とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三八話、投稿します。
次は一月一一日火曜日です。


後方のアックア篇
第一三八話:〈完全真人〉の小さなわがまま


深城はふと雑誌から顔を上げると、真守がベッドにぺたんと座って携帯電話をカコカコボタンを押してイジッているのに気が付いた。

 

真守の使っている携帯電話はこれまでと同じスライド式の携帯電話だが、実は三代目だ。

九月三〇日の時に絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した余波で数時間も持たずに二代目を壊してしまったからだ。

 

先日ようやく届いたので垣根がセットアップを色々としてくれて、真守はそれを受け取ったのだ。

もちろん、その携帯電話には垣根とおそろいのシルバープレートでできた猫のストラップが付いていた。

家に保管してあったのを垣根が一緒に持ってきてくれたのだ。

 

「真守ちゃん、誰と連絡してるの?」

 

「上条だぞ」

 

深城が真守の隣にすり寄って来て声を掛けると、真守は携帯電話を見つめたまま答える。

 

「上条くん! 元気にしてるって?」

 

「うん。今日は上条のせいでクラスメイトの大半がご飯にありつけなくなってしまったから、学校から脱走してコンビニにご飯買いに行ったそうだ」

 

真守はカコカコと携帯電話を操作して上条にメールの返信をしながら、深城に上条からのメール内容について簡潔に話していた。

真守は学園都市上層部から狙われていたため、上条やクラスメイト達、『表』で生活する人々にも連絡できなかった。

だが垣根たち『スクール』が学園都市よりも強い力を持っていると示したので、身の安全が保障され、こうやって連絡が取れるようになったのだ。

 

「脱走? 学校でご飯食べられないからってコンビニ行っちゃいけないの?」

 

「うん。行っちゃダメなんだぞ」

 

真守がフルフルと首を横に振ってNOを示すと、深城は真守のその仕草が可愛くて微笑み、真守の猫耳ヘアを崩さないように頭を撫でながら笑う。

 

「そぉなの? けっこう厳しいんだねえ」

 

「うん」

 

真守は深城に頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めながら、カコカコと携帯電話をイジってメールの返信を完了して、携帯電話を片付けた。

 

「……真守ちゃん、学校に行きたい?」

 

「今はやっぱり無理だと思う」

 

深城が寂しそうに問いかけると、真守は即座にそう切り返した。

深城は真守の頭を撫でるのをやめてゆっくりと真守の肩に降りている黒髪を手櫛(てぐし)()かしながら微笑む。

 

「行けるようになったら行きたい?」

 

「…………神さまは自分の遣いに(まぎ)れて地上に降りて来るんだ」

 

真守が髪の毛を綺麗に整えてくれる深城の手を感じながら呟くと、深城はきょとんと眼を見開いた。

 

「うぇ?」

 

深城が突然他の神について言われて、理解できずにコテッと首を傾げると、真守はそんな深城を見つめながら柔らかく微笑を浮かべる。

 

「私もそう()れたらいいなって思ってる」

 

「んー……つまり真守ちゃんは言い訳を無理やり作っても学校に行きたいんだよね?」

 

「うん」

 

深城が真守の心を察して訊ねると、真守はコクッとはっきり頷いた。

そんな真守の様子を見て、深城は真守の髪の毛を整えるのをやめて真守の額に自分の額をコツッとぶつけて笑った。

 

「真守ちゃんは神さまの前に一五歳の女の子なんだから。学校に行っていいんだよ。神さまだからって考えなくていいの。自由にしていいんだよ」

 

「ありがとう、深城。やっぱり言葉にしてもらえるのが一番うれしい」

 

真守には深城が神さまとしての身分を気にしなくていいと言ってくれるのが分かっていた。

分かっていたとしても、やっぱりはっきり言葉にされた方が嬉しい。

そんな真守を見て深城は穏やかに目を細めて額を離すと、真守の背中を優しく撫でる。

 

「ローマ正教と戦争が終わったら学校に行こうね。あ。一端覧祭っていうのがあるんでしょぉ? 楽しみだねえ」

 

「うん。楽しみだな」

 

真守が頷くと、深城はにこにこと笑う。

 

「大丈夫だよ真守ちゃん。何も心配しなくていいからね。全部みんなで良い方向に持って行くから」

 

「…………なあ、深城」

 

深城がにこにこして真守の背中をなでなで優しく撫でていると、真守が少し暗い声を出して深城の名前を呼んだ。

 

「うん?」

 

「深城は私のこと、一目見た時に神さまみたいな子だなって思ったんだったな」

 

「うん」

 

深城が即答すると、真守は深城をじぃっとまっすぐ見つめてから告げた。

 

「本当に神さまになるために生まれてきたって知ったらお前はどうする?」

 

「どういう意味?」

 

深城が怪訝な表情で即座に問いかけると、真守は深城の目を見て、ゆっくりと(さと)すように告げた。

 

「神さまってのは願いで生まれるんだ。私も多くの願いを束ねて生まれた。AIM拡散力場が私に力を与えてくれている。それはお前も分かるだろう?」

 

「うん? ……どういうこと? 学園都市の能力者が絶対的な存在を求めて願いを束ねて、真守ちゃんを神さまにしたんじゃないの?」

 

真守は『自分はもっと完璧な存在になりたい』という、自分がより素晴らしい存在になりたいという学園都市の全能力者が持っている願いや憧れというものを束ねられて絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した。

 

この学園都市が絶対能力者(レベル6)を望んでいるから、真守はその望みの受け皿になれるから絶対能力者(レベル6)進化(シフト)する運命が定められていた。そのはずなのだ。

 

だから真守の言っていることが分からずに深城が困惑していると、真守ははっきりと事実を口にした。

 

「AIM拡散力場は、ここではないどこかの世界をこの世界に根付かせるための()()()()()()()()()だ。だから私はお前を通して、あっちともずっと繋がっていて、そこを統べることができている」

 

深城は真守の説明を聞いて目を見開いた。

 

「……もしかして真守ちゃん。あっちの世界には真守ちゃんを神さまにした何かが、」

 

深城はそこまで言ってハッと口を(つぐ)んだ。

それを言ってはならない気がするから。

そんな深城を見て、真守はふにゃっと微笑んだ。

 

「お前だから言ったんだ、深城」

 

深城は真守の言葉に目を見開き、そして何度もこくこくと頷いた。

そんな深城の頬に、真守は手を寄せた。

 

「深城。私はお前が信じる朝槻真守だ。それは間違いない。でも私は確かに変わったんだ。もうお前の信じる私ではないかもしれない」

 

真守は深城に、ゆっくり自身の想いを伝える。

 

「だからお前が離れていきたいのであれば離れていけばいい。私はそれで構わない。お前は私に縛られる必要なんてない。お前は自由だ。どこへでも行ける」

 

深城はその言葉を聞いて真剣な表情をして真守を見た。

 

「真守ちゃん。いまさら真守ちゃんから離れることなんてないよ」

 

深城は真守の気持ちを聞いてはっきりと宣言した。

 

「あたしはいつだって真守ちゃんの味方だよ。ずぅっと一緒にいてあげる。何があってもね。絶対に真守ちゃんと一緒にいるよ。だって、真守ちゃんは真守ちゃんだから」

 

そして真守の両肩に手を置いて、深城は真守のことを真正面から見て告げる。

 

「真守ちゃんは自分が神さまに成っちゃった部分を周りの人たちが知って、離れていってもしょうがないと思っているんだ。みんなが真守ちゃんの神さまの部分を知って傷つく前に、どこかへ行った方がいいって考える。そうだよね?」

 

真守は深城からの問いかけにコクッと頷いた。

 

「そうだよ。私は神さまであることを捨てる選択肢なんて持ち合わせていない。神さまでいたくないという感情も微塵も存在しない。私はいまの私であることに何の後悔もない。……でも、深城や垣根のこと、大事にしたいと思ってる。だからもう一度考えてほしいって思ってる」

 

真守の不安を聞いて深城は満面の笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だよ。あたしたちが信じてる真守ちゃんは何も変わってない。だから誰も離れていかない。垣根さんも、林檎ちゃんも、主治医さまも。『スクール』の子たちも真守ちゃんのクラスメイトだって、真守ちゃんのそばから離れる事はないよ」

 

真守は深城に抱き寄せられて、コテッと首を深城に預けながら呟く。

 

「………………深城」

 

「なぁに?」

 

「ありがとう」

 

真守が柔らかく安堵の表情を見せるので、深城は真守のことをぎゅーっと抱きしめる。

 

「真守ちゃん。ずぅっと一緒だからね」

 

深城が真守の首筋をすりすりと頬ずりしてゆっくりと告げると、真守は深城の背中に手を回して、抱き着きながら告げる。

 

「……うん。ずっと一緒だ」

 

深城は嬉しくて真守の後頭部を撫でながら告げる。

 

「真守ちゃん。あたしはあなたと出会えてよかったよ。だからずっと一緒にいようね。……絶対だよ」

 

深城は真守の柔らかな体と体温を感じながら、いつまでもぎゅーっと真守を抱きしめていた。

 

(でもな、深城)

 

真守はそっと目を伏せる。

 

(全てが仕組まれていたって知ったら、何もかもが自分の歩んできたものじゃないって知ったら、その時人は絶望すると思う)

 

真守は目を細めて、深城の腰に回した手に力を籠めた。

 

(……私は、誰にも傷ついてほしくないよ。だから何度でも言う。……私から離れたいなら、離れていいって)

 

真守は深城の体温を感じて、深城に頬を摺り寄せながら考えていた。

大切な人たちのことを。どうやったら彼らが悲しまなくていいか。傷つかなくていいか。

どうしたら、垣根が辛い思いをしなくていいか。

考えることは、それだけだった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「『前方』、『左方』。今度は『後方』……『神の右席』の四人中三人がもう出てきてるのか。……つーことは当然としてもう一人は右方ってことだな」

 

垣根は机の上に大量に載せられた資料の一つを手に持ちながら、『施設(サナトリウム)』の中にある会議室で一人呟く。

 

『前方』、『左方』、『後方』。

『前方』というのは学園都市を襲撃し、九月三〇日に集団昏睡事件を引き起こした前方のヴェントのことだ。

そして『左方』とは左方のテッラのことで、テッラは学園都市とローマ正教が対立したため、C文書を使って学園都市を社会的に抹殺しようとした。

いずれも搦手(からめて)を使って学園都市を落とそうとしたが、『後方』を冠する『後方のアックア』は少し違った。

なんと、イギリス清教と学園都市に果たし状を送ってきたのだ。

 

『これより上条当麻並びに朝槻真守を粉砕しに(おもむ)く。止める気があるのであれば全力で臨まれたし』

 

その文面と共に、イギリス清教の方には左方のテッラの遺体まで後方のアックアは送っている。

真守を殺しに来ると言われて垣根は黙ってなんていられない。

そのため垣根率いる『スクール』と緋鷹率いる『(しるべ)』は協力して情報を集めていた。

 

その中で、垣根はイギリス清教からも情報が欲しいと考えた。

イギリス清教と直接連絡を取るという方法も考えられるが、公には動きたくない。

そのため垣根は真守とつながりがあるステイル=マグヌスや神裂火織、そしてシェリー=クロムウェルという線を使おうとした。

 

だがどこからか話を聞きつけてきたのか、真守の母方の実家であるマクレーン家の娘であるアシュリン=マクレーンが垣根にコンタクトを取ってきたのだ。

 

アシュリン=マクレーンとは真守の伯母であるが真守の母親と一卵性双生児なため、遺伝子的には真守に一番近い存在である。

 

そんな彼女は色々と後方のアックアについて調べてくれて垣根は情報交換をしていたが、真守が絶対能力者(レベル6)進化(シフト)させられた件についてアシュリンは触れてこなかった。

 

わざとその話題について触れないようにしているのは、おそらく問題にするとイギリス清教がぎゃあぎゃあ口出ししてくると考えたからで、アシュリンの言葉の端々(はしばし)からそれを垣根は察した。

 

イギリス清教が色々とうるさくなるのは分かっている。

だがマクレーン家は真守のことが心配であるため、何かあれば援助するためという意味も込めて垣根に声を掛けてきたのだ。

 

垣根は真守にこれといって問題はないこと、自分との関係も変わらず良好だと伝えた。

 

『不幸にしたら呪う』と魔術大家として大変意味がある脅し文句を口にされたが、絶対に真守のことを一人にしないと誓っている垣根は躊躇(ためら)わずに大丈夫だと宣言した。

 

そんなこんなでおそらく学園都市が握っている情報よりも多くのことを知っている垣根たちだが、彼らからもらってきた情報に気になるモノがあった。

 

「……なんで後方のアックアは左方のテッラを殺したんだ?」

 

イギリス清教に届けられた左方のテッラの遺体は不可解なことが多かった。

おそらく後方のアックアが左方のテッラを殺したと思われるのだ。

何故なら左方のテッラと戦った天草式十字凄教の五和が言うには、左方のテッラは『地殻破断(アースブレイド)』という学園都市の兵器によって全身を溶かされ欠片も残らなかったらしい。

 

それなのに左方のテッラの遺体は腰の部分から体を強引に引きちぎられていた。

全身を溶かされたはずの左方のテッラは肉体が残っているし、しかも無残な姿になっていた。

十中八九、同じ神の右席として莫大な力を持つ後方のアックアの手によるものなのだが、判断がイマイチつかない。

 

「彼らも人間だし、そこで何か行き違いがあったんじゃないのかしら。後方のアックアが左方のテッラを仲間として見ていなかったとか」

 

声を上げたのは、同じ部屋にいた八乙女緋鷹だった。

緋鷹は車椅子を会議室のテーブルに限りなく近付けて資料を読みながら呟く。

 

「どちらにせよ分かっているのは後方のアックアが『聖人』であること。これは真守さんに自分が『聖人』だと直接名乗っていたから確実だわ」

 

垣根は十字教的に意味が深い『聖人』について考える。

『聖人』とは『神の子』と身体的特徴が似ている人間のことで、『神の子』の一端を宿した強力な人間のことだ。

肉体が力に耐えられないという欠点を持つが、それでも魔術世界では核兵器並みの力を有している。

 

「『聖人』が天使の術式を使えるってのは相当な力を持っているはずだ。そんな後方のアックアの象徴は『神の力(ガブリエル)』、か」

 

垣根は手元の魔術的な資料に目を落とす。

 

神の力(ガブリエル)』。

水の象徴である青を司る、月の守護者にして後方を加護する者。

純潔の証である百合の花を持つ姿で書かれ、受胎告知をした天使だ。

そして最後の審判ではラッパを鳴らして死者を蘇らせる役を担う。

人間の前に何度も姿を現してはいるが、人を助けたりするのに都市を壊滅させる神の戦士であったりする、振れ幅が非常に激しい天使である。

 

「専門ではない私たちが天使の術式など考えても仕方ないわね。まずは警備体制について今一度確認を、」

 

緋鷹が言葉を止めたのは会議室の自動扉がシュンッと開いたからだ。

垣根と緋鷹が顔を上げると、そこには真守がいた。

 

「真守? どうした、何か用か?」

 

よほどのことがない限り自分の寝所から出てこない真守が会議室まで来たことに垣根は驚きつつ、それでも真守がやってきてくれたので柔らかい声を出して真守を出迎える。

 

「ん」

 

真守は背中に隠していた垣根が未元物質(ダークマター)で造り上げた人造生命体であるカブトムシを垣根に見せて一つ(うな)る。

 

カブトムシ(端末)がどうかしたか?」

 

垣根が問いかけると、真守は躊躇(ためら)いがちにも答えた。

 

「……帝兵さんで喋っててもいいからそばにいて」

 

どうやら真守は垣根がそばいなくて寂しいらしい。

 

「源白は?」

 

「深城はご飯作りにいった。だから、寂しい」

 

真守は先程まで深城と共にいたが、深城がいなくなって一人になってしまったのだ。

垣根は真守が甘えてくれたのが嬉しくて柔らかく目を細めると、カブトムシに指示を出して緋鷹のもとへと向かわせた。

 

「お前とカブトムシ(端末)に任せる。演算能力は高いし、何より俺が造った人工生命体だ。ちゃんと役目を果たす」

 

「分かったわ」

 

緋鷹はカブトムシと向かい合いながら、ふりふりと真守へと手を振った。

 

「緋鷹、いつもありがとう」

 

緋鷹が手を振ってきたので真守がひらっと手を振り返すと、緋鷹は真守からの感謝の言葉に目を見開いた。

そして顔を弛緩させて柔らかく微笑むと、首を横に緩く振った。

 

「その言葉だけで十分だわ」

 

「うん」

 

真守は緋鷹の言葉に一つ頷くと、真守は垣根と共に部屋から出る。

 

「……さて、私の神さまを守らないとね?」

 

緋鷹は自分の膝の上に乗っているカブトムシの背中を撫でながらそう微笑んだ。

カブトムシはそれに応えるようにヘーゼルグリーンの瞳をカメラレンズのように縮小させると、机に飛び乗って資料の精査を始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「寂しかったのか?」

 

垣根は真守の使っている寝室に向かいながら廊下を歩いて問いかける。

 

「自分勝手だって分かってる」

 

「俺が聞いてるのはそんなことじゃねえ。寂しかったかって聞いてんだ」

 

垣根が少し怒った口調で告げると、真守は(うつむ)き、そっと垣根の服の(すそ)を掴んだ。

 

「……寂しかった。垣根にそばにいてほしいって。今だけでもいいから、そばに」

 

垣根は最近、真守の様子がおかしい事に気が付いていた。

自分が絶対能力者(レベル6)進化(シフト)したことで垣根が離れていくのはしょうがない。

それでもそれは垣根帝督の自由だから止めないとしきりに言うのだ。

 

「真守」

 

垣根は自分の服の裾を掴んでいた真守の手を取って、まっすぐと真守を見た。

 

「俺はお前のそばにずっといるって決めた。それを(くつがえ)すことは絶対にしない。……お前が一人になるのが嫌だって、俺はそう思った。だから一緒にいる。これは何があっても決まってることだ、分かったな?」

 

「……うん」

 

真守がそれでも納得していない様子で頷くので、垣根はため息を吐く。

 

「……ったく。そんなに俺が信じられねえのか?」

 

「ううん、違う」

 

垣根の呆れた声を聞いて、真守は即座に否定した。

 

「垣根が大事だから。垣根には自由に生きて欲しい」

 

垣根は真守の言葉を聞いて顔をしかめた。

真守は人の心を失わなかった。

それはとても喜ばしいことだ。

 

だが真守は絶対能力者(レベル6)という神である()り方を持つのと同時に、人としての心を持ち合わせている。

真守の様子がおかしいのは、その相反する二つのものを矛盾させる事なく保持しているせいだと垣根は気が付いていた。

 

それでも真守は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)したことを悔やんでいる様子は一度もない。

垣根は真守が人の心を失わなくて本当に良かったと思っている。

だが人の心を持ったまま絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)したら進化(シフト)したでそこに苦しみがあると、垣根は思ってもみなかった。

 

「真守。お前のそばにいることが、俺のしたいことだ」

 

そのため垣根が真守のことを安心させるために思いを口にすると、真守は『そうか』と一つ呟いてコクッと頷いた。

 

「ありがとう、垣根」

 

そして真守は顔を上げて垣根を見て、ふにゃっと笑った。

 

「ああ、ありがたがっとけ。お前は安心して俺のそばにいりゃあいい」

 

垣根が真守の頬に手を添えて微笑むと、真守はそんな垣根の手に自分の手を重ねた。

 

「…………本当に、ありがとう」

 

真守はすりすりと垣根の手に頬を摺り寄せる。

そんな真守を見て、垣根は顔を悲痛で歪ませた。

 

真守の考えがよく分からない。

だが人としての心を真守が持ち合わせているならば、いずれ真守の全てを理解することができる日もやってくる。

 

会話をして心を通わせることができれば、真守を理解できないことなんてない。

だから時間をかけてゆっくり真守を知ればいい、と垣根は考えている。

 

それを今一度考えながら垣根は真守の手を引き、再び部屋に向かうために歩き出した。

 




後方のアックア篇、始まりました。
真守ちゃんの秘密が少しずつ明らかになる章です。
何故朝槻真守という存在が学園都市にいるのか。
アレイスターは何故真守ちゃんを第一候補に据えたのか。
物語が徐々に核心へと迫りつつあります。お楽しみいただけたら幸いです。
一つ思ったのですが、フレンダはフレ/ンダになっていると嘆き悲しまれるのに左方のテッラは左方の/テッラになったことにあまり触れられない。
人徳の違いでしょうか。


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