とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一〇〇話、投稿します。
※次は一一月二六日金曜日です。



第一〇〇話:〈舞台裏側〉での攻防と出会い

「はぁい。ローラ。元気にしてらして?」

 

アシュリン=マクレーンは大覇星祭で賑わう学園都市の街を歩きながら微笑み、日本語で軽く挨拶をした。

日傘を持っていない手には携帯電話が握られており、その携帯電話に取り付けられた白猫のストラップの瞳がピカピカとエメラルドグリーン色に輝いていた。

それは盗聴防止用魔術で通話をしている証拠で、彼女は挨拶を電話相手にしたのだ。

 

〈マクレーン! 何故統括理事長と大事な取り決めを交わしもうしたにも関わらず、イギリス清教、最大主教(アークビショップ)であるこの私にそのその取り決めの通達をせずにいたのかしら!? よくも蚊帳の外にしたりけらしたわね!?〉

 

アシュリンはイギリス清教の最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアートが怒鳴ってきたので不快感を(あら)わにして顔をしかめた。

 

だが怒鳴り声に不快感を示したのではない。

 

最大主教(アークビショップ)の日本語に不備があるのだ。

 

「……そんなバカな喋り方をする人にどうして言わなければならないの?」

 

〈なっバカにするとは何を考えたりけるのや!?〉

 

「だってバカな喋り方だし……いつもの威厳はどうしたの? 本当に日本語の扱いに不自由にしているのね。噂通りだわ」

 

〈なっ既に英吉利(イギリス)中の風聞(うわさ)になりているの!?〉

 

「ええ。有名よ? でもまさかそんな噂が真実だなんて思わなかったわ。英国語(クイーンズ)は古い発音ながらも風靡(ふうび)をまとって優雅に華麗に(うた)うように(つむ)ぐというのに。何故そんなになってしまったの? 威厳の威の字もないじゃない」

 

〈なっ……〉

 

アシュリンが悲しそうに呟くと、ローラは先程までアシュリンへの怒りで声が震えていたが、今度は嬉しそうに声を震わせた。

 

〈ま、まさかマクレーンがそこまで私の英国語(クイーンズ)を評価したりけるとは……審美眼確かなりしなマクレーン家の令嬢にそこまで言わせしめられると、自信が出てくるものなりけるのよ〉

 

「だからそんなあなたがそこまでバカな喋りをしていると思うと、脱力するというかなんというか。……英国語(クイーンズ)で話した方がいいかしら」

 

〈ハッ! そんなもので流されなしにことよ! どうして統括理事長との話し合いについて私に何も言わんとしたのよ!! 後私の日本語はおかしくなかりけりよ! きちんと『必要悪の教会(ネセサリウス)』の日本人に教えを(たまわ)ったのだから!〉

 

「帰ってから言えばいいと思ったから。それにその人物って一体どなた? ふざけるのも大概にしなさい」

 

淑女らしくなく怒鳴るローラにアシュリンがため息を吐くと、ローラが『ぐぬぅうぅぅぅ~』と(うな)り声を上げる。

 

〈マクレーンめ!! 清教派権限で身ぐるみはいでやりおうかしら!?〉

 

「そうしたら王室派と騎士派が黙っていないわよ?」

 

〈う、ぐぬぬ…………ッ!!〉

 

完膚なきまでに叩きのめされたローラの悔しげな声を聞いてアシュリンはくすくすとひとしきり笑うと、声のトーンを落ち着けた。

 

「本題に入りましょう、ローラ。少し面倒なことが起こっているのよ」

 

〈面倒なこと……? ふむ。話を聞きいれても良きなのよ〉

 

アシュリンはローラのバカな喋りに気が抜けつつも、もうどうでもよくなってきたので恥をさらし続けてしまえ、と思い日本語のまま本題に入る。

 

「『刺突杭剣(スタブソード)』についてよ。大英博物館にいるマクレーン配下の『記録官(アーキビスト)』に調べさせて、それを(もと)にもうすぐそちらに『保管員』をしているチャールズ=コンダーが向かうと思うけど……先に言っておくわ。──『刺突杭剣(スタブソード)』というのはね、元々存在しないのよ」

 

〈……詳しく話したりてくれるかしら?〉

 

「この世には製作目的が不明なものが数多く存在するわ。ナスカの地上絵、イースターのモアイ像、そして我が国自慢のストーンヘンジ。その製作目的は時として人が勝手に決めつけてしまうことがあるの。聖母様(マザーマリア)の肖像画のように、……と言えば分かるかしら?」

 

アシュリンが古物商としての専門家であるマクレーン家の令嬢として告げると、ローラはふむ、と頷いて考える。

 

〈聖母崇拝の代表的なアイテムである聖母様(マザーマリア)の肖像画。かのアイテムの伝承は涙を流したるというものだけであった。それなのに、やれ『触れたりしだけで傷が治る』やら『かざしたりしで悪霊が消え失せる』という伝承ができてしまった……そういう風に様々な伝承が乱立されし事態が、『刺突杭剣(スタブソード)』でも引き起こされていると?〉

 

「ええ、その通りよ。そうやって人々は製作目的不明のものにも勝手に意味をなすりつけてしまうの。でも逸話が膨れ上がるのは世の常。ある意味それも間違いでないのが、面倒な点ね」

 

〈つまりは、かような話なの? 元々ローマには大理石によりて作られし珍妙な剣があった。しかしてローマ正教は誰がいかなる目的で作りた物かは分からぬため、自らが手前勝手に『こうに違いない』と決めつけてウワサし合いたつのが、伝承・文献に残りてしまった、と〉

 

「言葉遣いがバカ過ぎて脱力してしまうけれど伝わったのは分かったわ。『刺突杭剣(スタブソード)』も一緒。人々が曲解してしまうのはよくあることでしょう? いいえ、曲解しなければならない、とでも言うのかしら? あなたには、いいえ。あなただからこそ心当たりがあるでしょう?」

 

アシュリンがローラの言葉使いに眉をひそませながら告げると、ローラは最大主教(アークビショップ)として神妙な面持ちをする。

 

〈そなたの言わんとすることはわからんでもないわ。元々十字教なりしものは、『神の子』の教えを自分たちに見合いしける形にして──曲解する形で宗派へと発達せしめたのだから。……でも、ローマ正教が意図的に『刺突杭剣(スタブソード)』の伝承を使いて真実を隠したるとしたら?〉

 

「憶測でしかないけれど、そう考えることができてもおかしくないわ。何故なら『刺突杭剣(スタブソード)』の本来の伝承は非常に厄介なものだから」

 

〈厄介?〉

 

ローラはアシュリンの言葉に危機感を持つ。アシュリンは電話の向こうでローラが形の良い眉を跳ね上げているだろうと考えながらここからが本番だと言うように声を鋭くして告げる。

 

「剣ではないのよ。アレは十字架。それも現地では『使徒十字(クローチェディピエトロ)』と呼称されていた物品だわ」

 

〈ペ……ペテロの十字架だと!?〉

 

最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアートはその言葉を聞いてあからさまな動揺を見せる。そんなローラに、アシュリンは笑いかけた。

 

「とんでもないものをローマ正教は使おうとしているわね、ローラ=スチュアート? それであなたはどうするのかしら?」

 

アシュリンが問いかけると、ローラは電話の向こうで黒い笑みを出す。

 

〈……ふふ。それを言いたりけるのはあまりにも愚弄なことなりしよ〉

 

「あらそう」

 

アシュリンは『自分の思惑をお前なんかに教えてやらない』と、暗に言ったローラにあっけらかんとした態度を取る。

 

「じゃあわたくしの方も好きに動くわ。あなたの不利益になることも、こっちは楽しくやらせてもらうわね?」

 

〈やっぱり話し合うべきかなとわたくしは考えたりけるのよ〉

 

アシュリンが意地悪くそう告げると、手の平をくるっと返すローラ。

 

「ふふっじゃあね、ローラ。これからわたくし、真守ちゃんと昼食なの。あなたと話すのはまた今度。……騒動が終わった後かもねえ?」

 

〈ちょ……っ!?〉

 

そんなローラにアシュリンが別れの挨拶をするとローラがアシュリンを止めようとするが、アシュリンは動じずにピッと通話を切った。

 

「権力者を翻弄(ほんろう)するのはいつでも楽しいわね。さて、真守ちゃんに連絡を──」

 

アシュリンはそこで携帯電話に意識を向けていると、強いビル風が吹いて差していた日傘が吹き飛ばされてしまう。

 

「んぶ……っ!」

 

そして風にさらわれた日傘は女性と歩いていた男性の顔にクリーンヒットしてしまった。

 

「あらあらまあまあ!」

 

アシュリンは慌てて日傘をすっぽり被ってしまった男性へと近づいて心配そうに男性を見上げる。

 

「ごめんなさいね、大丈夫ですか? 骨組みで怪我していませんか?」

 

日傘を引っ掴んで顔を出した男性は、突然自分に声を掛けてきた銀髪碧眼の貴婦人に心配されて顔をデレっとさせながらも何度も頷く。

 

「問題ありません、大丈夫です! ええ、何も問題ありませんとも!!」

 

「本当ですか? 鼻が赤くなっておりますよ?」

 

アシュリンが男性の鼻が赤くなっているのを心配してそっと手を伸ばすと、男性は手を伸ばしたことでふわっと香ったアシュリンの香水の匂いに『大人の女性らしい……!』と鼻を伸ばす。

 

「問題ないですっ大丈夫です! ハッ!? ……斜め後方から迫りくる母さんの視線が痛いっ!」

 

「あらあら、嫉妬させてしまったのかしら? 申し訳ありません……ってあら?」

 

アシュリンは後ろから鬼の笑みを見せる女性に軽く笑って謝るが、途中ではた、と気が付いて女性と男性を見比べる。

 

「どこかで見させていただいた顔ですわね……?」

 

「え!? え、えーっと……その、か、海外に出張しているのでもしかしたら……!」

 

外国人女性がずずいっと顔を近づけてくるので男性は香水の良い香りがもっとしてどぎまぎしてしまう。

それを鬼の形相の笑みを浮かべて妻らしき女性が見ているが、アシュリンは気にせずに声を上げた。

 

「そうだ、分かりましたわ。お二人共真守ちゃんのお友達に面影と雰囲気がありますのよ」

 

「お友達?」

 

アシュリンの納得したような声に、男性と女性は突然『真守ちゃんのお友達』という何の脈絡もない人物が出てきてきょとんとする。

 

「はい。朝槻真守ちゃんのクラスメイトのツンツン頭の男の子。あなた様方、あの男の子に似てますわねぇ」

 

「あら。もしかして当麻さんのことじゃないかしら?」

 

女性は男性のモテ体質でアシュリンが興味を示したのではないと知ると、途端ににこやかな笑みを浮かべてアシュリンへと声を掛ける。

 

「当麻くん? ああ、そうそう。上条当麻くん! どうもこんにちは、わたくし当麻くんのお友達の朝槻真守ちゃんの身内ですの!」

 

外国人女性がっぱっと顔を輝かせるので、男性は顔を赤くしながらもその名前に覚えがあって思い出す。

 

「朝槻真守さん……ああ、大覇星祭の開会式で選手宣誓をした女の子ですね。確か超能力者(レベル5)の。いやはや、ウチの当麻がいつもお世話になっております。上条刀夜とその妻、詩菜です」

 

「初めまして、上条ご夫妻。アシュリン=マクレーンと申します」

 

アシュリンが上条刀夜から受け取った日傘を畳んで居住まいを正しながら頭を下げると、刀夜と詩菜もぺこっと頭を下げた。

 

「アシュリンさん。そうか、どこかで見たことがあると思ったら真守さんのお身内の方ですか、そっくりですね」

 

「うふふ。そう言っていただけて嬉しいですわ」

 

「上条さん! あら。もしかしてご友人の方ですか?」

 

アシュリンと上条刀夜が話していると、若い茶髪の女性が体操服姿のよく似た中学生の女の子と一緒に近づいてくる。

 

「え。朝槻さん!?」

 

茶髪の中学生の女の子──御坂美琴は外国人女性が真守にそっくり、というかまったく瓜二つで真守を成長させたらそうなるんだろうな、という顔立ちに驚いて声を上げた。

 

「あら。真守ちゃんのお友達かしら? 初めまして、アシュリン=マクレーンと申します。お嬢さんはなんて名前?」

 

アシュリンの自己紹介に、美琴は目を白黒としてその美しさにドギマギしながら答える。

 

「御坂美琴です……ええっと、でも。朝槻さんって確か……?」

 

「ええ、そうです。事情があってそばにいられませんでしたが、真守ちゃんのそばにいられることになったんです」

 

アシュリンが事情を知っている様子の美琴に笑いかけると、美琴はアシュリンが超能力者(レベル5)になったから近づいてきたのかと顔をしかめる。

 

それでもアシュリンが純粋で下心が一切ない柔らかな視線で真守の知り合いである自分のことを見つめているので、下心があってアシュリンが真守に近付いたのではないと美琴は悟った。

 

「……もちろん、朝槻さんは知っているんですよね?」

 

真守は自身に下心があって近づいてきた人間を許すことはない。

分かってはいるが、それでも心配なので美琴が一応問いかけると、アシュリンはゆっくりと頷いた。

 

「ええ、もちろん。真守ちゃんは優しい子ですから、事情を全て知って許してくれましたよ。これから合流して真守ちゃんと一緒に食事を摂るんです」

 

「あ! だったら一緒に『場所取り』しませんか? 朝槻真守ちゃんって超能力者(レベル5)第一位の子でしょう? 美琴ちゃん以外の超能力者(レベル5)の子がどんな感じか知りたいわ!」

 

アシュリンが美琴を安心させるために柔らかく微笑んでいると、美琴の隣にいた身内の女性が声を上げた。

 

「あら。美琴さんも真守ちゃんと同じで超能力者(レベル5)なんですか?」

 

「は、はい。いつも助けてもらっているんです」

 

「まあ、是非話が聞きたいわ。ご一緒してよろしいかしら?」

 

「ええ、もちろんです!」

 

アシュリンが顔をほころばせて告げると、隣に立っていたアシュリンを誘った美琴の身内が美琴の肩を抱きながら静観していた上条夫妻を見た。

 

「上条さんたちもどうですか?」

 

「ご一緒させてほしいです。当麻の友達のお身内とあらば是非仲良くさせていただきたいです。なあ母さん?」

 

「ええ。若干の下心を刀夜さんから感じますが、当麻さんが学校でどうされているか気になっていますし。こちらこそよろしくお願いします」

 

「ではご一緒させていただきますね、どうかよろしくお願います」

 

上条夫妻も同意してくれたのでアシュリンは貴婦人らしくニコッと微笑みながら頭を緩く下げる。

 

本場の貴族の人かも、とアシュリンの様子を見ていた美琴はお嬢様学校で目標とされている貴婦人の仕草に、一人ごくッと喉を鳴らしていた。

 




刺突杭剣篇、終了です。

大覇星祭は本当に長い……まだまだ終わりません。

ところで『流動源力』ですが、今回の話で一〇〇話突破しました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
最後まで更新続けさせていただきますので今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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