とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二八話、投稿します。
次は一二月二七日月曜日です。


第一二八話:〈情報収集〉は慎重に

誉望は第八学区『スクール』のアジトの一室にある情報収集室にて一人座っていた。

誉望は八台の高性能PCに取り囲まれており、それら全てには誉望が頭に装着している土星型の特殊ゴーグルから伸びるケーブルが接続されている。

そして誉望の目の前には大型のモニターがぽつんと置かれており、それも八台の機器の内の一つに繋がっていた。

 

「インディアンポーカー?」

 

誉望は現在外にいる心理定規(メジャーハート)と連絡を取りあっており、一人きりの空間の中に彼の声が響き渡った。

 

〈ええ。自身の経験や技術を他者に継承させることができるカードよ〉

 

心理定規(メジャーハート)の言っていることは正しい。

だが実際にインディアンポーカーを使っている学生は、インディアンポーカーを『他人の夢を追体験できる』娯楽アイテムだと思っている。

『夢を与える側』がおもちゃを組み合わせて作り上げた装置を付けた状態で夢を見ると、その内容がカードに封入される。

そしてその作成されたカードのフィルムを剥がして枕元に置いて眠れば、アロマ成分が脳に作用してその夢が再現されるというものだ。

 

「それがどうかしたんスか?」

 

〈学園都市の科学者の間では最近このカードを使って、保険のために自分自身のエッセンスを残しておこうとする動きがみられるわ〉

 

「へえ」

 

〈もちろん、望み通りのデータが記録されるかは賭けだけど。それでも試みる者は相当数いるという話よ。科学者の頭の中は文章化できない領域が大きいものね〉

 

心理定規(メジャーハート)の説明を聞きながら誉望は呟く。

 

「……ということは、例の……」

 

〈ええ。私たちが探している超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター。通称『ピンセット』。そのノウハウのカード化による流出が観測されたわ〉

 

「それは確かな筋の情報なんスか?」

 

〈さあ? でも少しでも目があるなら調べるしかないでしょ〉

 

誉望は心理定規(メジャーハート)との通話を切って一息つくと、念動能力(サイコキネシス)を発動して、機械を作動させた。

 

「セキュリティランクA~Dの全情報より、インディアンポーカー及び『ピンセット』との関連が疑われる会話を抽出」

 

『一三件あります』

 

誉望は高性能PCが音声を発しながら羅列させた情報を見つめて、一人呟く。

 

「ただの雑談にしか見えないものもあるが、万が一、億が一の可能性も(さら)っていかないことにはたどり着けないからな……それくらいしなければ朝槻さんにはたどり着けない」

 

誉望の声が部屋に響き渡る。

そして誉望は調べた情報を(もと)に、インディアンポーカーに書かれた『ピンセット』の情報を集め始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

とある研究施設の喫煙所では、研究者が二人煙草を吸いながら談笑をしていた。

 

「どうだい、調子の方は」

 

「試作機無理っすわー。発表会はPVで乗り切らないと……」

 

そこまで言いかけた途端、研究者の視界に土星のようなゴーグルを頭に付けた少年が幽霊のようにうっすらと見えた。

 

「どうした?」

 

「今、一瞬何か……。疲れが目に来たかなあ……」

 

実は研究者が見たのは念動能力(サイコキネシス)で自身の姿を消していた誉望であり、誉望はセキュリティシステムにケーブルを差し込むととある部屋の扉のロックを解除した。

 

すると扉がガコッと音を立てて開いた。

 

(周囲の音をデリート)

 

侵入したことがバレないように、誉望は念動能力(サイコキネシス)を応用して扉が開いた音を消して中へと入る。

誉望は周りを見回しながら念動能力(サイコキネシス)を応用して室内を把握する。

すると目の前に壁に見えている部分に、目的のインディアンポーカーが入った小さな保管庫があった。

 

(この中か)

 

誉望はケーブルを二本伸ばしてセキュリティを確認する。

 

(流石にガチガチに固めてるなあ。解除するのは難しそうだ。警報を無視して警備ごと捻じ伏せるのはたやすいが、できれば『ピンセット』を狙っているという痕跡すら残したくない)

 

誉望はそこでポケットからインディアンポーカーを取り出す。

 

(何も書きこまれていない、未使用の『インディアンポーカー』)

 

そして保管庫の壁に見える部分に誉望は人差し指を向けて、演算を開始した。

 

(金庫内のカード情報をスキミング)

 

誉望は念動能力(サイコキネシス)によって、保管庫内のインディアンポーカーに封入されたアロマ成分を何も書き込まれていないインディアンポーカーに複写した。

 

「気密が足りないなあ。匂いを写し取れる能力者の侵入は想定していなかったか」

 

誉望が緑色の紋様が浮かんだ『インディアンポーカー』を見つめながらボヤていると、特殊ゴーグルに連絡が入る。

 

「ん。……どうした?」

 

誉望が通話に出ると、焦った様子の下部組織の人間の声が聞こえてきた。

 

〈ぬいぐるみが、ぬいぐるみが爆発して……!〉

 

「ぬいぐるみ?」

 

誉望がきょとんとしていると、下部組織はもっと慌てた様子になる。

 

〈周囲を爆炎で覆われて……状況が把握できません! 応援を……お願いします!〉

 

誉望は切羽詰まった下部組織の人間の声を聞いて思案する。

 

(Fチームの担当は確度の低い『インディアンポーカー』だったはずだが、反撃を受けたという事は思いのほか重要なヤマを当てたか?)

 

「……仕方ない。あの女を向かわせるか」

 

誉望はそこで一息つくと、下部組織との連絡を切って対処を始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

学舎の園。枝垂桜学園。

この学校の生徒である『スクール』の構成員である弓箭猟虎は、手にバイオリンを持って歩いていた。

 

「弓箭さま。ごきげんよう」

 

「ええ。ごきげんよう!」

 

弓箭がクラスメイトに声を掛けられてあからさまに顔を輝かせて手を振ると、クラスメイトはかわいらしい、と微笑んで手を振り返して去っていった。

 

(ふふふ……朝槻さんのおかげで学校内でもわたくしにお友達が……!)

 

弓箭は以前、真守に立案してもらった『バイオリンの感想を聞きたいから演奏を聞いてほしい』作戦で仲良くなったクラスメイトのことを考えて有頂天になるが、すぐに表情を暗くする。

 

(朝槻さんは行方不明。もしかしたら非道な扱いをされているかもしれません。……早く、早く居場所を特定して猟虎たちがそばにいかなければ……)

 

「……弓箭さま? お顔が暗いですがご気分がすぐれないのですか?」

 

弓箭が悲しくて(うつむ)いていると、友人になったクラスメイト二人が声を掛けてきた。

 

「え?! ああ、いえ。問題ありません、わたくしは元気です!」

 

弓箭は自分に話しかけてきた二人に気が付いて、ふるふると首を横に振る。

 

(いけない……お友達を心配させるなんて……朝槻さんはとっても大事なお友達ですが、他のお友達のことも大切にしなければ朝槻さんに叱られてしまいます!)

 

「そうですか、それならばわたくしたちとこれから一緒に参りませんか?」

 

弓箭が気合を入れていると、クラスメイトの友人がそんな誘いをしてきた。

 

「ふぇ?」

 

弓箭がきょとんとしていると、もう一人の女子生徒がすかさずに口を開いた。

 

「わたくしたち、これから『学舎の園』のお外を冒険してみたいと思うのですが。御一緒にいかがですか?」

 

「わたくしとでございますか?」

 

「「はい」」

 

「よろこんで……!」

 

弓箭が顔をほころばせて頷いた途端、弓箭の携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 

「……すみません、ちょっと失礼します」

 

〈猟虎か。任務だ〉

 

「分かりました」

 

誉望の任務に即座に反応して気持ちを入れ替えた弓箭は、背筋をピシッと伸ばした。

 

(ご学友とはまたお話ができます……朝槻さんを探すための任務の方が大事……!)

 

弓箭が心の中で気合を入れていると、誉望が淡々と指示を出す。

 

〈任務の情報は送っておく。準備ができ次第早急に向かってくれ〉

 

弓箭は誉望との連絡を終えると、振り返ってクラスメイト二人を見た。

 

「申し訳ございません。用事が入ってしまいました」

 

「まあ、それは残念ですわ」

 

「では、またの機会によろしくお願い致しますね」

 

「はい」

 

弓箭が断りを入れると、クラスメイトは柔らかな笑みを浮かべて去っていく。

 

「ごきげんよう。……さて、行きますか」

 

弓箭は二人に手を振ってから気合を入れると任務へと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

弓箭は前後が下部組織の人間によって封鎖された建設現場近くに来ていた。

下部組織のバンが二台スリップした状態で停められており、その一つの車の扉が開け放たれている。

その中にはぐったりと車内に座り込んでいる下部組織の人間がいた。

 

そんな彼らの前で、弓箭は爆発して頭だけになったぬいぐるみの腕を持って辺りを見ていた。

 

「戦場の痕跡から獲物は二匹。一匹は奪われたターゲットなので襲撃者は一匹。ローファーとハイヒール、二匹とも雌。歩幅から体長は一五五と一六〇。そして、通信記録と残骸を見るに、武器はぬいぐるみに偽装した爆弾」

 

弓箭はスンスンと鼻を鳴らしてから真剣な表情に切り替える。

 

「さて。朝槻さんに関わる手がかりを奪っていった人間を狩りましょう。あの方への糸口となるものを逃すわけにはまいりません」

 

弓箭はそこで宣言をして、行動に移った。

 

 

 

 

(むぅ。……気合い入れたはいいものの……少しマズいかもしれません)

 

弓箭は完璧に人ごみに溶け込みながら心の中でそう呟く。

目の前にはターゲットの黒髪セーラー服とそのターゲットを助けた外国人風の金髪少女。

だがその金髪少女に見覚えがあるのだ。

 

(あの金髪は朝槻さんと一緒にプールに行った時に会いました。垣根さんからもらった情報によると無能力者(レベル0)で爆弾使い。爆弾でターゲットを助けたことからも間違いありません)

 

弓箭はそこで携帯電話を取り出して友達に軽い連絡をするかのようにカコカコとイジる。

 

(現状、『ピンセット』を探しているというのを知られるのはマズい。誉望さんに判断を仰ぎましょう)

 

弓箭は心の中でそう呟くと、軽い様子を装いながら誉望に大事な連絡をする。

 

「誉望さん、今よろしいですか?」

 

〈なんだ、何かあったか?〉

 

「ターゲットを助けた人間。アレは『アイテム』の一員です」

 

〈なんだって?〉

 

誉望が声を上げる中、弓箭はぴったりと二人に張り付きながら通話をする。

 

「朝槻さんと一緒にプールに行った時のこと、覚えていますか? あの時にいた金髪クソリア充です。間違いありません。それに垣根さんからもあの金髪クソリア充については聞き及んでいます」

 

〈……垣根さんに伝える。お前はとりあえず監視を続けろ〉

 

「了解です」

 

弓箭は一定の距離を保って、金髪少女と黒髪少女に気づかれないように尾行する。

その内、弓箭の背中に何かがピタッと張り付いた。

 

『「アイテム」のヤツだな』

 

弓箭の背中に張り付いて垣根の声を再現して発したのは、垣根が未元物質(ダークマター)で造り上げた人造生命体群のカブトムシ、通称『帝兵さん』だ。

弓箭はその存在を知っており、近付いてくる気配もあったので、特に驚くことなく薄く頷く。

 

「ええ、垣根さん。どうしますか? ここで仕留めますか?」

 

『……ちょっと待て、あの「アイテム」の隣を歩いてんのがターゲットか?』

 

弓箭の背中にカブトムシを張り付けて視界が確保されていないが、垣根は他のカブトムシによってターゲットとターゲットを助けた金髪少女を確認していた。

垣根が本当にアレがターゲットなのか、と確認してくるので弓箭は肯定する。

 

「はい。あの黒毛です。間違いありません」

 

『撤収。戻れ』

 

「理由をお聞きしても?」

 

弓箭が即座に判断した垣根に問いかけると、垣根は簡潔に説明する。

 

『あれは御坂美琴経由で仲良くなった真守の友人だ』

 

「……分かりました、早急に撤退いたします」

 

弓箭は垣根の指示に従い、くるっと方向転換する。

 

(朝槻さんのお友達であれば何か情報を持っていても、朝槻さんの名前を出せば情報を引き出せます。……それに朝槻さんのお友達であれば、これ以上危険にさらすわけにはまいりません)

 

そこで弓箭は尾行されていると気付いていない金髪──フレンダ=セイヴェルンを感じながら笑う。

 

(……命拾いしましたね、金髪。ですがすぐに会うことになるでしょう。……その時は必ず死合いましょうね)

 

弓箭は獰猛な笑みを浮かべて、自身の首にかけている真守から貰ったホイッスルを手で触る。

そして彼女と戦うことを夢見て、その場を去った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

弓箭が第八学区のとあるビルの最上階、『スクール』のアジトに戻ってくると構成員が全員集まっていた。

 

「『アイテム』に感づかれましたかね?」

 

誉望が頭に土星型のゴーグルを取り付けたまま垣根に問いかけると、垣根はカブトムシ越しに楽しそうにおしゃべりをしている佐天涙子とフレンダ=セイヴェルンの会話模様を聞きながら、胡乱げな瞳でアンニュイさを醸し出しながら答える。

 

「いや……そんな様子はねえな。どうもあの二人はただの友人で、フレンダ=セイヴェルンは佐天涙子をなし崩し的に助けたらしい。……っつーか、なんで佐天涙子が『ピンセット』の情報持ってんだよ、どういうことだ」

 

カブトムシと接続している時、垣根がそんな陰のある色男の雰囲気になってしまうのを『スクール』の構成員たちは知っている。

そのため誉望はそれについては気にせず、それでも顔をしかめて垣根を見た。

 

「すみません。『FUKIDASHI』で確認できた確度の低い『ピンセット』の情報だったんですが、確度が低いと言っても情報を収集しなければならないと思いまして。……(しらみ)潰しにしていかなければ、朝槻さんに辿り着けないですし……」

 

「いいや、別に責めちゃいねえよ。ただ運が悪かったって話だ」

 

真守の友人を危険な目に遭わせてしまい、垣根の怒りに触れてしまったかとびくびくする誉望に、垣根は軽い調子で告げる。

 

本当に運が悪いのだ。数あるインディアンポーカーから、よりにもよって自分たちが探している『ピンセット』に近いような技術を佐天涙子は手に取ってしまったのだから。

 

「何があろうと、おまえたちのおかげで『ピンセット』の情報が集まった。いまどこにあるかは不明だが、近日中に霧ヶ丘女学院近くにある施設で使用されるのは確かなソースだ」

 

垣根はテーブルの上に置かれている色とりどりのインディアンポーカーを見つめながら告げる。

インディアンポーカーは使い捨てなので、既に誉望にスキミングしてもらって複数確保してある。

その一枚を手にしながら垣根は『スクール』の構成員に声を掛ける。

 

「後はタイミングだが……まあなんとかなるだろ。適宜(てきぎ)計画は修正すりゃいい。誉望、お前にカブトムシ(端末)を預ける。アレで他の暗部組織の動きを調べろ。当日は引っ掻き回すことになるからな」

 

「はい」

 

心理定規(メジャーハート)は引き続き『ピンセット』関連や真守に関して情報を集めろ。弓箭はここで源白と林檎の護衛だ」

 

「ええ」「はい」

 

垣根が次々と指令を出すと、三人はそれぞれ行動を開始するためにその場を後にする。

垣根は誰もいなくなった部屋でふーっと息を吐く。

 

今頃真守はどうしているだろうか。

そこまで考えて、垣根は非道な扱いを受けてるに決まっていると結論付ける。

だがこうして真守を取り戻すための準備は着々と進んでいる。

 

垣根は(はや)る気持ちを抑えて息を吐くと、少し仮眠をしようと他の部屋に向かった。

 

 




弓箭ちゃん、死亡エンドを回避しました。
真守ちゃんという大切な人がいますから、『スクール』の構成員全員、原作よりも慎重に動いています。
まあここで弓箭ちゃんがリタイアしそうになっても、垣根くんは真守ちゃんが弓箭ちゃんを大切にしているので絶対に助けるんですが。
そういうわけで垣根くんは原作と違って『スクール』のことを大事に扱っています。
そもそも暗部抗争に身を投じる理由が違いますし、深城にも必要最低限のダメージでなんとかすると言っているので、『スクール』構成員の生存確率は凄まじく上がっております。


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