とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四話、投稿します。
次は八月一九日木曜日です。


第一四話:〈事態急変〉の匂いがする

真守と垣根が情報を求めて風紀委員一七七支部を訪れると、その場に御坂美琴がいた。

風紀委員(ジャッジメント)の方ではこれといった情報がなかったのと、昼時という理由もあって、二人は美琴と共にファミレスへと向かうこととなった。

虚空爆破(グラビトン)事件の時は顔を合わせただけだったのでゆっくり話がしたい、と美琴が言いだしたのだ。

 

「え!? 垣根さんって第二位なの!?」

 

軽い自己紹介をすると自然と能力の話となった。垣根が自分のことを超能力者(レベル5)で第二位だとカミングアウトすると、美琴は驚きの声を上げた。

 

「ああ。俺が未元物質(ダークマター)、垣根帝督だ」

 

自分よりも格上の超能力者(レベル5)であるという事を知って驚愕の表情を浮かべる美琴。そんな美琴を見て、垣根は得意気に嗤った。

 

(私の興味なさそうな反応がそんなに嫌だったのか……)

 

何故か自分にも勝ち誇ったような顔をしている垣根を見て、真守は心の中でそう呟いていた。

そんな真守の隣で、美琴がごくッと喉を鳴らした。

 

「わ、私より順位が上の人に初めて会った……」

 

「そりゃそうだろ。二人しかいねえんだから」

 

垣根は呆れた目をしながらカップを手にして、優雅に珈琲を飲む。

 

「そ……そうなんだ。私より強い人か……そうなんだ」

 

「テメエ、まさか俺に挑もうなんて考えてんじゃねえよな?」

 

美琴が呟きながら自分を挑戦的な瞳で見つめるので、垣根はその敵意を感じて語気を強めた。

 

「……っい、いいじゃない。私は目の前にあるハードルは飛び越えなくちゃ気が済まないタイプよ!?」

 

垣根のけん制に触発されて、美琴は臨戦態勢だと言わんばかりの言葉を放つ。

 

「へえ。じゃあ、身の程を分からせてやろうか?」

 

美琴のやってやろう宣言に乗っかって垣根が楽しそうに嗤ったのを見て、真守は垣根のジャケットの裾を引っ張った。

 

「なんだよ」

 

垣根は苛立ちを隠す事なく、自分を止める仕草を見せた真守に視線を向ける。

そんな垣根の視線を受けて、真守は困った様子で首を横に振った。

 

「第二位と第三位がぶつかったら学園都市がめちゃくちゃになるからやめて」

 

「……お前、人のこと言える立場か?」

 

垣根は真守が実は消えた八人目の超能力者(レベル5)であると知っている。

もっと切り込んだことを言えば、第一位として学園都市に君臨している一方通行(アクセラレータ)よりも強い可能性を能力に秘めている。

 

それに何より。

流動源力(ギアホイール)は統括理事長、アレイスターが推し進める『計画(プラン)』の要である『第一候補(メインプラン)』なのだ。

 

そんな強大な能力を持つ人間に言われても説得力皆無だった。

 

「私、別に暴れないから」

 

真守が明確な決意を口にすると、垣根はチッと舌打ちをした。

 

「……分かったよ」

 

垣根は真守に従って、とりあえずこの場は引き下がった。

真守は垣根にその気がなくなったのを感じて、安堵する。

そして未だ臨戦態勢であり、邪魔が入ったと睨みつけてくる美琴を、真守はまっすぐと見た。

 

「御坂も垣根にちょっかい出さない。上条だけにしてくれ」

 

「…………そう言えば、朝槻さんってあのバカと同じ学校なのよね?」

 

美琴は真守が上条のクラスメイトであることを思いだして、思わず訊ねる。

 

「うん、クラスメイト。席も近い」

 

「ち、ちなみに聞くけれど……あのバカって、学校でどんな感じなの?」

 

「上条の様子?」

 

(やっぱ気があるのか?)

 

「何だよお前。上条当麻に気があんのか?」

 

真守の心の中の呟きを明確な言葉にしたのは、真守のために自分が頼んだファミリーサイズのフライドポテトへとフォークを伸ばしていた垣根だった。

 

「なっ……ち、違うわよ! 勝負相手の情報は知りたいと思うのが普通なの! 情報収集よ情報収集!!」

 

大袈裟に否定する美琴の様子に意地悪く笑みを深くする垣根。

そんな垣根に、真守は咎めるような視線を向けていた。

 

「へえ。そういうことにしといてやるよ」

 

真守の視線を気にすることなく、垣根は主導権を握れている事にほくそ笑みながら軽やかに告げた。

 

「くっ……! こ、このぉおおお……! 表に出なさい!!」

 

「──上条は!」

 

美琴がヒートアップしてテーブルを揺らしながら立ち上がったのを見て、真守は美琴を止めるために声を荒らげた。

 

「上条は」

 

「あ、うん。……あのバカは?」

 

真守が二回言葉を繰り返すので、美琴はバツが悪くなってそっと席に座った。

 

垣根は弄りがいがあるヤツだな、と美琴を大変ご機嫌な目で見ており、真守は垣根の様子に眉を顰めながらも告げた。

 

「上条はクラスの三バカ(デルタフォース)

 

「で、でるたふぉーす?」

 

真守は美琴がオウム返ししたのを聞いてコクッと頷く。

 

「あの三人がふざけている時、関わるとろくなことがない。大体被害に遭う」

 

「……お前、被害に遭ってんのか?」

 

真守の言葉に反応したのは、美琴ではなく垣根だった。

上条当麻の私生活なんて興味がなかった垣根だが、真守が被害者になっているという話は聞き逃せなかった。

 

「うん。……し、塩対応の神アイドルって言いだしたのあいつらだし。怒ったら怒ったらで悦ばれるから意味がないし」

 

真守が上条当麻、土御門元春、青髪ピアスを思い出しながら恥ずかしそうに呟く。

アイドル顔の真守をからかう上条他二人の気持ちを、美琴は分かりたくもないが理解してしまった。

真守は嫌がられてもちょっかいを出したくなるような高貴な黒猫の印象だからだ。

 

垣根は本気で迷惑している真守を見て、苛立ちが(つの)る。

そして片眉を上げて怒りを滲ませながら真守に提案した。

 

「いいぜ。ムカつくから今度あったら殴ってやろうか」

 

「ステゴロじゃなきゃダメ。ヤツはある意味無敵だ」

 

「許可が出たしやるか。よし、誘いだせ」

 

垣根が乗り気になって提案すると、美琴は上条が来る可能性に目を輝かせる。

 

だが真守は首を横に振った。

 

「上条は今大変だから。また今度な」

 

「あのバカ、一体どうしたのよ」

 

上条の現状がよほど気になるのか、身を乗り出しながら真守に訊ねる美琴。

 

「女の子匿ってるんだ」

 

真守が簡潔に告げると、美琴は固まった後に地を這うような低い声を出した。

 

「……なんですって?」

 

「女の子が死にかけてて、私もそこに居合わせて一緒になって助けた。あの子はまだ追われる身なんだが、私も追われてるから一旦上条に任せてある」

 

機嫌が急降下する美琴の様子に顔をしかめながら、真守は魔術関連をごまかしながら事の経緯を話す。

 

「……お前、だから眠れてなかったのか?」

 

「そう。夜通し能力使ってた。仮眠取ったけどほぼ徹夜だったから、垣根が助けてくれて本当に良かった」

 

真守が柔らかな笑顔を浮かべる隣で、垣根は健気に頑張っていた真守のことを想って顔を歪ませた。

その向かいで、突然美琴が叫んだ。

 

「夜通し!? ほぼ徹夜!? それって、ひひひ一晩あのバカと一緒にいたって事!?」

 

「……小萌先生のところでその子を治療してた」

 

あからさまな動揺を見せる美琴を、真守は面倒そうに見つめながら、第三者がいた事を真守は的確に伝えた。

 

「小萌先生?」

 

「私と上条の担任の先生」

 

幼女の外見をしている月詠小萌を思い浮かべながら真守が小萌先生について話をすると、美琴は明らかに安堵の声を上げた。

 

「そ、そうなのー! なぁんだ、先生も一緒だったのね。良かったわ!」

 

「……お前、重症の人間の前で恋愛模様が発展するわけねえだろ」

 

垣根は恋愛脳の美琴の頭を心配して呆れるように告げた。

 

「分からないじゃない! 愛は障害が多い方が燃えるって言うでしょ!?」

 

美琴の正論に急に不安になる垣根。真守はそんな垣根を面倒に思いながらも素直に心境を話した。

 

「上条はそういう対象じゃない。だから頑張れ、御坂」

 

「なん!? なななな何を頑張れって言うのかしらぁ!?」

 

「……動揺しすぎだろ、お前」

 

心底美琴に呆れて垣根が呟くと、美琴が顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「どっ動揺なんてしてないわよ!! 言いがかりするなら表に出なさい!」

 

「……へえ。やっぱ一度痛い目見ないと分からねえみてえだな?」

 

「お前らちょっと落ち着け。……まったく。どうして超能力者(レベル5)って自分勝手なんだか」

 

真守は自分の事を棚に上げながら呟き、喧嘩を始めようとしている二人を止めに入った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

 

幻想御手(レベルアッパー)を誉望が解析した結果、面白いことが分かった」

 

早朝。真守が目を覚ますと垣根は興味深そうに端末でデータを見ていた。

真守は垣根から、誉望というパシリ的な存在がいると聞かされており、その人物が幻想御手(レベルアッパー)の音源の解析をしてくれていると聞いていた。

真守は即座に頭を切り換えて、垣根から端末を貰ってデータに目を通す。

 

「共感覚性に働きかけるように仕立て上げた音源。……これで強度(レベル)が上がるならば、ほぼ洗脳に近いな」

 

共感覚性とは、暖色を見たら温かい気持ちになり、寒色を見たら冷たい気持ちになるという視覚で得たもので触覚すら感じるなど、一つの感覚を刺激されて他の感覚を覚える事だ。

 

かき氷のシロップのベースは全て同じ味なのに、色や香料によって味が変わったという感覚に陥るなど、多種多様の例が挙げられる。

 

「真守、お前。学習装置(テスタメント)って知ってるか?」

 

学習装置(テスタメント)

それは五感全てに対して電気的な情報を入力して、技術や知識を脳にインストールする装置の事で、幻想御手(レベルアッパー)は共感覚性を用いる事により学習装置と同等の効果を音だけで再現しているらしい。

 

垣根は真守がどこまで『闇』について知っているか分からないので、学習装置(テスタメント)の知識がないなら説明しなければと訊ねたのだ。

 

「精神を歪めるアレだろ?」

 

だが真守から予想外の答えが返ってきて、垣根は眉を顰めた。

 

「……できなくはないが、それは本来の用途から外れた使い方だ。なんでそんな中途半端に知ってんだ?」

 

真守は垣根の問いかけに気まずそうな顔をする。

垣根が怪訝な表情をしていると、真守は意を決して口を開いた。

 

「私、昔研究所にいたんだ」

 

「……そこで使われたのか?」

 

真守が痛ましい過去を口にしようとしているのを見て、垣根は真守を労わるために優しい声で訊ねた。

 

「私は秘蔵っ子だったから使われてない。……その研究所は、『特異能力解析研究所』ってとこで、エネルギーに関する珍しい能力の解析を行っていた。『解析研』は特別な解析機器が導入されていたから、外部から委託された研究の解析も行っていた。その外部から委託された研究の中に学習装置(テスタメント)を用いた『人の精神をどれだけ歪ませる事ができるのか』というものがあったんだ」

 

真守の告白した内容を垣根は既に調べ上げていたので知っていた。

だが、情報を探すのに垣根は苦労したのだ。

真守が『特異能力解析研究所』を壊滅に追い込んでいたからだ。

『解析研』の主目的である『エネルギーに関する能力の解析』をしていたという事実は断片的にしか残されていなかった。

垣根が『解析研』に辿り着けたのは、外部から委託された研究が、委託した側の研究所の記録に残っていたからだ。

 

外部からの委託を『解析研』が受け入れていなければ、垣根は『解析研』の詳細を知る事ができなかった。

 

しかも『学習装置(テスタメント)を使った精神変質の研究解析』というのは、垣根が丁度『解析研』の主目的に辿り着くために使った糸口だった。

 

「……お前は、そこで何をされた?」

 

垣根は真守の傷を(えぐ)ると分かっていながらも問いかけた。

 

単純に真守の事が知りたかった。

その痛みを知って、理解したかった。

 

真守も垣根が傷口を抉るために聞いている訳ではないと知っているので素直に喋った。

 

「私は、『勉強』してた」

 

「勉強?」

 

「解析研が解析したデータを、私の能力の糧にするために『勉強』させられてた」

 

『特異能力解析研究所』は外部から委託された本来秘匿されるべきデータを、強奪して主目的に利用していたのだ。

それは『解析研』が朝槻真守の流動源力(ギアホイール)という能力を、より素晴らしい能力へと昇華するために、全てを利用していた事になる。

 

自分たちが心血を注いだ研究成果を横取りされていたなんて、委託した側の研究所が知ったら怒り狂う事案だった。

 

「お前の能力は汎用性が高いからな。知識を詰め込めば、詰め込んだ分だけ能力の応用性に幅が利くようになる」

 

「うん。……私は、他の研究所で行われていた人体実験も『知識』として食い物にしてたってことだ」

 

真守が自嘲気味に笑うのを見て、垣根は胸が苦しくなった。

 

真守は使い潰された命の上に君臨してるのだ。

真守がその過去を、本当に悔やんで疎ましく思っているのが垣根には理解できた。

人間の命を大事にしているのに、人の命の上に立っている事実を真守が許容できるはずがないからだ。

 

だが真守が本当に嫌悪しているのは、使い潰した命の上に立っていたことではなかった。

 

真守が研究所で行っていた『勉強』。

その『勉強』をした成果は『実験』して確かめなければならなかった。

だからこそ真守は生命エネルギーを自分で補う『実験』を強要されたし、それ以外にも数多くの『実験』をさせられた。

 

『勉強』も『実験』も、それが人道的である必要はない。

人体について『勉強』させられれば、その壊し方も理解するのと同義であり、それを『実験』して確かめなければならなくなる。

 

真守にとっては、その『実験』を嫌がることなくこなしていた自分自身こそが許せないのだ。

研究所で過ごしていた過去の自分自身に、真守は一番嫌悪感を抱いていた。

 

そんな研究所時代と今の真守の間に一線を引いてくれたのは源白(みなしろ)深城(みしろ)だった。

深城が導いてくれたからこそ、今の真守があるのだ。

 

「ごめん。話が脱線してしまったな。幻想御手(レベルアッパー)についてだった」

 

真守は過去の自分への嫌悪を頭の(すみ)に追いやりながら、苦笑して話を元に戻す。

 

「……そうだな」

 

「うん。で、だ。気になることがあるんだ。一つの曲による洗脳だけで、どうして系統が違う能力者の強度(レベル)が上がるんだろうか」

 

真守の疑問に垣根も思案する。

能力によって演算方法はまるで異なる。

演算方法が異なるのに、どうして一つの曲で全ての強度(レベル)を上げられるのか、未だ不透明だった。

 

「その大脳生理学者にでも聞けば分かるかもな。こっちからコンタクト取るか?」

 

垣根が提案すると、真守は即座に首を横に振った。

 

「そんな人に頼らなくても誰よりも人体に詳しい人がいる」

 

「誰だ?」

 

「私の主治医の先生。通り名は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)

 

「あの天才外科医か?」

 

冥土帰しとは、最先端医療技術が発達している学園都市の中で、有名になるほどの天才外科医であり、垣根も彼の存在をなんとなく知っていた。

 

だがその人物が真守の主治医である事を垣根は知らなかった。

 

真守は垣根の問いかけに肯定の意味を込めて頷くと、携帯電話を取り出した。

真守は携帯電話で『カエル先生』と登録された番号を選んで電話をかけた。

 

〈真守くん?〉

 

「先生、ちょっと聞きたいことがある」

 

〈丁度良かった。僕も少しキミに伝えたいことがあってね?〉

 

「……先に聞く」

 

〈キミを襲ってきた子たちは、キミの力によって焼かれているから僕が対応しているんだけれどね? 彼らの体は僕が完璧に治したのに、何故か次々と昏睡状態になっているんだよ。もちろん、他の患者もね? 何か関係性があるかもね?〉

 

「……そっちに一度戻る」

 

真守はそこで電話を切って顔を上げて簡潔に告げた。

 

「特定の幻想御手(レベルアッパー)使用者だけじゃなくて使用者全員が昏睡状態になってるって。先生に話を聞きに行きたい」

 

「専門家の話を聞くのが一番だ、行くぞ」

 

垣根は即座に頷いて、真守は垣根と共に垣根が所有している車で病院へと向かった。

 

免許はどうした未成年、と普通は思うが、真守も運転の仕方は一通り学んでいるので、とやかく言うつもりは欠片もなかった。

 

 




垣根くんがちらっと前に言っていましたが、真守ちゃんが研究所を壊滅させて冥土帰しの所に来たのは五年前です。
アクセラレータは九歳まで特力研でそれから転々としていますが、真守ちゃんはアクセラレータと違って解析研にずっと所属していました。


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