とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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一〇六話、投稿します。
※次は一二月三日金曜日です。


第一〇六話:〈初々愛情〉と人間の影

「つーか、マジで焦った」

 

「なんでだ?」

 

真守は第七学区で一番高い鉄骨の上で、垣根に後ろから抱きしめられながら花火を見つめていたが、垣根の呟きを聞いて垣根に寄り掛かりながら顔を上に向けて下から垣根を見つめた。

 

「そりゃ好きな女が他の男に告白されて焦らねえ男はいねえだろ。隙を突いて横からかっさられるなんて最悪じゃねえか」

 

真守の事を胸の中できゅっと抱き寄せながら垣根が安堵のため息を吐くので、真守は垣根の自分へ向ける愛情が嬉しくてえへへーと幸せそうにふにゃっと笑う。

 

「……やっぱりお前は泣いてる顔より笑ってる顔の方が可愛いな」

 

垣根は自分の腕の中で楽しそうにする真守を全身で感じ取ると、そっとこめかみへ軽いキスをする。

 

真守は『ん』と一つ(うな)って顔をしかめるが、それは恥ずかしいだけで別に不快ではなく、むしろ幸福で目を細め、くすぐったそうに身をよじる。

 

だが、突然瞳を(またた)かせてからきょとっとすると、そこでもう一度垣根を見上げた。

 

「垣根、私が泣いてるより笑ってる方が好きなのか?」

 

「当たり前だろ、何言ってんだ」

 

垣根が当然だろ、と怪訝そうな顔をすると、真守は眉を八の字にして垣根を見上げた。

 

「……じゃあ垣根、私のことイジメないのか?」

 

「は?」

 

垣根が真守の突然の疑問に意味が分からずに声を上げると、真守は気まずそうに目を泳がせた後、垣根を上目遣いで見上げた。

 

「だって、男の子は女の子のことイジメるの好きなんだろ?」

 

「……ちょっと待て。お前誰からその入れ知恵された」

 

垣根が嫌な予感がして真守に問いかけると、真守は言いづらそうに告げる。

 

「土御門とか、青髪ピアスとかが主体だけど、やっぱり上条もよくそういう話してるぞ。あ、あとバニーガールとか、メイドさんとか、あと猫耳とかナースさんとか。男の子はみんなコスプレでテンション上がるって言ってた」

 

「アイツらやっぱりぶちのめす」

 

大切な女の子にマズい知識をもたらすあの三人組をどうにかぶちのめさないと、と垣根が決意すると、真守は顔を(うつむ)かせて恥ずかしそうにしながらも呟く。

 

「でも垣根は私のこと愛してくれてるから私は何されても嫌じゃない。……あ。でも、できればなんだけど……私のことイジメてもいいから、その後は頭なでなでしてぎゅっとしてくれたらいいな、なんて思ってる」

 

「──真守。お前、今とんでもねえこと言ってるって分かってっか?」

 

垣根は、一瞬だけ思考が停止したが、真守を止めるべく声を上げた。

 

「へ」

 

真守は垣根を見上げてめをきょとっとさせて小首を傾げる。

全く分かっていない様子の真守に、垣根はマジか、と思いながらもゆっくりと告げる。

 

「その発言よーく考えてみろ。お前、その危険思想によって苦しんでることすら分かってない人間が一定数いるって分かってんだろ」

 

「……え」

 

真守は垣根の言葉に目を瞬かせて思考する。

 

恋人に何されても問題ない。それがはたから見たらマズい事でも、恋人にメロメロになっているが故にまったくそれが悪いことだと気づいておらず、他人から別れた方が良いと言われても絶対にその恋人から離れられない。

 

「も、もしかしてDV男やヒモに捕まる女の子のこと言ってるのか?」

 

「もしかしなくてもそうだろうが」

 

垣根が即座に答えるので、真守はごくッと喉を鳴らして恥ずかしそうに俯いてぽそぽそと呟く。

 

「成程、よく分かった。……あの子たちの気持ちがよく分からなかったけど、当事者になったら納得できる。確かに何されてもなんでも許せちゃう」

 

「オイ、あの子たちとか言って親近感持って共感するんじゃねえ。暴力はダメだ、絶対に」

 

垣根が顔をしかめて告げると、真守はもぞもぞと垣根の腕の中で動いてくるっと垣根の方を振り返ると、満面の笑みを浮かべる。

 

「大丈夫! 垣根以外には言わないし、こんな気持ちにはならないから!」

 

「そこが問題じゃねえんだよ。いやそれも大問題なんだが、そういう事軽はずみに言うんじゃねえ。……俺は、お前のこと大事にしたいんだよ」

 

垣根はそっと真守のことを壊れ物を扱うかのように胸の内にぎゅっと収めて願いを口にする。

この世で一番大切な女の子だから常識で測れないほどに莫大(ばくだい)な幸せを与えてあげたい。

誰にもできない程の幸せで包み込んであげたい。

 

「垣根、私のこと『女の子として』大事だから心配しているのか?」

 

「決まってんだろ。何当たり前のこと聞いてんだ」

 

真守の問いかけに垣根はそっと真守を抱きしめる手に力を込めながら頷く。

 

「ふふっうれしい。とってもうれしい。垣根が女の子として大事にしてくれてるってー当たり前だってーえへへ」

 

そう幸せそうに告げる真守は垣根の胸にそっと猫のようにすり寄って、にこにこと笑う。

 

(コイツ、途端にデレデレになったな。男の(ふところ)に収まるとなんでもオーケーになんのかよ。……悪い男に引っかかんなくてよかった……)

 

垣根はさっきからずうっと幸せそうにしている自分の腕の中にいるちんまい真守を感じながら心の中で呟く。

暗部組織に所属している時点で垣根も相当に悪い男なのだが、本人は気づいてないし真守もそんなことを今更気にする人間ではないので、普通ならあまり好ましくない状態なのだということに二人共気が付かない。

 

「あ。深城、心配してるかも……私、あの子置いてきてしまったから……」

 

真守は幸せそうに笑っていたが、突然深城のことを思い出して途端に不安そうな顔をした。

 

「そうだな。ケータイ貸してやるから電話しろ」

 

真守は垣根から携帯電話を受け取って深城へと電話を掛ける。

 

「深城? あの、心配かけてごめ」

 

〈真守ちゃん! で、誰と付き合うの!?〉

 

「うぇっ!?」

 

真守は突然深城にそう問いかけられて大袈裟に垣根の腕の中でビクつく。

深城に、真守は『告白された。少し考えたいから一人にして』と言ってふらっとこの鉄塔の上までやってきたのだ。そりゃそういう反応になる。

 

「……か、垣根が……その、付き合ってくれるって…………」

 

〈本当!? 良かったあ!! あたしは女の子だから、真守ちゃんに赤ちゃん産む喜び教えてあげられないなーって思ってたからとっても嬉しいっ!!〉

 

「あ、赤ちゃん!?」

 

自分の腕の中で通話が繰り広げられていたので丸聞こえだった垣根は、驚愕して声が裏返る真守を抱えたままブッと噴き出した。

 

「だ、だめ!! 赤ちゃんはだめ!!」

 

真守は声が裏返った後に慌てて声を戻すと、携帯電話を両手で持って叫んだ。

 

〈え~垣根さんとえっちするのが嫌なのぉ〉

 

「えっ!? …………え、ええっええぇぇぇ……っ!?」

 

真守が顔を真っ赤にして口をパクパクとさせて固まる。

硬直からいつまで経っても復帰しない真守の手から、垣根はひょいっと携帯電話を取り上げて耳に当てた。

 

 

「……おい源白。真守が思考停止して動かなくなったんだが」

 

垣根が頬をぷにぷにと突いてもうんともすんとも言わない真守を見ながら告げると、深城は嬉しそうに声を上げる。

 

〈え~? ちょぉっと止まっちゃうだけだよ~だいじょぉぶだいじょぉぶ!〉

 

「ちょっとじゃねえよ大分止まってんぞ!」

 

垣根は自分の腕の中で携帯電話を奪われた形で硬直して顔を真っ赤にしている真守を抱きしめながらツッコミを入れると、深城はけらけらと通話の向こうで笑う。

 

〈別に大丈夫だよぉ。……というか、垣根さんは真守ちゃんとの赤ちゃん欲しくないの?〉

 

「俺にその話題を振るんじゃねえ!!」

 

〈はぁ~?! じゃあ垣根さんは真守ちゃんとエッチしたくないって言うのぉ!?〉

 

「……そういう事じゃねえよ! つーかお前、外にいるのになんでそう明け透けもなく言えんだよ!! 隣に林檎もいんだろうが!」

 

〈べぇつにあたし、悪いこと言ってないしぃ~というか、あたしは真守ちゃん以外にどう思われようがどうでもいい!〉

 

「テメエ本当に真守のことしか考えてねえな!?」

 

〈あ、後林檎ちゃんは今いないよ~トイレ行ってる〉

 

垣根がツッコミを入れていると深城がのほほんと告げるので、垣根はそれにブチ切れて先程よりも大声を出した。

 

「テメエは要らないこと考えてねえで、保護者らしく林檎を見守っておけ!!」

 

〈はぁい。まあ、冗談はこのくらいにしといてぇ~〉

 

「冗談に聞こえねえよ!」

 

垣根が連続で深城にツッコミを入れていると、深城は『冗談じゃなくても良かったんだけどねえ』と、前置きしてから告げる。

 

〈まあまあ垣根さん。こっちのことは気にしないで真守ちゃんと一緒に二人でナイトパレード見てきなよぉ! あっつあつの二人の間に割って入る人間がいたら刺されるべきだからね!〉

 

「……お前、本当に時々過激なこと言うよな」

 

垣根が思わず脱力してそう告げると、深城は朗らかな声を出した。

 

〈じゃあ真守ちゃんによろしくねえ!〉

 

そこで深城がブチッと携帯電話での通話を切るので、垣根はため息を吐きながら硬直している真守を見た。

 

「おい、真守? 危機は去ったぞ」

 

「……、」

 

垣根は硬直して応えない真守を見下ろして、先程と同じように頬をツンツンと突き、優しい声で(ささや)いた。

 

「真守」

 

「ハッ! え。危機は去った!?」

 

垣根が耳元で安心させるように自分の名前を呼んだので、真守は正気に戻って、ふるふると首を横に振って辺りを確認する。

 

「おう。厄介オタクはもういねえぞ」

 

「あぁあ~深城のばか……赤ちゃんなんて、責任取れないに決まってるのに……」

 

「責任?」

 

普通責任は男が取るもんじゃ? と垣根が考えていると、真守は悲しそうに俯く。

 

「だって、最後までちゃんと愛してあげられるか分かったもんじゃない……」

 

真守は絶対能力者(レベル6)にいつか進化(シフト)する。その時に子供のことをきちんと愛してやれるか自信がないのだ。

しかも真守は元置き去り(チャイルドエラー)だ。尚更人の命についての責任を感じているのだろう。

 

垣根は(うつむ)く真守の首筋にそっと顔を摺り寄せて抱きしめると、ちょっと試したくなって甘い声で囁く。

 

「……もしお前が欲しかったら、お前が気にしなくてもいいように俺が責任きっちり取ってやるよ。それに子供がいたら尚更お前を繋ぎ留められそうじゃねえか?」

 

「!?」

 

真守はかぁーっと顔を赤くしていじわるをしてきた垣根から身を離そうとするが、垣根が後ろからがっちりとホールドして来ているので離れられない。

 

「む、無理! むりむりむりむりぃ!! え、ええぇえ……えっち、……も恥ずかしいのにむり!! 絶対だめぇ!!」

 

離れられないと理解した真守はふるふると震えながら声を大きくして叫ぶ。

 

「……そんなに拒絶しなくてもいいだろ」

 

『むり』と連呼する真守を抱き寄せながら垣根はため息を吐き、男女の行為に関して真守がどこまで許容できるか試したかった垣根は、『この動揺っぷりではまだまだ当分お預けだな』、と思いながらも腕の中にいた真守を抱き上げて立ち上がる。

 

「わっ!」

 

「源白がナイトパレード二人で見てこいって。話聞いてたか?」

 

「え。い。……ああ、聞いてた。聞いてたっ!! 聞いてた聞いてたからっ!」

 

垣根が真守のことを抱き上げてお姫様抱っこして問いかけると、真守は垣根が直視できなくて顔を赤くしたまま目を()らして何度もこくこくと頷く。

 

「じゃあ行くか、お姫さま?」

 

「う。……別に、お姫さまじゃない~」

 

色々と限界な真守をそっと抱き寄せて、垣根は未元物質(ダークマター)の翼を広げるとそのまま鉄塔からふわっと降りていく。

 

「わぁ……」

 

降りようとすると、丁度大通りにパレードが来ているのに気が付いて真守は感嘆の声を上げる。

着ぐるみが踊ったり、煌びやかな電飾がピカピカと輝いたり、テレビで見るような芸能人がサービスで手を振ったりしている。

 

「すごい、きれい! 垣根、すごいよ!」

 

「……別に大覇星祭に初めて参加するっつっても、毎年こんなモンだから見飽きてるだろ」

 

垣根がはしゃいで語彙力(ごいりょく)が無くなった真守の言葉に応えて人々を睥睨(へいげい)しながら嫌そうに呟くと、真守は垣根の首にぎゅっと手を回して無邪気に微笑む。

 

「でもな、垣根。やっぱり外から見るのと参加するので見える景色は違うから。とても楽しい。垣根と一緒に見られてとても幸せ」

 

垣根は真守の心の底から嬉しそうな声と幸せそうな笑みを見て、今自分は酷いことを言ったのだとハッとした。

 

真守は学校に所属していなかったり、学校生活というもの自体に慣れていなかったので、ずっと大覇星祭に参加できず今回参加するのが初めてだ。

 

真守は大覇星祭を嫌うことも好きになることもできない立場だった。参加権限が与えられていないのだから当然だ。

だから大覇星祭というものを普通に与えられて参加権限をずっと持っていた垣根帝督のように嫌いだと言えるような立場ではなかった。

 

だから何もかもが新鮮で、目の前の全てがきらきらと輝いて見えて。

全てが愛しく思えて、真守にはこの醜く歪んだ世界も大切に想えるのだ。

 

守ってやりたい。

 

この少女の小さな幸せを、自分の大切なかけがえのない存在である彼女を。

一人で泣いて震えて、悲しまなくていいように。ずっと守ってあげたい。

 

いつか自分が人として終わると分かっているのに、それでも泣き叫ばないで日々を懸命に生きてその終わりまで自暴自棄にならずに進み続ける少女を、垣根帝督は絶対に守ってやりたいと思った。

 

「真守」

 

「なんだ?」

 

垣根が自分を抱き上げている手に力を入れているのを感じた真守は小首を傾げて垣根を見上げた。

そんな真守を少し抱き上げた垣根は真守の頭に頬を()り寄せて決意を込めてそっと甘く囁いた。

 

「お前がお前でいられる内に、色んなものをお前に見せてやるから」

 

「! ……うん、お願いな?」

 

真守は垣根の言葉に一度目を見開いてからふにゃっと微笑む。

 

「垣根、もっと近づこう! 私、もっともっと近くで見たい!」

 

真守がパレードを指さして幸せそうに微笑むので、垣根はその微笑みを見て柔らかく目を細めて笑う。

 

「そんなにはしゃがなくても逃げていかねえよ?」

 

「だって垣根と一緒に初日のナイトパレード見られるのは一回だけなんだぞ? だからちゃんと堪能(たんのう)したい!」

 

自分が近い未来自分ではなくなることが分かっている真守には一瞬一瞬が大事な時間であり、それらが全て輝いて見える。

 

今までなんてことない日常を大切にしたことがなかった垣根は、なんてことない日常だからこそ輝くことを知り、大事なことをたくさん教えてくれる真守をそっと大事そうに抱き寄せると、空から地上へと降りていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

学園都市の第七学区にある『窓のないビル』。

核爆発の高熱や衝撃波程度を難なく吸収・拡散させる特殊建材で造られた学園都市随一(ずいいち)の要塞には、一人の『人間』が根城にしている。

 

それは学園都市統括理事長、『人間』、アレイスター=クロウリーだ。

 

「ふむ」

 

彼は円筒のビーカーのような培養槽の中で緑色の手術衣を身に纏って逆さまになって浮かんだまま、口を動かさずに一つ声を上げた。

 

「『使徒十字(クローチェディピエトロ)』の使用による、学園都市の支配化と世界の利権の確保、か」

 

男か女か、大人か子供か、聖人か囚人かもわからないその『人間』はぽつりとつぶやく。

 

使徒十字(クローチェディピエトロ)』を用いた学園都市に対する攻撃はローマ正教がオリアナやリドヴィアの後ろについていなければできない芸当だ。

もしかしたらローマ正教が立案した計画をオリアナやリドヴィアが自分たちの利益のために利用しようと考えて動いたかもしれない。

 

「……随分と、大きく揺らいでしまったものだな」

 

学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。

(いな)、元魔術師アレイスター=クロウリーはローマ正教の昔からの姿を知っているが故に、そう呆れたように漏らした。

 

信徒二〇億人を抱えるローマ正教が十字教世界最大宗派、というのは見かけだけだ。

何故ならガリレオ=ガリレイが生きた時代、つまり、十字教から自然科学へ移行していくのを止められなかった時から、ローマ正教の支配には確実に陰りが落とされていたからだ。

 

それに魔術業界における十字教派閥にはローマ、ロシア、イギリスと三本の柱が打ち立てられいるが、ローマ正教は二〇億の信徒を抱えているにも関わらず、総人口九〇〇〇万人で、その中の人間全員がイギリス清教所属でもないのにイギリス清教と戦力の釣りあいが取れてしまっている。

それだけでも問題なのに、ローマ正教内の『グレゴリオの聖歌隊』や『アニェーゼ部隊』など、主要戦力が撃破・または離脱しているのだ。

 

ローマ正教の主戦力は確実に削れているのに、イギリス清教は『オルソラ=アクィナス』や『天草式十字凄教』を取り込み、戦力が日に日に増していっている。

 

世界のトップを意地でも守り抜きたいローマ正教は意固地になっている。

 

今回の行動もそうした背景があり、失敗に終わった今、ローマ正教を治める教皇なり枢機卿なりといった面々は想像もできないような顔色をその表情に浮かべている事だろう。

 

アレイスターは魔術を捨てた身だ。

 

対局である科学サイドを万全の体制で集中管理している者としては、彼らの情勢に対して侮蔑を込めた嘲笑で眺めていた。

 

「しかし、だ」

 

醜く権力にしがみつく者だからこそ、なりふり構っていられなくなるとアレイスターは知っている。

今回だって『使徒十字(クローチェディピエトロ)』という莫大な力を持った霊装を持ち出された。

今回限りでローマ正教の攻撃が終わると到底思えない。

 

使徒十字(クローチェディピエトロ)』の一件は結局、同族嫌悪で怒り狂った超能力者(レベル5)が収めた。

 

「魔術を触れさせるという大事な意味があるとしても、少々アレは目立ちすぎたかな」

 

アレイスターはビーカーに映った垣根帝督の手を引いて幸せそうに微笑む朝槻真守の映像を見つめながら一人呟く。

彼女の映像と一緒にビーカーには複数のグラフが映し出されており、それぞれ数値が目まぐるしく変動していた。

 

(『計画(プラン)』の鍵となる幻想殺しの成長は未だに不安定。『第一候補(メインプラン)』たる流動源力(ギアホイール)は順調。……いいや、順調というよりはこちらの想定をはるかに超えて成長中だ。だが舞台が整う前に完成してしまうのは目に見えていた。こちらの準備も抜かりはない)

 

そこでアレイスターは新しく建物の見取り図と共に、その完成形である見取り図にどれほどまで着工が進んでいるかの報告書を呼び出し、『ふむ』と、一つ(うな)る。

 

「朝槻真守。あなたが生まれたからにはその存在を存分に利用させてもらう」

 

アレイスターはその報告書を読みながら一人呟く。

 

「それにしても、科学は異教か」

 

そしてリドヴィア=ロレンツェッティが考えていたであろう思想を考えて獰猛に嗤った。

 

「全くその通りだな。科学とは宗教という古き枠組みをかみ砕く、新たな可能性の提示だ」

 

世界最強の魔術師であり、世界最高の科学者であるアレイスター=クロウリーは嗤う。

 

ただどこまでも『人間』である彼は、『人間』らしく胸の奥に野望を秘めて、その野望のために獰猛にどこまでも突き進んでいく。

 




使徒十字篇、終了です。
毎回言っていますが、今回は真守ちゃんと垣根くんが恋愛モノ観点から一歩進んだというターニングポイントでした。

これでインデックスの大覇星祭篇は終了です。

次章、『RAIL_GUN:LEVEL[PHASE]-NEXT』篇。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。


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