とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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一四話、投稿します。
次は一月一三日、木曜日です。


第一四〇話:〈超越者達〉の相対と会話

後方のアックアと敵対する三対六枚の純白の翼を持つ少年。

その光景は天草式十字凄教の面々には信じられないものだった。

 

詳しくは知らないが、学園都市は『前方のヴェント』を天使のようなもので迎撃したと五和たちは聞いている。

あの少年がその『天使』なのか。

あれこそが学園都市が隠し持っているローマ正教を怒らせた原因の天使なのか。

 

「学園都市は一体いくつの『模造品』を作っているのかね?」

 

五和たちはそう考えていたが、アックアの言葉でその考えは砕かれた。

『いくつの』というのは少年が前方のヴェントを退けた天使とはまた別の天使だということだ。

 

「模造品? お前たちを真似たことなんてねえよ」

 

驚きに満ちている天草式十字凄教の前で少年、垣根帝督はアックアの前まで滑らかに降りてくる。

その様子は満天の星空から天使がゆっくりと舞い降りてきたようだった。

ただその全てが十字教にとって本物ではない。

 

スクリーンに映し出された偽りの夜空。

そして科学によって作られた『天使』。

何もかもが偽物であるはずなのに、その何もかもが美しく天草式十字凄教には見えた。

 

「大体、お前たちがアイツに勝手に役割を振ってるだけで、最初からアイツがあの役割を持って生まれたワケじゃねえんだよ。勝手に決めつけんな」

 

垣根が吐き捨てるように告げるが、アックアは表情一つ動かさずに口を開く。

 

「ふむ。貴様は幻想殺し(イマジンブレイカー)ではなく神であり人とされている『神人(しんじん)』にゆかりあるものか」

 

「『神人(しんじん)』? ……はん。あいつのことを教会世界ではそう呼んでんのか? 『神人』ねえ?」

 

垣根がお堅い『後方のアックア』を見つめながら半笑いで告げる。

 

「確かにあいつは絶対能力者(レベル6)だが人の心を持ってる。その呼び名は間違っちゃいねえ。……確か十字教では人間は不完全な生き物で、真なる人、つまり『真人(しんじん)』になれば神へと至れるとかいう主張があったな。……はん。字面だけでも合ってるな」

 

垣根が真守にとってぴったりな名称である『神人』について口にしていると、後方のアックアは視線を鋭くした。

 

「貴様がどの程度の能力者なのかは知らない。だが私は『聖人』である。そして『神の右席』としての力も有してる」

 

そう前置きをして、アックアは垣根へと宣言した。

 

「それを正しく理解した上で、なお守るべき者のために命を賭して戦うと言うであれば。私は人の持つ可能性とやらに期待する。その大言が寝言でないことを期待し、貴様が持てる力の全てをひとつ残らず受け止めて見せよう。その上で、勝つ」

 

「ははっ。流石騎士サマは言うことが違うな」

 

垣根が後方のアックアを嘲笑すると、アックアはその言葉にぴくッと片眉を少しだけ動かす。

 

「ちょっとイギリスに伝手(つて)があってな。そこが調べた限り、お前は傭兵から騎士様に任命される前に姿を消したらしいじゃねえか。なあ、傭兵。ウィリアム=オルウェル。『賢者』サマよぉ」

 

「……まさかそこまでの情報収集能力を持っていようとは。感服せざるを得ないな」

 

アックアは硬いまま垣根を称賛する。

そんなアックアがどこまでも騎士道精神に基づき動いているように見えて、垣根は苛立ちを見せた。

 

「そうかよ。そりゃありがとうって言っておくべきか?」

 

垣根はそこで、未元物質(ダークマター)の翼をけん制目的で広げてアックアへと嗤いかけた。

 

「騎士サマなら正々堂々戦ってみせろよ」

 

「私は騎士ではない。傭兵崩れのごろつき。傭兵の流儀(ハンドイズダーティ)を流儀としている」

 

「へえ」

 

垣根は後方のアックアの言葉に一つ感心の声を上げた。

だが即座に視線を鋭くして叫ぶ。

 

「その流儀は俺の未元物質(ダークマター)に通用しねえよ!!」

 

垣根が叫んだ瞬間、ドッと第二二学区が揺れるほどの威圧感が辺りに響いた。

少し遠くに退避させられた天草式十字凄教にも伝わるほどの威圧感。

 

五和はその威圧感を、アビニョンで感じたことがあった。

別格の存在。

奇蹟が起きれば勝てるかもしれないという幻想を根底から打ち砕かれるほどの、呼吸すらままならなくなる感覚。

 

「この世界をお前たちはお前たちの法則で歪めて良いように扱っているらしいが、この空間だけは違う。支配してんのは俺だ。ここは俺のモンだ。……いいや」

 

天使の翼を生やしている少年は、そこで言葉を切って怒りを燃やす。

 

「最初からテメエら魔術師が支配できる場所なんて、この世に存在しねえんだよ!!」

 

天草式十字凄教の前で、垣根帝督は後方のアックアを自らの敵と定めて戦闘を開始した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

第二二学区全体が揺れて、何度も何度も爆音が轟き、爆発が引き起こされる。

 

その爆発の中心にいるのは学園都市に襲来して幻想殺し(イマジンブレイカー)と『神人(しんじん)』を討ち滅ぼさんとする『神の右席』、後方のアックア。

そして相対するは超能力者(レベル5)、第三位。未元物質(ダークマター)、垣根帝督。

 

『神の右席』はその肉体が人間よりも天使に近くなっている。

そして垣根帝督もこの世界ではないどこかの世界から力を供給され続けている関係上、その肉体が人間のものから天使のものへと変わりつつあった。

 

その両者の力の激突で何度も何度も第二二学区が揺れて第四階層が破壊されていく。

 

 

その様子を、『聖人』──神裂火織はただ呆然と見ていた。

 

同僚のステイル=マグヌスから、垣根帝督の話は聞いていた。

自分たちにとって大切な存在である朝槻真守のことを、ただ一心に想っていると。

自分たちがインデックスに向けているような想いを彼は朝槻真守に向けているのだと、そう伝えられていた。

少しひねくれた性格だったが、それでも真守に対してだけは一貫してずっと真摯だったと。

 

そんな少年が、天草式十字凄教の面々を助けてくれた。

ステイルの言う通り、言葉使いは乱暴だしひねくれてはいるがそれは性格上の問題で、本当は垣根帝督は優しい性格をしているのだと神裂は知ることができた。

 

「あなたは良い友を持ったようですね」

 

神裂は戦っている二人を見つめながら柔らかく後方に声を掛ける。

 

 

そこには純白と漆黒の翼を互い違いに三対六枚生やした朝槻真守がいた。

 

 

「友達じゃない。私が心から想っている大切な人で、私が神としても必要としている補助候補」

 

「ほ……?」

 

神裂は真守の言葉の意味が分からなくて困惑する。

補助候補とは何のことだろうか。

 

「……まあ、あなたたちの関係性は分かりませんが、あなたたちに特別な絆があることは確かなようですね」

 

真守は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)したため前と自分に違和感を持っている神裂を見つめていたが、すっと視線を移した。

 

「あれで、勝てると思うか?」

 

神裂は真守の視線の先、爆発が(とどろ)き続けている方を見つめて呟く。

 

「難しいですね……」

 

神裂は顔を歪ませてはっきりと言い放った。

 

「後方のアックアとあの少年の力は拮抗しています。少年が力を増せば、後方のアックアもそれに呼応するように引き出す力を上げます。そこに上限が無いように感じます。……『聖人』の力は諸刃の剣です。それなのにどうしてアックアはあそこまで出力を上げ続けることができるのでしょう」

 

神裂の言う通り、垣根はアックアと互角の戦いをしている。

だがそれでも垣根には決定打を打つことができない。

垣根が力を入れてアックアを撃墜しようとすると、アックアが出力を上げて対抗してくるからだ。

その結果、両者は拮抗している。

 

戦闘が長引けば変わるかもしれないが、どちらも天使に近い肉体を持っているので耐久力があり、その拮抗はいつまでも続くかもしれない。

そうなればもしかしたら第二二学区の被害が拡大し、第二二学区という場所そのものの方が先に限界が来るだろう。

 

終わりの見えない拮抗。

それを感じ取って、神裂が何故聖人としてアックアの肉体に限界が来ないか疑問を浮かべていると、真守が口を開いた。

 

「聖母の慈悲」

 

真守が呟くと、神裂は神妙な顔色で頷く。

 

「……ええ。それがアックアの天使の術式。『神の子』を産むという十字教史上最高の偉業を成し遂げた歴史上でも最大クラスの聖人、『神の子』の母である聖母。彼女は厳正にして的確なる最後の審判すら歪め、魂を天国へと送り込む道標をも変更させる。あらゆる罪と悪に対する罰則などの制約行為は『神の罪』すら打ち消すあの身には効かない」

 

「何故あいつは『神の力(ガブリエル)』の中で聖母を選んだと思う?」

 

「……、……それは」

 

真守が問いかけると、神裂は顔をしかめる。

確かに『神の力(ガブリエル)』には多くの逸話が存在する。

その中で、アックアは何故攻撃的な術式ではなく、守護的な役割を果たす聖母を選んだのだろうか。

 

「あれがただの『聖人』じゃないからだ。『聖母の慈悲』を選んだし、多分聖母としての身体的特徴も兼ねそろえているハズだ」

 

神裂が言いよどむと真守は即座にその答えを告げた。

 

「どういう事ですかっ!? どうしてそれがあなたに分かるのですか……っ!?」

 

「私は流動源力(ギアホイール)。あらゆるエネルギーを操れるからこそ、あらゆるエネルギーの流れを理解できる。それが魔術であろうと解析不能であろうと、エネルギーの流れならば手に取るように分かる」

 

真守は垣根と戦っている後方のアックアを感じて話の続きを口にする。

 

「アックアの体を流れるエネルギーは二種類だ。その異なる二種類の力が相乗効果によって飛躍的に高まっている。二つのエネルギーを高め合うことにより、安定性を実現させたんだ。まるで、飛行機が一定の速度を出して安定性を見出すようにな」

 

「それなら、もしかして……っ!」

 

真守の言葉に神裂は即座に後方のアックアの倒し方に気が付いて声を上げたが、即座に言葉を詰まらせた。

 

「そうだ」

 

真守はそんな神裂が詰まらせたアックアの倒し方について明言する。

 

「お前は天草式十字凄教に助けを乞えばいい。それがアックアを(たお)すための唯一の方法だ」

 

真守の言う通り、後方のアックアは聖母と聖人二つの力を十全に引き出すことによって高速安定化ラインともいうべきものに達している。

エネルギーの操作を間違えると失墜し、爆発してしまうため、エネルギーの操作にはとても気を使わなければならない。

 

そのため『聖人』の身体的特徴のバランスを崩す対聖人専用の術式、『聖人崩し』が後方のアックアの唯一の弱点となるのだ。

 

だからアックアは天草式十字凄教が放った『聖人崩し』を人間用の魔術で受け止めた。

『聖人崩し』が何か分からないが、それでもアレを喰らったらマズいと本能的にアックアは悟ったからだ。

 

真守の『天草式十字凄教に協力を要請しろ』という意味の言葉に神裂は押し黙る。

そんな神裂に畳みかけるように真守は口を開いた。

 

「お前は天草式十字凄教に頼める立場にないと思っている。……もう一度肩を並べて戦いたいと、彼らの力が必要だとお前は言ってはいけないと思っている。何故ならお前は彼らの仲間ではなくなったから」

 

そこで真守は無言のまま顔を歪める神裂へと再び畳みかける。

 

「お前も、私も。本来ならば他の人間の力なんて借りなくていいんだ。ちっぽけな人間の力なんて羽虫程度のものだ。それくらい私たちと彼らには雲泥の差がある」

 

真守は神裂と自分の立場について言及する。

そしてその()り方を持ち合わせているからこそ、たった一つの残酷な真実を口にする。

 

 

「私たちに仲間は必要ない。一人でやっていける私たちにそんなものは不必要だ」

 

 

真守の冷酷な言葉に神裂は沈黙する。

 

「そう、かもしれません……」

 

神裂は(うめ)くように言葉を絞り出した。

神裂は真守の言った事実を否定できない。

それでも神裂の心は真守のその事実を拒絶した。

 

「私にとって天草式十字凄教は仲間です! 必要ないなんてことはない! 一緒にいたいから私は天草式十字凄教を抜けて力を求めたんです!」

 

「天草式十字凄教が大事ならそばにいるべきだ。お前は彼らのそばに戻るべきなんだ」

 

真守が鋭く告げると、神裂は声を荒らげた。

 

「そんな自分勝手で傲慢なことが許されますか!」

 

「そうだ。お前は傲慢だ」

 

真守の断言に神裂は言葉を詰まらせる。

まったく物事が見えていない神裂を正すために、真守は神裂と天草式十字凄教の関係性に踏み込んだ。

 

「天草式十字凄教の人間を守ってやらなければならない。それくらい彼らは弱いから。自分が全てを助けてやらなければ彼らは生き残れない。自分を()()という前提に置いて上から見下すなよ、聖人。その考えのどこが傲慢じゃないんだ」

 

自分が特別だから、彼らは弱いから。

だから弱い彼らを特別な自分が守らなければならない。

そんな弱い彼らを全員守れなかったから自分は未熟だ。

だから彼らから離れて、自分は力を研鑽するべきだ。

それらの考えは、全て自分が特別で天草式十字凄教の面々が弱者だという考えに基づいた身勝手である。

 

「お前は天草式十字凄教の人たちをちゃんと見ていない。お前は自分が特別で、彼らは弱者だとずっと思っている。それがお前の間違いだ。お前は口先だけで彼らを信じていると言って、実は背中を預けられるなんて微塵も思っていない」

 

真守の糾弾に顔を歪める神裂に、真守はそっと目元を柔らかくして優しい声で語り掛ける。

 

「上条当麻は弱くてもみんなと肩を並べて一緒に勝利を掴み取って笑っているぞ。あいつはいつだって一緒に戦う仲間を信じている。弱かろうが強かろうが肩を並べて共に一つの勝利を掴む。誰一人欠けることなくみんなで笑ってハッピーエンドへと向かう。その想いを胸に戦っている」

 

真守は記憶を失くしながらも変わらなかった上条当麻の()り方を神裂に伝える。

 

「天草式十字凄教はお前をいつまでも仲間だと信じてる。だからお前が自分たちの実力を信じてくれる日を手繰り寄せるために、あいつらは血の滲むような努力をして『聖人崩し』を生み出した」

 

真守は神裂へ言葉を掛けながらも、自分自身に言い聞かせるように呟く。

 

「人を信じるのは難しいよ。私にとって人間なんて存在は私の()り方を縛る『(かせ)』でしかない」

 

真守は胸に手を当ててぎゅっと拳を握り締めて、真剣な表情で神裂を射抜いた。

 

「それでも私は垣根のそばにいたい。深城の幸せを守りたい。私のことを自分たちの道標(みちしるべ)だって言ってくれるあの子たちのために前を歩き続けたい。それが朝槻真守の本心だ」

 

真守は爆発が続いている方向を見る。

自分のことを守ろうとしている垣根帝督のことを想って、ぽそっと呟いた。

 

「帰りたいところがあって帰れるのであれば、帰ればいい」

 

神裂は真守の言葉に目を見開いた。

真守は人であったあの頃に帰ることはできない。

真守は帰らなくていいと思っている。

自分は一人でもいいと思っている。

それで何も問題ないからだ。

一人でやっていけるのに、何を問題にすればいいのだろうか。

 

そんな真守と一緒に垣根帝督たちはあの頃に帰るのではなく、新しい今を始めようとしてくれている。

 

自分は幸せ者だと真守は思っている。

自分が違う存在に変わり果ててしまっても自分のことを想ってくれる人たちがいるなんて、とても幸せで奇蹟的なことだ。

真守が心の底からそう思っていると、神裂は理解することができた。

 

真守は神裂に黙っていることがが一つだけある。

実は真守は、後方のアックアの体内エネルギーを崩すことができるのだ。

 

流動源力(ギアホイール)というエネルギーを司る能力者だから、『聖人崩し』の真似事ができる。

 

でも神裂火織が天草式十字凄教に戻るために協力を求める必要があって、それに『聖人崩し』が必要で、誰もが()りし日に帰ることを望んでいるから。

 

真守がわざわざ自分にもできるなどと言う必要はどこにもない。

 

(……それに一度『聖人崩し』は防がれている。後方のアックアは普通の魔術も使えるし、一筋縄じゃいかない)

 

真守は一人心の中で呟き、神裂を見た。

 

「私は行く。私のことを大切に想ってくれる人たちが初めてくれた私の居場所に。……垣根のそばに。お前はどうする?」

 

神裂はそこで、少しだけ黙る。

だが即座に真守を見据えて自分の想いを口にした。

 

「私も行きます」

 

「そうか」

 

真守は神裂の決意を聞いて柔らかく微笑んだ。

 

「じゃあ行こう。私たちがそれぞれ大切にしている人のところへ」

 

神裂は真守の言葉に頷き、そして真守から離れて天草式十字凄教のもとへと急ぐ。

 

真守も、後方のアックアと戦っている垣根帝督のもとへと向かった。

 




一つ気になったのですが、この世界の聖母ってマリアと呼ばれているのでしょうか。
それとも『神の子』と呼ばれるように、直接的な表現はされていないのでしょうか。
大覇星祭の時に最大主教が言及した聖母の絵画のことをマザーマリアとルビが振ってあったのでマリアと呼ばれてるのかな、と考えたりしますが、そこはどうなっているのでしょうね。

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