とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二九話、投稿します。
次は一二月二八日火曜日です。


第一二九話:〈現状報告〉はおふざけと共に

「C文書?」

 

垣根は『スクール』のアジトの中で怪訝な声を上げる。

 

通話をしている相手は土御門元春。『グループ』の構成員でアレイスターが飼っている学園都市側の魔術師。

その所属はイギリス清教であり、イギリス清教にも情報を流している事から土御門は多角スパイとして活動している。

多角スパイと言っても土御門元春は大切な義妹が学園都市所属なため、学園都市の有利に働くように動いている。

義妹を裏切る行為を、土御門は絶対にしない。

 

〈正式にはDocument of Constantine。C文書は十字教を初めて公認したローマ皇帝、コンスタンティヌス大帝が記したものだにゃー〉

 

「十字教の最大トップはローマ教皇で、ローマに住んでる人間は全員ローマ正教に従えっていうモンだな。ローマ正教にとって胡散臭ぇぐらい有利な証明書だが、それがどうした?」

 

垣根がつらつらと頭に叩き込んでいる十字教の歴史について触れると土御門がおお、と感心したような声を出した。

 

〈それくらいは既に履修済みか、流石ていとくん。そのC文書が実は霊装なわけだぜい。まあ色々胡散臭い話はあったが、霊装としての力はその胡散臭い話程度のものじゃなかったんだよ〉

 

「……その効力は?」

 

垣根は何度言っても『ていとくん』呼ばわりしてくる土御門に観念して、話を進める。

 

〈「ローマ正教の発言全てが『正しい情報』になる」っていうものだぜい〉

 

「何だと?」

 

垣根はその効力に眉をひそめる。

つまりローマ教皇が『○○教は治安を乱す人類の敵だ』とした場合、ローマ正教徒にとってそれが真実となってしまい、途端に敵対してしまうというものだ。

物理法則を変えてしまうわけではなく、あくまで『教皇さまのいうことだから間違いない』という程度に認識を塗り替えるものである。

だがそれでも使い道は十分にある。

 

「各国で起こってる暴動はC文書が原因で、学園都市のヤツらは悪い連中だって認識させられちまったってことか?」

 

ここ数日、世界中では学園都市に対してのデモ活動が活発になっており、それで負傷者が多数出てきている。

今もニュースは暴動ばかりで、暴動が起き過ぎていてどれが最新に起こったのか分からなくなっているくらいだ。

 

〈ああ。というわけで俺とカミやんはちょっくら行ってくるぜって話だぜい〉

 

「それを俺に話して何になんだよ」

 

垣根が最初から最後まで蚊帳の外な自分に話をしてきた土御門に不審な感情を向けると、土御門はそこで声をひそめた。

 

〈ぶっちゃけこれは建前だ。……朝槻についてちょっと聞きたくてな〉

 

「……その言い分だと、やっぱりお前も真守の居場所については分かってねえんだな?」

 

垣根が問いかけると、土御門はそれに頷く。

 

〈どうやら統括理事会も知らないみたいなんだ。統括理事会の一人に直接聞いたから間違いない。……アレイスターはどう頑張っても朝槻を手中に収めておきたいらしいな。お前の方で何か掴んでないかと思ったが……まあ、難しいか〉

 

(やっぱ統括理事会のヤツらも知らねえのか)

 

垣根は心の中でそう呟く。

真守の居場所は統括理事会のデータベースにも載っていない。

しかも各方面で真守を探す動きが活発になってきていて、誰も彼もが真守の居場所が分からない状態だ。

アレイスターの一番近くにいる魔術師である土御門も知らないとなると、真守の情報は本当にアレイスターの独自情報網である『滞空回線(アンダーライン)』にしかないことになる。

 

「こっちだって何も考えてないワケじゃない」

 

垣根は顔をしかめながらそう告げて、土御門のバックについて考える。

土御門元春は『グループ』の構成員だ。『グループ』も統括理事会直轄の暗部組織なため、自分たちが真守を取り戻すために『ピンセット』を求めたら必ず戦うことになるだろう。

真守のためだと言えば彼らもひるむから、敵対勢力としてそこまで気にしていない。

だが彼らも暗部組織としてやっているため、こちらが動けば本気で潰しにかかってくるだろう。

 

「……ッチ。共闘した件と真守の友人っつーことで忠告しておく。俺は真守を取り戻すことに一切の容赦はしない。この意味が分かるか?」

 

知り合いだからこそやりづらいと判断した垣根だったが、それでも譲れないものがあるとして土御門にそう問いかける。

 

〈分かるさ。俺だって守りたいものがあるからな。だからこそ言っておく。俺も容赦はしない。……それでも協力できることなら協力してやる〉

 

土御門も垣根の気持ちを受け取って、苦笑しながらも協力を申し出た。

結局二人は一緒なのだ。

絶対に譲れないものがあるから、それのために戦っている。

垣根は気に入らないがそれを今一度認識して、そして鼻で嗤った。

 

「スパイの言うことなんて信じられるかよ」

 

〈まあ信じなくてもいいにゃー。ところで、朝槻の自宅に朝槻に関するものを送っておいたから回収よろしく頼むぜい〉

 

垣根があざ笑うと土御門が爆弾発言をするので、垣根は驚愕して声を大きくする。

 

「は!? テメエやっぱ信用ならねえ、真守に関してちゃっかり掴んでんじゃねえか!」

 

〈ハハハ。土御門さんを甘く見たらいかんぜよ。てなわけでじゃーなー〉

 

そこでブツッと土御門は通話を切る。

 

「真守の自宅だと? ……カブトムシ(端末)に回収させるか」

 

垣根は真守の自宅の近くにいるカブトムシに指示を出して、現場に急行させた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

(インディアンポーカー?)

 

垣根は土御門から受け取った真守の手がかりがインディアンポーカー数枚だと知り、一枚を手に取って怪訝な表情をする。

茶封筒の中には手紙も入っていたが、インディアンポーカーを確認してから見るように、と指示が書かれていた。

インディアンポーカーは自分の技術を他社に継承させるアイテムだが、その用途は様々だ。

『ピンセット』についての情報もインディアンポーカーに記載されていたし、バカにならない。

 

(都市伝説の中には『学園都市が絶対能力者(レベル6)を生み出した』だの『願いを絶対に叶えてくれる能力の神さま』やら『歯車で音楽を奏でたらいい事が起こる』とか真守に関するもので溢れてる。その類だと思うんだが……)

 

垣根は自分が手に持っているインディアンポーカーを見つめて、心の中で呟く。

 

(まあなんにせよ、アロマ成分を解析したところで夢の内容が分かるわけじゃねえし、使ってみるしかないだろ。誉望捕まえて複製させたし)

 

垣根は複製されたインディアンポーカーを視界の端に捉えながらそう考えて、ベッドに横になる。

そしてペリペリとインディアンポーカーの表面のフィルムを剥がしてアロマ成分を揮発させると、インディアンポーカーをおでこに載せて目を閉じる。

 

ここ最近真守がどうなってるか心配であまり深く眠れていない垣根は、すぐに浅い眠りへとついた。

 

 

 

────……。

 

 

 

垣根はどこかの学生寮の一室の前に立っていた。

 

(ここ、どこだよ。つーかなんで俺は真守の学校の男モノの冬服着てんだ? いったいコレの何が真守に関することなんだよ)

 

垣根は内心でそう怪訝に思いながらもドアを見つめる。

何の変哲もない学生寮の一室の扉。

この中にはワンルームが広がっている事だろう。

 

(夢の中で考えてても仕方ねえか)

 

垣根はそこでため息を吐いてドアノブに手を掛けた。

そしてゆっくりと開けて中に目をやると──。

 

 

『にゃあ。ご主人、おかえりにゃさいっ!』

 

 

そこには黒い猫耳と尻尾が直に生えている真守が立っていた。

 

『!?』

 

ダウナー声ながらも甘ったるい声を出して微笑む真守に、垣根は固まる。

固まるしかないのだ。

何故なら真守はきわどいビキニ風のメイド服を着込んでおり、形の良い、ほどよい大きな胸は大事なところ以外ほぼ見えているし、薄い腹は丸見え。

腰には超ローなフリフリのエプロンが付いたスカートを履いており、少し動けば中に穿いているビキニのパンツがちらちらっと見えてしまう。

 

『お外は今日雨だったのかにゃ? ご主人の体から雨の匂いがするぞ』

 

そんな真守は垣根に近づいてスンスンと鼻を鳴らし、尻尾をご機嫌にふりふりと動かす。

どっからどう見てもエロい真守に垣根が固まっていると、真守が寂しそうに小首を傾げた。

 

『ご主人? どうかしたか? いつもみたいに真守をぎゅーってしてくれにゃいのか?』

 

真守が物欲しそうに見つめてくるので、垣根は(うめ)きながらもそっと真守を抱きしめる。

その抱き心地がいつもの真守で、垣根は少し悲しくなり切なくなってしまう。

だが久しぶりの真守の抱き心地に胸が満たされて、優しくギューッと真守を抱きしめた。

 

『にゃあ。えへへ。真守、ご主人にぎゅーってしてもらうの、だいすきだぞ?』

 

真守が幸せそうに微笑むので、垣根はちょっと泣きそうになる。

こんな夢を誰が見たのかとか、色んな意味で。

 

『……真守、その猫耳と尻尾は?』

 

垣根は先程から嬉しそうにふりふりと動かしている尻尾と、ぴこぴこ動く猫耳が気になって真守に訊ねる。

 

『? どうかしたかにゃ?』

 

『いや、どうって……生えてんぞ』

 

『生えてる??』

 

『つーか本当に生えてんのか? 学園都市製の脳波検知で動いてんじゃねえの?』

 

真守が自分の腕の中で小首をかわいく傾げるので、垣根は真守を抱きしめたまま、興味本位で真守の背中に回していた手で尻尾を引っ張った。

 

 

『ふみゃあっ!? し、尻尾つかまにゃいでっ!!』

 

 

その瞬間真守が大声を上げて叫んだので、垣根はビクッと体を跳ねさせ、可愛いリボンが付け根に結ばれている真守の尻尾を慌てて離す。

 

尻尾を掴まれたことで感じてしまった真守は尻尾をへにゃんと垂れ下げて、そして猫耳をぴこぴこぴこぴこ痙攣させるように動かす。

 

『……んんっ……ご主人、耳と同じでそこは敏感だって分かってるだろぉ……どうしていじわるするにゃあ……っ』

 

そして真守はぐすっと鼻を鳴らし、涙目で垣根を上目遣いで見つめて、とろとろとした甘い声で抗議してくる。

 

一体、これのどこが消えてしまった真守に関する情報なのだろうか。

 

(いや、待て……土御門のバカは真守に関するものとしか言ってなかったな……っついーことはまさか俺を(よろこ)ばせるために……っ!?)

 

『……にゃあ。ご主人、なんかちょっと変だぞ? 外で何かあったのかにゃ?』

 

垣根が土御門へと怒りを(つの)らせていると、垣根の腕の中で真守は寂しそうな声を上げる。

そして悲しみの感情が現れて、尻尾をしょぼんとしならせる。

 

『いや、……真守、なんでもねえから』

 

『……ご主人が言いたくにゃいのなら言わにゃくていいぞ。でも真守はいつだってご主人の味方だからな。いつも頑張っててご主人はえらいにゃ』

 

真守が柔らかな微笑みを浮かべて垣根の胸にすり寄る。

あれはポルターガイスト事件の時だったか。

あの時も真守は自分のことを『傷を背負ってても頑張って進んでいるのが偉い』と言っていた。

どうやらこの夢を見た人間は真守のことをよく理解しているらしい。

 

『イイコ、イイコ~』

 

でもなんか少し違う気がする。

前に自分の頭を撫でてくれた時と撫で方が違うし、そもそも真守は自分からふくよかな胸をこんなにエロく押し付けてなんか来ない。

 

『えへへ。ご主人の匂い、上品な香りがして真守、だいすきだにゃ』

 

垣根がやっぱりこれはフィクションか、と少し悲しくなっていると、背後でガチャッと扉が開いた音がした。

 

『にゃーていとくん、遊びに来たぜいっ!』

 

『土御門!? テメエ、一体これはどういうことだ!!』

 

垣根はバターンと扉を豪快に開けて、でれっでれの顔をして登場した土御門を睨みつける。

 

『おっ。なんだ、真守いるじゃねえか。よしよし、土御門さんが撫でてやるにゃー』

 

だが土御門はそんなことを気にせずに、垣根の腕の中にいる真守をあろうことか名前で呼んでそっと手を伸ばしてくる。

 

『フシャーッ!! ご主人以外は触るにゃっ! 八つ裂きにして消し飛ばす!!』

 

真守はそれを見て牙を剥くと、タシッと猫パンチを繰り出して土御門の手を叩き落とし、垣根の胸の中にいっそう(もぐ)り、土御門を威嚇する。

 

『相変わらずていとくん大好きだにゃー。ウチの舞夏は誰にでも服従しちまうのに。これだけ独占欲強めの飼いネコメイドも乙なものだぜい』

 

土御門は警戒心マックスの真守を見て、やれやれとため息を吐く。

垣根が呆然としている中、真守はぎゅうぎゅうといろいろなところを垣根に押し付けながら縋りついてくる。

 

『ご主人、早く追っ払ってくれにゃ! こいつは舞夏という飼いネコメイドがいるにも関わらず、人の飼いネコメイドにまで手ぇ出してくる不届きものにゃ! 今度井戸端ネコメイド会議で舞夏に言いつけてやるからにゃあっ!』

 

『何を──っ!? 全世界のネコメイドを愛しく思わない人間なんて男じゃないぜいっ☆』

 

『お前は全世界のネコメイドの敵にゃっ! それに真守はご主人以外に触られるにゃんて絶対に嫌だっ! ご主人、助けてっ! 早くあの不埒物を追い払ってほしい!! 真守のお願い、聞いてご主人っ!』

 

『……か、』

 

ぎゃあぎゃあと二人の言い合いを聞いていた垣根は思わず言葉を(こぼ)す。

 

 

「飼いネコメイドってなんだぁ──!!」

 

 

垣根は思わず叫びながらバッとベッドから飛び起きる。

その瞬間、おでこに載っていた使用済みのインディアンポーカーが宙を舞った。

 

「あ、あいつぶち殺す……!!」

 

垣根は土御門のバカを思い出し、肩で息をしながら殺意を(たぎ)らせる。

そして垣根は後数枚、封筒に入れられていたインディアンポーカーを睨みつける。

 

「なんつー真守の夢を見てんだよ! 真守を食い物にしやがって!!」

 

垣根は怒りを(あら)わにしながら、土御門から『インディアンポーカー見たら読むべし』と書かれた手紙を手に取った。

 

『少しは肩の力抜けたか? ちなみにこれは天賦夢路(ドリームランカー)っつーインディアンポーカーのランク付けでSランカーの地位を持ってるヤツに特別に作ってもらった逸品だぜ☆ あと付け加えとくと、コレ作ったヤツはお前が朝槻の彼氏だって知ってるから他の人間に朝槻のインディアンポーカーだけは渡すことはしないって誓ってたにゃー。よかったな☆』

 

どうやら土御門なりに垣根を気遣ってのことらしいが、垣根は土御門からの手紙をぐしゃっと握り潰す。

 

「あの野郎……なんで慰め方面がなんでエロ直結なんだよ!!」

 

そこで垣根は怒りを込めて叫びながらも、大変な事に気がついた。

 

(……待て。真守のインディアンポーカーだけは渡さないって……? これを作れるヤツは他の人間のも作ってそれはちゃっかり頒布(はんぷ)してるってことか……!?)

 

ヤバい。色んな意味でヤバい人間が学園都市で猛威を振るっている。

 

(……まあ、真守のが出回ってないならいいか。……いやいやよくねえな。もしかしたらこれ作った人間以外に真守のエロい夢作ってるヤツがいるかもしれねえ!!)

 

垣根はこめかみに青筋を立てながら、ヂヂヂィッと空間を震わせるほどの殺意を込めて宣言した。

 

「ぶっ潰す!!」

 

ちなみに(くだん)のインディアンポーカーを作ったSランカーが真守のクラスメイトである青髪ピアスであることを、垣根はまだ知らない。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

深城は『スクール』のアジトの一室に入り、そこに横たわっている自分の本体である一二、三歳の髪の毛を櫛で綺麗に()かしていた。

 

真守を取り戻すまで深城と林檎は自分たちと一緒にいた方がいいと垣根は考え、深城の成長が停まった本体の体を安置できる一室を整えてくれたのだ。

 

いつもは真守が深城の本体の世話をしていたが、真守がいなくなったことで誰もする人がいなくなってしまったから、深城は自分の体の世話をしていた。

 

だが、本当は世話なんかいらないのだ。

深城の本体はいつだって完璧で健康な状態を保ち続けているし、真守は深城のそばから離れたが、それでもきちんと深城の本体にエネルギーを送り続けている。

 

(真守ちゃんと私は繋がってる。でも、私は真守ちゃんから力を受け取る側だから、真守ちゃんの居場所は分からない。……私にも、真守ちゃんみたいにエネルギーを送り込める力が少しでもあったら、真守ちゃんの居場所が分かるのに)

 

考えても仕方ないことを深城は考えながら、自分の白桃色の髪の毛を綺麗にしていた。

 

「源白、ここにいたのか」

 

「垣根さん」

 

深城が自分の髪の毛を整えていると、そこに垣根がやってきて深城は顔を上げた。

 

「んー?」

 

だが深城が自分の顔を見上げたまま首を傾げたので、垣根も怪訝になって問いかけた。

 

「どうした?」

 

「垣根さん、何かあった? なんだか真守ちゃんがいなくなった理由とは別の理由で疲れてる感じがして……」

 

「な、なんでもねえよ」

 

垣根は深城の問いかけに思い切り目を()らす。

 

言えない。

先程男の夢とロマンがたっぷり詰まったインディアンポーカーで、真守のちょっと際どい夢を見てしまったなんて決して言えない。

たとえ土御門に騙されたと言っても、正直に言うのは絶対にマズい。

 

「? そう。ならいいんだけど。あんまり根詰めると真守ちゃん取り戻す前に疲れちゃうよ?」

 

深城は()に落ちないながらも深く突っ込んではいけないと思ってそう告げると、垣根はあからさまに気まずそうにしながらも頷く。

 

「分かってる。つーか、前から聞きたかったんだが」

 

「うん?」

 

深城は垣根に声を掛けられて垣根を見上げると、垣根はちらっと深城の本体を見ながら告げる。

 

「自分の本体見ても、お前は何も思わないのか?」

 

「……もう慣れちゃった、って言うのがいいかな」

 

「前は嫌だったのか?」

 

自分の言葉に垣根が繰り返し訊ねてくるので、深城はふるふると首を横に振った。

 

「別に嫌じゃないよ。ただ真守ちゃんがあたしの本体を見て悲しそうにしていたのが嫌だった。……真守ちゃんのせいじゃないのにね。あたしが真守ちゃんに言ったのが悪いんだよ。『死にたくない』って」

 

「……それでも、お前がいたから真守は一人じゃなかった」

 

「そうだね。でも色々と考えちゃうんだよ。仕組まれてたのかなって」

 

垣根の言葉に深城は寂しそうに笑って、今までなんとなく感じていたことを吐露した。

 

「なんでだ?」

 

当然の如く垣根が訊ねてきたので、深城は自分の髪の毛を一筋(すく)いながら呟く。

 

「だって色々と都合よすぎるでしょ。そう思っちゃうじゃん。……でも、多分。一つ一つはそこまで仕組まれたことじゃないんだよ。そうだな……なんて言うんだろう。色んな事件を全部利用して、突き進もうとする人の意志を感じるなあ」

 

「……アレイスターか?」

 

垣根はこの学園都市を作って『計画(プラン)』を遂行しているアレイスターの名前を出して問いかける。

深城は垣根の言葉に頷いて、そして目を鋭くさせて告げた。

 

「そぉだね。あの人は本当に怖いよ。全てを憎んでる感じがするもん」

 

「憎む?」

 

「なんとなくね。あの人はどこまでも『人間』だよ」

 

深城の言葉を聞いて垣根はアレイスターのどこが人間なのかと考えていると、深城は寂しそうに眉をひそませて告げる。

 

「あの人からは憎くて憎くて全てを壊したいって思ってる感じがするよ。いつかの真守ちゃんのように。そして、少し前までの垣根さんみたいなね」

 

「……それでも、真守をあいつが良いように使っていいって理由にはならねえ」

 

深城の言葉を訝しみながらも垣根が呟くと、深城はそれに同意して頷いた。

 

「そうだよ。それで人を傷つけていい理由にはならないから。……でも、あの人の憎悪は世界を切り裂くよ。それこそ、ばっさりとね」

 

垣根は深城の言い分を聞いて黙る。

源白深城は人間に関して勘が鋭いところがある。

深城がそう思うのであればアレイスターはそういう『人間』なのだろう。

 

それでも大切な存在である朝槻真守をくれてやるつもりはない。

 

垣根は深城と今日の夕食の話など業務的な連絡をしてその場を後にした。

 

真守を取り戻す戦いへと、戻っていった。

 




シリアスな場面をぶち壊しですが、インディアンポーカーで真守ちゃんのエロい夢を見る垣根くんがどうしてもやりたかった……。
閑話休題としてお楽しみください。

それとこの時点で、青髪ピアスは食蜂ちゃんに記憶を改ざんされていますが、記憶を改ざんされたとしてもインディアンポーカー自体が無くならなければ同じことを繰り返します、きっと。欲望のままに動いていますので。
そのため懲りずにドッペルゲンガー事件が収束するまでインディアンポーカーで遊んでいると思います。

とある高校の学ラン着た垣根くん……(ぼそっ)。


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