とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二一話、投稿します。
次は一二月二六日日曜日です。


第一二一話:〈燦然珠玉〉を胸に抱き

風呂から出た真守は、携帯電話のセットアップを行おうと思って自室に一人でいた。

 

(深城……遅いな)

 

パソコンを起動させながら、真守は帰ってこない深城のことを想って顔をしかめる。

 

「ダメだ、気になる。迎えに行こう」

 

真守が椅子から立ち上がった瞬間、携帯電話に着信があった。

慌てて携帯電話を手に取ると、そこには『公衆電話』と表示されていた。

 

「深城、もしかしてケータイの電池が切れたのか? 今どこに、」

 

〈だとォ?〉

 

真守は携帯電話の電池が切れたことを理由に、深城が公衆電話から連絡を寄越してきたのだと思って電話に出ると、まったく違う声が聞こえてきた。

 

「その声……一方通行(アクセラレータ)か? どうした、どうして公衆電話から私に電話を?」

 

〈……オマエの大事なヤツか?〉

 

真守が動揺したまま問いかけると、一方通行(アクセラレータ)は真守が自分と勘違いした『深城』がどんな人物なのかと問いかけてきた。

 

「え。う、うん。大切な子だ。その子、帰ってきてなくてな。携帯電話の電池が切れて、公衆電話から電話をかけてきたのかと思って。ごめんな、一方通行(アクセラレータ)

 

〈今すぐソイツを連れ戻せ〉

 

「え?」

 

一方通行(アクセラレータ)の鬼気迫った声に、真守は思わず虚を突かれて言葉を零す。

 

〈学園都市がおかしくなってンだ。恐らく木原の野郎が演出してる。俺も襲われた〉

 

「木原!? お前、怪我してないか? 大丈夫か?!」

 

真守が一方通行(アクセラレータ)の言った『木原』という言葉に一方通行の無事を心配すると、一方通行は殴られて頬が腫れているのか話し辛そうに口を開く。

 

〈問題ねェ。……だが、あのクソガキが狙われてンだ。街中にヤツの部隊が展開してる。一般人がそれを目撃したら殺される可能性がある。だから早く連れ戻せ〉

 

「…………最終信号(ラストオーダー)、が?」

 

真守は一方通行(アクセラレータ)の言葉にドクン、と心臓が脈打つ。

 

〈? どォした?〉

 

木原が打ち止め(ラストオーダー)を狙っている。

打ち止めはAIM拡散力場を操作するために学園都市が用意した入力装置(コンソール)だ。

AIM拡散力場。

それを体として認識して、核として動き回っている深城が外出している。

真守は嫌な予感が湧きあがってきて、顔を引きつらせた。

 

「……ごめん。私、深城に電話しなくちゃ」

 

真守が嫌な予感が(つの)ってごくッと唾を呑み込んでから一方通行(アクセラレータ)にすまなそうに告げると、一方通行は決意した声を出した。

 

〈ここでオマエに手助けしてもらうのも筋違いだとは思ってたンだ。……あのガキはオマエの言う、俺の光だ。必ず取り戻す。……だから、オマエはオマエの光のことを考えていればいい〉

 

「うん。……ありがとう」

 

真守は一方通行(アクセラレータ)の頼もしい言葉に礼を言うと、そこで一方通行と連絡を終えて、深城に連絡をする。

だがやっぱり、出ない。

 

(深城が危ない! とりあえず無事を確認しないと!!)

 

真守は焦りながら自分の格好を確認する。

もこもこのルームウェアなんて戦闘に非効率的な服を着て外に出るなんてダメだ。

 

真守は服装を考えるのが面倒なのでセーラー服を着てニーハイソックスを履く。

そして手早く髪の毛を猫耳ヘアに結ぶと、机の上に置いてあった垣根からもらった指輪を見つめた。

 

(垣根……)

 

真守は不安に呑まれてそれを掴むと、ぎゅっと握ってから右手の薬指に通した。

 

 

 

「林檎!」

 

「朝槻、どうしたの?」

 

真守が慌ててラウンジに入って来て自分の名前を呼ぶので、ゲームをしていた林檎はびっくりして目を(またた)かせる。

 

「深城が危ないんだ。だから迎えに行ってくる。もしかしたら深城が帰ってくるかもしれないから、お前はここであの子の帰りを待っていてくれ。それで深城が帰ってきて行き違いになったらケータイに連絡してくれ。番号は変わってないから連絡帳入ってなくても連絡はできるからな。お願いできるか?」

 

「うん、分かった。気を付けて、朝槻」

 

真守が不安を押し殺してゆっくり(さと)すように声を掛けてくるので、林檎は真守を安心させるために力強く頷いた。

 

「ありがとう。……あ、ご飯まだ待てるか? ダメなら先に何か食べててもいいぞ」

 

真守が深城の買い置きしているカップラーメンがあるか考えていると、林檎は真守の前で首を横に振った。

 

「ううん。深城と、朝槻と一緒に食べる。待ってる」

 

「そうか」

 

真守はそう呟くと、優しく笑って林檎の頭をくしゃっと撫でる。

 

「じゃあ深城を迎えに行ってくる。そしたら三人で深城の作ったご飯食べような」

 

「行ってらっしゃい、朝槻」

 

真守は林檎に見送られてマンションのエントランスを抜けて外へと出る。

 

 

 

近場の公衆電話に入ってPDAを取り出して公衆電話にルーターを取り付けると、深城の携帯電話にハッキングを掛ける。

 

「……あった。スーパーの前で止まってる!」

 

真守は深城の携帯電話の位置を特定する。

これで深城の位置がすぐに分かるとは思えない。

それでもこの情報だけが頼りだ。この位置に向かえば監視カメラで深城の足取りがつかめるはずなのだから。

 

真守は既に能力を開放して、現出させていた蒼閃光(そうせんこう)で形作られた尻尾を揺らし、猫耳を不安そうにぴこぴこ動かして夜の学園都市を駆け抜ける。

 

「帝兵さん! 帝兵さん、ちょっとマズいんだ! いるか!?」

 

真守は声を張り上げて、周りにいるはずの垣根が未元物質(ダークマター)で造り上げた人造生命体であるカブトムシを呼ぶ。

 

だがおかしかった。

 

「な、んで……帝兵さんが来ないんだ……!?」

 

真守は思わず空中で静止して愕然とする。

 

垣根の未元物質(ダークマター)で造り上げた人造生命体であるカブトムシは、自己増殖を繰り返してこの学園都市に展開されている。

真守は今どのくらいの数のカブトムシがいるのか把握していないが、自分が呼べばいつだってすぐそばにいる個体が急行するはずなのだ。

 

それがいつまで経っても来ない。

 

真守はいつまで経っても現れないカブトムシに不安が(つの)って、携帯電話を起動させて震える手で暗記していた垣根の番号を打ち込んで、垣根に連絡を取る。

 

だが垣根には繋がらず、留守番電話サービスに移行してしまう。

 

「……繋がらない。妨害? でも、なんで……そんな」

 

真守は息が苦しくなる。

 

学園都市が、打ち止め(ラストオーダー)のように深城が必要だから捕まえたという推測が濃厚になってきた。

だから捕らえた深城を取り戻されないために深城のそばにいて、彼女を守る事ができる自分や垣根を分断して動きを鈍らせようとしている。

判断材料が少ないが、現状から見ればそう推察するしかない。

 

自分は無事だが、垣根はどうなのだろうか。

 

暗部組織のリーダーとして学園都市に服従している垣根は学園都市にとって利用できる相手なのでそう簡単に殺されないし、垣根が学園都市(ごと)きに殺されるなんてありえない。

 

それでも心配だった。

 

異様に静かな学園都市。垣根は本当に無事なのだろうか。

 

(垣根に何かあったら、私…………私っ)

 

最悪のケースを想定してしまって真守は、震える手で自分の右手に(はま)っている垣根からもらった指輪をぎゅっと握って垣根の存在を感じる。

 

(……っ大丈夫。だって垣根はずっと一緒にいてくれるって言った。私のこと、一人にしないって。だから負けるはずがない。垣根は大丈夫。この街を変えてくれるって言った、だから大丈夫……っこの世の誰にも負けない垣根が、学園都市に負けるはずない……っ)

 

真守は浅くなって荒くなる息を、体内のエネルギーを能力で操作して抑えると一息つく。

 

(とりあえず、今は深城だ。あの子は垣根と違って自衛行動ができないし、何より学園都市があの子を使おうとしているなら、守らなきゃ……!)

 

真守はそこで方針を決めると、深城が持っている携帯電話の位置へと急行した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は雨が降りしきる中、道路に立ち尽くしていた。

 

二四時間営業しているスーパー。

その前に広がっている駐車場に落ちている『ソレ』を拾い上げて真守は息を呑む。

 

深城が駄々をこねてこれがいいと叫んだ、黒猫型の機能性なんて微塵も考えていない二つ折りの携帯電話。

 

その近くには傘が落ちていて、アレも深城の持ち物で黒猫が描かれた傘だった。

 

真守は深城の携帯電話を握ってギリリ、と歯ぎしりする。

そして辺りを見回して監視カメラを探すと、一足飛びに監視カメラに飛び掛かってハッキングを開始した。

 

「え」

 

真守は思わず声を上げた。

監視カメラに映っていたのは、深城を誰かが(さら)う記録ではなかった。

深城は携帯電話と傘を取り落として、ふらふらと一人で雨に打たれてここからどこかへ行こうとしている映像だった。

 

「深城?」

 

(ま、さか……AIM拡散力場でできた体を操られて──?)

 

真守は知らないが、深城の体はアレイスター=クロウリーが与えた体だ。

だからこそ、源白深城の行動をアレイスターは制限することができる。

 

だがそれをもちろん知らない真守は監視カメラに張り付いてハッキングするのをやめると、深城がふらふらと行ってしまった方へと先回りし、近くにあった監視カメラをハッキングする。

そこには深城が手前の十字路で右に曲がったのが見えていた。

 

どう頑張っても普通の足取りじゃない。

真守は深城を追って何度も監視カメラをハッキングしてその足取りを追う。

 

 

真守はその時、ゾッと全身が怖気だつのを感じて、空を見上げた。

 

 

学園都市の空は変わらずに雨雲によって(おお)われている。

だが真守が見ていたのは空ではなかった。

 

学園都市が存在している空間そのもの。

 

 

そこに正体不明のフィールドが重なるように広がっていくのだ。

 

 

「な……なに、コレ……一体、何がどうなって……っ!」

 

真守は動揺していたが、そこで目を見開く。

これはAIM拡散力場だ。

誰かがAIM拡散力場を動かして何か新たな定義を展開したのだ。

 

「…………みし、ろ」

 

真守は空を見上げながら目を見開いて、自分が守らなければならない非力で大事な少女の名前を呼ぶ。

 

その時、真守は息を呑んだ。

いる。この近くに深城はいる。

 

真守は深城の位置をなんとなく知ることができるが、それは距離が近ければの問題だ。

だが新たな謎の定義であるフィールドが形成されたことにより、遠くにいる深城の位置が何故か鮮明に、真守には手に取るように分かった。

 

「深城」

 

真守が深城の名前を呼んだ瞬間、真守は異変を感じて思わず立ち止まった。

ゴン! という轟音(ごうおん)が世界を軋ませる。

地球の自転エネルギーが束ねられて莫大(ばくだい)な力へと変換されていた。

 

(地球の自転エネルギーが使われて、……自転が五分ほど遅れて…………──っ!?)

 

惑星の回転エネルギーを誰かが奪い取っている。

真守以外に惑星の回転エネルギーを奪い取ることができるのは、ベクトル操作を行える一方通行(アクセラレータ)だけだ。

 

一方通行(アクセラレータ)!!」

 

真守が叫んだ瞬間、真守が振り向いた方向でビルが弾丸のようにはじき出され、複数のビルを紙屑(かみくず)のように倒壊させながら突き進む。

 

そのビルは無人の銀行や役所の建物など軽く二、三軒は次々と吹き飛ばし、通りの向こうにあるビルとビルの間を突き抜けていく。

そして高層ビルの側面に取り付けられていた街灯モニターを(むし)り取り、学園都市の大規模破壊を引き起こしながら二キロ以上は突き進み、『窓のないビル』へと恐るべき速度で直撃した。

 

莫大な音の渦がさく裂して、それが真守の耳をびりびりと焼く。

 

だが。

地球の自転エネルギーを奪い取った一方通行(アクセラレータ)渾身(こんしん)の一撃でさえ、『窓のないビル』には効かず、『窓のないビル』は変わらずに平然とそこに健在していた。

 

(あのビルの建材……)

 

真守は『窓のないビル』を見上げながら心の中で呟く。

 

(あれが衝撃波を最適な振動で威力を相殺しているのは分かっていた。……だがあそこまで行くとあれは最早ベクトル変換の領域だ。そんな技術に対抗するためには『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』くらいのスパコンがなければ無理だ。そんな大層な装甲技術をふんだんに用いるなんて……。統括理事長はどれだけ技術を隠匿しているんだ……?)

 

真守は呆然としていたが、自分のやるべきこと、深城を助け出すことを思い出した。

 

一方通行(アクセラレータ)。待ってて、深城を取り戻したらすぐに行くから……っ!」

 

真守は地面を蹴って空中へと踊り出ると、深城のもとへと急行する。

人々がまったくいない街中を駆け抜けて、真守は愛しい少女を取り戻しに向かう。

 

 

 

 

「深城っ!!」

 

真守は上空から深城の姿を認識して声を荒らげた。

深城は横断歩道の真ん中で雨に打たれて立ち尽くしていた。

そんな深城は真守の声を聞いてそっと振り返った。

 

「みし、────……っ!」

 

深城は笑っていた。

柔らかく寂しそうに。

それでも自分を見ていつものように無償の愛を与えて、人を骨の(ずい)まで甘く()かしてしまうような笑みを浮かべていた。

 

 

「────、」

 

 

そして、真守へと一言だけ告げて──。

 

 

 

源白深城は天使へと変わり果てた。

 

 

 

真守は自らに向かってきた衝撃波によって吹き飛ばされ、体勢を空中で立て直そうとするが、威力が殺せずにビルへと背中から直撃した。

 

「がはっ!!」

 

深城の攻撃は何故か真守に通る。それは九月一日に分かっていたことだった。

だから真守の全身に衝撃波が入り、真守はビルに叩きつけられた。

 

背中を打ったことで息が上手くできなくて空気を求めて(あえ)ぎ、真守はそのまま地面に落下する。

 

真守を吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃波は、辺りのアスファルトを次々と(めく)って粉々に砕いた。

深城を中心に衝撃波でクレーターが出来上がる中、その衝撃波は辺りのビルの窓ガラスを一斉に叩き割った。

そしてビルの外壁部にさえヒビを入れて亀裂を走らせ、剥がれたコンクリートが瓦礫として地面を叩いた。

 

真守は破壊の限りが尽くされたその場で、懸命に体に力を込めて立ち上がる。

 

 

そして、目の前で天使になり果てている深城を視界に入れた。

 

 

頭はグラッと垂れ下がっている。

 

半開きの口からは舌がだらりと垂れ下がり、見開かれた眼球はふらふらと文字を追うように視点が定まらずに震えている。

顔を()らす雨水と(よだれ)が混ざり合ってぼたぼたと地面に零れ落ちていた。

 

そして次の瞬間、ぶわんと頭の上に直径五〇センチほどの輪が浮かび上がり、それが直径を狭めたり広げたり不規則に動いている。

輪の外側には突然鉄串が吐き出されて、それが高速で短くなったり長くなったりとがしゃがしゃと音を繰り出していた。

 

真守は変わり果てた深城を見つめて呆然としていた。

 

ふらふらとしながらも踏ん張ってその場に立つ。

そして雨に打たれて分からないが、ぽろぽろと涙を(こぼ)した。

 

「ははっ…………」

 

そして力なく笑うと、深城の背中から飛び出している翼を見上げた。

 

一本一本が一〇メートルから一○○メートルにも及び、天上の意志を(おとし)めて凌辱(りょうじょく)し、反逆するかのように。翼は悠々自適に広がっていた。

次々と人々が精巧に造り上げた構造物を食い破り、その翼は全てを破壊し尽くさんとしている。

 

世界の(あるじ)は人間ではなく、この自分であると語るかのように。

傍若無人に、その巨大な水晶で編まれた孔雀の羽根のような翼は天高く自由に広がっていた。

 

そして真守はその向こうに見えない力の渦を感じた。

アレは自分のために用意されたものだ、と真守は分かっていた。

 

 

 

自分を絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)させるための力の塊だ、と理解していた。

 

 

 

「……………………おかしいと、思った」

 

真守は自分の身に叩きつけられる雨を感じながら呟く。

 

 

「だって、今日はすごく幸せだったから」

 

 

本当に、今日は天国にでもいるのかと思うほどに降伏の絶頂に立っていた。

 

自分が何よりもかけがえのない日常だと思っている学校に通って。

午後にはこの世で一番大好きな男の子とデートをして。

デートをしている最中に、自分にとってかけがえのない大事な人たちにたくさん会えて。

そして、大好きな男の子が未来を約束してくれた。

 

本当に幸せだった。

 

 

まるで、全てが仕組まれていたかのように、幸せの絶頂に立っていた。

 

 

「……………………でも、よかった」

 

真守は今日の幸せな時間を思って、そう呟く。

 

「最後に幸せでいられて、よかった」

 

真守は自分の右手の薬指に光っている精緻な模様が描かれた指輪を指から抜いて、その手に取る。

そして両手で大事に扱って、胸の前でぎゅっと握る。

──先程、深城は自分にこう言ったのだ。

 

『そばにいるね』

 

そばにいて。じゃなくて、そばにいるね。

深城も分かっていたのだ。

 

 

ここが、朝槻真守の人としての終わりだと。

 

 

きっと、この学園都市の静けさも垣根に連絡が取れないのも。

全部、きっと。

学園都市が朝槻真守を絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)するために用意した舞台なのだろう。

そうとしか、思えなかった。

 

じわじわと上空に集まった力の(うず)となっているAIM拡散力場から、人々の願いや祈り、そして悪意や憎悪が神を求めていると真守には分かった。

それは、打ち止め(ラストオーダー)によって真守に力を与えるようにと、(うなが)されていた。

 

真守はそこで携帯電話を取り出す。

操作しようとすると、誰かから着信があったのに気が付いた。

その番号は、確か上条当麻の電話番号だった。

 

真守はもしかしたらどこかで上条当麻が学園都市と戦っているかもしれない、と小さく笑うと、そのまま彼には連絡をせずに携帯電話を操作してどこかへと電話を掛けた。

 

 

「──。────、──」

 

 

真守のその声は雨音と天使から放たれる轟音(ごうおん)にかき消されて聞こえなかった。

 

だがそれでも。きちんと電話の相手には伝わるはずだと真守は信じた。

 

そこで真守は振り返って学園都市の厚い雲に(おお)われた空を見た。

そして、じぃっと見つめてから両手を空へと伸ばす。

そして垣根からもらった指輪を、ゆっくりと指から外して天へと(ささ)げるように(かか)げた。

 

 

そして能力を開放すると、自分が生み出したエネルギーに垣根から貰った大事な指輪をそっと乗せて、指輪を宙へと放った。

 

 

学園都市の雨空に(まぎ)れて、その指輪はあっという間に見えなくなる。

 

これは、賭けだ。

でも、きっと勝てる賭けだ。

 

真守はそう思って深城の方を向く。

 

深城はずっと、うわごとのように繰り返している。

先程から、ずっと自分の名前を呼んでいる。

 

真守はそんな深城を見つめて、涙をぼろぼろと流して。

それが自分に降りしきる雨が自分のセーラー服を濡らしているのか、分からないまま。

 

 

それでもふにゃっと、幸せそうに微笑んだ。

 

 

そして。

 

朝槻真守は。

 

 

 

人間を、辞めた。

 

 

 

 

 

──────…………。

 

 

 

──虚数学区・五行機関が部分的な展開を開始。

 

──該当座標は学園都市、第七学区のほぼ中央地点。

──理論モデル『源白深城』をベースに、追加モジュールを上書き。

──理論モデル、内外ともに変貌を確認。

──妹達(シスターズ)を統御する上位個体『最終信号(ラストオーダー)』は追加命令文(コード)を認証。

──ミサカネットワークを強制操作することにより、学園都市の全AIM拡散力場の方向性を人為的に誘導することに成功。

 

──第一段階は完了。

──物理ルールの変更を確認。

──これより、学園都市に『ヒューズ=ミナシロ』が出現します。

──関係各位は不意の衝撃に備えてください。

 

──続いて第二段階。

──虚数学区・五行機関という『界』構築を確認。

──学園都市の二三〇万人の『信仰』を確認。

──『ヒューズ=ミナシロ』という人造天使、出現確認。

──学園都市に『神殿形成』を確認。

 

 

──『人造神霊(デウスエクスマキナ)』、顕現します。

 

 

──関係各位は不意の衝撃に耐えて下さい。

──関係各位は不意の衝撃に耐えて下さい。

──繰り返します、関係各位は…………。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

夜の学園都市は、雨に包まれていた。

 

普段と比べて極端に交通量の少ない道路には光も(とぼ)しく、建物すら同様で閑散としていた。

街の住人が全てどこかに出かけてしまったかのようなゴーストタウン。

それでも、最先端の科学の街である学園都市は美しくかった。

 

そんな学園都市から世界を揺るがす衝撃が放たれ、それが世界を包み込んだ。

 

新たな時代が到来する。

 

人々が神に隷属(れいぞく)する時代が終わり。

 

 

(しるべ)』に導かれ、人間一人一人が神へと至る時代の黎明(れいめい)期が、今到来した。

 

 

それは(すなわ)ち。

オシリスの時代(アイオーン)から、ホルスの時代(アイオーン)への。明確な移行だった。

 

 

世界に散らばる全ての聖職者たちはその世界の変貌に恐れおののく。

 

だが一部の人間は世界の変貌に舌なめずりをした。

 

この機に乗じて世界を我が手中に収めようと考える者たちは、ぎらぎらとした野望を目の奥に秘めて、移ろいゆく世界を獰猛(どうもう)に笑って眺めていた。

 

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