とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二二話、投稿します。
次は一二月二〇日月曜日です。


第一二二話:〈真理変化〉がもたらされて

上条当麻は、夜の学園都市を走っていた。

 

美琴と罰ゲームで地下街を連れ回されていた上条だが、そこでインデックスが自分を探して地下街まで一人でやってきた。

話を聞けばインデックスはどうやら親切な人にハンバーガーを食べさせてもらったらしく、その時に借りたポケットティッシュを『最新鋭生活日用品』と過大評価し、返さなければならないと言って慌てて走っていった。

 

インデックスを探して上条が地下街から地上に出ると、やけに警備員(アンチスキル)の数が多いのが気になった。

 

そんな大人数の警備員(アンチスキル)が上条の前で一斉に昏倒した。

 

何が起こっているのか訳が分からなかったが、そこに突如検体番号(シリアルナンバー)二○○○一号、打ち止め(ラストオーダー)が現れて『知り合い』を助けてほしいと言ってきた。

 

どうやらその『知り合い』と打ち止め(ラストオーダー)は襲われたらしく、襲われた現場に戻ると、そこには打ち止めとその『知り合い』を襲ってきた組織の仲間が現れた。

 

必死でファミレスまで逃げていた上条と打ち止め(ラストオーダー)だったが、そこにローマ正教最暗部、『神の右席』前方のヴェントを名乗る女性が現れ、襲い掛かってきた。

 

前方のヴェントはローマ教皇直々のサイン付きの書類を取り出し、『上条当麻の暗殺』と『朝槻真守の根絶』が決定されたと宣言。

 

上条はオルソラ=アクィナス救出、大覇星祭の『使徒十字(クローチェディピエトロ)』、そしてイタリアでの『アドリア海の女王』の撃破など、ローマ正教の暗躍を(ことごと)く打ち破ってきたため標的にされた。

だが真守は大覇星祭の時、一度しかローマ正教と敵対していない。

 

上条がその理由を問うと、天使を経て神へと、そしてその先へ至ろうとしているからだと言った。

 

『神の右席』として朝槻真守の()り方は看過できないと前方のヴェントは言った。

『神の右席』だからこそ、看過してはならないとも。

 

彼らの根本的な部分に真守が関わっていると上条は知ったが、それ以上ヴェントは何も言わずに攻撃を仕掛けてきた。

 

なんとか打ち止め(ラストオーダー)を逃がして前方のヴェントを退却させた上条は、打ち止めが落としていった携帯電話を拾って(かた)(ぱし)から彼女の知り合いに電話を掛けた。

 

電話に出たのは一人だけ。どこかで聞いた事があるような声だった。

 

上条は打ち止め(ラストオーダー)を逃がしたことを簡潔に告げて、電話の相手が打ち止めの言っていた『知り合い』だと知った。

 

『知り合い』が言うには、第七学区の一番大きな鉄橋が何かあった時の打ち止め(ラストオーダー)との合流地点らしい。

そのため上条はその『知り合い』との連絡を終えて、鉄橋へと向かっていた。

 

いつか、命を捨ててでも『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』を止めようとした美琴を助けると誓った鉄橋。

 

そこに向かいながら真守に連絡を取ったが、真守は電話に出なかった。

 

「なっ……テメエ!!」

 

上条は真守の心配をしながらも、鉄橋で口に手を当てて前かがみになっているヴェントを見つけて声を上げた。

 

「何でテメエがここにいる! 打ち止め(ラストオーダー)をどこにやった!?」

 

ヴェントはゆっくりと振り返って獰猛に嗤った。

 

「ラストオーダーだぁ? 知らねえんダヨ、そんなモンは!!」

 

ヴェントが叫んだ瞬間、凄まじい閃光が(ほとばし)った。

 

視界が塗りつぶされて何も見えなくなる中、頑丈な鉄橋が吹き飛ぶのではないのかという衝撃がその凄まじい閃光から噴き出した。

 

上条はその衝撃に吹き飛ばされてごろごろと地面を転がる。

そして吹き飛ばされた先で上条は懸命に目を開き、ヴェントはどうしているのかと警戒して辺りを見回した。

ヴェントは鉄橋の手すりに両手をついて、ハンマーを脇に置いてその光の根源を食い入るように見つめていた。

 

「あの野郎……アレイスターッ!!」

 

ヴェントの怒りを超えた殺意の(こも)った声を出す。。

 

「これが……これが虚数学区・五行機関の全貌ってコトか!!」

 

ヴェントはハンマーを手に取ると、上条にむき出しの敵意を向けた。

 

「テメエみたいな小物は後回しだ。……殺してやる。ナメやがって、そうまでして私たちを(おとし)めたいかぁあああああ────!!」

 

その咆哮と共に、ヴェントはハンマーを思いきり足元へと叩きつけた。

アスファルトがその衝撃波によって(めく)れる。

 

上条は両手で顔を守ったが、次の瞬間ヴェントは消えてしまった。

何が起こったか分からずに、上条は光の根源を見上げる。

 

そこには、天へと高く高く伸びた翼が広がっていた。

 

上条当麻は知っている。

非科学極まりない、死の気配を濃密に(ただよ)わせてくる見た者を戦慄(せんりつ)させる気配。

世界を破壊する術式を使い、片手間に聖人をいともたやすく葬り去ろうとした存在。

 

「まさか……天使!?」

 

上条が叫んだ瞬間、空間が胎動した。

 

「!?」

 

天使がいるであろう場所。

 

 

そこから、何かがこの世に生まれ落ちた。

 

 

世界そのものが揺さぶられる。

 

空は相変わらず雨雲に(おお)われているはずなのに、その(にび)色が紫、赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫、赤と繰り返すように何度も塗り替えられて行く。

 

先程の天使が出現した時は、戦慄(せんりつ)するような気配だった。

 

だが今度は、存在そのものを跡形もなく消し飛ばされるかもしれないという予感がじわじわと上条を侵食してきた。

 

「…………ッ!!」

 

上条は思わず立っていられなくなった。

 

何かが起こっている。

学園都市で天使とは比較にならない、おぞましいとさえ言えない程の何かが産声を上げたのを感じた。

 

 

そして次の瞬間、天使から破壊の一撃が放たれた。

 

 

それは学園都市の外へと生物的な動きをしてうねりを上げて飛んでいき、それが直撃した森の土と木と、それと人々が高々と上空へと巻き上げられた。

 

残像でしか見えない程の破壊力が凄まじい一撃。

 

その直後、爆音が衝撃波のように全身に振りかかり、上条は何が起こっているのか分からないが、それでも身を守るために地面に張り付く。

 

(ちくしょう……打ち止め(ラストオーダー)のことも心配だが、あんなものが好き勝手に動き回ったらそれだけで学園都市は崩壊しちまう……それに、さっきから俺の存在そのものを揺るがすような悪寒が抜けない……ちくしょう。……どうにかしなくちゃならねえ……!!)

 

上条はそこで自らを奮い立たせる。

本来ならば自身の存在を揺らがされたら立ち上がることなど不可能だ。

だが彼は、自分を取り巻く世界を守るためならば何度だって立ち上がれる。

自分のために周りの人間を守るために、神さまにだって立ち向かえる。

だから上条は、ガクガクと震える足に力を入れて二本の足でしっかりと立つ。

 

(打ち止め(ラストオーダー)……まずは『知り合い』に連絡しなくちゃならねえ……!)

 

上条は打ち止め(ラストオーダー)の携帯電話を(いじ)って連絡を取る。

 

「なぁ! 鉄橋まで来たけど、打ち止め(ラストオーダー)はどこにもいなかった! そっちは見つかっ、」

 

〈バカじゃねェのか!? 本当に信じてンじゃねェよ!!〉

 

『知り合い』が出たと思ったら、上条はいきなり怒鳴られて面を食らう。

 

〈あのガキの居場所はもォすぐ突き止められそォだ。少なくとも、闇雲に街を走り回って見つかるトコにはいねェよ。後はこっちでやる。オマエはさっさと帰れ!!〉

 

「……、悪い。お前、今の状況分かるか? 町の一角に、すげぇ光と一緒に、何十本って翼が湧き出てるのと、その後に自分の世界を揺るがすような衝撃を……」

 

〈……学園都市の外周に向けて、何かを撃ってやがったヤツと、世界をおかしくしちまった『何か』だな?〉

 

『知り合い』もあの世界改編と(すさ)まじい一撃を見ていたのだと上条は理解して、静かに頷いて決意を口にする。

 

「俺は、あの『天使』と生まれた『何か』を止めなくちゃならない。だから本当に、アンタと協力するのは難しくなる」

 

〈構わねェ〉

 

「……悪い。──死ぬなよ」

 

〈互いにな〉

 

上条はそこで電話を切ると、顔を上げた。

 

ビルを倒壊させた『天使』と生み出されて未だに世界を食い荒らそうと胎動する『何か』──それらがあるであろう場所を見つめていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

インデックスは土砂降りの中、走っていた。

 

『最新鋭生活日用品』を返しに行った自分を助けてくれた親切な人は、ずっと迷子を捜しているようだった。

その迷子を捜すのを手伝うと言ったら、いつも上条が入院する病院に行って『ミサカネットワーク接続用バッテリー』を持ってこいと言われた。

 

だがそんなものはなく、病院にいる人間が避難することとなりインデックスも一緒に避難することになった。

だがじっとはしていられない。

学園都市に『天使』が出現したのだ。

 

インデックスの中にある一〇万三○○○冊の『知識』でも全く理解ができないあの『天使』。

 

(止めないと……あれを止めないと大変なことになる)

 

それにインデックスには気になる事がある。

あの世界を塗りつぶさんとする何かの産声。

 

あれは普通の人が感じたならば発狂するレベルのものだ。

 

実際に病院関係者の中には失神する者も現れて、その対処に追われた際にインデックスは飛び出してきたのだ。

不気味なほどに静まり返った街を土砂降りの中、インデックスは走り続ける。

 

「……え」

 

インデックスは思わず立ち止まる。

 

『天使』の翼はまるで何かを(いた)わるように鳴いている。

その『天使』に呼応するように生まれた『何か』はその存在を揺らめかせている。

『天使』と生まれ落ちた『何か』。

 

あの互いが互いを必要としているが故に確かな絆で結ばれている二人を、インデックスは知っている。

 

「みしろと……まもり?」

 

インデックスは修道服を(ひるがえ)して再び走り出す。

二人がいるであろう場所に、何が起こっているのかを知るために。

 

自分たちの望みであんなことをやっているはずがない。

自分を助けてくれたあの優しい彼女たちが世界を引き裂くようなことをしたいと望むはずがない。

インデックスが走っていると、突然ガッと腕を掴まれた。

 

「ちょ、ちょっと! アンタこんなトコで何やってんのよ! 危険だって分かんないの!?」

 

「離して!!」

 

インデックスは振り返らずに、その声が御坂美琴だと知って叫んだ。

 

「行かないと。あそこにはみしろとまもりがいるの。どうしているのか知らないけど、止めないと。あそこにいるのは私の大切な友達なんだよ!」

 

「待って、朝槻さんとあの人が!?」

 

「とうま!!」

 

美琴が驚きの声を上げた時に、インデックスは一〇〇メートルぐらい先の曲がり角から上条が現れたのでインデックスは声を上げた。

 

「ダメだよ、とうま! みしろとまもりを殺さないでッ!!」

 

インデックスの悲鳴のような声が夜の学園都市に響く。

かたわらで聞いていた美琴は何故彼女がそんなことを口走ったのか分からなかった。

だが美琴にも分かることがある。

 

朝槻真守と彼女が連れていた源白深城という少女に何かあったということを──。

 






長くなるのでここで一旦切ります。


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