次は一二月八日水曜日です。
上条当麻は
美琴の姿は大幅に変わっている。
体操服の姿のままだが、その体に白い閃光に青い稲妻を
そして体の周りには二本の細長い白く発光する羽衣を
知らない誰かが言うには、精神干渉系能力とミサカネットワークが悪用されて美琴はあんな姿にされており、上条当麻の右手に宿る異能を打ち消す
そしてこれは憶測でしかないのだが、現在の美琴に洗脳は効かない。
そのため深層心理に働きかけられて誘導されているのだが、それもどこかの誰かさんには確証を得られないもので、状況も詳しいことも何もわからない上条に同意を求めてきた。
まあ何はともあれ上条が右手で直接触れば元に戻るかもしれないから頑張ってみろ、と言われて、上条は考える。
(こういう時は朝槻と連携して対抗策を練ってもらうのが一番なんだけど……ケータイに連絡しても出ないしなあ……多分誰かにケータイ預けてんだと思うんだが……まあ、朝槻ならこんだけビリビリしてたら異変に気が付いてくるだろうし。……それまでいっちょ一人で頑張りますか!)
上条はそこまで考えて気合を入れる。
ちなみに真守が何故電話に出られなかったかというと、ミサカネットワークの暴走に巻き込まれて自らを
上条は虚空を見つめて動かない美琴へと駆け出してその肩に触れようとする。
だが上条が近付いた途端、美琴の体から電撃が
「このタイミングなら……どうっ──!?」
上条は余波で吹き飛ばされはしたが、即座に駆け出して右手でもう一度美琴に触れようとする。
だが横から磁力を使った鉄筋コンクリートの塊が吹き荒れたのでそれに吹き飛ばされてしまった。
地面に叩きつけられながらも体勢を立て直そうとしていると、美琴の体から数十もの青い稲妻が走った。
その稲妻は上条を攻撃するわけではなく、周りの鉄筋コンクリートの欠片を集めて周りに渦のように展開させた。
「やっぱ……そう簡単にはいかないわけなんだな……っうぇ!?」
上条が顔をしかめていると、突然渦巻いていた鉄筋コンクリートが自分に向かって飛んできた。
「おわァァァッッ!?」
上条は飛んでくる鉄筋コンクリートの塊を避けるが、飛んでくるものの中には鉄骨も含まれており、自分のすぐ近くに鉄骨が突き刺さって『どぅわーっ!?』と悲鳴を上げる羽目になる。
「鉄分含んでりゃなんでもポンポン飛ばしていいもんじゃないですよ!?」
上条は必死でダッシュをしながら美琴が飛ばしてくる飛来物を避け続ける。
だが次の瞬間、背中を突き刺す威圧感を覚えた上条は電撃が来ると予測。
上条は振り返りざまに右手を横に
「行けるっ!!」
打ち消した事によって鋭い蒸気が辺りに舞うが、上条は確信する。
「威力はスゲエけど、右手で消せる!! なら…………っ!?」
上条は勝機を掴めたと思っていたが、右手で雷撃を打ち消した際の白い蒸気の霧が晴れた途端絶句する。
美琴の頭上で鉄分を含んだ鈍器の数々を寄せ集めることで生み出された巨大なボールのような塊が浮かんでいたからだ。
「いやいやいやいや! それは反則っ!!」
上条が飛来してくる磁力によって生み出された巨大な鈍器の塊を見上げながら叫ぶと、後ろから軽い足音が聞こえてきた。
その足音を持つ人物は近くに突き刺さっていた鉄骨を足掛かりにして飛ぶと握りこぶしを作り、
「ハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリーム──もっかいハイパ────すごいパーンチ!!」
白い余波を辺りにまき散らし、拳から爆炎を噴出させながら鉄の塊を殴って吹き飛ばした。
上条がその威力によって生み出された余波に大幅にジャージや体操服を揺らされながら呆然としていると、鉄筋コンクリートの塊や鉄骨の破片が周りにゴロゴロと転がっていく。
突然ものすごいパンチを繰り出したのは頭に鉢巻を巻き、肩に赤いジャージをひっかけた体操服姿の少年だ。
彼は足を滑らしながら地面へと降りて、上条の斜め右前くらいで体を急停止させた。
「だいじょぶかー?」
そして何事もなかったかのようにケロッとした表情で振り返り、上条の安否を心配した。
「……あ? ああ!」
上条は土埃が舞う中、安物の運動シューズでひび割れた地面を歩き、その少年のもとへと向かう。
「わりぃ、助かった」
「なんかスゲーのがいるなあ。角生やすとか根性あるよなーっ!」
上条に声を掛けられた少年は青い稲妻を身に
「よし。後は俺に任せとけ」
「え」
少年は自分の胸を叩いて上条に告げる。
上条は
「いや、あんなだけど知り合いなんだ。わりぃけど、他人には任せられねえよ」
「でもありゃただものじゃねえぞ。いいから避難しとけ」
少年は上条の言葉を聞きながら様子がどうみてもおかしい美琴をちらっと見ながら告げる。
「それに倒すんじゃない。なんか……操られているって表現の方が近いみたいだし」
「操られてる……? そりゃ根性が足りねえな。俺が注入してやる!」
「いや、そういう問題じゃなくて……!」
上条が曖昧な表現をしながらも美琴の現状を説明すると、少年は右の拳をパシッと左手の平に打ち付けて気合を入れて告げるので、上条は即座に待ったをかける。
「何。あいつもちょっと道を踏み外して悪ぶってるだけだ。根性があれば!」
「だから聞けって!」
そんな二人の前で美琴からバチバチバチッと先程よりも青い稲妻を走らせ、それが二つの雷撃となって言いあう二人へと向かってくる。
二人は互いを睨みつつ、上条は飛んできた雷撃を右手の
(雷撃を……はたき落とした?)
(雷撃をかき消した?)
((なんだコイツ))
上条と少年は互いが見せた雷撃の
だが次の瞬間、少年の方は不敵に笑った。
「俺は削板軍覇。オマエは?」
「上条当麻」
「よっしゃ!」
少年──
「足引っ張んなよ、カミジョー!」
「こっちの台詞だ!!」
世界最大の原石と、異能をなんでも打ち消す右手を持った上条。
二人は御坂美琴を助けるために共闘することとなった。
上条と削板に向かって鉄筋コンクリートや鉄骨が次々と襲い掛かる。
削板は自分へと飛んできた鉄骨を鉢巻を巻いた額で受け止めると、その額に傷一つ付ける事なく横に吹き飛ばし、鼻をくぃっと得意気に
「へっ。おもしれー技だが────」
削板が言っている途中で、そこで初めて美琴が上条と削板を見た。
だがその瞳は普通じゃない。白目と黒目の境界が消えて黒く染まり、その中心だけに青い光を灯していた。
「そろそろ飽きたぜ!!」
削板は地面に拳を打ち付けて自分を不気味な目で見た美琴がいる方へと地面をめくりながら、黄金色の閃光を
それは青い稲妻を
「おい、そぎ──い!?」
上条は削板の名前を呼びながら爆発によって美琴が死んでいないかを確認するために慌てて黒煙の中を見つめて目を
「あれは……砂鉄のバリアか?」
これまで幾度となく美琴に浴びせられてきた表面が振動する砂鉄の剣と、異なりながらも似たような雰囲気を醸し出している球体のシールドを見て上条が首を傾げると、それを近くで見ていた削板が腕を組んで砂鉄のバリアを見つめる。
「砂鉄ぅ? 砂遊びとは、まだ根性のなんたるかが分かってねえなあ」
削板はそうやってぼやきながら、美琴が自身を砂鉄のバリアで守りながら上空に作り上げた鉄筋コンクリートやビルの塊を見上げる。
「なっ……また!?」
鉄の塊の破壊力を知っている上条が焦ると、削板がそこで前に出た。
「下がってろカミジョー!」
ふ、と削板は短く息を吐いて気合を入れながら右拳を握ると、それを後ろに引いて風を巻き起こし、そのまま拳を前に突き出して爆発と共に鉄筋コンクリートの塊へと衝撃波を叩きつけた。
「うおぉらぁ──────!」
そして削板は爆風の中から飛び出すとまだ崩れていなかった鉄筋コンクリートや鉄骨の塊の本体の前まで飛んでいき、拳を叩きつけて粉々にする。
肩にかけているジャージを取り落とすことなく削板は美琴の攻撃を
だが削板が着地を取った隙を突いて、青い稲妻が削板を射抜こうと駆け抜けた。
上条は削板をフォローするために地面を駆けると、削板の隣に潜り込んでその青い稲妻に右手で触れて
そこに追撃と言わんばかりにもう一撃青い稲妻が放たれるので、それを受けて上条は右手をもう一度振りかぶって打ち消す。
そして上条は右手を構えたまま削板に背中を合わせる形で地面に降り立った。
「やっぱおもしれーな、その右手!」
「ああ。できればこの手で触れて、あいつが元に戻るか試したいんだけど……」
上条は自分の目の前で砂鉄のバリアに守られた美琴を見つめる。
だが次の瞬間、砂鉄のバリアから砂鉄が鋭く細く伸びて上条を突き刺そうと
「い!?」
上条と削板は同時に後退するが、上条は後退しながらも空中で身を
その瞬間、塊になっていた砂鉄は空気に解けるように散り散りとなり、片膝を突いた状態で上条は一息つく。
「……これじゃ近づくのもままならないなあ」
上条のボヤキを聞いて、上条の後方に降り立った削板は上条を見つめながら思案顔を少しだけする。
「……成程。そういうことか」
そしてニッと不敵に笑って、砂鉄のバリアによって守られた美琴を見つめた。
「よし、任せとけ!」
「え?」
上条が声を上げると、削板はグッと運動シューズに力を込め、ただでさえひび割れていたアスファルトを踏み抜いて粉々にして、土の地面にしっかりと足を付ける。
「ふぅ──────……」
削板は体を構えさせると、目を閉じて服や鉢巻をたなびかせながら精神統一をする。
そして次の瞬間カッと目を見開くと、体中から黄金のオーラを噴出させながら拳を振りかぶる。
「超──────すごい、パ────ンチ!!」
削板が叫んだ瞬間、右手の拳から黄金色の衝撃波が繰り出されて辺りを白く染め上げ、そこら辺にあった鉄筋コンクリートを灰にする。
その衝撃波は収束して一直線に美琴へと伸びると、美琴を守っていた砂鉄のバリアを吹き飛ばした。
削板の思惑通り、中から上条と削板に背を向けてじぃっと『窓のないビル』がある方向へと向いている雷神のような姿を模した美琴が
「すごっ……──!?」
上条は砂鉄のバリアを一撃で吹っ飛ばした削板の力にあっけに取られていたが、削板に突然ジャージの首根っこを掴まれた。
「へ?」
「今の内だ!」
上条が気の抜けた声を出していると、削板は自分が引っ掴んだ上条のジャージの
「いやいやいやちょっと待てちょっと待てちょっと!?」
上条が必死に自分をぶん投げようとしている削板を止めようと叫ぶが、削板は止まらない。
「カミジョー! 行ってこ────い!!」
「うわぁぁあああああ!!」
上条は空中へと凄まじいスピードで発射されて叫び声を上げながら、美琴めがけて吹っ飛んでいく。
「ええいッもうヤケクソだぁ!!」
空中では何もできないので上条が腹をくくって体勢を立て直して美琴を睨むと、美琴は砂鉄を集めてもう一度バリアを形成しようとしていた。
「くっ!!」
上条は短く
バッと散った砂鉄を突き抜けた上条はそのまま美琴へと迫ってその左肩を右手で触れた。
そして削板にぶん投げられた速度そのままで美琴の上空を飛ぶと、上条の視線の先で
だが次の瞬間、その肩の結晶の膜の
「くっ……え!? 着地!!」
上条は着地をどうすればいいか分からずに焦る。
そんな中、上条の脳裏に数少ない記憶が蘇った。
それは八月三一日。
インデックスが闇咲逢魔に
空を軽々と飛べる真守によってインデックスと闇咲がいるビルへと真守がひとっ飛びして空中から飛来した時、真守はあろうことか自分をロケットのように射出した。
まあ屋上に展開されていた盆踊りの会場に似た結界を破壊するために真守が放り投げたのだが、その後上条当麻は
その時真守は闇咲と話をしていたが、話がいち段落した時に機嫌が悪いこともあり、上条に冷たく言い放った。
『着地できるようにしろ、上条。それだったらいつか死んでしまうぞ』
(た、確かに死ぬ…………っ!!)
上条は真守の言葉を走馬灯のように思い出してゾッとする。
受け身の練習をしたらよかったのか。
でもどうやって?
そもそもなんでそう何度もポンポン着地を考えなければならない場面に
上条がぐるぐると頭の中で高速思考をしている間に地面は近づいてくる。
(あ、俺。終わったな)
上条がそう悟った瞬間、シュッと自分の横を自分よりも早く駆け抜ける少年、削板の姿を見た。
そして次の瞬間、上条は自分に向けて弾丸のように飛んできた削板にお姫さま抱っこをされて助けられ、そんな上条を助けた削板はそのまま足に力を込めて滑りながらもしっかりと地面に着地する。
「へ?」
上条は削板にはお姫さま抱っこされたまま固まるが、削板が真剣な表情で美琴を見つめているのでごくッと喉を鳴らしてから告げる。
「さ、さんきゅー」
上条がお礼を言うと、削板はそっと上条の腰を支えながら地面に降ろす。
「……まあ、危なくなったのはお前のせいだけどなー……」
上条が目を細くしてぼやくが、削板は気にせずに上条を見た。
「どうだ?」
「ダメだ。外からよく分からない力が入り続けているみたいで消しきれない。触れた箇所に一瞬効果はあったけど、すぐ戻っちまった」
「じゃあどうすんだよ?」
「俺たちの他にもアイツを元に戻そうとしているヤツがいる……っぽい? 誰かは分からないが」
上条はこちらに背を向けている美琴を見つめる。
「そいつが力の元栓を閉めてくれるまで足止めするしかなさそうだ。その誰かさんが言うには俺が近くにいることで、アイツの変化が抑えられるみたいなんだが──」
そこで美琴がぐるん、と顔を向けた。
「い!?」
上条がその動きにゾッと背筋を嫌な予感が通り抜けるが、美琴が見ているのは上条ではなかった。
「ん? ……誰だ、アレ?」
「え?」
削板が美琴の見た方向へと顔を向けると、そこには宙に浮かんでいた異形の姿があった。
五対一〇枚の互い違いの純白と漆黒の翼。
六芒星の幾何学模様の転輪に、蝶の翅の翅脈のように空間に走る蒼閃光の後光。
無機質なエメラルドグリーンの瞳に、蒼みがかかったプラチナブロンドへと変わった
「あれは……朝槻!?」
二柱はそこで視線を合わせ、雷神はなりかけを見上げ、なりかけは雷神を
朝槻真守、参戦です。