とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一四七話、投稿します。
次は一月二一日金曜日です。


第一四七話:〈対偶立場〉は相対する

『そうだな。この段階でまだ作戦会議をしている時点で、もう遅すぎるな』

 

突然、男の声が窓の外から響いて真守たちは即座に動き出した。

 

真守は五対一〇枚の翼を展開、垣根も未元物質(ダークマター)の三対六枚の純白の翼を広げて周囲に展開していたカブトムシに命令を出して集め始める。

 

レッサーはスチールデスクの上にあった伸縮する指揮棒の先端に棒磁石を結び付け、エリザリーナは水の入ったグラスの側面に、菓子を包むための青い半透明のセロファンを張り付ける。

 

そして数秒で即興の霊装を作り上げた二人は二種類の攻撃を窓へ向けて放った。

 

『挨拶だよ』

 

二人の攻撃で窓ガラスは粉々に砕け散ったが、声は止まない。

何故なら割れた窓ガラスの向こうにいたのは小麦粉を練って造り上げられた小さな人形だったからだ。

 

右方のフィアンマはどこにいるのか。

一同が警戒した時、そこで真守は攻撃を察して上を向いた。

 

 

その瞬間、軍事施設が半壊した。

 

 

鋭い轟音が響き渡り、瓦礫が散逸する。

振動が収まり土煙が晴れると、真守がその場にいた全員を守るために張ったシールドの向こうで軍事施設の天井が半分ほどが崩れているのが見えた。

そして真守が張ったシールドやその崩れた天井の向こうに、オレンジ色の光の壁が見えた。

 

それは壁ではなく、剣の一部だった。

 

長さだけで三~四〇キロはある巨大な剣。

右方のフィアンマはそれを遠距離から軍事施設へと向けて振り下ろしたのだ。

 

剣の根元は地平線の向こうに続いており、その先にいるフィアンマを真守は察した。

 

フィアンマはその剣を左右に細かく揺さぶってからゆっくりと振り上げる。

 

『サイズが大きいと狙いを定めるのも面倒だな』

 

気軽な声が聞こえて来た次の瞬間、オレンジ色の大剣がもう一度垂直に振り下ろされた。

 

真守はキッと視線を鋭くして左手の平を(かか)げて源流エネルギーを放出。

 

その巨大な剣を受け止めた。

 

ガギゴギガギガギ! と、歯車のかみ合わせが悪い時のような不快な音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)り、凄まじい地響きと衝撃波が辺りに蔓延(まんえん)する。

 

魔術と源流エネルギーが衝突すると、不可思議な虹色の光が辺りに飛び散る。

そのため今も大剣と源流エネルギーがぶつかったことにより、魔力が焼き尽くされ、虹色の光の奔流(ほんりゅう)が半壊した室内を埋め尽くした。

 

そんな中、真守が生成して厚く張った源流エネルギーからミシミシと軋む音が響き、少しずつ源流エネルギーが大剣によって押し切られていく。

 

「!!」

 

垣根はそれを見て目を見開き、焦りで顔を引きつらせた。

 

源流エネルギーとはこことは違う世界における源流。

神や神の住む天界を構成する純粋な力の根源だ。

 

その源流エネルギーが生命エネルギーという下位のエネルギーから精製された魔力で(つむ)がれる魔術に負けるはずがない。

 

()()()()垣根は懸念していたことが現実に起きてしまい、危機感が(つの)る。

 

真守は魔術世界において『光を掲げる者(ルシフェル)』としての役割を与えられていることになっている。

 

光を掲げる者(ルシフェル)』は神の右側という、神と対等の位置に座ることが許された唯一の天使だった。

だが堕天して神に逆らい、天界を混乱の坩堝(るつぼ)に落として戦争を引き起こした。

 

そして『光を掲げる者(ルシフェル)』は自らと対を()すように生み出された『神の如き者(ミカエル)』の右手によって斬り伏せられた。

 

右方のフィアンマは『神の右席』として『神の如き者(ミカエル)』の役割を担っている。

 

つまり『光を掲げる者(ルシフェル)』としての役割を課せられている真守は『神の如き者(ミカエル)』としての力を振るう右方のフィアンマに絶対に勝つことができないのだ。

 

絶対能力者(レベル6)であり、この世の誰にも負けるはずがない真守の唯一の弱点。

 

その弱点を突かれれば、真守に勝ち目はない。

 

「真守ッ!!」

 

垣根は真守の名前を呼び、左手を宙へと伸ばして白と黒の翼を互い違いに展開している真守を庇うように未元物質(ダークマター)の翼を大きく広げる。

 

そんな中、上条は真守が劣勢だと感じ取り、とっさに真守の前に立つ。

 

そして幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿らせた右手を左手で支え、高く突き上げ、真守の源流エネルギーを押し切った大剣を受け止めた。

 

「おおおおおおっ──────!!」

 

ミシミシと嫌な音が骨の奥から聞こえるが、それでも上条は幻想殺し(イマジンブレイカー)でフィアンマの地上を裂くほどの一撃を受け止め、打ち消した。

 

大剣は幻想殺し(イマジンブレイカー)によって粉々に砕けて光の欠片となって真守たちに降り注ぐ。

 

垣根はその光の欠片から真守を庇うために未元物質(ダークマター)の翼を大きく広げる。

 

(フィアンマの狙いはサーシャ=クロイツェフだ。サーシャをフィアンマに渡しちまえばエリザリーナ独立国同盟をフィアンマが襲う意味はなくなる。国は守られて真守の探し物も変わらずに探せる。……だが『天使』を降ろした素体をアイツがヤバいことに使うのは間違いねえ。だから止めなくちゃならねえことは分かってる)

 

垣根は真守を未元物質(ダークマター)の翼で囲いながらチッと舌打ちを打つ。

 

(今の一撃だけで分かった。真守は右方のフィアンマに絶対に勝てない。アイツと戦わせちゃならねえ。なんとかしてカブトムシ(端末)で真守だけでも逃がす。……ただ問題は、)

 

そこで垣根は心の中で呟くのをやめて、大きく舌打ちをして真守の肩を強く抱きしめる。

 

(コイツが俺の言うことを聞くかだ……!)

 

朝槻真守は自分が死なないことを知っている。

死んだとしても、もう一度肉体を再構成して生き返ればいいだけだ。

この世にAIM拡散力場がある限り、力の供給源がある限り。

真守の存在がこの世から消滅することは在り得ない。

 

そのため朝槻真守は自らが果たさなければならない使命のためならば死ぬことすら躊躇(ためら)わない。

 

替えがある命ならば、真守は迷いなく消費するだろう。

だが命の替えがあるからと言って、真守が死を経験するのに変わりない。

この胸の内にいる少女が苦しみをものともしない姿なんて見たくない。

 

「なんだ、『ブリテン・ザ・ハロウィン』で少しは学習したと思っていたのだがな」

 

垣根が心中で焦る中、フィアンマの声が響いた。

突如、近くから声が聞こえてきて垣根はハッと息を呑んだ。

 

目の前に、それはいた。

 

赤を基調とした服装の男だった。

大して鍛えているように見えない体つきだが、不自然なまでの威圧感を与えてくる印象の人間。

 

それが右方のフィアンマだった。

 

フィアンマは余裕の表情で自らの右手を上条へと照準を合わせ、その右腕の付け根にある肩甲骨の辺りからオレンジ色の光を(ほとばし)らせる。

 

そこに割り込んだのはエリザリーナだった。

 

彼女の体は銀色に淡く輝いており、その両手の平をフィアンマに向けている。

そしてエリザリーナは高速で術式を組み上げる。

フィアンマはこれを物ともせず、攻撃を繰り出した。

 

途端に鋭い爆発が起こり、垣根はその爆発を未元物質(ダークマター)の翼で防ぎ、自分の翼の中に共にいる真守の無事を確認した。

 

真守は無表情でフィアンマがいる方を睨みつけていた。

 

どうやら未元物質(ダークマター)の翼越しでも絶対能力者(レベル6)の真守には感覚でフィアンマの位置が察せるらしい。

 

「なるほど。気軽に破るには少々硬い壁だったらしい」

 

フィアンマが土煙の中、意外そうに呟く。

 

そして土煙が晴れると、右方のフィアンマの天使としての術式が(あら)わになった。

 

巨大な右腕だ。

骨と皮でできたようなこげ茶色の異様な出で立ち。

そしてその枯れ枝のような五指の爪は鋭く伸びており、指は柔らかく広げられていた。

 

そんな禍々しい右腕は、フィアンマの背中、肩甲骨あたりから伸びていた。

 

垣根が翼の間から警戒しながらその右腕をできないなりにも解析しようとしていると、そこでフィアンマは一つ頷く。

 

「確かに硬い壁だが、叩き壊せんほどではないな。……あまり俺様を舐めるなよ?」

 

フィアンマが構えているエリザリーナに攻撃しようとする。

すると、エリザリーナに付き従っていた大男二人が即座に飛び出した。

 

「ベラッギ!! ロンギエ!! 下がりなさい!!」

 

エリザリーナが自身の部下を下がらせようとする中、右方のフィアンマは嗤う。

そしてフィアンマが第三の腕を振るうと、大男二人は真横に吹き飛ばされた。

確実に大男の一人は第三の腕の範囲外にいたのに、あの右手には間合いなど関係ないらしい。

 

屈強な大男を一撃で(ほふ)ったフィアンマを見て、上条当麻が叫ぶ。

 

「フィアンマ!!」

 

「お前はメインデュッシュだ。食べる前には下ごしらえをしなくてはな」

 

右方のフィアンマは笑って答え、そこで垣根の未元物質(ダークマター)の翼に隠されている真守に視線を移した。

 

「お前が『光を掲げる者(ルシフェル)』の役割を与えられた学園都市製の神か。俺様たち『神の右席』とは違うアプローチで生まれた神人。さて、お前は神上に至ることができるのかな?」

 

余裕の笑みを浮かべるフィアンマに対して真守の表情は硬かった。

真守は、『この男は自分の唯一の弱点を突くことができる人間だ』と自分の劣勢を感じていた。

右方のフィアンマは、『自分はこの神人を唯一斬り伏せることができる人間だ』と笑っていた。

 

そんな両者の思考が重なった瞬間、垣根が先制攻撃に出た。

 

未元物質(ダークマター)の翼に人体を塵にする役割を付与した状態で、垣根は躊躇(ためら)いなくフィアンマに叩きこむ。

 

その攻撃に対して、フィアンマは即座に第三の右腕を振り、垣根と垣根が庇っていた真守ごと吹き飛ばした。

 

真守と垣根はかろうじて残っていた壁まで弾き飛ばされ、ドゴッ! っと鋭い破壊音が響き渡り、土煙と瓦礫の向こうで沈黙した。

 

吹き飛ばされた二人を見ていたフィアンマに向かって、レッサーは『鋼の手袋』と呼ばれる四本指のような刃を構えた霊装をい勢いよく振り下ろす。

 

「邪魔だ」

 

フィアンマが一言告げると、レッサーの体が砲弾のように吹き飛ばされた。

そんなレッサーをベラッギが両腕を伸ばして受け止めた。

エリザリーナはレッサーが作った隙を逃すことなく、五本の指を複雑に動かす。

するとその指先に淡い光が不規則に揺れた。

 

「この俺様に向けて、『右腕』で術式を組むつもりか?」

 

フィアンマはそう問いかけながら、右腕から閃光を(ほとばし)らせ、エリザリーナに攻撃を加える。

 

そんなエリザリーナを狙った右方のフィアンマの攻撃を、上条の右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)が受け止めた。

 

フィアンマの攻撃は打ち消されず、上条の右手から逃れるように四方へと散る。

 

そして四方に散ったその力はその場にいた人間を攻撃した。

 

フィアンマの攻撃で吹き飛ばされた垣根は真守を強く抱きしめ、未元物質(ダークマター)の翼で体を(おお)ってそれから身を守る。

 

翼から掻き毟られるような衝撃が伝わってくるが、それでも未元物質(ダークマター)の翼で、真守と自分の身を守ることができた。

 

垣根と真守以外の人々もなんとか上条の右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって散った攻撃から身を守るが、その余波の多くは斜め上に吹き飛び、広場に面した石造りの建物の屋根を削り取っていく。

 

上条は幻想殺し(イマジンブレイカー)を構えたまま、フィアンマに不敵に声を掛けた。

 

「俺とやろうぜ。戦う理由は分かってるだろ」

 

「なんだ。お前はメインデュッシュだと言ったはずだがな。先にくれるのか?」

 

フィアンマが右腕を伸ばすと、上条のわき腹に向けてレッサーが『鋼の手袋』を直撃させて突き飛ばした。

上条がそれまでいたところにはフィアンマの右腕がギロチンのように落ちる。

すると右方のフィアンマの攻撃によって床が溶け落ちた。

レッサーが庇わなければ上条は確実に命を落としていた。

間一髪の上条に、右方のフィアンマは余裕たっぷりでゆっくりと告げる。

 

「知っているか? 現代の魔術師ってのは基本的に集団行動を嫌う。『黄金』や大体の魔術結社も思想が合わずに瓦解してたりするからな。だからこそ、個人の理想を(かか)げた魔法名が重要視され、『神の右席』という秘密組織が誕生したわけだ」

 

「何が言いたいんだ!」

 

上条が叫ぶと、フィアンマは笑みを濃くする。

 

「つまり、だ。目の前で罪なき民間人が数千人の規模で殺されそうになっているのを見殺しにできる魔術師は現代にいないということだよ」

 

右方のフィアンマが告げた瞬間、その人物が駆け抜けた。

 

黒いベルトで体を締め付ける紅い拘束衣に、外套を着こんだ少女。

サーシャ=クロイツェフ。

 

サーシャはフィアンマに向かってのこぎりとバールを振り下ろすが、右方のフィアンマが指で何かを弾いただけでサーシャは吹き飛ばされた。

 

「今日はラッキーデイだな。もう少し骨が折れるかと思ったんだが、まさかこんな簡単に目的のものが二つとも手に入るとはな」

 

 

弾き飛ばされたサーシャを見つめながらフィアンマが嬉しそうに呟いた途端、光が爆発した。

 

 

空間が泡立つ感触にその場にいた人間全員が怖気だった。

 

どこからともなくぶれた音が響き渡る。

 

それが声だと気づいたのは、その人物が自分を守ろうとした存在から離れて純白と漆黒の光の奔流を吐き出した瞬間だった。

 

 

その人物、朝槻真守は真の姿を右方のフィアンマに見せた。

 

 

蒼みがかかった星の煌めきを内包するプラチナブロンドの自身の身長よりも長い髪。

その頭上には蒼閃光(そうせんこう)で形作られた六芒星の幾何学模様の転輪が載せられていた。

 

背中からは五対一〇枚の翼が生えており、右側の五枚は上から一番目、三番目、五番目が漆黒の翼であり、それ以外が純白だ。

そして左側の翼はそれと配色が逆になるように生えている。

 

純白と漆黒の翼を互い違いに生やしているのは、真守が真の姿を現す前と変わらない。

 

だが蒼みがかったプラチナブロンドの髪の毛の間から翼が一対生えていた。

右側頭部から生えているのが純白の翼、左側頭部から生えているのが漆黒の翼。

全部で六対一二枚の、『光を掲げる者(ルシフェル)』と同じ枚数の翼。

 

そして背中から生えている五対一〇枚の翼の後ろからは、空間を(おか)すように後光が展開されている。

 

蝶の翅の翅脈(しみゃく)のように広げられた蒼閃光(そうせんこう)で形作られた後光。

その蝶の翅の翅脈(しみゃく)のような線は一つ一つが、実は小さな歯車の連結によって成り立っている。

それらは連動するように全て動いており、数万もの歯車が動くことによって辺りにまるで荘厳な曲を轟かせていた。

 

宇宙を閉じ込めたかのような輝きを帯びてつるりとしている肢体(したい)には何十本もの虹色に光るラインが走っている。

そんな体にはパール塗装が(ほどこ)されているような、表面がキラキラと虹色に光る豪奢な純白のドレスが身に着けられていた。

 

だがその豪奢な純白のドレスは、全てを吸い込みそうな禍々しい漆黒の拘束ベルトがめちゃくちゃに巻き付けられている。

そして真っ白な顔のその両目にも、同じ素材でできた拘束バンドがクロスするように巻かれていた。

 

「ほう。それが本来の姿か」

 

垣根も含めてその場にいた人間全員が覚醒した真守を呆然と見つめる中、右方のフィアンマだけは真守の姿を見て感心していた。

 

光を掲げる者(ルシフェル)』の役割を与えられた学園都市製の神。神人、朝槻真守。

 

対して『神の如き者(ミカエル)』の力を持つ、『神の右席』の一人、右方のフィアンマ。

 

世界を引き裂かんほどの力を持つその両者は、そこで真の姿を見せて対立した。

 

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