とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三話、投稿します。
次は八月一八日水曜日です。


第一三話:〈強大技量〉を見せつけて

柵川中学一年生、佐天涙子は無能力者(レベル0)だ。

 

そんな彼女が最近知り合ったのは、学園都市の五本の指に入る常盤台中学校のエースとその露払い。

超能力者(レベル5)超電磁砲(レールガン)の御坂美琴と大能力者(レベル4)空間移動(テレポート)。白井黒子だ。

 

彼女たちと出会ったのはクラスメイトの初春飾利を通じてだった。

初春飾利は風紀委員(ジャッジメント)の第一七七支部に所属しており、そこで相棒を務めているのが白井で、白井は御坂美琴の事を『お姉様』と呼んで慕っていた。

初春が美琴に一度会ってみたいと白井に言って、その時佐天も傍にいて、そこで知り合ったのがきっかけである。

 

二人と知り合ってから、佐天は自分が無能力者(レベル0)であり、力がない事を思い知らされてしまった。

劣等感の中、都市伝説にあった『能力の強度(レベル)が上がるアイテム』という幻想御手(レベルアッパー)があればいいのにな、となんとなく佐天は思っていた。

 

だがある日。とある音楽サイトを閲覧している時に隠しページを見つけ、そこに幻想御手(レベルアッパー)の音楽ファイルがぽつんと置かれており、佐天は偶然、幻想御手を手に入れる事ができた。

だが幻想御手を入手してもすぐに使うことはなく、佐天はずっと葛藤し続けていた。

 

そんな佐天は高架下で、幻想御手(レベルアッパー)の音楽ファイルを取り込んだ携帯電話を見つめていた。

 

その画面には幻想御手のファイルを消去するか否かの表示が出ていた。

その消去ボタンに手をかけながら心の裡で佐天は考える。

 

(幻想御手、か。あたしでも能力者になれる夢のようなアイテム。だけど、得体の知れないモノは怖いし、苦労して身に着けるハズの能力を楽して手に入れる事は良くない……よね)

 

幻想御手(レベルアッパー)、譲ってくれるんじゃなかったのか!!」

 

「え?」

 

佐天は突然男の声が聞こえてきて、顔を上げた。

高架下から出て、佐天が伺うように見ると、廃ビルの前で一人の小太りの男が三人の不良に取り囲まれていた。

 

「さっき値上がりしてさ。コイツが欲しけりゃ、もう一〇万持ってきてよ」

 

不良の一人は手に持った幻想御手が入っているであろう音楽プレーヤーを目立たせるように横に振ってから、冷たく言い放った。

 

「……だ、だったら金を返して――……っ!!」

 

小太りの男が取引は中止で金を返して欲しいと言いかけると、音楽プレーヤーを持っていた不良の男が小太りの男の腹に膝蹴りを打ち込んだ。

小太りの男はそのまま不良に何度も蹴りつけられて暴行される。

 

佐天は彼らのすぐ近くまで来て、それを傍観していた。

 

「お前らの強度(レベル)がどれくらい上がったか、ソイツで試してみるか?」

 

小太りの男は二人の不良に抵抗できないように拘束されて、そこにリーダー的な存在の不良が近付いて嗤った。

 

(とりあえず、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に連絡しないと……っ!)

 

佐天が携帯電話を持ち出すが、丁度携帯電話のバッテリーが切れてしまう。

 

(ヤバ……っ充電切れ?)

 

佐天はその場からそっと立ち去る。

 

(しょうがない……よね? あたしが何か、出来るわけじゃないし……あっちはいかにもな連中が三人。こっちはちょっと前まで小学生やってたんだし……)

 

「――ねえ」

 

佐天がその場から逃げようとしていると、突然声が響いた。

自分が呼びかけられたのかと思って振り返ると、不良三人と小太りの男に男女二人組が近付いていた。

 

一人は少女。

艶やかな猫っ毛の黒髪ロングをハーフアップにして猫耳ヘアに結い上げ、白と黒に統一された服を着ていた。

澄んだエメラルドグリーンの瞳と容姿のせいで、高貴な黒猫を連想させるアイドル顔。

 

もう一人は少年。

綺麗なさらっとした茶色の髪を肩口まで伸ばしており、その長い前髪の向こうには黒曜石のような瞳が見え隠れしている。

彼はエリートだと直感できるような高級スーツを身に纏っていた。

 

モデルになってもおかしくない美男美女が、確かな存在感を放ってそこに立っていた。

 

「お前、幻想御手(レベルアッパー)持ってるって本当?」

 

「なんだぁ? お前も幻想御手が欲しいのか?」

 

少女がダウナー声で問いかけると、不良のリーダーは振り返る。

そのまま少女と少年へと近づき、値踏みするようにじろじろと見つめた。

 

「ふーん。お前可愛いな。良いぜ、体で支払ってくれればマけてやるよ」

 

少女はその不快な視線をつまらなそうに見ていたが、隣にいた少年の目が鋭くなった。

 

(あの男の人なんかマズい。すごくヤバい気配がする)

 

佐天が危機感を覚えている前で、少女は『んー』と唸った後に告げた。

 

「お前たち蹴散らして奪い取るから、そんな事はしない」

 

少女が挑発的な事を告げると、リーダー格の不良は不快感をあらわにした。

そして、すぐさま獰猛に嗤った。

 

「笑わせてくれるじゃねえか!!」

 

リーダー格の不良の男は少女に向かって駆け出すと即座に蹴りを繰り出した。

その蹴りが不自然に曲がって――そして、何かに弾かれた。

 

「うがああああああああ!?」

 

リーダー格の少年は突然迸った蒼閃光(そうせんこう)によって、ズボンを貫通される形で足を焼かれた。

肉がめくれ上がって焼け焦げた足を押さえて、少年はゴロゴロと地面の上をのたうち回る。

 

「……今の何。なんか足曲がったけど。偏光する能力?」

 

「光を捻じ曲げて実際とは違う位置に像を結ばせたとか、そういうのじゃねえの?」

 

少女は隣にいた少年に首を傾げながら問いかけると、少年が興味なさそうに能力を看破する。

 

「へえ。お前、割と面白い能力持ってるな」

 

少女は感心した様に呟いて、引きつった悲鳴を上げる不良のリーダーに近づいた。

 

「でも残念だったな。不意の攻撃だとしても私には通じない。さあ、幻想御手を渡せ」

 

少女がリーダー格の不良に向かって手を伸ばす。

 

「お、お前!! お前の能力は一体……!?」

 

リーダー格の少年は少女の能力がどんなモノかも分からずに叫び声をあげる。

 

少女は不満そうに目を細めると、無言の圧力と共に、手をもう一度振って渡すように催促した。

 

それでも不良の少年が恐怖で動けないのを見ると、少女はため息を一つ吐きながら後ろで小太りの男を取り押さえて呆然としていた不良二人を見た。

 

「お前たちも痛い目に遭わせないとダメか?」

 

少女が不快感を露わにして問いかけると、不良の少年二人はリーダー格の少年を見た。

 

リーダー格の少年がやられては自分たちも適うハズがない。

少女の能力がどのようなモノか分からないが、不意の攻撃すら一切通じないのはどうしようもない。

それに少女の隣にいる少年はまだ能力を発動してすらいなかった。

攻撃が通らない少女の隣で確かな存在感を放って立っているのだ、少年も高位能力者に違いない。

 

「わ、分かった! 渡す!! 幻想御手(レベルアッパー)を渡すから!!」

 

不良の一人が恐怖で震えながら少女へと音楽プレーヤーを差し出した。

 

「音楽プレーヤー?」

 

少女は顎に手を当てながら身を前に乗り出して、小首を傾げる。

 

「れ、幻想御手は、音楽ファイルなんだ! 本当だ、嘘じゃない!!」

 

少女は怪訝そうな顔をしながらも音楽プレーヤーを受け取った。

 

「どう思う?」

 

「中身解析すりゃ分かる事だろ。……嘘だったら許さねえがな」

 

少女が少年に問いかけると、少年はそれに答えながらも不良たちを睨んだ。

蛇に睨まれた蛙状態の彼らはヒッと声を上げた。

 

「――お待ちなさいな」

 

そこに新たな人物の声が響いた。

少女と少年が振り返ると、そこには風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけた常盤台中学の少女が立っていた。

 

(白井さん……!)

 

白井黒子。風紀委員(ジャッジメント)で佐天の親友である初春飾利の同僚。

白井も幻想御手(レベルアッパー)の事件を風紀委員として追っていて、恐らく幻想御手の取引現場であるここを訪れたのだろう。

 

「先日ぶりですわね。朝槻さん、垣根さん」

 

「白井だ、久しぶり」

 

少女は知り合いだと言う風に親しげに白井の名前を呼んで近づく。

 

「一般人が何をやってらっしゃいますの。幻想御手(レベルアッパー)の件はわたくしたち風紀委員(ジャッジメント)が捜査していますから、あなた方が出る幕ではありませんの」

 

「しょうがないだろ、被害者なんだから」

 

「……被害者? どういう事ですの?」

 

幻想御手(レベルアッパー)使用者に、コイツが襲撃されてんだよ」

 

白井の疑問に答えたのは少年だった。その少年の言い分を聞いて白井は驚愕した。

 

「襲撃……!? い、一体いつから!? ……何はともあれ。ここを収めてからの方がよさそうですわね。支部でゆっくりと事情をお聞かせくださいますか?」

 

少女は少年の方を見る。少年が好きにしろ、とでも言わんばかりに肩をすくめるので少女は頷いた。

 

「分かった」

 

「ご協力感謝しますわ。さて、まずは警備員(アンチスキル)に連絡しないと」

 

白井はそこで携帯電話を取り出して警備員へと連絡を取り始める。

 

 

佐天はその場から逃げるように後にする。

 

少女の能力は底が見えない程に強かった。そんな少女の隣にいる少年もきっと高位能力者なんだろう。それに、少年の方は明らかに場数を踏んでいる気がした。

二人共、自身に満ち溢れていた。自分の能力に余程自信があるのだろう。

その証拠に、少女は自分から手を出さないまま不良三人に勝利した。

 

そして、あの二人と親しげな白井。

 

「……嫌だな、この気持ち」

 

(あたしと同じ中学生で。あたしと同じ年齢で。あたしと同じ女の子なのに。白井さんは、ああいう人たちと普通に話してる。……あたしと違う世界に住んでいる人がいる。能力者と無能力者(レベル0)では、何もかもが違う)

 

佐天はそこで俯きがちに電源の切れた携帯電話を握り締めて俯く。

 

「――涙子!」

 

佐天が走っていると、声をかけられて顔を上げた。

 

「アケミ、むーちゃん。マコちんも!」

 

佐天は柵川中学校のクラスメイトと共に道を歩く。

 

「一人で何してたの、買い物?」

 

「……まあ、そんなトコ。アケミたちは?」

 

佐天が先程の事件現場での事を思い出すも、笑いながらごまかして逆に訊ねた。

 

「図書館で勉強。能力はどうにもならないけれど、勉強くらいはねー」

 

「そうだね」

 

「……あー、でもさ。聞いた? 幻想御手(レベルアッパー)っての?」

 

能力開発に諦めが見えるクラスメイトたちの中で、アケミが突然幻想御手(レベルアッパー)の話題を切り出した。

佐天は不意を突かれてえ。と、小さく呟く。

 

「幻想御手? なぁに、それ?」

 

「あ。知ってる! 使うと能力が上がるとかいうヤツでしょ?」

 

「そうそう。噂じゃ今、高値で取引されているらしいよ?」

 

「お金なんかないよー」

 

クラスメイトたちが幻想御手(レベルアッパー)というものが手元にあったら良いねーと話をしているのを聞いて佐天は控えめに手を挙げた。

 

「……あ、あのさ!」

 

「「「ん?」」」

 

クラスメイトたちが一斉に佐天を見た。佐天は迷った末にぎこちない笑みを浮かべて切り出した。

 

「あたし、それ……持ってるんだけど」

 

佐天の主張に三人は目を合わせて驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

――――――…………。

 

 

 

真守と垣根は風紀委員(ジャッジメント)の一七七支部を訪れていた。

 

「……成程。朝槻さんが超能力者(レベル5)だという書き込みが掲示板にされて、それを見た幻想御手(レベルアッパー)使用者が腕試しにあなたを襲っている……という事ですね?」

 

「そうなる」

 

白井はケロッとした真守の返答に怒りが爆発して大声を上げた。

 

「どうして風紀委員(ジャッジメント)か、警備員(アンチスキル)に連絡しませんでしたの!?」

 

「言っても無駄だから」

 

真守の返答に白井は閉口する。

 

「無駄、って……! 大能力者(レベル4)であり、絶対的な防御性を持つからといって、一人で解決しようとしないでくださいな! そんな事になっていれば風紀委員(ジャッジメント)に通報をするのが普通です!」

 

「一人じゃない、垣根がいるから」

 

白井が倉庫(バンク)で確認した真守の能力、力量装甲(ストレンジアーマー)の事を言及しながら注意すると、真守は首を横に振ってから答えた。

 

「……確かに垣根さんはお姉様よりも格上の超能力者(レベル5)ですわ。ですが! 超能力者(レベル5)の殿方と一緒だとしても、風紀委員を頼ってくださいまし!」

 

「じゃあ、お前たちは次々向かってくる一〇〇名くらい相手する事ができた?」

 

「ひゃ、一〇〇……?」

 

真守が告げた数字が膨大過ぎて白井は呆気にとられたままオウム返しする。

 

「私を襲ってきた不良の数。少なくとも九〇%くらいは幻想御手を使ってると思う。お前たちはその数から私を守る事が本当にできるの?」

 

「そ……っそんなに数が多いなら頼ってくださらないと逆にこちらが困りますのよ!? 風紀委員(ジャッジメント)の名折れですわ! 警備員(アンチスキル)の先生方の失態です!!」

 

けん制するために真守は言ったが、白井の怒りの炎に逆に油を注いでしまう結果となってしまった。

真守は面倒そうな顔をして白井を見た。

 

それを見て、白井がキーッと声を上げると、見ていた相棒の初春飾利が白井を宥める。

 

「……で、だ。幻想御手(レベルアッパー)についてはどこまで調べてある?」

 

白井は垣根の問いかけに、当事者ならば仕方がないとして情報を開示した。

 

「犯罪に走った能力者たちはみんな、昏睡状態なので話が聞けてませんの。ですからわたくしたちも、現物を求めて取引現場を回っていたところでしたのよ」

 

真守は机の上に置かれた音楽プレーヤーを見ながら頷く。

 

「じゃあ、現状はアレだけしか手がかりがないのか」

 

「治安組織なんてそんなモンだ」

 

(お姉様と同じ匂いを感じますの……)

 

垣根が風紀委員の事を歯牙にもかけてない言い分を吐き捨てるように告げるので、白井は顔をしかめる。

そんな白井をよそに初春は苦笑しながらも現状を伝える。

 

「大脳生理学者の先生と協力関係を結んでいるんです。これからご教授願おうと思っているんですよ」

 

「誰?」

 

「木山春生先生ですの」

 

真守が興味を示して訊ねると、話に戻ってきた白井が名前を告げた。

 

「AIM拡散力場専攻している人?」

 

真守が即座に切り返してきたので白井は目を見開く。

 

「え、ええ。よくご存じですのね。その通りです」

 

良く知っているという装いの真守に、垣根が囁くように小さく訊ねた。

 

「AIM拡散力場はお前の能力に関係するから論文でも何か読んだのか?」

 

「うん。興味深い論文だった。その人が協力してるのか?」

 

真守が垣根の質問に頷くと白井へと問いかけた。

 

「はい、そうですの。今回の幻想御手(レベルアッパー)事件にて声をかけさせていただきました」

 

「そう。じゃあ何か分かったら情報をこちらにも流してくれ」

 

真守が幻想御手(レベルアッパー)を提供したんだからな、と付け加えると、白井はどうすればいいか分からないと困惑しながら、風紀委員(ジャッジメント)として一応けん制する。

 

「……いくら幻想御手(レベルアッパー)被害者と言っても、一般人に情報を渡すのはやっぱりいただけませんの」

 

「一般人? 超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)の俺たちを一般人の枠に入れんなよ。協力関係を築けないんだったらこっちはこっちで勝手に動くが。それでもいいのか?」

 

あくまで風紀委員(ジャッジメント)としてのスタンスを崩さない白井に、垣根が苛立ちを覚えて脅すように訊ねる。

それを受けて白井と初春はアイコンタクトをしてから、頷いた。

 

「……仕方ありませんの。勝手に動かれるよりこちらで手綱を握っている方が安心ですし。……協力関係でよろしいんですの?」

 

「決まりだな。物分かりがいいじゃねえか、白井黒子」

 

垣根が上から目線で嗤うと、白井はムッとする。

だが垣根は超能力者(レベル5)であり、敬愛する美琴よりも順位が上なので、白井は何も言う事ができなかった。

 

「じゃあ、何か分かったら連絡して。連絡先交換するから」

 

「それは良いのですけれど! あなたが襲撃されるのをわたくしたち風紀委員(ジャッジメント)は黙って見ているわけにはまいりませんの! 警護に風紀委員か警備員(アンチスキル)を配備します。それは了承してくださいまし!」

 

「……遠くから見てるなら別にいい」

 

「お前らが来る前に終わるだろうがな」

 

真守と垣根が付き纏われるのが心底面倒だと言う表情をしていると、白井は顔を背けてぶつぶつと呟く。

 

「お姉様と同じ香りを感じますの。まったく。何故、高位能力者というのはどうしてこう、我が強いんでしょうか……?」

 

「白井さん……それ人のこと言えませんよ」

 

同僚である初春が思わず白井にツッコミを入れる。

初春から見たら白井も大能力者(レベル4)として相応しい自己中心的な性格の持ち主だった。

 

 

こうして真守と垣根は、風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部と幻想御手(レベルアッパー)事件を収束するための協力関係を構築する事となった。

 

 




強大すぎる能力は時として誰かに劣等感を抱かせてしまう。

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