とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三六話、投稿します。
次は一月八日土曜日です。


第一三六話:〈千変万化〉を思い知らされても

絶対能力者(レベル6)進化(シフト)した真守の身の回りの世話をしているのは八乙女緋鷹である。

緋鷹はここ数日、絶対に真守の部屋に朝行って真守の様子を見ていた。

今日もそれは変わらなかった。

 

「……、」

 

だが緋鷹は来なければ良かったと後悔した。

 

昨日、垣根帝督率いる『スクール』が真守のもとへとたどり着いた。

緋鷹は真守の味方となってくれた『スクール』が滞在できるように部屋もきちんと用意していた。

 

だが目の前の天蓋付きの真守が使用しているベッドには垣根帝督の姿もあった。

しかも垣根は真守の腕の中で気持ちよさそうに眠っている。

あの傍若無人な気配など微塵も感じさせない程に。それはもう、安らかに。

 

真守は自身の身体機能をスイッチでオンオフを切り替えるかのように、機能を起動したり停止したりできる。

そのため性欲が消滅したわけではないのだ。

つまり、そういう行いをしようと思えばできる。

 

真守と垣根は永遠を誓った恋人だ。

恋人ならば一緒に眠っていてもおかしくない。

床やソファに真守の制服やら垣根のスーツやらが脱ぎ捨てられていても、何もおかしいことではない。

それでもそれを生々しく見せつけられると緋鷹は何とも言えなくなってしまう。

 

緋鷹がちらっと真守に視線を寄越すと、真守はしぃーっと人差し指を唇に当て、緋鷹に『垣根を起こさないように静かにして』と体で示していた。

緋鷹は真守から垣根へと静かに視線を移す。

 

昨日のように張り詰めた、追い詰められたような表情はしていない。

むしろ逆に恐ろしくなるくらい穏やかな表情で眠っている。

 

「……どうするの?」

 

緋鷹が声をひそませて真守に訊ねると、真守は胸の中で眠っている垣根に視線を落としてから緋鷹を見た。

どうやら起きるまでこのままにしておくらしい。

 

(『スクール』のリーダーさまと今後の打ち合わせをしたかったんだけど……まあ、他の三人と話を進めればいいか)

 

緋鷹は妥協案を考えると、車椅子を動かして真守の部屋から出ていった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

完全に寝過ごした、と垣根は思う。

昨日は色々とお察しで確かに少し遅く寝たが、それでも一五時過ぎまで爆睡するなんて思わなかった。

ここ数日思い詰めていてろくに眠れてなくても、流石にこれはマズいと思う。

 

垣根が爆睡している間に真守が何をしていたというと、ずっと付き合って添い寝していた。

真守は休眠状態になれるし、惰眠も(むさぼ)れるが、本来眠る必要はない。

ここ数日休眠していたのは垣根を待ち続けるのが酷く辛いことだったからだ。

 

そんな本来眠らなくていい真守はおそらく昨夜から一睡もしていない。

何故爆睡中の垣根にそんなことが分かるのか。

 

それはずっと真守が自分の背中を優しく撫でている感覚が垣根にはあったからだ。

それで安心して穏やかにこんなに長い時間眠ってしまったのだ。

しかも垣根が起きたら真守は、あの無機質なエメラルドグリーンの瞳でじぃっと垣根を見つめていた。

 

確実に見られていた、と垣根は悟った。

そして幸せそうに微笑んでいたから、垣根が自分の腕の中で眠っているのが嬉しくて眠っている自分を眺めていてずっと起きていたに違いないとも、垣根は悟った。

 

そんな垣根は即座に身支度を整えて『スクール』の構成員が使用している『施設(サナトリウム)』内の会議室に向かったが、入った途端生温かい目で迎えられた。

 

その生温かい目と言っても心理定規(メジャーハート)は呆れており、誉望は上司のそういうところを見てしまい、気まずそうにしていた。

そして弓箭は垣根の微笑ましい部分を見てとても穏やかな表情をしていた。

 

垣根が『なんだテメエらその目は!』と声を荒らげると、緋鷹が『何って、私の神さまの腕の中で幸せそうに眠ってた男を見る目だけど?』と心底冷えた声で告げた。

軽蔑の視線を向けられた垣根は、緋鷹に割とがっつり見られていたと思い知らされて軽く死にたくなった。

 

彼らは垣根が不在のまま緋鷹と共にこれからの方針について話し合っており、ローマ正教の脅威がおさまるまで、当面はこの『施設(サナトリウム)』で共同生活を行うこととなっていた。

 

その手筈として色々と準備をしなければならなくなった『スクール』の一同。

そんな『スクール』のリーダー、垣根に緋鷹が下した指示は『全員で動き出すと隙が生じるから真守さんのそばにいること』というものだった。

 

まあ願ってもないことだし、ちょっと気まずかったので垣根は緋鷹の指示の通りに真守の部屋へと向かった。

 

 

 

「真守」

 

「?」

 

垣根が部屋に入ると、散らかっていた部屋が綺麗に整えられていた。

ベッドのシーツが綺麗になっていたが、この部屋にシーツの替えがあるとはとても思えない。

どうやら誰かが掃除をしたらしく、なんとも言えない気持ちになった垣根だったが、とりあえずソファに座っている真守に近づいた。

 

「……あー……、今源白の体をこっちに移してっから。それで他の連中は出払ってる」

 

「知ってるぞ。それに深城が私の服や大切なものを持ってきてくれようとしてるのも分かってる」

 

「……そうか」

 

垣根は既に真守が全てを知っている様子なので(うめ)くように呟く。

真守は人の格好をしてはいるが、絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)したのだ。

他人が一々伝えなくても察することができる。

そういうことらしい。

 

真守が絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した片鱗を垣根が感じていると、真守はコテッと首を傾げた。

 

「垣根。もう少し寝るか?」

 

真守はそう言いながら自分の前に立っている垣根を(うなが)すために、ポンポンと自分の膝を叩く。

 

「……いや、ダメ人間になるからいい」

 

確かに垣根は真守がいない数日間の疲れが抜け切れているわけではない。

それに真守の膝枕はとても魅力的だが、一人の男としてそこまで甘えるのはダメな気がする。

そのため垣根は真守の誘いを断るが、それで引き下がる真守ではない。

 

「垣根。分かってないかもしれないが垣根はとても疲れているんだぞ。私が心配でよく眠れなかったんだろう?」

 

「……、」

 

真守が垣根の疲れを看破して遠慮しないでほしいと告げる。

垣根は真守からそっと目を()らしてその誘惑に耐える。

 

「本当に寝なくていいのか? 自由にしておいていいって言われたんだろ?」

 

「……いい」

 

垣根がもう一度断るが、それでも真守は引き下がらなかった。

垣根が本当に大切だからだ。

 

「誰も見てない。その証拠に、深城や林檎はもちろん、『スクール』の子たちもここにはいないんだから」

 

「……八乙女はいるだろ」

 

垣根が真守の優しさに甘えそうになるがぐっとこらえて、緋鷹の存在を口にすると、真守の表情に(かげ)りが見えた。

 

「どうした?」

 

垣根が瞬時に真守の様子を感じ取って小首を傾げると真守は呟く。

 

「垣根。……私のわがまま聞いてくれるか?」

 

「! 何かあんのか?」

 

真守が自分の願いを聞いて欲しいと言ってくるので垣根がそれに食いつくと、真守は上目遣いで垣根をじぃっと見上げた。

 

「緋鷹に、無理しないでほしいと言ってくれ。今すぐ、直接」

 

真守はそこで小さく寂しそうに笑った。

 

「あの子がアレを安心材料にしているのは分かっている。あの子が私のためにやりたいとやっている事だから私は止められない。でも、垣根は違うから」

 

「? ……分かった」

 

真守のお願いに首を傾げながらも、垣根は真守の部屋を後にして緋鷹のもとに向かった。

 

 

 

緋鷹がどこにいるか分からない垣根は『施設(サナトリウム)』内を歩き回った。

その内面倒になってきたのでカブトムシを一匹呼んで動体検知でサーチを掛けると、すぐ近くの部屋で緋鷹らしき反応があった。

 

「八乙女、真守が」

 

垣根がそう言いながら自動扉をくぐった瞬間、ごぼ、という咳き込む音が聞こえてきた。

 

垣根がそちらを見つめると、緋鷹が車椅子から転げ落ちて口に手を当てていた。

しかもその手の間からぼたぼたと血が(こぼ)れていた。

 

「八乙女!? お前一体どうしやがった!!」

 

垣根が即座に近づき緋鷹の背中に手を這わせようとすると、緋鷹は垣根を止めた。

背筋がぞわっとして異変を覚えたからだ。

 

キィ────ンという甲高い音が響き渡り、垣根は何かが緋鷹を中心に起きていると悟ると、(うつむ)いている緋鷹の肩に手をかけて自分の方へと顔を向けさせた。

 

緋鷹の瞳は通常、焦げ茶色だが、垣根が見るとその瞳は真っ黒に染まっていた。

その真っ黒に染まった瞳の中心に、何か白いものがちろちろと炎のように舞っている。

しかも垣根のことを見ておらず、何か虚空をぼうっと見つめていた。

 

「テメエ、能力を……ッ?」

 

垣根が驚愕している中、緋鷹はがふがふと小さく血を吐きながら能力を行使し続ける。

 

「こんな時に何やってんだ、早く医務室に行くぞ!」

 

垣根は緋鷹にもらった『施設(サナトリウム)』の見取り図を思い出しながら、足が動かない緋鷹をお姫様抱っこしようと抱え上げようとする。

 

だが次の瞬間、プシュッと炭酸ガスが抜けるような音が響き、垣根はその音がした方を見た。

緋鷹の腕には無機質なバングルがしてあり、どうやらそこから何かが緋鷹の腕に注射されたらしい。

それが注射されると緋鷹の息がみるみる正常に戻っていき、血を吐くこともなくなる。

 

おそらく緋鷹は自分で劇物を飲んで能力を行使して、その後能力行使が終了したから劇物の解毒薬を体内に注入したのだ。

 

もしかしたら最初から時限的に作用するように自分で仕掛けていたのかもしれない。

解毒薬を注入しても傷つけられた体がすぐに元通りになるわけではない。

とりあえず緋鷹を車椅子に乗せて、連れて行こうとすると緋鷹が垣根を見た。

 

「…………問題、ないわ。いつものことだし、だからここには誰も近づかなかったのに。……どうして来たの?」

 

垣根は気にする事はないと告げる緋鷹を睨みながら、推測を口にした。

 

「お前、林檎と一緒で負荷を掛けたら良い結果が出るタイプの能力者か」

 

杠林檎は一定の負荷をかけると能力の成長が見られたため『暗闇の五月計画』では薬物や物理的な痛み、そして最後には精神的に痛みを与えて能力の向上を測られていた。

それとまったく同じではないが、緋鷹も負荷をかければ一定の成果が出る能力者らしい。

 

「…………ええ、そうよ。ふふ、良いものが、()えたわ。……真守さんが夕食をあなたたちと食べているところが」

 

緋鷹の能力は先見看破(フォーサイト)。未来を視ることができる予知能力系だ。

どうして真守が普通に過ごしているなんてことない日常が良いものなのだろうか。

垣根は疑問に思ったが、そこで予知能力系の特徴が三次元的に事象を捉えて、未来を確定させるものだと思い出した。

真守が普通に過ごしているという事は、脅威がないということだ。

緋鷹は未来を確定する事で、真守の平穏を守っているのだ。

 

「予知能力系はみんな負荷を掛けなくちゃなんねえのか?」

 

垣根の問いかけに、緋鷹は息を整えながら苦笑する。

 

「……ふふ。……そうとも言えるし、そうでもないかもね。何しろ、……私たちの分野は発展してないのだから、安全に能力を行使する、方法なんて確立されていないわ」

 

そんな緋鷹に向けて、垣根は顔をしかめてぶっきらぼうに告げる。

 

「お前、もうこんなことはするんじゃねえ」

 

「……やめる、わけにはいかないのよ。これで()れば、真守さんが明日も明後日も、穏やかに存在していられるのが、分かるから……」

 

「その真守がやめろっつってんだよ。だから俺はここに来たんだ」

 

弱弱しく告げる緋鷹を見つめながら垣根はため息を吐く。

 

「…………え?」

 

「真守はお前がそれを安心材料にしてるから止められねえって言ってた。お前のことを思って何も言わなかっただけだ。だからやめろ。大体、俺たちが真守のそばにいるんだ。お前が命削ってまで全部守ろうとしなくていいんだよ」

 

ぽかんとした緋鷹に真守の気持ちを垣根が代弁して伝えると、緋鷹はふふっと柔らかく笑って力なく告げる。

 

「……盲点だったわ。……真守さんが私のこと、大切に思っているだなんて。自分を祀り上げている有象無象(うぞうむぞう)の一人だと、考えていると思ってたわ」

 

「真守がそんなこと思うかよ」

 

「甘いわね」

 

垣根が軽蔑の眼差しを向けると、緋鷹はキッと垣根を睨み上げた。

 

「これからあなたが思い知らされて一々傷つくのは面倒だから、この際はっきり言ってあげる」

 

そこで緋鷹は、垣根にとって冷酷ながらも事実を伝えた。

 

 

「真守さんはもう人じゃないの。あなたの知っている人であった真守さんはもういないのよ。真守さんはね、もう人間として測れる場所にはいないのよ」

 

 

垣根は突然冷や水を浴びせられた気分になって硬直した。

確かに自分に向けてきている感情は以前と同じで変わりはなかった。

だが真守の行動に少しずつ違和感があると垣根も感じていた。

昨日絶対能力者(レベル6)とへと進化(シフト)した真守に初めて会った垣根にも違和感が分かるくらいなのだ。

真守と親しくなくてもここ数日一緒に過ごしていた緋鷹は、真守の神さまとしての気質がよく分かっているのだろう。

 

「でも、あいつはお前のことちゃんと考えてる。それは事実だ」

 

「そうね、だからこそ盲点だと言ったのよ。真守さんはその気になればAIM拡散力場を操ってこの学園都市の全能力者を廃人にして自分の力を発し続ける苗床にできるのよ。真守さんはそれだけ危ない存在なの」

 

「それをしないのは、真守にアレイスターが施した『枷』が働いているからか?」

 

緋鷹が真守について詳しく知っているとしっかりと認識した垣根は、アレイスターの策略について緋鷹に訊ねた。

 

「ええ。学園都市の人間全員が真守さんを超能力者(レベル5)第一位として認識することで、真守さんは一人の能力者の枠組みに抑えられているの。でもAIM拡散力場から真守さんへ力の供給がされなくなった訳ではないし、学生は真守さんが学園最強だとも認識している。だから真守さんの力を一部奪っている状態にしかならないけれどね」

 

緋鷹はそこで言葉を切って荒い息を整えてから告げる。

 

「真守さんは人から神に()った。だから人に限りなく近いけれど、私たちの味方になってくれる訳じゃないの。私たちのために神さまに成ったんじゃなく、真守さんはそういう運命だとして、神さまに()ったのだから」

 

「……ならなんで、お前はそこまで真守に肩入れするんだよ」

 

垣根が(うめ)くように告げると、緋鷹はフッと柔らかく目を細めた。

まるで、恋焦がれた人間のことを想うかのように。

真守が近くに存在していて、そこにいるのが信じられないという風に。

儚く消えてしまう夢物語に触れているかのように。

緋鷹は、熱に浮かされた様子で口を開いた。

 

「真守さんはいつだって私の苦しみの先にいた」

 

八乙女緋鷹はいつだって能力を行使した先に朝槻真守の存在を感じていた。

苦しみの中、全てを笑い飛ばしてくれるほどに強大な存在である絶対能力者(レベル6)を感じていた。

 

「真守さんは私が閉塞させた未来を切り(ひら)いてくれるの。私は真守さんに直接救われたわけじゃない。でもいつだって真守さんの存在が私の生きる希望になってくれた。私の絶望を真守さんは打ち滅ぼしてくれるの」

 

「絶望?」

 

垣根がオウム返しすると緋鷹は足を見つめる。

 

「私の足。これはある人を助けようとして、助けられなかった結果なの」

 

垣根は緋鷹の言葉に目を見開く。

八乙女緋鷹も、大切にしていた人間を救えなかった。

緋鷹は、過去を思い出しながら小さく笑う。

 

「足を代償にしたとしてもあの人を救えなかった。運命には逆らえない。そんな運命を真守さんは変えてくれる。そういう存在なの。……だから私の真守さんのために生きていくの。私のたった一人の神さま。私の世界を変えてくれる、私が信じる神さまが真守さんなの」

 

八乙女緋鷹は大切な人を救うことができなかった。

自分の能力でその存在を救うことができなかった。

 

自分の能力は三次元的に物事を(とら)えるから、(くつがえ)そうと思ってもどこかで辻褄が合うように修正されてしまう。

だからこそ、大切な人を八乙女緋鷹は救えなかった。

 

でもその三次元的演算に基づいて展開される緋鷹の能力を、絶対能力者(レベル6)である真守は打ち破ることができる。

 

だからこそ、真守は緋鷹にとっての神さまで。

こんなちっぽけな自分が決めつけてしまった運命を変えることができる神さまなのだ。

 

「だったら真守を悲しませてやるな。あいつが切り拓いてくれる未来は、全員が笑っていられる世界だ。だからお前が辛い思いするんじゃねえ」

 

垣根から放たれた優しい言葉を聞いて、緋鷹は固まっていた。

この男が真守のことを想ったとしても、こんな優しい言葉を自分に掛けてくれるのか、と緋鷹は呆然とした。

だからこそ真守は垣根帝督に惹かれたのかと、緋鷹は真守の心を少しだけ理解することができて、嬉しくて小さく笑った。

 

「分かったわ」

 

「んじゃ医務室に行くぞ。一応診てもらわなくちゃなんねえだろ」

 

垣根は緋鷹が理解したのを確認して、緋鷹をお姫様抱っこで抱き上げて医務室へと向かうために歩き出す。

車椅子に緋鷹を乗せて移動するより、自分で歩いた方が断然早いからだ。

 

「帝督さん」

 

緋鷹は垣根の腕の中で自分の両手を祈るようにぎゅっと握って、垣根の名前を呼んだ。

 

「あ?」

 

「ありがとう」

 

怪訝な声を上げた垣根が緋鷹に視線を落とすと、緋鷹はふんわりと笑って垣根にお礼を言った。

 

「……お前に礼を言われるためじゃねえ。真守のためだ」

 

垣根はふいっと顔を背けてそのまま医務室へと向かう。

 

 

 

緋鷹を医務室に連れて行った垣根はそのまま医者に緋鷹を頼み、真守のもとへ帰った。

 

「真守」

 

「垣根、ありがとう」

 

垣根がソファの上に座っていた真守に近づくと、真守は控えめな微笑を浮かべる。

垣根はそんな真守の唇にキスをすると、真守は幸せそうにふにゃっと微笑んだ。

 

「緋鷹をお姫様抱っこしたの、許してやる」

 

垣根は真守のお許しを聞いて、そっと笑った。

 

「なんだよ、それ。嫉妬深いな、お前」

 

「垣根の方が嫉妬深い。独占欲の塊め」

 

真守が口を尖らせるので、垣根はそっと笑う。

 

やっぱり何も変わらない。

 

人でなくなっても神に()ったとしても、朝槻真守の本質は変わらないのだと垣根は実感した。

 

そして真守をまるで壊れ物を扱うかのように垣根が優しく抱きしめると、真守は少し寂しそうにしながらも幸せそうに笑った。

 




垣根くん、真守ちゃんに甘えました。
そして少しずつ真守ちゃんに違和感を覚えていますし、緋鷹に言われて思い知らされました。
真守ちゃんがどう変わってしまったのか。
少しずつ明らかになるのでお楽しみいただければ幸いです。


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