とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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一三二話、投稿します。
※次は二〇二二年一月四日火曜日です。


第一三二話:〈真愛存在〉を再びこの手に

垣根が機材で自分の身体検査(システムスキャン)をしていると、そこに心理定規(メジャーハート)が入ってきた。

 

「お前、こんな時にどこ行ってんだよ。また高尚なバイトか?」

 

「ええ。でもやっぱり学者はダメね。基本料金をきっちり計算していて、ちっともチップを弾んでくれない」

 

心理定規(メジャーハート)が悪びれもせずに告げるので、垣根はげんなりとしながら問いかける。

 

「一時間って時間が生々しいんだよ……本当にそれでエロい事しないの?」

 

「しないわよ。ホテルの一室に入って雑誌をめくりながら少し話しただけ。場合にもよるけど私の『客』はそういうの求めてこないし。金持ちがお店に通って女に金を渡す理由って知ってるかしら? 別に性欲を満たしたいんじゃなくて、単に仕事以外の人間関係を自力で構築したいだけなのよ」

 

「相変わらずよく分からん世界だ」

 

垣根がため息を吐くと、心理定規(メジャーハート)は苦笑しながらもつらつらと説明する。

 

「仕事人間っているじゃない。そういう人たちにとって、お金で構築できる関係ってのは一種の救いなのよ。お金ってのは仕事の結果。その金で友情や愛情を買うことで自己満足したいわけ。私はお金を貰ってコンプレックスを緩和させてあげているだけよ」

 

「いや説明されても意味が分からねえよ。つか理解したくもない」

 

垣根が呆れながらも心理定規(メジャーハート)の説明をきちんと聞いて顔をしかめていると、心理定規が話題を換えた。

 

「そうそう。私たちを追っていた『アイテム』が行動不能になったそうよ。原因は仲間割れ。リーダーの麦野沈利がダウンしたことで、組織を維持する力は失われたって」

 

垣根は心理定規(メジャーハート)の話に眉をぴくっと動かす。

 

「あ? 仲間割れ? 麦野が死んでねえのは知ってるが、誰が麦野を沈めたんだ?」

 

垣根は疑問を覚えるが、そこで思い当たる人物がいて目を見開いた。

 

「……! まさか……、嘘だろ?」

 

「嘘じゃないわよ? 下部組織のあの男、どうやら滝壺理后を守り抜いたらしいわよ?」

 

「……はん。やりゃあできんじゃねえか、あの男」

 

垣根が下部組織の男、浜面仕上を評価していると、心理定規(メジャーハート)はネイルの状態を気にしながら問いかける。

 

「……後、これはおそらくなんだけど」

 

「あ? なんだよ」

 

「フレンダ=セイヴェルン。彼女、麦野沈利に『粛清』と称して殺されたみたい」

 

垣根はそれを聞いて目を見開く。

 

「あのこらえ性のない女、そこまでやんのか?」

 

「やるみたいよ。どうもフレンダ=セイヴェルン、『アイテム』をやめるって馬鹿正直に麦野沈利に言いに行ったらしいのよ。そのまま逃げていればよかったのに」

 

「……バカ野郎」

 

垣根は仲間に対して誠実だったフレンダ=セイヴェルンの事を考える。

そしてそんなフレンダを簡単に切り捨てた麦野沈利に対して舌打ちをした。

 

「この戦いであなたは犠牲者を出さないように努力していた。だから気にする事はないわ。彼女たちの絆まで私たちが面倒見る理由なんてない。あれは彼女たちの問題よ」

 

心理定規(メジャーハート)は、『死人は出さない。最小限で終わらせる』という垣根の目標が汚されてしまったことを気にして、事実を口にした。

 

「分かってる。つーかこっちだって大事なモン奪われて取り戻す戦いしてんのに、どうして他人の尻拭いまでしなくちゃなんねえって話だ。ドロップアウトした先の平穏まで守れるかよ、ありえねえだろ」

 

「……それで? 機材の方でちゃんとチェックしたの?」

 

心理定規(メジャーハート)はそこで、自分が時間を潰すことになった垣根の能力の具合について訊ねた。

 

「問題ない。カブトムシ(端末)の方も自己診断させて、ネットワークに異常がないことを確認した。……まああいつらが滝壺理后の乗っ取りに反抗したから、あの女はあんなになっちまったんだがな」

 

垣根帝督(オリジナル)を守る防衛本能だ』と垣根が続けると、心理定規(メジャーハート)は笑った。

 

「あらあら。カブトムシ(端末)の方が優秀ね」

 

「あいつらは俺の端末で、垣根帝督(オリジナル)がいなくちゃ動けねえんだよ。バーカ死ね」

 

垣根がくすくすと笑う心理定規(メジャーハート)を罵倒していると、そこに誉望が現れた。

 

「垣根さん」

 

誉望には『ピンセット』から引き出した情報を(もと)に真守の居場所を探らせていた。

その精査が終わったことで報告に来たのだ。

 

「調べはついたか?」

 

「はい。第二学区の核シェルターですね。そこの所有者は黒でした。それに九月頭に買い取っているので時期的に間違いないかと」

 

「その所有者ってのは誰だ? アレイスターじゃないのか?」

 

垣根が調べたことについて怪訝な顔で訊ねると、誉望はタブレットを見つめながら告げる。

 

八乙女(やおとめ)緋鷹(ひだか)。霧ヶ丘女学院の生徒で能力名は先見看破(フォーサイト)。予知能力系の能力者です」

 

垣根は真守のことを連れてどこかへと消えていった仲介人の名前が出て、目を見開く。

 

「あいつか……! ……はん。確実じゃねえか」

 

「周囲の監視カメラは機能しておらず、衛星によるハッキングで探ってみましたが、あからさまな兵器は見当たりません」

 

「……だが何があるか分からねえ。源白と林檎は置いていく」

 

下準備を既にしている誉望の説明に、垣根は慎重になって指示を出す。

 

「覚悟はできてるの?」

 

心理定規(メジャーハート)に問いかけられて、垣根はそっと目を伏せながら告げる。

 

「……そんなの、あいつを一人にしないって決めた時からとっくにしてる」

 

 

 

──────…………。

 

 

 

(真守が俺のことを必要としなくてもそばにいる。……そう、誓った)

 

垣根は目の前の状況にそう心の中で呟く。

 

(……これは一体どうなってんだ?)

 

垣根は思わず呆れた調子で心の中で呟く。

ここは第二学区の核シェルターを改造して造り上げられた『施設(サナトリウム)』という名前の施設だ。

ここに真守は囚われており、自分たちは奪い返せばよかった。

 

だがどうやら実態は違ったらしい。

 

 

その証拠に、絶対能力者(レベル6)進化(シフト)した朝槻真守は現在、垣根帝督の目の前で寝息を立てて、ぐっすりすやすやと眠っていた。

 

 

よく見れば真守が使っている寝所は高級ホテル感満載の白と黒で構成されている、真守の好みに合わせた落ち着いた装いだ。

 

しかも真守はキングサイズの天蓋付きのベッドを一人で使って眠っており、大変良い生活をしていたようだ。

 

「はぁ────…………」

 

垣根は思わずそんな高級感満載の一室で盛大なため息を吐いて、ヤンキー座りで顔に手を当てて地面に座り込んでしまう。

 

なんだろうこの盛大な肩透かし感。

 

自分はここ数日ろくに休まる時間などなかったのに、真守はそんなこと微塵(みじん)もなかったらしい。

 

(まあ絶対能力者(レベル6)になって色々と変わっちまったんだろうけど……)

 

「このアマ……」

 

垣根はすやすやと眠り、全く起きる気配のない真守の頬をつつく。

ぷにぷにとした感触はこれまで散々つねってきた真守のほっぺそのもので、なんら変わりはなかった。

 

「さて、真守さんの無事は確認できたかしら?」

 

そんな垣根に声を掛けてきたのは、車椅子に座っている少女だった。

焦げ茶色の髪をショートカットボブにして髪飾りとして藤の花を模したものを頭に付けている、霧ヶ丘女学院の制服を着ている八乙女緋鷹である。

 

「ああ、ちなみにその人惰眠(だみん)(むさぼ)れるけど、今は絶賛『休眠』中だから。自分で定めた時間にならないと何しても起きないわ。というか不用意に何かしたら源流エネルギーで焼かれるわね」

 

「イマイチ分かんねえが、大丈夫なんだな? 八乙女……っつったか?」

 

垣根が問いかけると緋鷹はコクッと頷いた。

 

「ええ。八乙女緋鷹。ここにいる『(しるべ)』の代表みたいなものね」

 

「『(しるべ)』? ……洗いざらい話してもらうぞ」

 

垣根が鋭い視線を緋鷹に向けると、緋鷹は頷いた。

 

「ええ。説明しなければマズいもの。ついてきて」

 

そして車椅子をくるっと回して進み出すので、垣根は眠る真守を一瞥(いちべつ)してからそれを追った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

垣根たち『スクール』が集められたのは、暗部組織の研究所じみた能力者実験室に似ている、白で統一された会議室だった。

 

「真守さんは学園都市に追われていたわ」

 

「追われてた?」

 

垣根が訝しむと、社長席に車椅子を着けた緋鷹が頷く。

 

「学園都市の理念をご存じよね?」

 

絶対能力者(レベル6)を生み出すことだ」

 

垣根が間髪入れずに答えると、緋鷹は頷く。

 

「ええ。絶対能力者(レベル6)は生み出されたわ。それって一大事じゃない? 学園都市の多くの研究機関や暗部組織が真守さんを大捜索中よ。あなた方もその片鱗を垣間見てきたでしょう?」

 

確かに各方面で当日の情報網が死んでいたのにも関わらず、『朝槻真守が絶対能力者(レベル6)進化(シフト)した』という情報を聞きつけた機関が真守を探していた。

 

そんな彼らから、緋鷹たちはどうやら真守を(かくま)っていたらしい。

 

理由は簡単だ。

 

真守の身柄を巡って学園都市内で対立が起きると、その戦闘の最中で共倒れして戦争に備えるどころではなくなるからだ。

 

〇九三〇事件で学園都市に隙ができてこれだけの抗争が起こった。

その隙を突いて絶対能力者(レベル6)を各方面の機関が確保しようとすれば、学園都市に多大な損耗が予想される。

 

そのため真守は身を隠していたのだと緋鷹が説明すると、垣根は顔をしかめた。

 

「なんでお前らは真守の味方してんだ? つーかそもそもおまえらを組織したのは一体どこのどいつだ?」

 

「アレイスターに決まってるわ」

 

垣根が真っ当な質問をすると、緋鷹はさらりと答える。

 

「アレイスターと学園都市では意見に食い違いが起きているのよ」

 

「真守の扱いでか?」

 

「そうなの。学園都市は真守さんを絶対能力者(レベル6)として利用したい。要は真守さんを自分たちの所有物だって学園都市は考えてる。でもね、アレイスターはそうではないの。アレイスターは学園都市こそ真守さんのものだって考えているの」

 

垣根が緋鷹の事情に顔をしかめた。

 

「アレイスターと学園都市が逆に考えてんのは、アレイスターが進めている『計画(プラン)』が関係してるんだな?」

 

アレイスターが遂行している『計画(プラン)』。

学園都市統括理事会はそれに従っているわけではなく、あくまで学園都市の運営を担っているのだ。

だからこそ、両者で少々意見の食い違いが出てもおかしくない。

 

なんせ学園都市の目的は『絶対能力者(レベル6)を生み出すこと』だが、アレイスターの目的は学園都市を使って『計画(プラン)』を実行することだからだ。

 

「アレイスターの目的は真守さんを神として新たな秩序を造り上げること。つまり、この世のあらゆる宗教を撲滅させることなのよ。まあそれが『計画(プラン)』の本筋ではなく()()()()()らしいけれど、でも真守さんに関してはそうよ」

 

緋鷹の説明が気になったのは誉望だった。

 

「宗教って、今どこかの宗教団体と学園都市は戦争しようとしてますが、そういう宗教団体全部をひっくるめて統括理事長は撲滅させようって魂胆なんスか?」

 

一介の学生であり、話に出てきた魔術世界とまったく関わりのない誉望がイマイチピンと来てない様子で訊ねると、緋鷹は頷く。

 

「正確には今学園都市が争っているのは十字教の一派、信徒二〇億人のローマ正教よ。まあどちらかというと、裏方がしくじったからここまで大きくなったのだけど……そこら辺、帝督さんは詳しいでしょう」

 

オカルトにまったく触れていない普通の学生にとって、世界で起こっている問題は有名な宗教団体ではなく、どっかの宗教団体程度にしか見えない。

普通なら知り得ない情報を緋鷹が知っているので、垣根は緋鷹がそれなりの立場にいるのだと警戒心を抱いた。

 

「あなた、詳しいの?」

 

そんな垣根に心理定規(メジャーハート)が訊ねてくるので垣根は頷く。

 

「真守ががっつり関わってんだよ。つーか『帝督さん』……?」

 

だが緋鷹から違和感を与えられて、垣根は怪訝そうに最後呟いた。

 

「あら。帝督さんは嫌?」

 

「いや、嫌っつーか……あんま呼ばれたことねえな」

 

垣根がなんとも言えない違和感を覚えていると、緋鷹は親しげに笑って告げる。

 

「そう? 嫌じゃないなら呼ぶわ。それで話を戻すけど、アレイスターと学園都市の間には意見の食い違いがある。だからアレイスターは真守さんを統括理事会に取られる前に隠したのよ。それがここ、『施設(サナトリウム)』なのよ」

 

緋鷹は現在、垣根たちがいる核シェルターを基盤として造り上げた『施設(サナトリウム)』の説明をする。

 

「一応備蓄、その他野菜や疑似肉の生産ラインがあるから、外からの補給が絶たれても二〇年くらいは問題ないようになっているわ。まあ元が核シェルターだから、そこら辺の設備は最初から整っていたというワケね」

 

「……真守をここまで隠し通せたのは、集団昏睡事件で学園都市が死んでたからできた芸当だな?」

 

「ええ。だから色々とあの事件は好都合だったのよ」

 

垣根の推測通り、真守の存在をここまで秘匿できたのは学園都市の住民の大半が前方のヴェントの『天罰術式』によって昏倒させられていたからだ。

目撃者がいなければ、後は監視カメラや衛星の映像を消すだけで、真守の足取りを完璧に消す事ができる。

だからこそ、学園都市が総力を挙げて探しているのにも関わらず、真守は十日間弱見つからなかったのだ。

 

「なんで俺たちに知らせなかった?」

 

「決まっているでしょう。あなたたちが暗部組織だからよ。統括理事会直轄なんて最悪じゃない。真守さんの居場所、すぐに分かっちゃうでしょ」

 

緋鷹が尤もなことを告げるので垣根は沈黙するが、即座に聞く事があるとして口を開く。

 

「お前たちはアレイスターの手先だから真守の味方してんのか? そこに何のメリットがある」

 

「アレイスターとはまた違った目的を持っているわ。言ってしまえば私たちは真守さんを神として人々の行動の指針にしたいわけ」

 

「行動の指針?」

 

垣根がオウム返しをすると緋鷹はつらつらと説明する。

 

「これまで真守さんは多くの人を救ってきた。でもその救い方ってどのようなものかしら? ずっと彼女は()()()()()救いを差し伸べていたわ」

 

そこで口を開いたのは心理定規(メジャーハート)だった。

彼女は精神干渉系能力者らしく分析をして、一つの事実を口にする。

 

「可能性を提示(ていじ)して(うなが)すだけで、後は自由にしろって感じね。彼女はいつだってそうやって救いの手を他者に差し伸べていたわ」

 

精神干渉系能力者らしく、人を俯瞰(ふかん)するように見ることができる心理定規(メジャーハート)の真守の救いの捉え方を聞かされて、緋鷹は頷く。

 

「真守さんは決して強要しないのよ。ただ人々に可能性を示唆(しさ)して後は自分たちの生きたいように生きなさいと伝える。一見して見放しているようだけど、違うわよね。あなたたちはそれをよくご存じのはずよ」

 

垣根は真守の救いと今の十字教の救済の仕方を比べて、根本から違う事に気が付いた。

 

「……そうか。それが今の宗教の形と違うから、アレイスターはそれを流行らせて宗教の撲滅を狙ってんだな?」

 

「そうよ。帝督さんが言った通り、真守さんの救済はこれまでの救いと全く別なの。あちらは教え導く方法。信仰させる事で人々を宗教に()()()()()()()()()()。でもね、真守さんを神とした場合は、(しるべ)を指し示すと言った方が正しいかしら」

 

そこで緋鷹は言葉を切って、自分たち『(しるべ)』が真守を神として世界に何をもたらそうとしているか宣言する。

 

「つまりこういう事よ。何を選ぶかは人々の自由で、人々は自由であるべきだと。決して真守さんという神は人々を縛り付けるものじゃない。むしろ、『お前たちも成りたいなら神に成っていい』のだと、そういう感じね」

 

「……で、真守をそんな神としてこの学園都市に根付かせようとしているお前らは、なんで真守のことを自分たちの神として(あが)(たてまつ)ってんだ?」

 

垣根の問いかけに緋鷹は待ってましたと言わんばかりに笑う。

 

 

「はっきり言ってしまえば、私たちは真守さんに救われた人間の集まりなの。正確には真守さんが救った人間と、真守さんに救われた人間の周囲の人々の、ね」

 

 

「真守に救われた……?」

 

垣根がその言葉に眉をひそめると、緋鷹は笑って軽やかに告げる。

 

「知らなかった? 真守さんはあなたに会う前から随分と人助けをしていたのよ。それが利用されて超能力者(レベル5)第一位に認定されたのは夏からの事件たちだけど、それまでだってあの子は数々の事件に立ち向かって人助けしていたのよ?」

 

垣根は緋鷹の説明に目を見開く。

 

「……お前たちは真守に救われたから真守を助けてんのか?」

 

 

「ええ、そうよ。だって真守さんが救ってくれたなら、真守さんが困っている時に手を差し伸べてもいいと思わない?」

 

 

「……、」

 

垣根はそれに何も言えない。

 

何故なら自分たちと一緒だからだ。

真守に助けてもらってその真価に触れたのならば、真守を守るために動いてもなんら問題はない。

 

むしろ自分からそうやって動くべきだ。

自分たちのように緋鷹たちも、真守を学園都市の食い物にしないために彼女たちなりに動いていたのだ。

真守を想っているのは垣根たちだけではなかった。

だからこそ緋鷹はそれを伝えるために口を開く。

 

「私たちを救って可能性を示してくれた真守さんが、私たちをコケにした学園都市に食い物にされる。そんなこと見過ごせるはずがないでしょう? そういう人間をアレイスターは随分前から集めていたのよ。まあ実質的に動いたのは私で、あの人は私に集めろと命令しただけなんだけど」

 

「じゃあマズいんじゃないスか?」

 

「え。何がですか、誉望さん?」

 

誉望の焦った声を聞いて弓箭が首を傾げると、誉望は弓箭につらつらと説明する。

 

「これだけ派手に動いたんだ。俺たちの行動は『スクール』の仲介人にもう捕捉されている。おそらく統括理事会は今頃俺たちを追って朝槻さんが隠れているここを特定しているだろう」

 

誉望が分かっていない弓箭に説明すると、弓箭は目を見開く。

真守は学園都市から狙われる立場にいたから、ここに匿われていたのだ。

真守が隠れている場所は『スクール』の動きで統括理事会に知られてしまった。

 

この施設(サナトリウム)に、おそらくすぐに襲撃が起こるだろう。

それに誉望が焦っていると、緋鷹が口を開いた。

 

「確かに彼らはここに真守さんがいると知ったわ。でも安易に手を出せないのよ。何故か分かる?」

 

緋鷹は誉望の懸念について即座に頷くが、それは問題ないとして逆に訊ねてくる。

それに答えたのは超能力者(レベル5)らしく、学園都市最高峰の頭脳を持っている垣根だった。

 

 

「俺たちが統括理事会を出し抜いて真守の居場所を突き止めたからだな?」

 

 

「そう。あなたたちは暗部組織を引っ掻き回して、統括理事会を出し抜いてここに辿り着いた」

 

緋鷹は柔らかく微笑みながら、『スクール』の功績を(たた)える。

 

「その過程であなたたちは統括理事会よりも力があると示したのよ。そんな人たちが真守さんの味方についたら、統括理事会は安易に手を出せなくなるわ」

 

そして自分たちに真守のことを完全に守れる力がなかったのを悔やむように、それでも心強い戦力ができたことに微笑む。

 

 

 

「あなたたちが真守さんを探したここ数日間には多大な意味があったのよ。私たちは真守さんを隠すまではできるけど、真守さんを守れるほどの力がないから」

 

 

 

「……お前は、全部分かってて動かなかったのか?」

 

緋鷹が自分たちの動きを称賛してくれているのは分かるが、全てを見通しているような言い方の緋鷹に垣根は怪訝な声で訊ねる。

 

「全部ではないわ。私は真守さんが神さまに成って、私たちがそれを隠さなければならないことは分かってた。そこから先、あなたたちが私たちのもとに辿り着けるのはほぼ賭けだったけど……」

 

だがそこで緋鷹は言葉を切って、垣根たち『スクール』を()()()()()()()()

 

 

「それでも。真守さんはあなたたちのこと、ずっと信じていたわ」

 

 

『スクール』はその言葉を聞いて目を見開いた。

 

話を聞けば確かに()()だ。

 

自分を巡って大きな争いが起こるから、真守は誰にも知らせずに身を隠した。

その争いで学園都市内が分裂して、ローマ正教との戦いどころの話ではなくなると知っていたからだ。

 

真守は人々と学園都市のことを想って身を隠したのだ。

 

人を信じる心を失くさなかった真守は、垣根帝督たちが来てくれると信じていた。

 

ずっと、ずっと。

信じて、自分が助けて、そして自分のことを守ると言ってくれた人たちと共にここで待っていたのだ。

 

「……真守は、人のことを想う心を失くさなかったのか」

 

垣根は心底安堵したようにぽそっと呟く。

 

「それであいつは、自分で集めた自分を守ってくれる人間と一緒にいたのか。……そのまま待っていれば、俺たち『スクール』が本当に自分を守ってくれる力になれるって、分かってたんだな」

 

真守は自分のことを大事に想ってくれる人々に守られていた。

そんな人たちに匿われて、真守は垣根たちのことを信じて待っていた。

人の心を失くさないで、ずっと自分を信じてくれていた。

その事実に、垣根帝督は良かったと心の底から思った。

 

「後はここに来る『グループ』をどうにかして退散させることだけど」

 

「『グループ』? ……そうか。一方通行(アクセラレータ)たちが尖兵としてここに来るんだな?」

 

緋鷹の懸念事項に垣根が声を上げると、緋鷹は敵側の現状を推察しながら告げる。

 

「そうよ。統括理事会があなたたち『スクール』の脅威を測るために『グループ』を寄越すつもりだわ。今暗部組織で生きているのは『グループ』だけ。でも問題ないわよね」

 

そこで緋鷹は『グループ』の構成員を考えて微笑む。

 

「だって『グループ』は全員真守さんと何らかの関わりがあるんだもの。真守さんを統括理事会の食い物にするわけないじゃない」

 

「……まあな」

 

人質を取られているからなりふり構っていられない彼らだが、それでも真守だって大事に決まっている。

だが人質を取られていることでどう転ぶか簡単に見当が付かない垣根は、曖昧に返事をする。

だが緋鷹にはなんとなく視えているのか特に気にせず、垣根たちを慈しみの瞳で見つめる。

 

 

「だからあなたたちの戦いは終わったわ。真守さんを取り戻せたし、あなたたちは学園都市と交渉できる立場を手に入れられた。万々歳よ。これ以上、真守さんを学園都市から守るための完璧な布陣はないわ」

 

 

そして緋鷹はそこで一区切りつけて、そっと自分の斜め右に座っていた垣根へと手を差し伸べた。

 

「お疲れ様。そしてありがとう。私たちだけじゃ真守さんを守れなかったから。これから一緒に頑張って行きましょう?」

 

「………………頼む。真守のそばにいてくれて、助かった」

 

垣根は緋鷹の手をしっかりと握る。

 

「真守が一人きりになってたわけじゃなくて、本当に良かった……」

 

緋鷹は垣根の心の底からの安堵を受けて、にっこりと笑った。

 

「ええ。でも私たちにできるのはここまでよ。その力で真守さんを助けてあげて。頼りにしているわ?」

 

一〇月九日。

垣根帝督は朝槻真守のそばにいることが再びできるようになった。

九月三〇日からたった九日。

それでもその九日が永遠のように感じていた垣根帝督は、やっとそこで肩から気を抜く事ができた。

 




暗部抗争篇、終了です。
真守ちゃんが姿を隠したのには色々な理由があったというお話でした。

次章、暗部抗争篇:奪還後。

※冒頭にも書きましたが、一月四日から毎日投稿を再開しようと思います。
真守ちゃんが再び物語に復帰します。
新年も変わらずに投稿していきますので、よろしくお願い致します。
良いお年を。

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