とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二〇話、投稿します。
次は一二月一八日土曜日です。


第一二〇話:〈日常侵食〉は敵対者襲来で

「垣根、送ってくれてありがとう」

 

真守は自宅のあるマンションの前で垣根に笑いかけていた。

これから垣根は第八学区のとあるビルの最上階にある『スクール』のアジトへと戻る予定で、真守を自宅まで送ってきており、自宅の前で別れを告げていたのだ。

 

「今日は帰れないかもしれない。それでもいいか?」

 

「うん。たくさん一緒にいたから大丈夫。それに垣根から大事なもの貰ったから、もう寂しくない」

 

真守は右手の薬指に輝くリングを左手でぎゅっと握って微笑む。

垣根はそんな真守の顎をクイッと引いて、自身の身をかがめて真守にそっとキスをした。

 

「ん。垣根、おやすみ。気を付けてね」

 

真守は垣根から口を離されて、幸せそうにとろける笑みを浮かべて目を細ませる。

 

「おやすみ。また連絡する」

 

「うん」

 

真守はマンションのエントランスから外に出て、傘を差す垣根を見送る。

学園都市では先程から雨が降り出していて、途中で降られた二人はコンビニで傘を買って帰ってきたのだ。

 

最後に垣根は真守の方を振り返って手を挙げると、そのまま去っていく。

真守は名残惜しそうに寂しそうに微笑みながらも、自分の薬指に()められた指輪をゆっくりと撫でて、エントランスを歩いてエレベーターに乗る。

 

真守は雨に少し降られ、冷えてしまった体を温めるために風呂に入ろうと考える。

だがその前に深城と林檎に帰ってきたことを報告する必要があるため、一度二階のラウンジに向かった。

 

「朝槻、おかえりなさい」

 

真守がラウンジに入ると、ソファに座って携帯ゲーム機で遊んでいた林檎が顔を上げた。

 

「ただいま、林檎。……深城は?」

 

真守が夕食を作っているであろう深城がキッチンにいないのでそう問いかけると、林檎は真守が待っていてくれるので、ゲームをきちんとセーブしてから顔を上げた。

 

「深城、買い物に行った。調味料が足りないんだって」

 

「え。雨降ってるけど傘持って行ったかな。ちょっと待て、いま連絡してみる」

 

真守は林檎が持ってきてくれたタオルを受け取りながら携帯電話を取り出そうとするが、設定が終わっていないことに気が付いて『あ』と声を上げる。

すると林檎が察して固定電話の子機を持ってきてくれたので、真守は林檎に礼を言いながら深城へと電話を掛ける。

 

〈なになにぃー林檎ちゃん?〉

 

深城は家から電話を駆けてきた=林檎と考えて、そんな第一声を放った。

 

「林檎じゃなくて私だ、真守だ。お前、傘持って行ったか? 必要なら迎えに行こうか?」

 

真守は自分であること前置きしてから深城を気遣うと、深城は携帯電話の向こうで嬉しそうな声を出した。

 

〈真守ちゃんお帰りなさい! 大丈夫だよぉ。ちゃんと傘持って行った! 林檎ちゃんが今日は夜、雨が降るかもって朝言ってくれたからねえ、大丈夫!〉

 

心配させまいと深城が明るい声を出すので、真守は小さく笑ってから頷いた。

 

「そうか。まだ時間がかかりそうか?」

 

〈うん。今近くの二四時間やってるスーパーに向かってるところだからねえ。そぉそぉ、真守ちゃん。お醤油が足りないんだけどね、この際薄口しょうゆと濃い口しょうゆどっちも買おうと思って! 和食のお料理本には、どっちか書いてあることが多いんだよ〉

 

深城が楽しそうに料理の話をしているので、真守は深城が楽しそうでよかった、と微笑を浮かべた。

 

「最終下校時刻が過ぎているから不良に気を付けるんだぞ」

 

〈大丈夫だよぉ。今雨降ってるから不良さんどこにもいない!〉

 

「そういう問題ではないぞ。きちんと気を付けろ、分かったな?」

 

真守が顔をしかめて注意していると、深城は電話の向こうで小さく笑った。

 

〈分かってるよぉ! ……あ、垣根さんとデートどうだったぁ? 楽しかった?〉

 

「うん。とっても楽しかった。たくさん幸せになれるもの貰った」

 

真守は右手薬指につけてある指輪を見つめながら告げると、深城は興奮した様子で声を大きくした。

 

〈えー!? 帰ってきたら話してね! 絶対だよぉ!?〉

 

「分かってる。たくさん話したいことあるんだ、深城。だから早く帰ってきてくれるか?」

 

〈うん! そしたらすぐにご飯作るから! それでご飯食べて、ゆったりまったりしようねぇ!〉

 

真守はそこで深城との通話を切って固定電話の子機から手を離す。

 

「深城、なんだって?」

 

「頑張って早く帰ってくるって。それまでご飯待てるか?」

 

林檎が子機を貰おうと手を差し出してくれるので、真守は林檎に子機を渡してタオルでセーラー服を拭き始める。

 

「だいじょうぶ。朝槻と深城と一緒に食べるご飯、おいしいから」

 

「そうか」

 

林檎がにこっと柔らかく笑うので、真守は手をきちんと拭いてから林檎の頭にポンと手を置いて撫でる。

 

「……本当は垣根とも一緒に食べたい。でも垣根、朝槻のために頑張ってるから」

 

頭を撫でられる感触に目を細めながら、林檎がぽそっと小さなお願いを言うので、真守はかがみ、目線を林檎に合わせて微笑む。

 

「そうだな。でも垣根は私や林檎のために頑張ってくれてるから、大人しく待っていような?」

 

「私のため?」

 

林檎がきょとんとした様子で告げるので、真守は柔らかく微笑んでしみじみと告げる。

 

「そう。垣根はな、私たちのために学園都市を良くしようとしてくれているんだ。私たちが幸せに笑えるようにな。だから良い子にして待ってような?」

 

真守が再び林檎の頭を撫でていると、林檎は嬉しそうに、でも意地悪さを瞳に見せて微笑む。

 

「じゃあ朝槻も下手に事件に首を突っ込んじゃダメだね」

 

「む。林檎、生意気だぞ」

 

真守が林檎のおでこを柔らかくツン、とつつくと林檎は額を押さえながら幸せそうに笑う。

 

「じゃあ私、お風呂に入ってくるよ。……そうだ、林檎も一緒に入るか?」

 

「うん。入る」

 

「じゃあ用意してきてくれ。私はお風呂のお湯張っておくから」

 

真守が誘うと林檎は胸を張って得意気にする。

 

「お風呂はもう沸かしてある。私がやった」

 

「林檎がやったのか? えらいぞ」

 

真守は林檎の頭をもう一度くしゃくしゃと撫でると、林檎に声を掛ける。

 

「じゃあお風呂に一緒に入ろうか。準備してきてくれ」

 

「うん」

 

林檎が廊下をテテテーッと走っていくので、真守も自分の部屋へと向かって入浴の準備を始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「あひるさん、かわいい」

 

真守がシャワーを浴びている中、林檎は湯船に浮かんでいるアヒルを見つめて一人で遊んでいた。

アヒルは大・中・小と三匹いて、隊列を作るように林檎は浮かばせていた。

そしてファンシーな魚を模した水鉄砲を取り出すと。真守に向けてぴゅーっと撃つ。

それでも飛距離が足りないため、真守に当たることはない。

 

「林檎ー。人に銃を向けてはダメなんだぞ」

 

「ん。分かった」

 

林檎は真守に注意されてお風呂の壁に張られている、水を当てると色が変わる(まと)に向かってぴゅーっと再び水鉄砲を撃つ。

 

「そうそう。偉いぞ」

 

真守はシャワーを止めて、林檎を後ろから抱きしめる形でお湯につかる。

真守が入ったことによって綺麗に隊列を組んでいたアヒルの隊列が崩れてしまった。

林檎はそれを見てグッと顔に力を込めると、念動能力(サイコキネシス)で水面を滑らかに移動させてアヒルの隊列を元に戻す。

 

「ごめんごめん」

 

「だいじょうぶ。誉望に教えてもらって、能力ちょっとずつうまく使えるようになってるから」

 

林檎は謝る真守に得意気に告げて、綺麗に隊列を整える。

 

「ねえ、朝槻。明日もずっと雨かな」

 

そして小さくぽそっと呟いた林檎の後ろで、真守は天井を見上げる。

 

「んー。そうだな、最近の天気予報は当てにならないから分からないな」

 

「最近の?」

 

林檎は真守の言葉が気になって真守の方を振り返りながら、コテッと首を傾げた。

 

「ちょっと前まで『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』という衛星が学園都市上空に浮かんでたんだ。……衛星というのは分かるか?」

 

「うん。私たちのこと空から監視してるヤツ」

 

「そうそう。それのすっごいバージョンが『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』というヤツでな。一か月の天気予報を演算で的確にはじき出していたんだ」

 

林檎は衛星のことを監視カメラの凄いバージョンだと思っているため色々と間違っているのだが、まあ認識は間違っていないので真守は肯定して『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の簡単な説明をする。

 

「それは今、もうないの?」

 

「うん。壊れてしまってな。この前私が宇宙に行ったのもそれ関連だ」

 

「朝槻は宇宙に行けてすごいね」

 

林檎は真守の方を振り返るのをやめて、的にぴゅーっと水鉄砲を当てて再び遊び始める。

 

「学園都市の技術力は高いから林檎も宇宙に行けるぞ? まあでも、エンデュミオンがあったらもっと簡単に宇宙に行けたんだがなあ」

 

真守はそこで大覇星祭前の『エンデュミオン』に関しての事件の渦中(かちゅう)にいた、鳴護アリサとシャットアウラ=セクウェンツィア、そして不老不死()()()レディリー=タングルロードのことを思い出しながらしみじみする。

 

「……色々壊れすぎ?」

 

「そうだな。私もそう思う」

 

林檎が小首を傾げて告げるので、真守はそれらに全て自分が関わっていることを思ってくすくすと笑う。

今までいろいろな事件に首を突っ込んできたが、流石に学園都市の重要なものを壊してしまったのはそれくらいだ。

 

「朝槻、とっても楽しそう。よかった」

 

「? お前は楽しくないのか?」

 

真守が問いかけると林檎は少し寂しそうに微笑む。

 

「朝槻や垣根、深城が楽しくないと私も楽しくない。嬉しくない。だからよかった」

 

真守は優しい林檎の心を感じて幸せそうに目を細めた。

 

「じゃあ林檎のためにも、私たちは楽しくしておかなくちゃな」

 

「うん。だから朝槻が楽しそうでよかった。垣根とデートできてよかったね」

 

真守が笑いかけると林檎が目を細めて心の底から思ってしみじみと告げるので、真守はぎゅーっと林檎を後ろから抱きしめる。

 

「今度はみんなで遊びに行こうな? 遊園地でも行こうか」

 

「! 遊園地。行きたい。『てんうさ』のでっかいのがいるって深城が言ってた」

 

林檎は自分が好きなマスコットキャラクターである『天使なうさぎ様』の着ぐるみが遊園地にあると目を輝かせる。

 

「じゃあ一緒に行かなくちゃな。その時は朝から晩まで遊ぼうな? そうだ、どこかに泊まってもいいかもな」

 

「うん。楽しみ」

 

林檎が笑顔で告げるので真守もにっこり笑う。

 

「さ。のぼせてしまうから出ようか」

 

「うん」

 

林檎は真守の言葉に素直に従って、お風呂から出る。

真守も続いて出て、最後に軽くシャワーを浴びると風呂場から出て脱衣所に向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

学園都市の夜の街を、一人の女が歩いていた。

一五世紀のフランス市民の格好を派手な黄色で塗りつぶした服装だ。

その女の顔には耳、鼻、唇、まぶたにまでピアスが取り付けられており、歩く(たび)にそれがじゃらじゃらと鳴る。

 

しかも唇を割って舌を出すと、女は舌の先にまでピアスを開けていた。

 

そのピアスは腰ほどまである長さの鎖と、その先に十字架を模したアクセサリーによって構成されており、それを女はゆらゆらと揺らして歩いていた。

 

「ふうん」

 

女は辺りに転がっている警備員(アンチスキル)一瞥(いちべつ)してから呟いた。

そして足元に転がっていた無線機の一つを蹴り上げて手に取ると、無線機のマイクに話しかけた。

 

「ハッアァーイ、アレイスター。どうせアンタはこーいう普通の回線にもこっそり割り込んでるってコトでしょう。さっさとお相手してくれると嬉しいんだけどなァ」

 

女が挑発的に告げると、無線機から通話先の切り替わる際の音がブツブツツ、っと響く。

 

〈何の用だ〉

 

明らかにクリアになって無線機から響き渡ったのは、男か女か分からない声だった。

 

「っふふん。統括理事会の顔を三つほど潰してきたトコだけど、『その程度』では(こた)えないか」

 

〈補充なら利くさ、いくらでもな〉

 

「問題発言よね、ソレ」

 

女が呆れたように告げると、アレイスターはまるで事務作業のように淡々と続ける。

 

〈捻じ伏せるだけの力もある〉

 

「私は、実はあんたは存在しない人間で、アンタの意見の裏にゃ統括理事会の総意が隠れている……と踏んでいたんだけど、こりゃ当てが外れちゃったかなあ。全然焦ってる様子もないコトだし。……まあいいや。私の素性は分かっている?」

 

〈さあな。賊については取り調べで聞く事にしているので〉

 

アレイスターがすっとぼけると、女は得意気そうに笑った。

 

「神の右席」

 

女の余裕そうで殊勝な言葉に、アレイスターは冷たい声で愉快そうに笑った。

 

〈おや、テロ行為指定グループにそのような名前はあったかな〉

 

「ふうん。白を切るってコトならそれでもいいけど、今ここで命乞いをしなかったコトを最後の最後で後悔しないようにね」

 

〈この街を甘く見ていないか?〉

 

アレイスターは先程よりも鋭い冷酷な声を出して、自らを『神の右席』と言った女に問いかけた。

 

「アラ。自分の街の現状すら掴めていないだなんて、すでに報告機能にも支障が出てんの? 失敬失敬。私は自分の潰した敵兵の量を数えられないからなあ。はは、オペレーターまでぶっ倒れているか」

 

〈……、〉

 

アレイスターは応えない。そんなアレイスターに女は意気揚々と告げる。

 

「六割、七割。八割は流石に行き過ぎかな。まあジキに一〇割全部倒れるコトになるだろうけど。警備員(アンチスキル)にィ風紀委員(ジャッジメント)だっけ? そんなチャチなモンで身を守ろうとしてるからあっさりクビを取られんのよ。自分がもう終わりだってコトぐらいは分かってんのよね?」

 

〈ふ〉

 

アレイスターは女の言葉に一つ笑い声を漏らすと、獰猛(どうもう)な声で嘲笑(ちょうしょう)しながら告げる。

 

〈その程度で学園都市の防衛網を砕けたと思っているのなら、本当におめでたいな。キミはこの街の形をまるで理解していない〉

 

「へェ」

 

〈隠し玉を持っているのはキミだけではないということだ。もっとも、君はそれを知る前に倒れるかもしれんがな〉

 

女はアレイスターの言い分を聞いて静かに笑うと、気持ちを切り替えて冷酷に、淡々とした声を出す。

 

「何であれ、私は敵対する者を全て叩いて潰す。コレは私が生まれた時からの決定事項だ」

 

女はそこでくるっと無線機の向きを変えて言葉を切って告げる。

 

「私は『前方のヴェント』。ローマ正教二○億の中の最終兵器」

 

アレイスターの挑発に女──前方のヴェントは自身の存在を明らかにする。

そしてアレイスターに宣戦布告をした。

 

「この一晩で全てを潰してあげる。アンタも、学園都市も、幻想殺し(イマジンブレイカー)流動源力(ギアホイール)も禁書目録も。──その全てをね」

 

そう宣言すると、前方のヴェントは学園都市へ向けて再び侵攻を開始した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

『人間』、アレイスターは『窓のないビル』の内部、円筒形の生命維持装置の中で逆さに浮いていた。

 

この部屋に照明機器はない。

それなのに部屋が赤く輝いているのは、モニタ一つ一つから表示される複数のエラーのせいだ。

 

学園都市は現在、異常事態にある。

その原因は『前方のヴェント』と呼ばれるたった一人の魔術師。

 

『神の右席』の手によって、学園都市は死にかけている。

 

ほんの数十分で学園都市の治安を(つかさど)警備員(アンチスキル)の七割弱が犠牲となっている。

生体信号を探る限り死者はいないようだが、彼らが目を覚ます前に学園都市が陥落(かんらく)すれば、もう立て直しは図れない。

 

街のあちこちから被害報告や増援要求などの通信が入るが、いちいちそれらに応える気はアレイスターにはさらさらなかった。

 

「面白い」

 

学園都市が慌てふためくさまを『人間』、アレイスターはただただ笑って見ていた。

 

「最高に面白い。これだから人生はやめられない。こちらもようやくアレを使う機会が現れたか。時期は早すぎるが。『計画(プラン)』に縛られた現状では、イレギュラーこそ最大の娯楽だな」

 

口の中で転がすようにその感情を(もてあそ)びながら、同時にアレイスターは生命維持装置の内部から計器類に無数の操作命令を飛ばす。

無線装置の一つに干渉し、周波数や暗証番号などの段階を踏まずに、学園都市の闇に(うごめ)く者たちへ直に接続する。

 

猟犬部隊(ハウンドドッグ)、木原数多」

 

〈はい〉

 

木原数多という男の返事をする声が『窓のないビル』の中に響き渡ると、アレイスターは命令を下した。

 

「虚数学区・五行機関……AIM拡散力場だ。少し早いがヒューズ=ミナシロを使って『ヤツら』を潰す。手足は弾いても構わん。現在逃走中の検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号を捕獲次第、指定のポイントへ運んでくれ。──早急かつ、丁重にな」

 

〈了解〉

 

相手の短い返事を受けて、アレイスターは通信を終了する。そして、愉快そうに笑う。

 

「前方のヴェントに勝ち目などありえない。何故なら既にこの学園都市は科学の徒の聖域と化している」

 

アレイスターはそこでビーカーにとある映像を映し出す。

その映像には、彼女たちがラウンジとして使っている部屋で、自分が保護している幼女の頭を拭く朝槻真守の姿が映し出されていた。

 

羨望(せんぼう)とは時として『信仰』になりえる。それらを守らんとする手は『救済』である。その二つが合わさった学園都市(この街)で、最早あれに勝てる人間はいない」

 

アレイスターは朝槻真守のバイタルを別窓に表示して、そして進行中の急ピッチで組み立てたアドリブ満載(まんさい)の対応の進行状況を見て獰猛(どうもう)に笑う。

 

「全ての舞台は整った。さあ、久方ぶりの──楽しい楽しい潰し合い(ショータイム)だ」

 

 

 

運命の歯車は回り出した。

全てが終わり、新たな始まりが近付いている。

最後の(つか)()の夢は、幸福であるべきだ。

 

だからこそ、なのか。

 

朝槻真守は。

 

自らの終わりが近付いていることに、最後の瞬間まで気が付かなかった。

 


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