とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三五話、投稿します。
次は一月七日金曜日です。


第一三五話:〈同類追駆〉は決意する

真守と垣根は暗部抗争で垣根と対峙して自爆した、滝壺理后が運び込まれた冥土帰し(ヘブンキャンセラー)のいるマンモス病院へと向かう準備をしていた。

そんな真守に、緋鷹は目立たないためにローブを着させており、緋鷹は真守のローブを整えながら車椅子に乗ったまま顔を上げた。

 

「いい? 統括理事会が手を出さなくたってあなたを狙っているところはたくさんあるのよ。危ないから絶対にここに帰ってきてね」

 

「うん。分かってるぞ」

 

「お前は真守の母親か?」

 

緋鷹と真守の様子を見ていた垣根が思わずぼやくと、緋鷹はキッと垣根を睨み上げた。

 

「何よ。こうやって言い聞かせてても勝手にどっか行っちゃうかもしれないんだから。言いたくなるに決まってるでしょ」

 

「真守はガキじゃねえよ」

 

「あなたはここ数日真守さんと一緒にいなかったからそういうことが言えるのよ。私の方がこうなった真守さんと一緒にいるのが長いの。文句は言わせないわ」

 

「……、」

 

垣根はその言葉に何も反論できずに口を(つぐ)む。

そんな垣根を、緋鷹は車椅子から真剣な表情で見上げた。

 

「帝督さん。真守さんのことよろしくね。あなたが頼りなんだから」

 

「お前によろしくされなくても分かってる。……行くぞ、真守」

 

垣根はそこで、自分の身を完全にローブで隠した真守のことをお姫様抱っこしようとする。

 

「私普通に飛べるぞ。しかも翼も出せる。垣根とお揃いだな」

 

真守が何も問題ないと告げると、垣根はそんな真守に早くこっちに来いと逆手で真守を呼びながら顔をしかめる。

 

「お揃いなのは別に良いが、スカートで飛ぶんじゃねえ。大人しくしてろ」

 

「別に問題ないのに」

 

真守は文句を言いつつも、垣根の肩に自分の手を置いてお姫様抱っこをしてもらった。

 

「こいつ……相変わらずパンツをモロに見せることに抵抗がねえな……」

 

垣根は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)しても相変わらず下着を見られることに無頓着な真守に苛立ちを見せる。

まあ人間であった時に気にしていなかったことが絶対能力者(レベル6)になって気にすることなんてありえないのだが、それでも文句は言いたくなるものだ。

 

「真守」

 

垣根が真剣な声で自分の名前を呼ぶので、真守はコテッと首を傾げた。

 

「なんだ?」

 

「……頼むから、俺から絶対に離れるなよ。分かったか?」

 

垣根の切羽詰まった声を聞いて、真守は垣根のさらさらとした茶髪を撫でながら微笑む。

 

「分かってる」

 

真守が頷いたのを見た垣根は、そこで緋鷹の隣で真守を心配そうに見つめていた深城へと視線を移した。

 

「じゃあちょっと行ってくる」

 

「垣根さん、気を付けて。真守ちゃん、主治医さまが心配してたからちゃんと会いに行ってね」

 

深城が気にしているのは真守と自分の主治医である冥土帰し(ヘブンキャンセラー)だ。

真守も気になっているのでコクッと頷いた。

 

「私も先生と話がしたいから。大丈夫だぞ、深城」

 

垣根はそんな真守を見て柔らかく目を細めると、心配そうにしている『スクール』や、林檎と深城。そして緋鷹を見た。

無言で挨拶をすますと、真守の小さな体を感じてそっと抱き直して歩き出した。

 

 

 

垣根は核シェルターの外へ出て、未元物質(ダークマター)でできた三対六枚の純白の翼を広げた。

 

「真守、一つ聞いてもいいか?」

 

「なんだ?」

 

真守がきょとっと目を見開いて垣根を見上げると、垣根は真守を見ずにふわっと浮き上がる。

 

「八乙女はお前のこと、大事に扱ってんのか?」

 

「うん。とっても大事にしてくれる」

 

垣根が真守に視線を寄越さずに問いかけると、真守は薄く微笑む。

そして垣根の首に回していた手にギュッと力を入れた。

 

「あの子は私のこと、神さまだと思ってるからな」

 

「……そうか」

 

垣根はその言葉にどう応えていいか分からずに、そう呟いた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

第七学区のマンモス病院。

その病院のとある廊下の待機用ののソファに座っていた浜面仕上は、そわそわと落ち着かない様子だった。

 

「浜面」

 

そんな浜面に声を掛けたのは松葉杖を突いて歩いてきた絹旗最愛だ。

彼女は体のあちこちに湿布を張ったまま、ゆっくりと浜面の隣に腰を下ろした。

 

「怪我は大丈夫なのかよ?」

 

自分も麦野との戦闘で耳が一つ潰れていたり全身に怪我を負っているが、それでも浜面は絹旗を心配する。

 

「超問題ありません。垣根帝督は超手加減してましたので」

 

彼が本気になったら私は生きていませんよ、と続ける絹旗の言葉を聞きながら、浜面はグッと奥歯を噛み締める。

 

大切なものを取り戻すために『アイテム』と戦って、学園都市に反旗を(ひるがえ)した垣根帝督率いる『スクール』。

 

彼らは大切な存在を取り戻せたのだろうか。

それともこの学園都市に敗北して死んでしまったのか。

確認することなんてできない。確認したってどうにもならない。

そして浜面仕上は彼らを気にしている暇なんてない。

 

重い沈黙が二人を包み込む中、滝壺の治療が行われている部屋の扉が開かれた。

両扉から出てきたのは、カエル顔の医者だった。

 

「滝壺は!?」

 

近寄ってきた浜面を見て、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は落ち着いた様子で告げる。

 

「まだ予断を許さない状態だが、死ぬことはないね?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の言っていることが分からず、浜面は疑問の声を上げた。

 

「?? 言ってる意味が分からねえ。それはつまり滝壺は大丈夫じゃねえのか、大丈夫なのかどっちなんだよ!」

 

「彼女を生存させるための機能を全て機械で代替している。だから死ぬことはないよ? 彼女の体が自らで調子を取り戻すまでそうやって処置をして、機械がいらなくなるまで代替すればいいんだね?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の説明を聞いた浜面は、足りない頭を使って状況を整理して声を荒らげた。

 

「つまり滝壺の自然回復を待つってことかよ!? もっと簡単に滝壺を治す方法はねえのかよ!!」

 

「今彼女の体に不用意な処置を施せば逆に危ないんだ。小康状態に持って行くまでこの状態でいるしかないよ?」

 

浜面はその言葉を聞いてチッと舌打ちする。

垣根帝督がこの医者に見せれば大丈夫だと言っていたのに、とんだヤブ医者だと思った。

だが浜面は知らない。

滝壺を生かしている技術が冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の開発したもので、彼のもとに来なければ滝壺は確実に死んでいたことを。

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)のことをなんとなく聞いたことがある絹旗は彼が言うならば問題ないと思っていたが、それを知らない浜面に説明しても意味がないと思って黙っていた。

あまり頭の良くない浜面は、そこで誰かの足音が聞こえてきてハッと顔を上げた。

 

「お前……!!」

 

そこには、スーツのポケットに片手を突っ込んでいる垣根帝督の姿があった。

垣根帝督は、(かたわ)らにいるローブを被って顔を隠した小柄な人物にピタッと寄り添うようにそこに立っていた。

絹旗は敵意のない垣根に困惑しつつも一応構える。

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はいつもだったらここで戦闘は禁止だと言うが、勝手知ったる彼らにそれをわざわざ注意しなくてもいいと知っていたので黙っていた。

黙って、ローブを(まと)った少女が自分に近づいてくるのをじっと待っていた。

その人影は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の前までやってくると、そっとローブから顔を出した。

 

「あ、あんたは!!」

 

浜面はローブの中から顔を出した人物に驚愕する。

 

無能力者(レベル0)の浜面でも知っているその少女は、超能力者(レベル5)、第一位。流動源力(ギアホイール)、朝槻真守だ。

 

ちょっと可愛い。いや生でみるとめっちゃ可愛い。

 

浜面は顔立ちの整った真守を見つめて不謹慎にもちょっと心が揺れ動く。

真守はそんな浜面と警戒心を(あら)わにしている絹旗を気にせずに、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)にそっと抱き着いた。

 

「先生、心配かけた」

 

「問題ないよ? よく無事だったね?」

 

そこで浜面は全てを悟った。

垣根帝督が探していたのは朝槻真守で、朝槻真守はずっと自分の親しい人間たちから引き離されていたのだと。

 

「体の方は?」

 

「大丈夫。もう全部大丈夫になったんだ」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が主治医らしく真守の体調について問いかけると、真守は問題ないと微笑んだ。

真守は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)したおかげで完全な体に組み替えられた。

内臓器官も体に最適になっているから、内臓器官を助ける薬をもう飲み続ける必要なくなったのだ。

 

「彼女を助けに来たのかい?」

 

「うん、そうなんだ」

 

真守がノータイムで答えると、浜面と絹旗は驚愕した。

 

「この中だ」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が真守に滝壺が寝かされている部屋を示したので、浜面が待ったをかける。

 

「ちょっと待て! お前が滝壺を診るのか?!」

 

「能力体結晶」

 

真守は滝壺の体を蝕んでいる化学物質の名前を淡々と告げた。

 

「私はそれをずっと調べていた。……能力体結晶を生み出した人間並みには詳しいぞ」

 

そこで浜面は思い出した。

垣根帝督が探していた存在は、過去に能力体結晶が原因で大切な人を喪っている。

だから垣根帝督はなんとしてでも朝槻真守のために滝壺理后を救おうとしたのだ。

真守は黙った浜面をちらっと見てから、そのまま滝壺理后がいる部屋へと入っていく。

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は両手をポケットに突っ込んで立っていた垣根を見つめた。

 

「彼女はどこにいたんだい?」

 

「真守のことを大事に想ってる人間に(かくま)われていた。だから誰も真守に手を出しちゃいない」

 

「そうか。それは良かったね?」

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)と垣根が親しい様子で真守のことを話している姿を見て、浜面と絹旗は二人が本当に真守のことを大事に想っていて、そしてそれ故に取り戻そうと垣根が奮闘していたと今一度思い知らされた。

それから十分もしない内に真守は滝壺がいた部屋から出てきた。

 

「た、滝壺は?」

 

浜面が真守に駆け寄って声を掛けると、真守は蒼閃光(そうせんこう)で形作られた猫耳と尻尾をスゥッと消しながら告げる。

 

「人工透析による浸透圧で毒素を抜く必要がある」

 

「ドクソ?」

 

浜面がその言葉にきょとんとすると、真守は表情一つ変えずに詳しく説明する。

 

「細胞単位で毒素が溜まってる。能力体結晶を摂取し続けた副作用だ」

 

「それって能力体結晶そのものが超毒であるというわけではなく、それによって毒素が超溜まってしまったということですか?」

 

イマイチ状況を理解していない浜面の代わりに絹旗が整理して真守に問いかけると、真守はコクッと頷いた。

 

「うん。浸透圧は分かるか?」

 

「うぇ……えーっと…………?」

 

浜面は突然難しい言葉を掛けられたので必死に頭を動かすが、その単語の意味が分からない。

 

「料理で塩漬けしたものの塩を抜くために必要な迎え塩は分かるか?」

 

まったく勉強できない浜面にも分かりやすいように真守が問いかけると、浜面は目を瞬かせた。

 

「確か塩漬けした食べ物から塩を抜くために水につけるとき、効率よく塩を抜くために水に食塩をちょっと入れる……ってヤツか?」

 

浜面がそういう家庭的なものなら分かると頷くと、真守は淡々と『浸透圧』の説明をする。

 

「濃度の異なる二種類のものを混ぜた時、成分は当然として均一になろうとする。それが浸透圧だ。塩漬けしたものは濃度が濃い。対して迎え塩をした水は濃度が薄い。すると二つの塩分濃度が均一になろうとして、塩漬けしたものから塩水に早く塩分が抜けることになる」

 

浸透圧について説明を終えると、真守は滝壺の処置に関しての話に入る。

 

「人工透析をして血中にある毒素をある程度抜き、細胞に含まれている毒素を浸透圧で血液に出す。その血液を再び人工透析にかけて、また細胞に含まれている毒素を浸透圧で血液に出す……という作業を繰り返していけばいい」

 

「それって……ものすごく時間がかかるんじゃないのか?」

 

「かかる」

 

浜面が真守の詳しい説明を聞いて顔をしかめながら問いかけると、真守はそれを肯定した。

 

「それに今、私が滝壺理后の体のエネルギー循環を整えたから峠を越えられたが、能力体結晶の乱用で体内のあらゆる分泌物質のバランスが崩れている。人工透析を開始する前にまずはこれを治療しなければならない。お前は能力体結晶がどのようなモノか知っているか?」

 

真守が問いかけると、浜面はふるふると首を横に振った。

 

「能力体結晶とは、暴走能力者の各種神経伝達物質や異常分泌されたホルモンを凝縮、精製したものだ。だからそんなものを摂取したら体内のあらゆるバランスが崩れる。まずはそれの治療からだ。そんなの当たり前だろう?」

 

「え!? 能力体結晶ってどっかの誰かの分泌物だったの!? 滝壺はそれをずっと摂取してたってことォ!?」

 

浜面がまさかの能力体結晶の精製方法に声を上げると、真守はそんな浜面のリアクションを見て頷く。

 

「まあ普通は知らない事だよな」

 

真守が淡々と告げると、浜面は声を荒らげる。

 

「いや普通じゃなくても知らねえよ!! 俺は一〇〇人の武装無能力集団(スキルアウト)を束ねてたリーダーだぞ!?」

 

真守はそれを聞いてきょとっと目を開いて浜面を見た。

 

「それは自分を自分で貶めているのか優位に立とうとしているのか、どっちだ? ……どっちもか、それとも何も考えていないのか?」

 

「…………な、何も考えてないです」

 

浜面は全てを看破されて思わずぽそぽそと呟く。

真守は浜面に説明が終わったので冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の方へと振り返り、滝壺について話を始める。

どうやら滝壺理后の体を循環するエネルギーのどこをイジり、足りないエネルギーをどうやって補填(ほてん)し、脳の電気信号の指令をどう出したとか、そういう専門的な話で浜面にはさっぱりわからなかった。

 

(つーか第一位って生で見ると本当にかわいいんだなー。写真で見た時は気難しそうでお高く止まってるとか思ったが、自分が大変だったのに滝壺のことを助けに来るとか優しいんだなあ。クールなのに優しいのか。ローブで見えないけれどアイドル体型っぽいし、ギャップ萌えでモテそうだよなー)

 

淡々と高度な話をしている真守を見つめて、浜面が思わず緊張がほぐれた頭でそんな色恋について考えをしていると、突然ゾッと怖気が立つ殺気が辺りに立ち込めてきて体を固まらせた。

カチコチ体を凍らせたまま浜面がギギギーッと首を動かして振り返ると、そこに冷酷な瞳で自分を射抜いていた垣根帝督が立っていた。

 

「オイ。ナニ俺の女に色目使ってんだよ握り潰すぞ」

 

「ヒィッ!? ドコ!? ドコをぉッ!?」

 

浜面が垣根の脅しにガタガタと震えていると、垣根は視線を下に向けて浜面の股の辺りを見た。

そしてゆっくりと浜面の顔に視線を戻して睨みつける。

 

「一つしかねえだろ」

 

「いやああああせめて頭にしてぇえええ!!」

 

浜面は男として終焉させられそうになったので声を上げる。

体をくねくねさせて股間を抑えて守る浜面が心底気持ち悪くて、垣根は『何だこの男』とげんなりする。

そんな中、絹旗が小さく手を上げた。

 

「いえ、浜面。頭だったら超即死ですけど、タマだったら死にませんよ」

 

「死ぬの!! 俺が男として死ぬの!! そしたら頭潰されるのと一緒ぉ!!」

 

誰もが直接言わなかったことをよりにもよって女の子の絹旗が言ったことに誰も突っ込まずに、浜面はいやだぁあああと叫び声を上げる。

 

「垣根、話が終わったぞ」

 

殺気を放っていた垣根だったが、真守はそんな垣根に近づく。

そしてちょいちょいっと垣根のジャケットの裾を真守が引っ張ると、垣根はその殺意をかき消して真守を見た。

 

「もういいのか?」

 

真守は垣根に声を掛けられて頷く。

 

「うん。先生ともちゃんとたくさん話した」

 

垣根は真守の満足そうな様子にふっと目元を柔らかく細めた。

 

「そうか。お前が良いなら俺もそれで良い」

 

垣根が柔らかく真守に笑いかけるので、浜面と絹旗はその変わりっぷりに思わず硬直する。

 

「帰るか?」

 

「うん」

 

垣根が問いかけると真守はコクッと即座に頷き、垣根は真守の頭にローブをかけてやってその顔を見えなくして、真守を優しく抱き上げた。

 

「じゃあな、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)

 

「ああ、またね?」

 

垣根が声を掛けると、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は柔らかく微笑む。

そんな冥土帰しに向かって真守がふりふりと手を振っていると、垣根は浜面と絹旗を見た。

 

「俺はフレンダ=セイヴェルンに足を洗うように言ったからな」

 

垣根に声を掛けられて絹旗は硬直して、浜面はグッと唇をかみしめる。

 

フレンダは表でも生きていける。

佐天涙子という友達がいるということはそういうことだと垣根は理解した。

何故なら『闇』にどっぷり浸かった人間には表の世界の人間は眩し過ぎる。

それなのにフレンダ=セイヴェルンが佐天涙子と友達になれたのならば、彼女は表の世界でもやっていけるということだ。

 

表で生きていく。

だが麦野沈利はフレンダが『裏』から足を洗う行為を裏切りだとして『粛清』した。

 

確かに垣根が真守を取り戻すために動き出さなければフレンダは死ななかった。

だが垣根は大切な存在から引き離されてしまってどうしても我慢ならなかった。

 

その気持ちは分かる。

浜面も元仲間である麦野沈利と戦っても滝壺理后を守りたかったからだ。

 

何が悪かったかはっきり言えない。

だがそれでも一つの命がも喪われたことは明らかだった。

 

「あの女がそう簡単に死ぬとは思えねえ」

 

垣根の言葉に浜面はぎょっと目を見開いた。

あの女、というのはもちろん麦野沈利のことである。

 

超能力者(レベル5)ってのはそんなモンだ。利用できるならば骨の髄まで利用し尽くされる。俺も、コイツもな」

 

垣根はそこで、浜面たちを寂しそうに見つめていた真守を抱き直して呟く。

 

「お前らの問題はお前らでどうにかしろ。麦野沈利がフレンダ=セイヴェルンを殺したのはお前たちの絆に問題があったって分かってるよな?」

 

浜面はそれを聞いて(うつむ)く。

垣根の言う通りだ。

垣根はフレンダを見逃した。

その命を(おびや)かそうなんて微塵(みじん)も考えていなかった。

 

その命を奪ったのはフレンダが大切な仲間だと思っていた麦野沈利で、彼女たちの関係性がそこまでだとまったく知らない垣根には何の手出しもできない。

 

フレンダと垣根は知り合いでもないし、そもそも両者は敵対していたのだ。

フレンダを助けなければならない理由なんて、垣根にはどこにもない。

確かに『アイテム』と激突した『スクール』にも責任が少しくらいあるだろう。

だが結局少しだけだ。

フレンダを殺したのは仲間だった麦野沈利なのだから。

 

「それでも気にかけておいてやる。でもそれだけだ。テメエの尻はテメエで拭け」

 

垣根は抱き上げている真守を揺すらないようにゆっくり歩きながらそのまま病院を後にする。

 

浜面は何も言わなかった。

だが彼に頼ることはしたくないと思っていた。

何故ならば、滝壺の命を彼らは救ってくれたのだから。

後は自分たちの問題だ。

 

そこで浜面は何があっても滝壺理后を守り抜くともう一度決心して、守るための戦いをしようと立ち上がった。

 




滝壺ちゃんの毒素についてですが、完全に推測です。
ですが血中だけに毒が回っているのであれば、エリザリーナの魔術によって快復するはずです。
でもそうならずに創約まで引っ張られて人工透析が良いと言われたのは、おそらく毒素が細胞単位で溜まっているのではないかと推測しました。
果たして真実はどうなのか……。
気になるところですね。


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