とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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一二三話、投稿します。
次は一二月二一日火曜日です。


第一二三話:〈代替不可〉な友人のために

「ダメだよ、とうま! まもりとみしろを殺さないでッ!!」

 

上条はインデックスの声を聞いて硬直してから二秒くらいかけてゆっくりと振り返った。

そして美琴とインデックスを視界に入れて、二人が駆け寄ってくるのを見た。

 

上条は鉄橋でヴェントを見失ってから『天使』と『何か』を止めるために、ずっと走っていた。

その最中に打ち止め(ラストオーダー)を追っていた黒ずくめの連中と鉢合わせしてしまい、逃げていたのだ。

 

上条は彼女たち二人の腕をガッと掴んで路地裏へと入り込む。

黒づくめの連中がそこまで来ているからだ。見つかったらマズい。

 

そして上条の懸念通り、先程まで自分たちがいた場所に黒づくめの集団がやってきた。

上条は息をひそませて黒づくめの集団を(うかが)う。

 

するとインデックスが上条の手に(すが)りついて叫んだ。

 

「お願い、とうま。あそこには行かないで。どういう理屈かは私にも分からないけど、あそこにいる『天使』と『何か』はきっとみしろとまもりなんだよ。あれは絶対に止めなくちゃいけない現象なんだけど、でもとうまだけは関わっちゃ駄目! とうまが触ったら、善悪なんて関係なく二人が消えちゃうんだよ!」

 

「な、んだって……!?」

 

上条は『天使』が伸ばしている翼を見つめ、そして生まれ落ちた『何か』について考える。

先程生まれ落ちた存在は世界の根幹を揺るがすようなものだった。

世界の根幹を揺るがすなんて普通の存在ではない。

神が誕生した、と言ってもいいだろう。

 

上条はそこで思い当たることがあった。

妹達(シスターズ)を救うために真守が調べた『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の概要。

そこには、真守と一方通行(アクセラレータ)だけが安定して絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)することができると書いてあった。

絶対能力者(レベル6)とは神と同義だ。

 

『天使』と『何か』が深城と真守。

 

その何かはもしかしたら『天使』を遣いとする『神』なのではないのだろうか。

 

(だ、……だから、朝槻に連絡が付かなかったのか……!?)

 

上条は愕然として携帯電話を取り出して操作するが、そこには真守からの着信はない。

当然だ。上条の推測で行くと、朝槻真守は『神』となって遠くへ行ってしまったのだから。

 

「とうま。あのふたりは私がなんとかするから。だから、手を出さないで……!」

 

「駄目だ」

 

「とうま!!」

 

上条のきっぱりと言い放った言葉にインデックスが悲鳴を上げると、上条は宣言した。

 

「二人は俺が止める。それに、問題はあれだけじゃない。お前だけには任せられない」

 

「でも、とうまの右手を使ったら二人に何が起こるか分からないんだよ! もしかしたら死んじゃうかもしれない!!」

 

インデックスの悲鳴のような主張に、上条は叫ぶように声を荒らげて反論した。

 

「死なせねえよッ!! 殺すためじゃねえ! 二人を助けるために立ち上がるっつってんだ! あんなのは普段の二人じゃねえ!! 何かが起きちまったからあんな風になっちまってんだよ!! だったら助けないと駄目だろうが!! ふざけんな。俺の大事な友達を助けるのに、いちいちお前の許可なんて必要ねえんだよ!!」

 

インデックスは上条の怒りを聞いて口をパクパクとさせるが、上条は構わずに続ける。

 

「俺には『天使』がどうだの、魔術的な仕組みだのは分からない。だからお前の知識が必要だ。でも、今二人に絡んでいるのは確実にAIM拡散力場だ。だからお前にも分からないことがあるかもしれない。だったらそっちは俺も手伝える。俺たちなら二人を助けられる!!」

 

上条の言葉は土砂降りの雨音を感じさせなくなるほどに力強い言葉だった。

そして上条はインデックスに今一度確認を取るために、真剣な表情でインデックスを射抜いた。

 

「今日一日、街じゃ色んな事が起きた。正直、俺にはいまだに全貌が掴めない事ばかりだし、解決の糸口だって分かんねえ。でもやらなきゃならねえことは分かってる! 二人を助けるのは俺たちだ! 違うか!?」

 

上条は自分たちの友達に対して、殺すとか殺さないとか言うインデックスに怒っていた。

そしてそんなことを考えているインデックスの目を覚まさせるために、上条はインデックスに手を差し伸べた。

 

「行くぞ、インデックス。二人を助けるためにお前の力を貸してくれ!!」

 

インデックスはその手を迷いなく取った。

それを見ていた美琴は眉をひそませる。

 

「ちょっと! 私を無視してんじゃないわよ!!」

 

美琴がいきなり怒鳴り上げたので、インデックスの手を取りながらびっくりした上条はそのまま美琴を見た。

 

「朝槻さんとみしろ? さんが関わってるなら私も手伝う! 朝槻さんには私だって世話になってんのよ、絶対に救ってみせる!!」

 

美琴はそこで振り返って、自分たちがいる路地裏へと入ろうとしている人間を電磁波を用いたレーダーによって感知し、前髪からバチバチと電気を走らせる。

 

「だからアンタたちは助けにいきなさい。こっちはなんとかするから──っ!!」

 

美琴はポケットからゲームセンターのコインを取り出して弾く。

そして美琴は自身の能力の名前にもなっている超電磁砲(レールガン)を放った。

音速の三倍で放たれたソレを、美琴は黒ずくめの集団を殺さないように調節し、衝撃波だけで彼らを吹き飛ばした。

 

「御坂ッ!!」

 

「罰ゲームよ!!」

 

突然美琴が大覇星祭での賭けを持ち出してきたので、上条は訳も分からず声を上げる。

 

「何だって!?」

 

「何でも言う事聞くって言ったでしょ!? 今日一日はまだ有効だからね、アンタは私があの二人を助けるのを手伝いなさい!! 破ったら承知しないわよ!」

 

「……ああ、必ず守る! だからテメエも死ぬんじゃねえぞ!!」

 

上条は美琴の言葉に力強く頷くと、インデックスと走り去った。

 

「あーあ。罰ゲームをこんなことに使っちゃって。まあ、いいか。朝槻さんのためだものねっ!」

 

美琴は一人失笑するように呟くと、自分に複数の銃口を向けてきた黒づくめの連中を見た。

 

「逃げないってんなら、それなりに死ぬ気で来なさい! あの二人を助けるのに邪魔をするならねっ────!」

 

 

 

──────…………。

 

 

 

上条とインデックスは走りながら会話をする。

 

「ねえ、とうま。さっきから町が静かなんだけど、これって何なの? みしろとまもり以外にも、なんだか別の魔力の流れを感じるんだよ!」

 

「ああ。静かなのは多分みんな気を失っているからだ。この街に入ってきた魔術師のせいでな! あいつの攻撃の仕組みも知りたい。皆を起こす方法があるならそいつもだ!」

 

インデックスは上条の説明を聞いてしばし沈黙する。

 

「多分……それは『天罰』だよ」

 

「なんだって?」

 

そして敵の魔術の正体を看破して告げると、上条はそれに首を傾げた。

 

「ある感情を鍵にして、その感情を抱いた者を、距離や場所を問わずに叩き潰す。だから神さまの『天罰』。……とうま、その魔術師はそういうそぶりを見せなかった?! 必要以上に、特定の感情を誘導するような!!」

 

「特定の感情?」

 

上条はそこで前方のヴェントを思い出す。

挑発するような言動。

反発心を持たせるような化粧やピアス。

民間人を狙って放たれた攻撃の数々。

 

「……嫌悪感? いや、敵意や悪意……? まさか、そいつが天罰術式の発動キーなのか!?」

 

「多分、その天罰術式には敵意に応じた段階があるはずだ。意識を奪ったり、肉体を縛ったり、外部からの干渉すら封じる。でも、どの段階であっても喰らえば終わり。魔術師が『天罰は必要ない』と判断するまで、絶対に昏倒した人は起きないと思う!」

 

「そんなのできんのか。魔術ってのはそこまで便利なのか!?」

 

インデックスから凶悪過ぎるヴェントの魔術の全貌を聞いて上条が驚きの声を上げると、インデックスは即座に首を横に振った。

 

「普通ならできないよ! 私の一〇万三○○○冊にもそんな記述はない。でもこの現象を言い表すならばそれしかないんだよ。……『天罰』ってのは天が与えるもの。ただの人の力でなんとかできるはずがないんだよ!」

 

「あの野郎、じゃあ一体どういう手法でそんな魔術使ってんだ!?」

 

上条が怒りの声を上げると、インデックスが慌てて上条を止めた。

 

「待って、とうま! 今の話が本当なら、私にその魔術師の素性を話さないで! 今の私の『歩く教会』は法王級の防御機能が失われているから、とうまと違って私だって天罰術式にかかっちゃうんだよ!」

 

「じゃあ源白の『天使』の仕組みはどうなってる。それと朝槻もだ! なんであいつらはあんなになっちまったんだ!? 『天罰』と関係あるのか!? 単なる現象の暴走じゃなくて、『天使』なんて明確な形になってる理由は!?」

 

上条が怒鳴り声に近い疑問を口にすると、インデックスはふるふると首を横に振った。

 

「分かんないよっ! 私の頭の中にある魔導書と、外観や仕組みだけならよく似てるの。でも使われているパーツが全部メチャクチャ。見た事もないようなものばかりなんだよ! まるで未知の文字で描かれていた壁画を見ているようなもの、絵面からは大体何をやっているか分かるんだけど、その文化性や精神性っていう、『奥』まで踏み込めないんだよ!」

 

「──、」

 

上条はそこで歯噛みする。

きっとオカルトを専門家としているインデックスも悔しいのだろう。

インデックスがいつもと違って声を大きくして興奮している様子なので、上条はそれを理解する事ができた。

 

「少なくとも、あそこにいる『天使』と、それを統率している『核』が別々の場所にあるのは分かるんだけど……」

 

「朝槻の方は!?」

 

上条が問いかけると、インデックスは虚空を睨みながら告げる。

 

「分からない。でも辺りに散らばっている力がまもりに力を貸していることは事実なんだよ! その力がまもりの存在を押し上げた! まるで、まるで人の手で人を人為的に進化させたみたいな──っ」

 

「それは分かってる! 朝槻は絶対能力者(レベル6)にされてんだ! それを戻す手立ては!?」

 

 

「……変わり果ててしまったものを戻す術はないんだよ」

 

 

インデックスの言葉に、上条は意識が空白化した。

 

「ううん。次のステージへと上がった者が、()()()()()()()()()()って言った方がいいかな。だから戻る方法をそもそも作る理由がないの」

 

インデックスの言っていることが分からない上条は、そのままインデックスの言葉の続きを舞った。

 

「人間はいつだって完璧な存在を求める。魔術師はそれを目指して魔術を練り上げる。その(いただき)を目標としたならば、その目標に向かって進み続ける。だから、どうしても手に入れたいと思っていた完璧な存在から元に戻る、なんて発想がもともとないんだよ。だから……」

 

「なっ……!」

 

インデックスの悲しそうな声に、上条は思わず声を上げた。

そして納得してしまう。

 

魔術師だって、人間だっていつも完璧な存在を求めてきた。

でもそれに誰も辿り着いていない。いつだって夢半ばでそれは途絶えてしまうからだ。

だからこそ人がまだ見ぬ世界に踏み込んだ存在を、こちらの世界へと取り戻す術はない。

何故ならそこに行く事こそ全ての人間は目標としていて、そこから戻ろうとする発想を持つわけがないのだ。

 

「でも変わり果ててしまったとしても、まもりはまもりなんだよ。それが絶対に変わる事なんてありえない。それだったら意味がなくなってしまうから。だから真守のところに行かなくちゃ!」

 

「……とりあえず、朝槻は俺に任せろ。お前は源白のことを頼む。何が描いてあるから分からない壁画でも、何が使われているか分かったら解けるんだろ!?」

 

「う、うん!」

 

インデックスが少し自信なさげにしながらも頷くと、上条は携帯電話を取り出して電話を掛ける。

 

(流石に出ないか……っ!)

 

インデックスは先程、使われているパーツが科学だから分からないと言った。

だったら科学の専門家にインデックスに分かるように解説してもらえばいいと思い、その専門家として小萌先生に連絡をしたが、繋がらなかった。

だから上条は携帯電話を操作して違う人物に連絡を掛けた。

 

「御坂ッ!」

 

〈だぁ!! な、なによ!〉

 

美琴は悲鳴に近い怒号を上げながら上条の電話に出た。

 

「どうにかしてあの天使を止めるための知識が必要だ! 確か常盤台中学ってのは大学レベルの講義もやってんだよな!? だからAIM拡散力場のアドバイザーをやってくれ!! お前だけが頼りだ、任せられるか!?」

 

〈ぶっ!?〉

 

美琴が噴き出した瞬間、通話越しに鋭い銃声が聞こえてきたので上条は慌てて美琴に声を掛ける。

 

「お、おい御坂! 撃たれたのか、おい!?」

 

〈違うわよ! ……や、やるしかないんでしょ!? 別のことに頭使いながら戦えって、本当に容赦ないわね、アンタ!!〉

 

美琴が了承したと知ると、上条はインデックスに美琴と連絡を取っている携帯電話を突き出して告げる。

 

「よし、じゃインデックス。俺の電話はお前に預けておく。なんか分からないことがあったら全部コイツに聞け!」

 

〈ええっ!?〉

 

「?? なんだ、どうした御坂!?」

 

上条が『え』と困惑しているインデックスに携帯電話を渡そうとすると、美琴が通話越しに間の抜けた声を出したので、思わず問いかける。

 

〈いや、えと……その、別にいいけど……でもええーっ!!〉

 

「インデックス、源白のことは任せた。俺は朝槻のところに行く!」

 

上条は美琴の驚きに構っている暇はないと思い、インデックスに携帯電話を押し付ける。

 

「分かった、とうま。まもりをおねがい!」

 

「お互い様だ、そっちも源白を頼んだぞ!!」

 

上条はそこでインデックスと別れてひた走る。

『天使』と『神』が召します場所へ。一直線へと突き進んでいく。

友人を助けるために。

変わってしまった友人を引き留めるために。

上条当麻は、静まり返った学園都市をひた走っていた。

 


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