第一三三話、投稿します。
次は一月五日水曜日です。
第一三三話:〈舞台裏側〉の反逆者たち
統括理事会直轄の暗部組織、『グループ』の次の任務は反乱分子『スクール』の掃討だった。
『スクール』は親船最中の暗殺未遂を起こし、その最中に素粒子工学研究所を襲撃。素粒子工学研究所に保管されていた『ピンセット』を強奪し、姿をくらました。
そんな『スクール』を止めろ、という命令だった。
現在、『グループ』は第七学区のとある路地裏に停車された移動用アジトの中で情報収集に当たっていた。
「『スクール』を止めようとした『アイテム』が仲間割れで追跡不能。彼らを止められなかった『アイテム』の代わりに私たち『グループ』に仕事が回ってきた……と言う話ね?」
「『ピンセット』、超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター。……なんでしょう。それを使うということは、やっぱり何かの微粒子を解析しようとしたんでしょうか」
疑問の声を上げたのは海原光貴の顔を使っているアステカの魔術師、エツァリだ。
それでも構成員からは海原、と呼ばれている。
科学の専門家ではない海原がピンと来ない顔をしていると、『グループ』の構成員である
「微粒子の解析ってことはナノデバイスかァ? まァ何にせよ、潜伏したヤツらは再び動くはずだ」
「第三学区の個室サロンで捉えた『スクール』の構成員は四人。ホスト風の男、キャバ嬢のような女性。それと冴えない男に明らかに戦闘服の女性……ですか」
エツァリは
「そいつらの情報は?」
「上に
「ハッ。オレたちみてェなのに命令出してンのが何人もいやがるってことか。おめでてェこったなァ」
(ったく、朝槻を探すために手段を選ばないとはこういうことだったのか……。だが垣根がこれで『
土御門が一人考えていると、『グループ』の移動用アジトに連絡が入った。
「衛星が
土御門はその連絡を聞きながら大型モニターにマップを映し出す。
「そこには何があるの?」
「個人所有の核シェルターだな」
結標の問いかけに土御門が確認していると、
「あァ? 誰か要人でも襲撃してンのか?」
「それにしては何も通達がありませんからね。……一体どうなっていることやら」
海原は要人ならば統括理事会から連絡が来るはずなのに、それが来ないことを訝しむ。
そんな海原の隣で土御門は結標を見た。
「とにかく、行ってみるしかない。装備の準備をしろ。結標、足は大丈夫か?」
結標は先程少年院で『ブロック』と戦った際に両足を負傷している。
その事を土御門が心配すると、結標は軽く笑った。
「問題ないわ。動くのに支障はないし、能力行使にも問題ない」
「さァて……一体どンなクソ野郎だァ?」
土御門はその言葉に応えない。
彼らがただ一人の少女のために動いたという話を、どうやったって話すことができないからだ。
──────…………。
第二学区にある個人所有のシェルター。そこは西洋建築のドーム型の建物に似ていた。
「あァ?」
その入り口、そこに少年とその隣に車椅子に乗った少女がいた。
茶髪に黒曜石のような黒い瞳。
ワインレッドのセーターを着こんでシャツを全開にしてクラレット色のスーツを着ている、一見してホストのような身長の高い顔立ちの整った少年。
そんな少年の隣に車椅子に座って
育ちの良いお嬢様と言った様子な彼女は、霧ヶ丘女学院の制服に身を包み、膝にタオルケットをかけて車椅子にお淑やかに腰かけていた。
「八乙女緋鷹……!?」
結標が車椅子の少女を見て目を見開くので、土御門は垣根から視線を外さずに結標に声を掛ける。
「知り合いか?」
「ええ、学校の先輩よ」
結標が霧ヶ丘女学院内で足を不自由にしている彼女に会ったことがある、と土御門の問いかけに頷くと、土御門は緋鷹に視線を移す。
「能力は?」
「能力名は知らない。……でも
結標の言葉に、海原は顔をしかませた。
「
海原が怪訝に思う中、スーツの少年──垣根帝督が声を上げた。
「よお、『グループ』」
垣根が声を掛けると、『グループ』は戦闘態勢に入る。
垣根はそんな『グループ』の面々を面倒そうに見た。
「通達が来るまで少し話をしようぜ。それに戦闘はごめんだ。ここを壊されたら困る」
「ハッ。テメエが困るなら壊し甲斐がありそォだなァ……!」
「壊したらあなたたちに縁が深いとある女の子が困ることになるわ」
「……なンだと?」
「お前らは統括理事会に命令されて来たと思うんだが……ここがどんな用途で使われているか知らねえよな?」
垣根が核シェルターをビッと親指でさして問いかけると、結標が首を傾げた。
「用途? ここは個人所有の核シェルターじゃないの?」
「ええ、淡希さん。それは正しいわ。私の持ち物だから。でも所有者が私になっているだけよ」
怪訝な顔をしていた
「オマエは命令されてここの管理をしてるって事かァ?」
そんな
「ここは『
その言葉が放たれた瞬間、『グループ』の構成員は一人を除いて呆然としてしまった。
結標淡希とエツァリはそれぞれ思考を巡らせる。
(……ちょっと待って。あの人が
(朝槻真守……確か上条勢力の主要戦力。御坂さんとも深い交流があった……?)
約一名を除いた『グループ』の構成員は動揺を隠せなかったが、その中でも一番動揺してしまったのは
「……ど、ォいう事だ…………」
『
あの時に
何故寂しそうに言っていて、良いことなんてないと言ったのか。
何故気づかなかったのだろう。
朝槻真守は自分がいつか
それは間違いじゃない。
何故なら真守は物事を見通すことができ、それが
「……九月三〇日」
垣根がぽそっといった言葉に『グループ』は即座に反応する。
前方のヴェントが学園都市を襲撃したあの日。
集団昏睡事件が起こったあの日。
神と天使と呼ばれるものがこの世界に顕現したあの日。
「学園都市が死にかけたあの日。誰も助けてやれない状況で、真守は
垣根が平坦な声で告げるので
あの日は昏睡状態にならなかった人間たちも人間たちで、それぞれ戦いを繰り広げていた。
真守にまで手を回すことなど、誰にもできなかった。
誰も彼も、必死に戦っていたから。
本来助ける側であるはずの真守を、誰も助けられなかった。
真守に助けが必要なんて、思わなかった。
朝槻真守ならば問題ない。いつだって自分で物事を解決できる。
その信頼が、
垣根帝督は朝槻真守のことを『真守』と、愛おしそうに呼ぶ。
それを聞いて、『グループ』は垣根が真守のことを酷く大切にしていることに気が付いた。
そして『スクール』、垣根帝督は
「だからここは真守にとって最後の砦だ。壊されたら困るんだよ」
垣根が苛立ちを込めて告げると、
「……なンで、オマエは…………」
真守と垣根がどこでどう出会ったのか。
どうして暗部組織を引っ掻き回しても真守のことを助けようとしたのか、その関係性は何なのか。
そう疑問に思った
「ああ? 俺が真守とテメエよりも深い関係になってるのがそんなに嫌か? お前は所詮ぽっと出だろうが、アレは俺のだ。それの何が悪い」
しれっと喧嘩腰で告げた垣根を、緋鷹は見ないようにして内心ため息を吐く。
(……真守さんと七月頭に会ったくせに。どうして真守さんは俺様気質で傍若無人な帝督さんに惹かれたのかしら)
垣根帝督が誰よりも優しいことを朝槻真守は知っている。
そのため真守は垣根に惹かれたのだが、ひねくれた性格に完全に隠れた垣根の優しさなど簡単に理解できるものではない。
そのため真守が大切な自分の神さまであろうと、恋する女の子な真守が理解できない、と緋鷹は再び内心でため息を吐いた。
そんな緋鷹の前で、
「……オマエもアイツの居場所は知らなかったンだな?」
「ああ。統括理事会も知らなかった。知ってたのはアレイスターだけだ」
統括理事長、アレイスター=クロウリーは
「まあ、それが良かったのだけれどねえ」
何もかもを利用する学園都市に
「学園都市の理念は
「……じゃ、なンだよ? あのクソ野郎がアイツを守ったとでも言いてェのか?」
「守ったっつってもクソな目的のためだがな」
そこで状況を整理していた土御門がサングラスを指でくいっと押しあげた。
「なるほど、それで通達が来るまでの時間稼ぎか」
結標は垣根たちの思惑を全て理解したらしい土御門を見た。
「どういうことかしら?」
「統括理事会が知らなかった情報を『スクール』は突き止めた。それは『スクール』が統括理事会よりも優秀であるということだ。だとしたら統括理事会は安易に手が出せないだろう。『スクール』は今、統括理事会と交渉してるんだろ?」
土御門の問いかけに垣根は『ああ、そうだ』と肯定する。
それを聞いて、土御門は忌々しそうに呟く。
「その間に俺たち『グループ』が『スクール』を撃破できれば
土御門の予想に『グループ』の全員は
要はここで戦闘を始めて自分たちが『スクール』を倒してしまえば、人でなくなったとしても朝槻真守の尊厳は学園都市に踏みにじられる。
『スクール』の少年も『グループ』の全員が真守を統括理事会に引き渡したくないと考えていると知っている。
だからこそ戦闘を開始しないで話をして時間稼ぎをしようと最初に言ったのだ。
「……アイツは今、どォしてる」
「安心しろ。悠長に眠りこけてる」
「……不自由はしてねェンだな?」
「そうね。外に出られないという点以外は私たちも最善を尽くしてきたわ」
緋鷹の言葉に
真守は学校に普通に通っていたはずだ。
真守は学校に行くのが楽しそうで、
一方通行も九月三〇日のことがなければ、長点上機学園に偽造目的で入学することなく、真守の学校に時期を見て転入していたことだろう。
学園都市が
そんな真守を学園都市から守ることができるのか。
「オマエは…………アイツを守れンだな?」
「はん。誰に言ってやがる」
「俺は
「……そォか」
垣根は忌々しそうに一方通行を睨みつけていたが、そこで土御門の携帯電話に連絡が入った。
その連絡は統括理事会が八乙女緋鷹率いる『
「お前ら撤収だ」
土御門が声を掛けた瞬間、土御門の右耳にそっと囁くような声が聞こえてきた。
『……土御門、お前だけに聞こえるように話してる』
土御門は語り掛けてきたのが垣根であると知り、そう知りながらも振り返ることなく『グループ』の仲間と共に去っていく。
『後で聞きたいことがある。後日迎えを寄越す』
「じゃあな『スクール』……頑張れよ」
土御門はその言葉に応えない代わりに、振り返って何も不自然がない言葉を垣根に掛ける。
「ああ」
垣根は土御門の言葉に薄く頷くと、土御門はそれを見て小さく笑ってからその場を立ち去った。
──────…………。
『で? 一体何の用だ?』
後日。
垣根は土御門のもとに自分の能力で造り上げた人造生命体のカブトムシを一体寄越しており、カブトムシ越しに会話をしていた。
「俺が『ピンセット』で『
『……アレイスターの情報網に魔術があったのか?』
土御門を専門家としていうのであれば、確実に魔術だ。
そのため土御門がそう問いかけると、垣根はそれを肯定した。
「何かの
『
「ああ。それとはまた違うがな」
『違う?』
垣根の容量を得ない言葉に土御門が真っ当な疑問を浮かべると、垣根は視線を鋭くして垣根が『ピンセット』によって『
「『ドラゴン』」
『……「ドラゴン」?』
「お前、大覇星祭の魔術師の一件で『ドラゴン』は堕天使の暗喩だって言ってただろ。その『ドラゴン』について聞きたくてな。源白が『ANGEL』っていうプロジェクトで天使化させられたこともある。……アレイスターに繋がってるテメエの力は借りねえが知識には用がある。だから『ドラゴン』について詳しく聞かせろ」
垣根が土御門の立場を考えて一応配慮してそう言うと、土御門は戸惑った声を通信に乗せてきた。
『わかった、それ関連の資料を探してみる。……だが俺も「ドラゴン」というコードについては何も知らない』
「なんだと?」
『俺も聞いたことがない、その「ドラゴン」というコード。それが『
「お前がそれを調べてどうするんだ?」
垣根が訝しむと、土御門は『グループ』としての立場を簡単に告げた。
『お前も知ってるだろう。俺たち「グループ」は全員人質を取られている』
「……
垣根が問いかけると、土御門はカブトムシの向こうで真剣な表情をした。
『ああ。だからあいつらと足並みをそろえてアレイスターに対する何らかの手立てを探している』
「そんなことしてお前の立場はどうなる? 大丈夫なのかよ?」
大切なものを守ろうと必死になっているくせに、気に入らない相手でも付き合いがある人間のことを気遣う垣根。
そんな垣根に、土御門は親しみを感じて軽く笑いかける。
『心配してくれるんだにゃー? ……問題ない。どうせ俺は自分のことを守る情報が必要だからな。俺だけだったらなんとかなるが、俺は舞夏を守らなくちゃならない。何があってもな』
「……ふーん。じゃあ暗部組織にまだ足突っ込んでるテメエにも情報を共有してやる。『ピンセット』の技術は既に解析済み。俺の能力で複製してやるから情報源として使え」
垣根はそこで、気のない返事をしながらも頷く。
『サンキュー。ていうかていとくんさあ、こんな便利なカブトムシがたくさんいるなんてよくも黙っていてくれたにゃー?』
土御門は話が終わったとして、垣根が
「アレイスターの犬に誰が教えるかよ。……つーか、これでも真守を見つけられなかったんだ。それに前方のヴェントの時は何故か天罰術式が効いて機能不全に陥った。……まだまだ改良が必要だ」
『相変わらず向上心が高いにゃー』
「高くなくちゃ
垣根が忌々しくて吐き捨てるように告げると、土御門は声を静かにして告げる。
『朝槻のこと、頼んだぜい』
「お前に頼まれなくてもアイツは俺のモンだ。誰にも渡さねえ」
垣根が宣言すると、土御門は小さく笑って声音を真剣にした。
『……ちなみに』
「あ?」
垣根が真剣な声になった土御門に怪訝な返事をすると、土御門がぶち込んできた。
『神さまになってもお前は朝槻とヤるのか? つーかデキんの?』
「死ね」
垣根はインディアンポーカーの件と今の怒りをぶつけるために、カブトムシに空気砲をお見舞いするように手早く命令をする。
土御門の方にいたカブトムシと情報を共有すると、土御門は余裕の表情でカブトムシを挑発しながら空気砲を避けており、垣根は苛立ちを込めて土御門の周辺に展開していたカブトムシ数十匹を集結させた。
『刺突殺断』という反則技を繰り出す土御門も、『無限の創造性』を持つ垣根帝督には流石に勝てず、敗北宣言をした。
垣根は当たり前だと鼻で嗤いながらも、変わらずに真守のことを心配する土御門に少しだけ安堵して、小さく軽く笑っていた。
暗部抗争篇、奪還後。所謂後日談が始まりました。
垣根くんと一方通行が初めて対峙しました。
垣根くんが真守ちゃんのために頑張っているので、一方通行はチンピラだとは思っていません。むしろ垣根くんにヒーロー性を見出しています。
何はともあれ垣根くん、暗部抗争篇を生き抜きました。
ここから物語は佳境です。旧約篇、最後までお楽しみいただけたら幸いです。