とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四二話、投稿します。
※次は一月一六日日曜日です。


第一四二話:〈勝利御手〉で一時平穏を手に

真守、垣根、天草式十字凄教はアックアと相対しており、そんな中真守が告げる。

 

「お前の弱点は分かっている。『聖人崩し』だ」

 

真守の言葉に後方のアックアは眉間にしわを寄せて、垣根は怪訝な顔をする。

何が何だか分かっていない垣根のために神裂は説明を始める。

 

「後方のアックアは『聖母』という素質と『聖人』という素質を(あわ)せ持つ二重属性なんです。だからこそ、その二つの異なる力を使うことによって一定以上のラインを突破して、その力を安定させている。言うなれば高速安定化ライン。でもそのせいでアックアは対聖人用攻撃術式に弱くなってしまったのです」

 

垣根が飛行機と同じことをアックアが行っているのだと悟ると、そこで神裂は言葉を切ってアックアを睨みつけて告げた。

 

「『聖人崩し』とは『神の子』に似た身体的特徴のバランスを強引に崩し、体内で力を暴走させることによって聖人を一時的に行動不能に陥らせるもの。本来ならば数十秒が限界でも、あなたの場合は暴走する力の規模が違う。だからあなたは魔術的手段を用いたとしても『聖人崩し』を防御する必要があった! 違いますか!?」

 

後方のアックアは神裂の問いかけに獰猛に笑った。

その笑いが肯定しているようなものだった。

 

「成程な。お前にもやっぱ弱点はあるってことだ」

 

垣根は一つ納得したように呟き、真守に支えられながらも立ち上がった。

 

「じゃあさっさと潰れろ、このクソ騎士サマよォ!!」

 

垣根が叫ぶと、後方のアックアは先制攻撃に入った。

メイスを振り回して、苛烈な攻撃を衝撃波として連続して繰り出す。

そんなアックアの攻撃へ、真守は垣根に手を貸したままアックアに向かって手を突き出した。

するとアックアが繰り出した連続攻撃が見えない力に弾かれて霧散させられる。

 

「!」

 

アックアは自分の攻撃が何らかの力によって弾き飛ばされたことに目を見開く。

 

「垣根も言った」

 

真守は後方のアックアを無機質なエメラルドグリーンの瞳で見つめながら告げる。

 

「ここはお前の知る世界じゃない!」

 

そこでアックアは持ち前の危機察知能力で身を(ひるがえ)すと、その場から飛び退いた。

その瞬間、バツン! と弾けるような音が響き、アックアが立っていた場所の空間が捻じ曲げられる。

 

「辺りに満ちている力を使うのであるか!」

 

「AIM拡散力場と言うんだ。能力者が無自覚に発している力。それによってこの学園都市は満ちている」

 

真守は高速で逃げるアックアに何度もバツン! バツン! とAIM拡散力場を叩きつけながら告げる。

 

「この地で私の手数が途切れることはない!」

 

真守が叫んだ時、神裂が前に出て七天七刀によって衝撃波を繰り出す。

それをアックアは難なく避けるが、神裂は最初から避けられることを前提として攻撃を放っていた。

神裂の目論見通り、アックアに避けられた攻撃は彼の背後にある瓦礫の山に埋もれていたさび付いた有刺鉄線にブチ当たる。

 

神裂の目論見に気が付いたアックアが頭上に目をやると、空を飛んだ有刺鉄線の鋭い針金が円の形になるように展開されていた。

 

神裂は七閃と呼ばれるワイヤーによって周囲の瓦礫を切断して、魔術的意味を持った彫刻を出現させる。

現れたのは巨大な十字架。その近くには鋭い鉄の釘。そしてアックアの頭上にはいばらの冠。

 

「『神の子』の処刑の象徴であるか!!」

 

『聖人』とは『神の子』と身体的特徴が似ているが故に『神の子』の力の一端をその身に宿すことができる人間だ。

そのため、『神の子』のレプリカである『聖人』は力と共に『神の子』の弱点すら継承してしまっている。

だからこそ『神の子』の処刑場を神裂は作り上げ、それでアックアを止めようとしているのだ。

 

こんな付け焼刃のガラクタで普通の聖人は倒せない。

だが後方のアックアは『聖人』と『聖母』の二重属性を持つ『特別な聖人』なのだ。

聖母は十字教史上最高の聖人として扱われている。

そのため『処刑』の術式はアックアに致命的な一撃になる。

 

「揺らいでいます」

 

神裂はアックアの中にある聖人の力と聖母の力が外側から影響を受け、ぎしぎしと悲鳴を上げているのを感じてきっぱりと言い放つ。

真守もエネルギーの齟齬が起こっていることをエネルギーの流れから読み取って、視線を鋭くした。

 

「準備は整いました! 槍を持つ者(ロンギヌス)よ、今こそ『処刑』の儀の最後の鍵を!」

 

神裂に声を掛けられた五和は即座におしぼりを取り出して柄を包むように海軍用船上槍(フリウリスピア)を構えた。

 

『聖人崩し』とは天草式十字凄教全員が特定の動きをすることで発動する対聖人用特殊攻撃術式だ。

その中心核には五和がいて、五和はおしぼりを柄に見立て、海軍用船上槍(フリウリスピア)を管やりとして扱うことで『聖人崩し』の一撃を放つ。

 

そのため五和がおしぼりを取り出したところを見て、一度『聖人崩し』を防いだアックアはそれを見て笑った。

 

「面白い」

 

アックアはそう呟くと、有刺鉄線の束縛を強引に引きちぎった。

 

「天草式十字凄教に神人(しんじん)とその天使。その名は我が胸に刻むに値するものとする!」

 

そしてアックアは垣根ごとぶち抜いた第五階層と第四階層を繋ぐ穴から第四階層へと飛び上がって構える。

 

アックアの動きを何百本のワイヤーが追り、真守がAIM拡散力場でアックアを追ったが、アックアはそれら全てを力づくで突破した。

 

円形のクレーターの奥から第五階層へと降りそそぐ第四階層の光を巨大な月に見立てて、アックアはその月に背を向け、『後方のアックア』の名に相応しい出で立ちでメイスを構える。

 

聖母の慈悲は(T H M I)厳罰を和らげる(M S S P)

 

垣根に大打撃を食らわせた一撃をアックアは二倍の滑空距離で放とうとしている。

その攻撃は凄まじいものとなる。

第二二学区が無事でいれられないくらいに。

垣根は飛び上がったアックアが攻撃の態勢に入ったことで危機感を(あら)わにする。

 

『垣根、私に合わせてほしい』

 

(真守?)

 

そんな垣根に小さな体で懸命に垣根を支えている真守はエネルギーでパスを作り、垣根の脳裏に直接言葉を書き込んできた。

 

『私の力に、垣根が形を付けてほしい』

 

真守はアックアを睨みつけていたが、そこで呆然とする垣根をちらっと見た。

 

『お願い。私に垣根のその可能性をみせて』

 

垣根はその言葉に目を見開く。

絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した真守には何もかもがある。

 

だが『無限の創造性』だけは真守も持ち合わせていないのだ。

 

それだけは垣根帝督の特権である。

朝槻真守にはないもの。垣根帝督にはあるもの。

それを真守が欲していると、垣根は気が付いた。

 

「いいぜ、俺のチカラをお前に見せてやるよ!!」

 

垣根が笑うと、真守は心底幸せそうに目を細めた。

 

そんな真守の前で、垣根は辺りに展開していた未元物質(ダークマター)を呼び起こす。

 

エネルギーはそれ単体でも強い。

だがエネルギーのその強みを生かすには、そのエネルギーの力を十全に引き出せるように()()()()()()()()()に決まっている。

 

白米を炊くために炊飯器に電気を通すように。

掃除するために掃除機に電気を通すように。

 

目的のために特化された器に必要なエネルギーを流せば、その目的を達成できる力に換わる。

 

だから真守は自分の生成する力を受け止められる器を、未元物質(ダークマター)によって作って欲しいと垣根にお願いしたのだ。

 

後方の後方のアックアの一撃を止めるという目的のために、自分のエネルギーの強みを十全に使える器を垣根に求めた。

 

普通ならばこの世にないエネルギーを受け止める器を作るなんて無理だ。

だが、垣根帝督の扱う物質もこの世にないものである。

 

この世にないもの同士であるエネルギーと物質。

 

それが一つになって正しい()り方で力を発揮できるのは道理である。

 

垣根帝督はこれまで朝槻真守のそばにいて、朝槻真守の生み出す全てのエネルギーの源である源流エネルギーをずっと見続けていた。

 

真守のそばにいたくて。

そしていつまでも一緒にいたくて。

真守のことを、理解したくて。

 

朝槻真守だけを見て、一身に求めてきた垣根帝督には分かる。

朝槻真守が自分に何を求めているのか。

何を望んでいるのか。

 

だからこそ、垣根帝督は源流エネルギーを受け止められる役割を持った未元物質(ダークマター)を生み出すことに成功した。

 

超能力者(レベル5)は高度な数式と演算で能力を行使する。

だが垣根はその時、初めて直感で未元物質(ダークマター)を動かした。

理論なんてない。

ただ真守のためになることをしたいという、純粋な願いを込めて能力を行使した。

 

そしてそれは不思議なことに。

 

未元物質(ダークマター)の本来あるべき形へと変わっていた。

 

時に、(T C T)神の理へ(C D B)直訴するこの力(P T T R O G)慈悲に包まれ(B W I M)天へと昇れ!!(A A T H)

 

垣根と真守が構えた瞬間、凄まじい速度で後方のアックアが攻撃を繰り出した。

 

蒼閃光(そうせんこう)が歯車の荘厳な鈍い音を響かせて(ほとばし)る中、それを包み込むように純白の光が辺りに満ちる。

 

形作られたのは、網だった。

 

全てを受け止める、慈悲の網。

 

それが『聖母の慈悲』を天使の術式として身に宿した後方のアックアが一撃を放ったメイスを網で絡み取るように受け止めた。

 

アックアは自らの渾身の一撃を止めた真守と垣根に驚愕する。

 

「「神裂!」」

 

そんな中、真守と垣根は同時に神裂の名前を呼んだ。

 

「はい!!」

 

神裂は即座に行動に移り、メイスを離して(ちゅう)へと逃れようとしているアックアをメイスとまとめてワイヤーで絡めとった。

 

「……ぬん!」

 

アックアはワイヤーを引きちぎるが、神裂が七天七刀を放り捨ててアックアの方をメイスごと引き留めにかかる。

 

「させぬ!」

 

だがアックアは自身に突進しようとしている神裂に向けて人用の魔術を放とうとする。

アックアの天使の術式は『聖母の慈悲』。

あらゆる枷を解き放つため、天使の術式しか使えない魔術をアックアは使うことができる。

 

だがその魔術は放たれなかった。

 

 

神裂がアックアに飛び掛かる前に、上条当麻がアックアに抱き着いたからだ。

 

 

その瞬間、人間が使える魔術が上条の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)によって霧散する。

 

上条は傷ついたボロボロの体で飛び掛かった神裂と共にアックアにしがみつきながら、後方を見た。

 

「五和!」

 

「任せておいてください……」

 

上条に声を掛けられた五和はおしぼりで作った柄を握り直して槍を構え、天草式十字凄教の面々と『聖人崩し』の起動準備に入った。

 

「必ず当てます!!」

 

仲間から複数の術式の加護を受けた五和は叫ぶと共に爆走。

アックアはこれを回避しようとするが、渾身の一撃を垣根と真守に、そして動きを上条当麻と『聖人』である神裂に封じられて何もできない。

 

「お、おおおおおお──────ッ!?」

 

アックアは鋭い雄たけびを放った。

 

五和から『聖人崩し』を放たれる恐怖ではなく、五和の攻撃を受けてもなお倒れないという信念を持って、一本の雷撃へと形を変え、星のように輝きを放つ『聖人崩し』を受けた。

 

空気が震える音がさく裂して『聖人崩し』はアックアの腹に突き刺さり、背中から飛び出して六つの頂点を作り、星の輝きを得る。

 

『聖人崩し』の衝撃によって上条と神裂は吹き飛ばされてる。

そして神裂はボロボロの上条を受け止めて地面へと降り立った。

 

そんな二人の前でアックアは衝撃を受けて吹き飛ばされて、第五階層に作られていた人工の湖へと落ちた。

 

湖に落ちて見えなくなったアックアの様子を伺っていた真守たちの前で、突然暗い湖の底がカッと閃光に包まれて大量の水が丸ごと爆発する。

 

鋭い爆発によって完全に干上がった人工の湖の(ふち)(あら)わになり、人工の湖の大きさほどの水蒸気の柱が第五階層の天井にぶち当たって四方八方へと広がっていく。

 

凄まじいその水蒸気でできた巨木は、ただ単純にアックアの内包されていた凄まじい量の力を物語っていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「垣根、あっちから力を引き出してる影響で体が頑丈になってて良かったな」

 

アックアとの激闘の後日。

真守はカットフルーツの詰め合わせのパックの蓋をカポッと開けながら垣根に笑いかける。

垣根は病院衣のままベッドの上で行儀悪く片足を立てて座っており、心底不機嫌そうにしていた。

 

「どうだ? 上条と一緒に病院に(かつ)ぎ込まれた気分は?」

 

「つーか未元物質(ダークマター)で繋げたから入院してなくてもいいだろ。俺はそんなにヤワじゃねえ」

 

垣根はムスーッとして、自分が病院の世話になっているのが心底気に食わないといった表情のまま真守の言葉に応えた。

 

現在、垣根は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の病院の世話になっており、経過観察で入院となっている。

 

垣根の肉体はここではないどこかの世界から力を引き出している関係上、天使に限りなく近くなっている。

そのため体が頑丈になっており、アックアの鋭い攻撃を叩きこまれたのに垣根はろっ骨を何本か折ったり全身の骨にヒビが入る程度で負傷をとどまらせていた。

その骨折や全身の骨のヒビも未元物質(ダークマター)によって繋げており、しかも垣根は骨の再生も未元物質(ダークマター)(うなが)している。

体に再生を促している以上、骨折を繋げてヒビをパテのように埋めた未元物質(ダークマター)もすぐにいらなくなるだろう。

 

そんな体の負傷を全て自分の能力で(まかな)った垣根には治療の必要がない。

だがそれでも体にダメージが遅れて出てくるかもしれないということで、垣根は経過観察で入院となっているのだ。

 

「文句は先生に言ってくれ」

 

「……ッチ。今から言ってくる」

 

「ダメ」

 

真守はぴしゃりと告げ乍ら、ベッドの上から動こうとした垣根の口にカットフルーツのパックに入っていた大きな白桃を詰め込んだ。

 

「むごっ!?」

 

垣根が慌てる中、真守は垣根の口に白桃をねじ込みながら淡々と告げる。

 

「先生に垣根のこと、入院中は病室に縫い付けるようにお願いされてる」

 

垣根は真守が強引にフルーツを口にねじ込んできたので当然として咳き込みそうになる。

だが真守が口から手を離さないのでどうにもできない状態である。

垣根が真守を鋭く睨むと、真守はため息を吐きながら垣根の口から手を離した。

 

げほっごほっと盛大にむせながらも垣根は白桃を呑み込むと、真守をキッと睨みつけた。

 

「垣根」

 

怒りに満ちている垣根を見て、真守は真剣な声で垣根の名前を呼んだ。

垣根は真守が神妙な顔つきになったのに気が付いて目を見開く。

真守はそんな垣根の頬に優しく手を添えてふにゃっと笑った。

 

「私はいつだって垣根のこと、欲しいと思ってるよ」

 

「……真守、お前」

 

垣根は真守のその言葉に目を見開く。

 

「誘ってんのか?」

 

「ちがう。垣根のばか」

 

真守は怒って垣根の頬を思い切り引っ張った。

 

「あにすんらよ」

 

「垣根の可能性を信じていることだ。どうしてえっちな事に思考を直結させるんだ、まったく。まったく!」

 

垣根の頬を真守はぷんぷんと怒ったまま引っ張り続ける。

真守は自分に持っていない垣根の『無限の創造性』を信じて、それを必要としていると伝えたかった。

それを垣根はもちろん理解している。

だが真守の言い方がエロかったのがいけない。

 

「垣根のばか。えっち、ヘンタイ。ばかばかばかばか」

 

真守が罵倒を止めずに自分の頬を引っ張ってくるので垣根は顔をしかめる。

だが垣根は、いつものように強硬手段を取って真守を捻じ伏せたりしなかった。

 

真守が怒りながらも優しく笑っていたからだ。

 

真守が幸せそうだから、垣根も真守に頬を引っ張られようが穏やかな気持ちになっていた。

 

絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した真守の神としての考えは分からない。

それでも、人間の心を持って自分のことを想ってくれれば垣根は十分だった。

 

垣根が柔らかく真守を見つめていると、病室の扉がコンコンと叩かれた。

真守は垣根の頬から手を離して垣根と一緒に扉を見た。

 

「いいぜ。入って来い」

 

垣根が声を上げると、扉をカラカラと開けて入ってきたその人物を見て垣根と真守は驚愕して目を見開いた。

 

「な!?」

 

そこには白と黒によって構成されてなんともエロいイギリス製のゲテモノメイド服、『堕天使エロメイド』に身を包んだ『聖人』、そして天草式十字凄教の女教皇(プリエステス)である神裂火織が立っていた。

 

「か、感謝を示したくて!」

 

「感謝を示したくてメイド服着るか!? それが普通か!? おかしいだろ!!」

 

垣根が思わず大声で叫ぶと、廊下の方からげらげらげらげら聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。

 

「オイ土御門か!? またテメエの差し金かよ!!」

 

垣根が人をおもちゃにして(えつ)(ひた)っている笑い声を聞いて即座に看破すると、顔を真っ赤にしている神裂の後ろからひょっこり土御門は顔を出した。

そして満面の良い表情でグッと親指を立てる。

 

「男のロマンぜよ!! これで何もかもをご奉仕されちゃってくれ☆」

 

「俺には真守がいんだよ!! 余計なお世話だ!!」

 

垣根が怒鳴り声を上げると、それを聞いて神裂がうなだれる。

 

「や、やっぱりこれくらいじゃ恩返しにはなりませんか……」

 

「!? 恩返しのためならもっと別のやり方で恩を返せ!!」

 

「あの少年はこれがいいと土御門が言っておりましたし、この姿を見せたら歓喜で震えてましたけど」

 

「そこのクソ野郎の言葉を助言として受け取るんじゃねえ!! 後上条は歓喜で震えてたんじゃねえ、絶対に!!」

 

ツッコミ疲れではあはあ肩で息をしていると、そこで真守がここまで静かにしていたことに垣根は気が付いた。

垣根が真守のことを見ると、真守は垣根のことをじぃーっと見ていた。

 

「な、なんだよ」

 

垣根がたじろいでいると、真守は垣根の手に触れながら微笑む。

 

 

「垣根。頑張ったご褒美に、今度猫のコスプレしてにゃんにゃん言ってお願いなんでも聞いてあげるからな」

 

 

「は!?」

 

垣根は真守から放たれた言葉に固まった。

確かに神裂に奉仕されるなら真守ににゃんにゃん言ってもらって奉仕された方がいい。

だがそれは密かに垣根が心の(すみ)で思っていたことで、決して口にも声にも出していない。

何故、それが真守に伝わったのか。

答えは単純。

 

「テメエ人の心をAIM拡散力場経由で読むんじゃねえ!!」

 

「へぇ~やっぱりていとくんってぇ~高貴な黒猫様な朝槻がどこまでも性癖だったんか~朝槻、お前に似合う衣装を用意してやるぜい!」

 

そこで土御門がぶっこんで来たので、真守は垣根に寄り添いながら土御門を見た。

 

「メイド服じゃなかったら考えてやる」

 

「ぐっ……どこからツッコんで良いか分からねえがとりあえずヤメロ!!」

 

垣根の怒鳴り声が響く中、神裂はきょとんとしており、その後ろで土御門は笑い転げていた。

真守は怒りで顔を真っ赤にして震える垣根を見つめながらふふっと柔らかく微笑み、穏やかな日常に一時的にでも帰還できたことを幸せに思っていた。

 




後方のアックア篇、これにて終了です。
次回、旧約最終章。ロシア篇。
最後までお楽しみいただけたら幸いです。


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