

真守がどうすればいいか良い案が出ずに沈黙していると、垣根が焦った声を上げた。

 

何か言わなければ。

でも何を言えばいいのか。

その策を組み立てる事ができない。

自分がそれくらい疲弊しているのが分かる。

だからどうすればいいか分からない。

どうすれば垣根帝督と敵対する事なくこの場を切り抜けるのか。

どうしたら、どうすれば。どのように──。

 

良い策が思い浮かばずに真守の中で焦りが最高潮に達した時、思わず口を開いた。

 

「…………な、いで」

 

〈あ?〉

 

 

「──来ないで!」

 

 

真守ははっきりとした拒絶を大声で上げると、そのまま勢いに任せて電話を切った。

呆然と携帯電話を見つめていた真守だが、即座に電話を切った事に後悔した。

 

(やってしまった……どうしよう!? と、とりあえず移動しないと!)

 

真守はとりあえず追跡防止のために携帯電話の電源を切る。

PDFからでも掲示板へのハッキングは可能だから、携帯電話の電源を切った所で大した問題じゃない。

 

そして真守は場所を移動するために、即座にビルの上から飛び降りた。

 

 

──────…………。

 

 

ツーツー、という通話が切れた音を聞きながら、垣根は呆然としていた。

 

明確な拒絶だった。

その拒絶に乗った感情は明らかに切羽詰まっていて、いつもの冷静な真守ではなかった。

 

冷静さを欠くほどに追い詰められているのは確実だ。

垣根は携帯電話を操作すると通話をかける。

 

「誉望、真守の現在位置を調べろ、早く!」

 

垣根が怒りを明確に表したので、ヒッと唸って誉望はすぐに行動を開始した。

 




垣根くんは『無限の創造性』を持っていないです。
でも真守ちゃんは能力の真髄に気づいています。


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