とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二四話、投稿します。
次は一二月二二日水曜日です。


第一二四話:〈閉塞未来〉を切り拓く

第七学区の、少しだけグレードの高いデパートや有名な企業の建物が軒並みそろっている見慣れた一角。

そこは、廃墟と化していた。

 

地面はアスファルトどころか土の地面すら(えぐ)り取られ、おわん型のクレーターを作り上げている。

半径一〇〇メートルは全ての建物が破壊されており、辺りは怪獣が蹂躙(じゅうりん)したように不規則に壊されていた。

 

前方のヴェントの『天罰術式』で動けなくなった人間は一体どうなったのだろうか。

生き埋めになってもう手遅れになった人間もいるかもしれない。

 

上条がそう思って爆心地へと向かうと、そこに神々しく辺りを青白く染め上げる存在が浮かんでいた。

 

 

『ソレ』は、がんじがらめに動けないように拘束衣で全身を縛られていた。

 

 

拘束衣と言ってもスリットが入った豪奢な白いドレスに黒い拘束バンドを幾つも厳重に体に巻き付けていると言った方が正しく、荘厳な存在をまるで幾重(いくえ)にも縛って身動きを制限しているかのような印象を与えていた。

 

拘束バンドに無残に縛られて美しさを失っている豪奢な白いドレスは、よく見れば純白の結晶によって作られており、パール塗装でも(ほどこ)しているのか表面がキラキラと虹色に輝く。

だが逆に拘束バンドは全てを吸い込みそうなほどの漆黒で、禍々(まがまが)しさを放っていた。

 

その拘束衣から垣間見える皮膚の色は宇宙の(きら)めきを閉じ込めたかのように輝きを帯びていて、それなのに表面は結晶のようにつるりとして、その上に何十本もの虹色に光るラインが走っていた。

 

首元からつま先まで黒い肢体と違い、真っ白な顔はどんな表情をしているか良く分からない。

何故なら顔も両目を隠すようにクロスするように拘束バンドが巻き付けてあり、顔で見えている部分と言ったら真守の生来の小さい口だけだった。

 

顔の大半を(おお)って、拘束チックな目隠しをしていても辺りを認識するのには問題ないのだろう。

その目隠しは力を封じるためのものであり、視界を(さえぎ)る用途に使われていないからだ。

 

髪の毛は身長よりもはるかに長くなっており、その髪は青みがかったプラチナブロンドで、その髪の毛の中には幾つもの星々が燦然(さんぜん)と輝いていた。

 

そんな髪の毛を上から乱暴に押し付けるかのように巻き付けてある拘束バンドの隙間からは、頭を守るかのように右から純白の翼が。そして左からは漆黒の翼が生えており、それが大きく広く展開されている。

 

背中からは五対一〇枚の翼が生えている。

その翼はやはり純白と漆黒を互い違いにした翼であり、向かって右側の五枚が上から一番目、三番目、五番目が漆黒の翼となっており、それ以外が純白。そして左側の翼も二番目、四番目が漆黒となっており、それ以外が純白だった。

頭から生えているのも含めると真守は六対一二枚の翼を(たずさ)えていることになる。

 

そんな互い違いの白黒の翼の後ろには、後光が差し込まれていた。

 

蝶の翅の翅脈(しみゃく)のように空間を侵食するように展開されている蒼閃光(そうせんこう)の後光は、その一つ一つの翅脈が実はすべて小さな歯車の連結によって成り立っている。

その小さな歯車は全て連動するように動いており、数万もの歯車が動くことによって辺りにまるで荘厳な曲のように音を響かせていた。

頭には六芒星の幾何学模様の転輪が浮かんでおり、それは絶え間なく鼓動するかのように命脈している。

 

「朝槻!!」

 

上条は変わり果てた自身の大事な友人の名前を呼び、そこで彼女が(そば)(はべ)らしている天使に目を向けた。

 

真守も真守だが、深城の方はもっと悲惨だった。

 

頭は垂れ下がって半開きの口からは舌がだらりと垂れ下げられているし、そこからはぼたぼたと涎か雨か判断が付かない雫が垂れている。

そして瞳は焦点が定まらないように震えており、その頭には直径五〇センチほどの輪が浮かび上がり、鉄串のような棒がたくさん生えている。それがしゃがしゃと音を立ててその長さを変えて、全体的に天使の輪は黄金色に輝いていた。

そして、その丸まった背中からは、やはり孔雀のような天使の翼が生えていた。

 

「くっ……朝槻! 分かってんだろ、朝槻!!」

 

上条は深城を見つめてから歯ぎしりし、真守へと必死に声を掛ける。

 

「俺だ、上条当麻だ! お前が友達だって言ってくれた人間だよ!! 分かってんだったら返事してくれ、なあ!!」

 

上条が真守へと叫んでいると、誰かがそこに現れた。

 

「ふざ……けてんじゃないわよォおおおおおお────!」

 

「!?」

 

上条が怒号に振り返ると、そこには前方のヴェントが立っていた。

前方のヴェントは殺意も敵意も嫌悪も悪意も、この世の全ての嫌悪されるべき感情を真守に向けていた。

 

「どこまで……っどこまで私たちを(おとし)めれば気が済むのよ!! 十字架を(かか)げる全ての人々をあざ笑ってそんなに楽しいか!? なんとか答えやがれよ、なあ!!」

 

前方のヴェントは真守に向かってハンマーを振り上げる。

そして自分の舌から伸びている十字架を思いきり叩きつけて衝撃波の弾丸を弾き出した。

真守は、動かなかった。

 

「朝槻!!」

 

上条が叫ぶ中、その衝撃波の弾丸はしなるように振り下ろされた深城の天使の翼から(こぼ)れ落ちた光によってはたき落とされる。

そしてまるで自動迎撃システムが作動したかのように、前方のヴェントに向かって翼の一本がひゅっと伸ばされる。

 

「ヴェント!!」

 

あの翼に攻撃されたらひとたまりもない。

上条がヴェントの安否を心配して叫ぶが、深城から出ている天使の翼を幻想殺し(イマジンブレイカー)によって打ち消せば深城が死んでしまう。

上条がどうすればいいか思考が停止した瞬間、真守はそれまでいた場所から消えた。

 

まるで空間移動(テレポート)するかのようにヴェントを庇うために現れると、真守は深城がヴェントに向けて放った翼を受け止めた。

 

凄まじい衝撃波がまき散らされてヴェントと上条はその場から吹き飛ばされる。

 

そんな二人の前で真守はその翼をきちんといなして、空へと天高く伸ばされた他の翼に()わせるようにヴェントを自動迎撃しようとした翼を群れに戻した。

 

すると真守が群れに戻した翼以外の一つが蛇のようにしなり、そのまま第二波を学園都市外へと放った。

 

再び爆風が辺りを席巻し、周りのビルを瓦礫へと変えていく。

衝撃波によって吹き飛ばされた上条はクレーターに降りていたので、そのクレーターの壁となっている所に激突する。

 

「がっ!!」

 

上条は叩きつけられた衝撃でカハッと息を吐く。

 

(ヴェ……ヴェントは…………?)

 

もう無茶苦茶だった。

無茶苦茶な力が辺りを呑み込み、学園都市を灰にしていく。

 

本当にあれを止める事ができるのだろうか。

インデックスがどうにかする前に全てが終わるのではないのか。

 

上条がそう考えながら咳を何度もしながらヴェントの姿を探ると、ヴェントは近くのビルに衝撃波で吹き飛ばされ、クレーターを作った場所から垂直に下ったところ、つまりビルの足元にいた。

 

そしてヴェントの前にはいつの間にか、真守が空中に浮いて(たたず)んでいた。

 

真守はスッと右手を前に突き出して返すと、くいっと人差し指で引っ掛けるような挙動をして何もない空中を掴んで引っ張り上げた。

その瞬間、ヴェントの舌についていたピアスが音もなく、ヴェントにダメージを負わせない形で綺麗に外れた。

 

そして長い鎖に繋がれた十字架はヴェントが掴んで取り戻す暇もなく、真守の手元に引き寄せられる。

 

その十字架を真守は右手で人差し指と親指で挟むと、次の瞬間パキンッと軽い音を立てて粉々に砕いた。

 

「………………ッ!!!!」

 

ヴェントは怒りを(あら)わにするが、頭に血が(のぼ)りすぎて逆に何も言えなくなってしまった。

 

真守は『天罰術式』を破壊しただけだ。

だがそれでも、その破壊の仕方が十字教への宣戦布告だった。

 

お前たちが(かか)げた十字架など、意味がないと。

その救済に(すが)っても仕方がないと。

 

そんな、十字教の全てを否定するようだった。

 

「…………こ、殺してやる…………っ!!」

 

敬虔(けいけん)な信徒であるヴェントは真守を睨み上げながら怒りで肩で息をする。

獣のような息遣いが響く中、真守は無言だった。

そして興味を失くしたのか、ヴェントに背を向けてすぅーっとその場から立ち去る。

 

無防備な背中を見せているように見えるが、ヴェントにはそう見えなかった。

 

何故なら真守の背負っている後光が凶悪だからだ。

 

あれに触れたら立ちどころにその存在を抹消される。

神を後ろから刺すことなど許さないとして。

存在を抹消されて、この世にいた痕跡すらも残してもらえない。

 

人間の存在を脅かす恐怖にヴェントが殺意を向けている中、真守は上条の前へとやってきた。

 

「……朝槻、俺が……分かるか?」

 

真守は応えないが、それでも上条は自分の心に流れ込んでくる真守の感情の色を言語的に(とら)えて理解できた。

 

『『分かる』』

 

その言葉が理解できて、上条は目を見開き、真守を呆然と見上げる。

 

「……大丈夫、なんだな?」

 

『『何も、問題ない』』

 

上条は真守の言葉を聞いて安心した。

分かる。朝槻真守は神へと至ろうが何も変わっていないと。

思考が人のソレから離れようと、根本的には優しい、朝槻真守のままで変わっていないのだと。

上条はそう感じることができた。

 

「そっか……………………良かった……」

 

「何も、よくねえんだよォ────っ!!」

 

上条が安心した時、ヴェントが真守に飛び掛かってきた。

 

真守に敵わない事は分かっている。

でもそれでも、十字教の神を信仰する信徒として譲れないものがある。

 

そんな決死の覚悟をしたヴェントを、真守は身じろぎせずに吹き飛ばした。

ヴェントはそのままビルに再びクレーターを作って地面に落ちると、そのまま沈黙する。

 

真守は初めてヴェントの方を振り返って、そんなヴェントへと手を伸ばした。

蒼閃光(そうせんこう)のような煌めきが発されて、それは空気に解けるように消えていた。

 

真守の手の先、そこでヴェントはしかめていた顔をフッと(ゆる)めた。

まるで、良い夢でも見てるように──。

 

「朝槻……?」

 

『『問題ない。少し(ほぐ)してやっただけだ』』

 

真守の言葉の意味が理解できない上条だったが、敵として現れたヴェントの心を気遣っているのだと上条は気づいて、柔らかく表情を弛緩(しかん)させる。

 

「って……安心してる場合じゃない! ここら辺の人たちの救助をしないと!!」

 

『『大丈夫。誰も殺してない。死なないようにした』』

 

「誰も殺してない…………っ!?」

 

上条は真守の言い分にそこで周りを見渡して驚愕(きょうがく)した。

辺りには確かに多くの学生や大人が倒れこんでいた。

だが、その誰もが気絶しているだけで致命傷を受けているような外傷が見受けられない。

 

「お前……守ってたって言うのかよ?」

 

『『深城に、罪は似合わない』』

 

「そうか。……お前は大丈夫そうだけど、源白はどうなってんだ?」

 

上条が問いかけると、真守は初めて深城を視界にとらえた。

 

『『自分の意志じゃない。だから、助けてあげてほしい』』

 

「そうか。大丈夫だ、インデックスが今助けに行ってんだ。だから待って欲しい」

 

『『ありがとう』』

 

上条は真守からの礼を受け取りつつも、首を横に振った。

 

「別に礼を言われる事じゃない。……お前には助けてもらった。それに友達だから、助けるのは当たり前だ。そうだろう?」

 

その問いかけに真守は薄く頷いた。

だが次の瞬間、突然真守と上条の後方のコンクリートの山が砕けて灰色の粉塵(ふんじん)が広がった。

だがそれで上条の視界が(はば)まれる事はなかった。

真守が全て吹き飛ばしたからだ。

 

「なっ……!?」

 

目の前には大男が立っていた。

白いゴルフウェアのような青い十字架が描かれた白い半そでシャツに、薄手のスラックス。

スポーティーな印象をうかがわせるその服装。

そんな大男は前方のヴェントを小脇に抱えていた。

 

「失礼。この子に用があったものでな」

 

「誰だ!?」

 

「後方のアックア。ヴェントと同じく、神の右席の一人である。……心配しなくてもいい。今日のところはこれで引き返す」

 

「そんなこと言われてみすみす逃がすと思ってんのかよ!? 学園都市の人間を傷つけたのはお前たちだろ!? 天罰術式の解き方を教えろ!!」

 

上条がアックアを睨みつけて臨戦態勢を取ると、アックアは空中に浮かぶ真守を見上げた。

 

「心配ない。天罰に必要な霊装はそこの『神人』が砕いた。制圧された人間もすぐに回復する」

 

「そんなので納得できるか!」

 

「だがここでヴェントを離せば、科学サイドに捕縛され間違いなく処刑だな」

 

「ッ!!」

 

上条はその言葉に動きを止めた。

その通りだった。学園都市を落としかけた人間を学園都市が許すはずがない。

もしかしたら科学的に解剖され、死よりも恐ろしい末路が待っているかもしれない。

 

「一つだけ、貴様に教えてやる」

 

上条がその事実に焦りの表情を浮かべていると、アックアは宣言した。

 

「私は聖人だ。無暗(むやみ)に喧嘩を売ると寿命を縮めるぞ」

 

そして地面をける(すさ)まじい音が響き、次の瞬間にはアックアとヴェントは既にそこにいなかった。

 

聖人とは魔術世界での核兵器だ。

そんな人間と戦えば、今度こそ学園都市は灰になるだろう。

 

危機は去った。

 

だがこれは序章に過ぎず、この後にもっと大きな危機が待っている。

 

今度こそ、学園都市は完全に落とされて科学の徒のよりどころがなくなるかもしれない。

 

「止めるんだ……この流れを必ず止める」

 

そこで上条は決意を込めて真守を見上げた。

『神』と成った、それでも自分にとって大切な存在である真守を。それまでと同じように『友人』だとして。

 

「だから朝槻、俺と一緒にやってくれ。絶対にこの戦いを終わらせる!!」

 

上条の言葉に、真守は応えない。

 

だがやる事は決まっていた。

自らを神と(あが)める者のために力を振るう。

それが神として顕現(けんげん)した、朝槻真守の存在意義だった。

 




真守ちゃん、神さまになりました。
次回が〇九三〇事件の最終話となります。


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