とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一一二話、投稿します。
次は一二月九日木曜日です。


第一一二話:〈少女進化〉を止めるべし

辺りにキィ──────ン、という甲高い音が響き渡る。

何かと何かが共鳴しているような音。

それはまさしく、絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)しかけている二人の乙女が互いに影響を与え合っているからこそ響く音だった。

 

『美琴』

 

真守は黒い眼に青い光を灯したままじぃっと見つめてくる美琴へと声を掛ける。

 

『美琴、分かる?』

 

現在、真守と美琴は共鳴関係にある。

そのため同調すれば、思念で会話することができるのだ。

 

『…………みこと』

 

真守が問いかけると美琴の方から返答があった。

 

『……………………ダレ』

 

美琴が呟いた瞬間、美琴に変化があった。

 

(あま)羽衣(はごろも)のように体に(まと)われていた白い帯状のものが空間を走り抜けて格子状へと変わりゆく。

そして美琴のおでこの根元から生えていた二本の触角のような角が(うごめ)き、交差すると突然天へと向かって伸びて一つになり、その先に黄金の輪が複数浮かび円球が中心に浮かび上がる。

それらが現れた途端、天へと向かって伸び、一つになっていた角の中腹が割れて黒い稲妻が走ると、黒い球体に青い虹彩の瞳がぎゅるん! と生み出された。

それが展開されると美琴の周りに広がっていた格子状の翼が美琴の後ろに(たずさ)えられる。

 

そんな美琴の変化と共に、真守の六芒星で幾何学模様の転輪がヴヴヴッとブレるように蠢いた。

 

(釣られている。でもまだ大丈夫だ)

 

真守はその変化を感じながらそっと上条の下へと降りてきた。

 

「上条、状況は分かっているか?」

 

「あ…………さつき、なのか? お前!?」

 

「そうだ。私は朝槻真守。超能力者(レベル5)第一位、流動源力(ギアホイール)。私には明確な意志があるが、あの子にはない。そうだろう?」

 

「もしかして、全部状況分かってんのか?」

 

真守が上条の問いかけにコクッと薄く頷くと、真守はそのまま上条の隣にいる削板を見つめた。

 

「お前は?」

 

超能力者(レベル5)第一位、って……あぁ、あのお嬢ちゃんか! なんだなんだその根性の入ったようで入ってないような翼は!」

 

「私の翼は気にするな。それでお前、名前は?」

 

真守は削板の言葉に顔をしかめるが、それでも話を進めるためにもう一度問いかける。

 

「おっ! わりぃわりぃ! 俺は削板軍覇! 超能力者(レベル5)第なな……あ、第八位だっけか? 第八位の削板軍覇だ!」

 

「お前は美琴を止めに来たのか?」

 

真守が削板の自己紹介を聞いて訊ねると、削板はビッと鼻を拭くように触れてから意気揚々と答える。

 

「おう! なんか雷が地面から出てっから気になって来てみれば、カミジョーがいたんだ! な、カミジョー!」

 

瞬間、削板は上条の背中を叩き、上条はその衝撃に『ぐあっ!』と、(うめ)く。

 

「イッタぁー……そ、そういう事だ、朝槻。削板も手伝ってくれてるんだよ」

 

「そうか。美琴は今、強制的な進化(シフト)で精神が崩壊しつつあるから心を閉ざしているんだ。人として大事なことも徐々に失っている。だから、」

 

真守がそこまで言った瞬間、美琴が真守に向かって凄まじいスピードで格子状の翼を飛ばしてきた。

真守は視界の端でそれを捉えると、人差し指をピッと格子状の翼に向けて鋭い衝撃波を生み出し、美琴が放った格子状の翼に対抗した。

真守の攻撃を受けた格子状の翼は近くのビルにまで吹っ飛ばされ、ビル側面に叩きつけられる。

ビルがはじけ飛んで中階層からぽっきりと折れてしまう程の衝撃が足元まで伝わってきた上条はたたらを踏み、削板は突然崩れたビルを見つめて驚愕する。

 

()えたか?」

 

真守の問いかけに削板は美琴のもとへと戻っていく翼を見つめながら呟く。

 

「……視えなかった。……こりゃ根性入れねえとヤベエぞ……」

 

「視えない攻撃は私が(さば)こう。それ以外は頼めるか?」

 

「嬢ちゃんはどうすんだ?」

 

「あまり期待はできないが、美琴に話しかけてみる」

 

「話しかけるって、どうやって?」

 

真守と削板の会話を聞いていた上条が問いかけると、真守はつらつらと説明する。

 

「今、私と美琴は共鳴関係にある。だから精神的に同調すれば思念波を送り込めるんだ。でもそれであの子が元に戻るかは怪しい。あの子は今、深層心理を精神操作されてるし、力が注ぎ込まれ続けている。でも大丈夫だ」

 

「大丈夫って?」

 

「垣根が力の元栓を閉めるために今回の黒幕を探してくれてる。私は火力があって美琴に対抗できるから、美琴を直接止める役を受けてここに来たんだ」

 

「垣根? 垣根も手伝ってくれてんのか!」

 

「カキネって誰だよ?」

 

上条が心強い味方がもう一人いると喜んでいると、隣で蚊帳の外になっていた削板が首を傾げる。

 

超能力者(レベル5)第三位、垣根帝督。大丈夫。とっても頼りになる人だから。私たちは美琴の足止めに徹しよう」

 

「何、超能力者(レベル5)!? へー超能力者(レベル5)総出であいつの根性を叩き直してやんのか! おもしれーことになってきたぜ!」

 

削板が真守の簡潔な説明にやる気を出しているので、上条はどこまでも根性を気にする削板に思わず呆れる。

 

「根性って……いやいやだから根性でアレどうにかなってるってワケじゃ、」

 

「よぉーし、アサツキ! 背中は任せた!」

 

「って聞けよ!!」

 

ツッコミを入れても聞かないで気合を入れ直している削板を見て、真守は顔をしかめながら無機質に光るエメラルドグリーンの瞳で上条を見た。

 

「上条、どうやらこういうヤツらしい。行くぞ」

 

「ああっもう! 朝槻さんはそんな姿になっても順応力が高いというか臨機応変というか……つーかお前、その姿元に戻んだよね!?」

 

「安心しろ。自分からこうなったから戻り方も分かっている」

 

「自分でそうなれんの!?」

 

上条が淡々とした真守の言葉に驚いている中、そこで気合を入れ直した削板が拳を固く握りしめた。

 

「行くぞ、カミジョー、アサツキ!」

 

「ああっもう──どうにでもなぁーれっ!!」

 

上条は思わず投げやりになりながらも叫んで、二人と一緒に御坂美琴を救いに行動に移った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

食蜂操祈は窮地(きゅうち)に陥っていた。

 

絶対能力者(レベル6)へと強制的に進化(シフト)させられている御坂美琴は、どうやら進化(シフト)率五三%の時点で精神が別次元のものへと変質してしまうらしい。

 

そんな御坂美琴の精神を縫い止めておくために必要なのが『外装代脳(エクステリア)』のリミッター解除コードだ。

 

外装代脳(エクステリア)』とは精神干渉系能力者の最高峰、食蜂操祈の大脳皮質の一部を切り取って培養、肥大化させたもので、どんな人間でも食蜂の能力である心理掌握(メンタルアウト)を使えるようにする、という目的で設計されたものだ。

 

外装代脳(エクステリア)』を作り上げた研究者たちは食蜂が洗脳していたのと様々な工作を行っていたため、これまでその存在は秘匿されており、この第二学区のとあるビルに安置されていた。

 

その『外装代脳(エクステリア)』は普段からリミッターが掛けられており、リミッター解除コードというもので『外装代脳』を最大出力で行使できる。

 

美琴の精神を繋ぎ留めておくのにそのリミッター解除コードが必要不可欠だ。

だからこそ、今回の事件の首謀者である木原幻生はそれを唯一知っている食蜂操祈を狙っている。

 

木原幻生は『神ならぬ身にて天上の(S Y S)意思に辿り着くもの(T E M)』界隈の重鎮であり、かの悪名高い『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』を提唱した老人でもある。

 

木原の名に相応しいその老人は食蜂操祈の頭の中にしかない『外装代脳(エクステリア)』のリミッター解除コードを狙ってきているが、食蜂操祈は精神干渉系能力者の最高峰なので、精神干渉を跳ね除ける事ができる。

 

だがそれは能力が十全に扱える時のみだ。

 

一定以上の苦痛を与えられたり意識を刈り取られてしまえば、当然精神干渉を跳ね除ける事は出来ない。

 

そのため木原幻生は木山春生が作り上げた幻想御手(レベルアッパー)によって多才能力(マルチスキル)を獲得し、あらゆる能力を使って食蜂を追い詰めてきていた。

 

あと一歩のところまで追い詰められた食蜂だったが、突然木原幻生が多才能力(マルチスキル)による千里眼で何かを捉えて興奮し始めた。

 

『ひょ、ヒョオ────!? な、なにが一体起こっているんだ!? 何故朝槻くんが絶対能力者(レベル6)へと近づいている!? ……そうか! ミサカネットワークの暴走の余波でAIM拡散力場に影響が!? まさかそこまで朝槻くんがAIM拡散力場と密接に繋がりを持っているだなんて!! アレイスターくんめ、朝槻くんを独り占めしたいからってまさかそこまで僕たちに情報を隠しているとは!! こうしちゃおれん! 手持ちの機器と分析系能力者を総動員して────』

 

(あれはバカ力が高すぎるわねえ……)

 

食蜂はあと一歩のところまで追い詰めた標的に逃げる隙を自らで与えた木原幻生を思い出し、思わず呆れる。

 

(でもバカの話を聞く限り朝槻さんの絶対能力者(レベル6)への進化(シフト)は想定外らしいけどぉ……想定外なら想定外でもしかしたらどっちも共鳴力発揮して暴走するとかありそうだしぃ……ま、何にせよ。正気力の低い爺さんをどうにかしなきゃいけないのは変わらないんだけどぉ……っと)

 

真守と会ったこともないのに真守のことを良く知っている食蜂は、のそのそと歩くのをやめてパッと振り向いた。

そして待ち構えている、食蜂と同じくらいのスピードでゆっくりと近づいてくる木原幻生と対峙した。

 

「お。やあ食蜂くん。ふぉっふぉっふぉっふぉ。いやいや、さっきは年甲斐もなく興奮して失礼したねえ。予想外の事態を見ちゃうと周りが見えなくなるのが僕の欠点でね。それが原因で何度も死にかけたよ」

 

(その時ちゃあんと死んどきなさいよねえ……)

 

食蜂は興奮すると視野狭窄(しやきょうさく)になってしまうと、おどけて笑っている木原幻生を睨みながら心の中で呟く。

 

「しかし、意外だねえ。食蜂くんの方から待ち構えているなんて。てっきり逃げ回っているものかと」

 

木原幻生はそう言いながら一歩、また一歩と食蜂へと近づく。

 

透視能力(クレアボイアンス)を持つアナタから逃げ切れるとは思えないしねえ」

 

食蜂はそれを受けて一歩一歩木原幻生を見つめながら下がっていく。

 

「ビルの外で捕まったらセキュリティ力もない丸裸状態だしぃ。……だから、交渉しに来たの」

 

「交渉とは?」

 

「リミッター解除コードを教えてあげるからぁ……見逃してちょーだい?」

 

「ほお?」

 

木原幻生は食蜂のかわいくおねだりしてきた提案に声を一つ上げる。

 

「よくよく考えたら御坂さんがどうなろうが関係ないしぃ? 学園都市が消し飛ぶって言うなら、その前に退散させてもらうわぁ☆」

 

食蜂は取引に応じてほしいため、額に汗を垂らしながらもニコッと微笑む。

 

「待ってたのは下手に逃げ回ってタイムリミットを消費したくなかったからよぉ?」

 

「ふぅん? なるほどねえ」

 

木原幻生の反応はイマイチながらも一歩食蜂に近づく。

 

(よし、あと少し……)

 

食蜂はある一点を睨みながら呟く。

食蜂の視線の先にはこのビルに仕込まれている食蜂専用のトラップがある。

そこまで木原幻生を誘導できれば勝ちだ。

 

「でも、その交渉に僕はメリットがないんじゃないのかなあ」

 

「アナタには私の心理掌握(メンタルアウト)が通用しないしぃ。私なんて能力が無かったら可愛くて可憐でスタイル力抜群のただの美少女よぉ? そんなか弱い女の子を痛めつけるなんて性癖、まさか枯れたおじいちゃんにはないでしょぉ?」

 

(あと二歩……! 超高出力の振動体を埋め込んだトラップ『魔女の抱擁(ハッグズハグ)』。一度足を踏み入れたら最後、足元から撃ち込まれた振動波が体内で反射。増幅しながら移動し、終端の頭部に収斂! 三半規管を破壊した後で脳をシェイクしてあげるわぁ!)

 

食蜂は木原幻生の気が向くように口を回しながら、木原幻生が一歩一歩トラップに向かってくるのをじっと見つめる。

 

「フム」

 

(あと一…………ッ!)

 

食蜂が木原幻生の足を見つめて心の中でそう呟くと、木原幻生はピタッと足を止めた。

 

「!?」

 

「確かにリミッター解除コードさえ手に入れば、食蜂くんには用がないねえ。でも気になる点が一つある」

 

木原幻生は足を浮かべたまま硬直する食蜂へと声を掛けた。

 

「さっきからある一点に熱い視線を送っているけど、……ここに何かあるのかなあ?」

 

「バレ!? …………ふふっ☆ なーんてねっ!」

 

食蜂は驚愕で顔を引きつらせていたが、次の瞬間即座に笑った。

すると、木原幻生の足元の床がスッと無くなる。

 

「ひょ?」

 

木原幻生は足元が無くなった穴へとそのまま背中から落ちていく。

 

「そっちはデコイ! 本命力は既にアナタの足元よぉ! 重力子奇木板(グラビトンパネル)! 本来はショートカット力のある私専用通路を作るものだけどぉ今回は床に最初から偽装させてたんだゾ? このまま挟み込んで──」

 

勝ち筋を見た食蜂が落下していく木原幻生へと笑いかけると、木原幻生は腰に両手を当てたまま体勢を少しだけ立て直すと、足の裏から空気を発して空中を何度も蹴るように上へ上へと登っていく。

 

「足が爆発……じゃない!」

 

食蜂は駆け上がってくる木原幻生から距離を取るために後ろへと下がり走り出す。

 

(足元の空気を圧縮して足場にしているんだわ! 私を窒息させようとしたり炎の軌道を変えたりできたのも風力使い(エアロシューター)の能力ね!?)

 

食蜂は運動音痴なりに全速力で走りながら楽々と自身と同じ通路にまで上がってきてストッと降り立った木原幻生の方を振り返る。

食蜂はタッタッタッと走ってシステムを作動させて途中にあった隔壁を閉める。

だが木原幻生はその隔壁を能力で丸く削り取って食蜂を視認し、食蜂の背中へと風力使い(エアロシューター)の能力によって圧縮空気砲を撃ち込んだ。

 

「あぐっ────!!」

 

木原幻生の攻撃によって、食蜂が能力を行使するために使うリモコンを入れたバッグはチェーンが切れて吹き飛ばされ、食蜂自身も地面に倒れこむ。

 

「流石に、これ以上時間をかけてはいられないからねえ……!」

 

木原幻生はそこで丸く切り取った隔壁の上を通過させて食蜂へと右腕を伸ばす。

 

「もう、逃がさないよぉ? 今、ここで……ッ!?」

 

木原幻生はそこまで呟くが異変を感じて言葉を止めた。

木原幻生が丸く切り取った隔壁の上へと手を伸ばした瞬間、その右腕を圧搾(あっさく)するように重力子奇木板(グラビトンパネル)が集まりだしたのだ。

 

「う!? ぎぃ、ああああああ!!」

 

「ふっ。どぉかしら? 何重にも張り巡らせた罠の、とっておきがこれよぉ?」

 

食蜂は頭から血を流しながら叫び声を上げる木原幻生を見つめ、ふらっと立ち上がって不敵に笑う。

 

「ゆっくり圧搾するから虚を突く必要があるけれどぉ……重力子奇木板(グラビトンパネル)にはこういう応用力もあるんだゾ? 建設工事の仮設足場用に開発された技術だけどぉ、おじいちゃんの細腕をへし折るくらいの展開力はあるわよぉ?」

 

そこで食蜂は落ちていたリモコンを手に持って微笑む。

 

「激痛の中で、私の心理掌握(メンタルアウト)を防げるかしらあ?」

 

「────ひょお?」

 

「!?」

 

食蜂が先ほどまで叫んでいた木原幻生を見つめると、重力子奇木板(グラビトンパネル)の向こうで木原幻生は笑いだした。

 

「イーヒッヒッヒッヒヒヒ! あひゃっひゃひゃひゃ、ヒーッヒッヒッヒ! いやぁー酷いねえ。こんな幼気(いたいけ)でか弱い老人を痛めつけるなんてぇ!! ……まあ、へし折ろうにも腕がないんだけどね?」

 

木原幻生はその瞬間、カコッと腕を引っこ抜いて食蜂に袖の中が無くなってぶらぶらしている手の先を見せる。

 

「ぎ、義手!?」

 

「言ったでしょ? 実験で何度も死にかけたって。僕の体は代替技術の見本市状態なんだよ。まあ、それ以前に食蜂くんの狙いは大方読めていたけれどね?」

 

「? …………ヒッ────!?」

 

食蜂は木原幻生の言葉を呆然と聞いていたが、突然悲鳴を上げてリモコンを取り落とした。

 

「逃げ惑うふりをしていても策がある人間は狙いが仕草に現れる。僕の眼はその逆転の予兆を見逃さない。だからこそ今の食蜂くんを見れば分かる。もうこの状況を覆す秘策はなーんにも残っていないってね」

 

木原幻生は窒息死させられそうになって苦しむ食蜂を見つめながら笑う。

 

「さぁて、リミッター解除コードを貰うよ────」

 

 

木原幻生が余裕で呟いていると、次の瞬間、突然木原幻生が立っていた場所の側面が何者かが放った攻撃によって吹き飛んだ。

 

 

不意の衝撃とドゴォッ!! と豪快な音を立てて通路が吹き飛ばされたことによって、木原幻生は衝撃波に廊下の壁に体を打ち付けて床に落ちたところで、飛んできた瓦礫に圧し潰される。

 

「なっ────グえッ!?」

 

木原幻生は瓦礫(がれき)の下敷きになりながらも、ギリギリ無事だった頭を何者かにガッと上から容赦なく踏みつぶされた衝撃で地面に鼻を盛大に打ち付け、鼻骨が折れてしまい、(うな)り声を上げる。

 

「あ?」

 

木原幻生を踏みつぶした人物は、木原幻生の頭を地面に叩きつけるとガチン、っと鈍い金属の音が響きわたったので怪訝な声を上げる。

 

「なんだ、頭にチタンでも詰め込んでやがんのか?」

 

そう呟いたのはビル群が立ち並ぶ様子をバックに、ジャージ姿に未元物質(ダークマター)の三対六枚の純白の翼を広げ、両手をポケットに突っ込んで立っている垣根帝督だった。

 

「ふーん。……なら、思いきり踏んでもいいよなあ?」

 

垣根帝督は空間を自前の干渉力でヂヂヂィィッと揺らして嗤いながら、ぐりぐりと木原幻生の頭を足を動かして踏みにじり続ける。

垣根のその足蹴(あしげ)の威力は凄まじく、床のタイルが踏み抜かれてコンクリート部分が露出するほどだった。

 

木原幻生はチタン製の頭蓋骨が悲鳴を上げるほどの威力で頭をギリギリと踏みつけられるのと、鼻骨が折れた激痛で能力が行使できない。

もし木原幻生の頭にチタン製の頭蓋骨が入っていなかったら、確実に頭蓋骨が割れていたことだろう。

 

「ヒュっ……かひゅ。そ、そのまま……キープ力を、続け……てちょうだぁい、垣根さぁん?」

 

食蜂は取り落としたリモコンを四つん這いになりながら拾って、木原幻生へと向けながらこんな事態を引き起こした木原幻生へブチ切れている垣根へと声を掛ける。

 

そして食蜂はピッとリモコンのボタンを押して、木原幻生の意識を刈り取った。

 

途端に白い目を剥いてフッと気絶する木原幻生。

 

垣根は気を失って動かなくなった木原幻生を睥睨(へいげい)しながらチッと舌打ちをし、最後にガンッと蹴りつけると、そのまま未元物質(ダークマター)の翼をすぅっと消して両手をポケットに突っ込んだまま食蜂操祈へと近づく。

 

「ほらよ」

 

そして食蜂の前に立つと、垣根は両手をポケットから出してジャージを脱ぎ、食蜂へとジャージを優しく投げつけた。

 

「男の前でその格好は流石に嫌だろ」

 

垣根は右わき腹から胸にかけて引き裂かれている食蜂の体操服から目をそらしながら告げる。

 

「……あら、あらあらぁ…………見かけによらず割と紳士なのねえ………………」

 

「うるせえな。一言余計だ早く着ろ。……立てそうか?」

 

垣根が苛立ちを込めながら訊ねると、食蜂はひゅーひゅー浅い息をしながらいそいそと垣根のジャージを着て、一息ついてから首を横に振る。

 

「すぐにはぁー無理、そうねえ…………爺さんと追いかけっこしてぇ……体力使ったしぃ」

 

垣根はチッと舌打ちをすると食蜂に近づき、食蜂の要望通りにお姫様抱っこで抱き上げた。

 

「お前アイツよりくっそ重い。早く木原幻生の記憶読んで御坂美琴の止め方を探れ」

 

「重っ!?」

 

垣根の一言に食蜂は顔を引きつらせて垣根の腕の中で暴れ出す。

 

「なっ!! なななな、一体ダレと比べてるのかしらぁー!?」

 

「お前より百億倍良い女」

 

「は、はぁ────!? な、何なのかしらぁその小学生が使いそうな表現力はぁ!! ば、バカにしてるのぉ!?」

 

「割と元気じゃねえか、お前。いいから早く記憶読め。じゃねえと落っことすぞ」

 

垣根が面倒くさそうに言うと、食蜂はギリギリと自分の手を(おお)っているレースの手袋を歯噛みしながらぼそぼそと呟く。

 

「くぅっ…………イケメン力全開だからって言っていいことと悪いことがあるんだからねえ……! そんなんだったら彼女が苦労するゾ!」

 

「アイツは細けぇこと気にしないほど良い女だよ。お前と違ってな」

 

「なっ惚気(のろけ)られた上に罵倒された!?」

 

食蜂がぎゃーぎゃー(わめ)いていると、垣根はそんな食蜂を抱きかかえたまま木原幻生の前まで近づいてきて顎をクイッと動かす。

食蜂は何か言いたげだったが木原幻生を睨みつけると、その頭へとリモコンを向けてピッとボタンを押した。

 

「え」

 

その瞬間、食蜂から思わず呟きが漏れた。

それを垣根が訝しんでいる事を知っているが、食蜂は最後まで答えなかった。

とりあえず木原幻生を無力化することに成功し、解決策を垣根と食蜂は手に入れた。

 

(これでミサカネットワークの暴走が止まれば御坂美琴の進化(シフト)も止まるか……)

 

垣根は真守より断然重たい食蜂を抱き直して心の中で呟く。

 

(真守……頼む。問題なく終わってくれ……)

 

真守のことを想って目を細める垣根をちらっと見ていた食蜂はそこでふぅん、と小さく漏らし、人のことを想える男が助けてくれたことにやっと安堵できて微笑を浮かべた。

 




垣根くんマジヒーロー。

『外装代脳』ですが、既に他の組織に『外装代脳』の存在が知られてしまったので食蜂ちゃんはこの事件の後に『外装代脳』を廃棄します。
原作のように『流動源力』でも食蜂ちゃんは自壊コードとリミッター解除コードの認識を入れ替えております。
ですが廃棄の際に反対になっていても問題がないので(一度リミッターが解除されるだけ)、あの時反対にしたのねえ、とぽそっと思いますが廃棄することに変わりはありません。
本編で書かないのでここで明記させていただきました。


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