とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四六話、投稿します。
次は一月二○日木曜日です。


第一四六話:〈来訪者達〉で事態急変

『ブリテン・ザ・ハロウィン』と呼ばれるイギリスのクーデター。

 

そのクーデターを止めるために一役買った上条当麻は、現在『新たなる光』と呼ばれる魔術結社に所属するレッサーという少女と共にロシアに来ていた。

 

上条の目的は右方のフィアンマが『王室派』より奪ったインデックスの遠隔制御霊装だ。

それを破壊しなければ、インデックスの身の安全は保障されず、昏睡状態に(おちい)ったままである。

 

上条はイギリスでインデックスの遠隔制御霊装を奪ったフィアンマと直接対峙している。

そのフィアンマは上条に『天使』を降ろした素体であるロシア成教所属のサーシャ=クロイツェフを回収しに行くと宣言し、ロシアへと向かった。

 

フィアンマを追って秘密裏にロシア入りした上条とレッサーはフィアンマに一度近づくことに成功した。

だが戦力差に踏みとどまり、その隙にフィアンマはエリザリーナ独立国同盟へ逃亡したサーシャ=クロイツェフを回収しに行ってしまった。

 

上条とレッサーはフィアンマがエリザリーナ独立国同盟を襲うという交渉材料を持ってエリザリーナ独立国同盟の国境警備隊に接触。

 

現在、エリザリーナ独立国同盟内を案内されて広場を歩いているところだった。

 

ガチガチに装備を固めている複数の大男に囲まれる形で上条がびくびくとしていると、そんな上条にレッサーが軽い調子で声を掛けてきた。

 

「大丈夫ですよ。エリザリーナ独立国同盟は、フィアンマの情報ならなんでも欲しいはずです。だから私たちがこのまま収容所に送られるようなことはありませんし、そもそもこの同盟にそこまで物騒な施設は存在しませんから」

 

「……ホントに? そこで予想を(くつがえ)すことが待っているのが不幸な上条さんのいつものパターンなんですよ? このままベルトのついた椅子だけ置いてある部屋に連れて行かれるかも」

 

上条がこれから先自分がどうなるか不安でガクガクと震えていると、レッサーはそんな上条を見つめて笑いながら適当に応える。

 

「はいはい。その時にはお詫びとしてベビードールを着て四つん這いになってお尻を振ってあげますよ。……ん、それいいな。なんなら今からやりましょうよ」

 

「まだ説教が足りなかったようだな、レッサーくん。ここじゃ迷惑になるからちょっとそっちの路地裏に行こうか」

 

ことあるごとに自分に色仕掛けをしてくるレッサーに腹を立てた上条がレッサーの首根っこを掴んでふらっと人の輪から外れようとすると、周囲の大男たちがロシア語で上条を警告し、ホルスターに入った拳銃に手を触れた。

 

「わあ!! 分かった分かった、くそ、やっぱり歓迎されている感じじゃないぞ!?」

 

「私だって冗談ですよ。周りの連中にサービスしたってイギリスの国益になりそうではないですしね。ベビードールを着るかは一旦おいといて、今は大人しくついていきましょう」

 

レッサーが慌てた上条の言葉に微妙な同意をしていると、そんなレッサーに兵士の一人がロシア語で話しかけてきた。

レッサーはふんふんと内容を聞くと、ロシア語が全く分からない上条の方へ顔を向けた。

 

「ロシア国内で、トラックで移送中だった親娘を助けたか、ですって。娘の方は二歳ぐらいの赤ちゃんと、一〇歳くらいの女の子らしいですけど」

 

「……? トラックと装甲馬車の車列には手を出したけど、あれ、何十人ぐらい乗ってたっけ? それだけじゃピンとこないな」

 

上条はここに来る前にレッサーの手を借り、強制収容所へと不当な理由で連行されそうになっている人々を助けている。

 

「あれは俺の姉と彼女の娘たちだ、そうです」

 

その中にどうやら兵士の身内がいたらしく、兵士はそれを感謝しているらしかった。

 

「そうだったのか……ってアレ?」

 

上条が兵士の感謝にへえーっと納得していると、兵士たちによって連れられて来た軍事施設の中で見知った少年を見つけた。

 

「よお上条」

 

「垣根!? え、なんでここにいんの!?」

 

上条がコートをしっかり着て冬支度をしている垣根を見て驚きの声を上げると、上条を囲っていた兵士の一人が垣根へとフランクな調子でロシア語によって声を掛けてきた。

 

ロシア語が分かるレッサーはそこで、垣根が兵士に知り合いだから敵対する必要はないと言っているのが分かった。

そんな会話内容が分からなくとも、上条は兵士が警戒を少しだけ解いたので垣根が自分たちのことを知り合いだと言ってくれたことになんとなく気づき、感謝をする。

 

どうやら拷問は回避できたらしい。

 

ほっと安堵する上条に、垣根は声を掛けた。

 

「真守がこの国で探しモンがあるらしくてな。第三次世界大戦が開戦した時から俺たちはここにいるんだ」

 

「探し物って?」

 

上条が真っ当な疑問を垣根に向けると、垣根は顔をしかめながらも答えた。

 

「俺も真守が何を探しているのかは聞いてねえ。探し物のためにはこの国が存続している必要があんだろう。この国は右方のフィアンマに狙われてるし、右方のフィアンマ自体もどうにかしなくちゃなんねえから、ここでエリザリーナの手伝いをしてるって訳だ」

 

「エリザリーナ?」

 

上条が垣根の口からぽんぽんと出てくる新情報に首を傾げていると、そんな上条にレッサーが横から説明をした。

 

「エリザリーナ独立国同盟の名前の由来になった女性ですよ。複数の国家を独立させ、結びつけるために活躍した聖女様ってヤツです」

 

「……そっちの女は誰だ?」

 

垣根がスカートの中から小悪魔のような尻尾を出しているレッサーを見つめて首を傾げると、レッサーは姿勢を正して挨拶をする。

 

「初めまして。わたくし、イギリスで『新たなる光』という魔術結社に所属しているレッサーと申します。イギリスの利益になると思ってこの方についてきました」

 

「……利益だと? 上条、お前イギリスの利益になんのか? だからこんなヤツに付きまとわれてんの?」

 

「いや、俺もさっぱり」

 

垣根が顔をしかめて上条に問いかけると、上条も考えたくないのか顔を無表情にして首を横に振った。

 

垣根は上条とレッサーの組み合わせに顔をしかめながらも、レッサーに自己紹介する。

 

そしてエリザリーナのもとへと行くと、エリザリーナと共にいた真守が上条の方を振り返って柔らかく目を細めた。

 

「上条、久しぶりだな」

 

「おう、朝槻。元気してたか?」

 

久しぶりに直接会った真守に上条が笑いかけると、真守はコクッと頷いた。

 

「うん。問題ないぞ」

 

真守と上条が親しそうに話をしている中、横からエリザリーナが口を出してきた。

 

「再会を喜ぶのは後にしてくれるかしら。……右方のフィアンマがこちらへ来るそうね」

 

彼女がエリザリーナですよ、とレッサーに耳打ちされ、上条は口を開く。

 

「国境の向こう側に隣接しているロシア軍の基地で、当人の口から直接出た言葉だからな。多分間違いないと思うけど。……ちょっと待て。エリザリーナさんは、その……右方のフィアンマっていうのが何を差しているのか分かるのか?」

 

エリザリーナに確認されたので上条は頷くが、途中でおかしいことに気が付いた。

右方のフィアンマとはローマ正教の最暗部に存在する『神の右席』の一人だ。

『神の右席』は表に出てこないため、多くの人間はその存在を知らない。

だがエリザリーナは右方のフィアンマをどうやら知っているらしい。

そのため上条が問いかけると、それにエリザリーナは首を縦に振った。

 

「ローマ正教の最暗部のことを知っているのかと問うているのであればそうよ。つたない腕で()りながらも、私も魔術師の一人だからね」

 

レッサーは隣にいた上条に声を掛ける。

 

「『魔術を知っている』者じゃなけりゃ、いくらあなたの友人がいるとしてもここまで迅速に一国の中枢にまで連れてくるように指示できませんよ」

 

そしてちらっとエリザリーナを見ながら、エリザリーナの功績を上条に説明する。

 

「彼女は表で政治的・経済的な国家独立のための基盤を整えて、裏ではオカルト的工作を行おうとするロシア成教の魔術師たちを片っ端から押し返した実力者です。本気でやり合ったら、私もぶっ飛ばされるかもしれませんね」

 

レッサーが自分とエリザリーナの戦力差が十分にあると告げると、エリザリーナは緩く首を横に振った。

 

「そこまで大それたことじゃないわ。いくつかの手続きの提案と手伝いをしただけ。『フランスの姉さん』に比べればまだまだよ」

 

「上条。そっちの女の子は誰だ?」

 

エリザリーナが謙遜しているのを尻目に、真守はレッサーに視線を固定させながら上条にそう問いかける。

 

「初めまして。あなたのボーイフレンドにはもう挨拶しましたが、わたくし『新たなる光』という魔術結社に所属しているレッサーと申します。お会いできて光栄ですよ、神人(しんじん)

 

「そうか。私は朝槻真守だ。よろしく」

 

本日二度目になるレッサーの挨拶を真守は受けて頷くと、自己紹介もそこそこにエリザリーナが話を進め始めた。

 

「右方のフィアンマは我が国への侵攻に関する重要人物よ。この機に乗じて彼を撃破できれば、それだけで民の命が脅かされる可能性はかなり減るでしょうね。……だけど、私の魔術師としての技量で簡単に右方のフィアンマを倒せるとも思ってない。この国にある全てをかき集めても無理でしょうね」

 

そしてエリザリーナはそう前置きをしてから自分たちの方針を告げた。

 

「我々にとって最も重要なのは、独立国同盟の住民の命よ。いたずらにそれが失われるようであれば、我々はフィアンマとの交戦を避けなければならないわ」

 

そこでレッサーはお尻から伸びる尻尾をふりふりと振りながら問いかける。

 

「ここまで来て、好きにやらせると?」

 

レッサーの問いかけにエリザリーナは即座に首を横に振って情報共有をする。

 

「フィアンマの目的はサーシャ=クロイツェフよ。彼女はすぐ近くにいるわ。命令すれば、いつでもここに来てくれる。……その上で、我々は国民の命を守りつつ、フィアンマの撃破をも考えている。……彼女たちにはもう話してあるけど、私が何を言いたいか、分かる?」

 

「……一度俺たち二人や朝槻たち、サーシャをエリザリーナ独立国同盟の外……ロシア国内に送り返した後に対フィアンマ用の作戦を実行するってわけか?」

 

上条がエリザリーナの言わんとしていることを推察して声を掛けると、エリザリーナは腕を組みながら告げる。

 

「そうよ。冷たい人間だと思ってもらっても構わないわ。でも事態はそれくらいデリケートなことになっているの。不用意な選択一つで、多くの無関係な人たちがころされるかもしれないほどにね」

 

上条は冷酷な判断をする事を許してほしい、と告げるエリザリーナを見て首を横に振った。

 

「元々俺たちだってサーシャの行方を捜すためにアンタたちを利用しようとしたんだ。むしろ、問答無用で手錠を掛けられなかっただけでも感謝できる。だから何も問題ねえよ」

 

「規模や程度は違うとはいえ、あなたにも守るべきものがあるようね」

 

上条の言い分を聞いてエリザリーナがそう判断すると、上条は即座に頷いた。

 

「誰にでもある。……そいつに気づくのが遅れたせいで、危うく奪われそうになっちまったがな。今ならまだ間に合うかもしれないんだ」

 

上条はそう一人呟くと、エリザリーナに問いかけた。

 

「具体的にどう動く?」

 

「こちらへ。……とはいえ、急なことなので、勝算は確約できないわよ」

 

エリザリーナはそこで腕を組むのをやめて、入り口に立ち尽くしていた上条とレッサーを案内しようとする。

 

 

『そうだな。この段階でまだ作戦会議をしている時点で、もう遅すぎるな』

 

 

だがそこで不意に男の声が虚空から響いた。

 

エリザリーナ独立国同盟に逃げ延びた天使を降ろした素体を狙う男の声が無情にも響き渡り、場は戦慄した。

 




右方のフィアンマ、襲来。

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