とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五話、投稿します。
次は八月二〇日金曜日です。


第一五話:〈犯人補足〉と罪の痕

真守は垣根と共に自分が入院している病院へと数日ぶりに帰ってきて、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の私的な研究室に呼ばれ、彼が来るのを待っていた。

 

垣根は天才外科医の研究室が珍しいのか物に触らない程度に物色をしていて、真守は勝手知ったる場所なので特に何もせずに待っていた。

扉が開けられて冥土帰しが入ってきたと振り返ると、そこには白井黒子と御坂美琴が立っていた。

 

「御坂、白井」

 

「お二人共、どうしてこちらへ?」

 

「その医者はこいつの主治医だ」

 

垣根が簡潔に述べると、美琴が冥土帰しを見て納得するように頷いた。

冥土帰しは四人を集めて一台のPCの前に座り、四人はその後ろに立ってモニターに表示されたデータを見る態勢に入る。

 

そのデータとは特定の人間の脳波パターンだった。

冥土帰しは次々とデータを羅列していく。

そのデータは寸分違わずすべて同じ脳波パターンだった。

 

「これ本当に全部違う人間なのか?」

 

真守が問いかけると冥土帰しが一つ頷いて説明を始めた。

 

「脳波は個人で違うのは知っているね? だから同じ波形になる事はありえない。ところが、このように幻想御手(レベルアッパー)被害者は共通の脳波パターンになっている」

 

「幻想御手の音楽ファイルを聞いたことで脳波が統一されてしまった……?」

 

「そうだね? そして他人の脳波パターンで無理やり脳を動かされている状態だとしたら、人体に多大な影響が出るだろうね?」

 

「幻想御手に無理やり脳を動かされてるから、植物状態になったってこと?」

 

「誰が何のつもりで?」

 

美琴と白井の問いかけに冥土帰しは振り返りながら告げた。

 

「僕は職業柄、いろいろと新しいセキュリティを構築していてね? その中の一つに人間の脳波をキーにするロックがあるんだね? それに登録されているある人物の脳波が、植物患者のものと同じなんだね?」

 

冥土帰しが情報を引っ張り出してモニターに表示させる。

そこには大脳生理学者木山春生(はるみ)のプロフィールが表示されていた。

 

「木山春生!?」

 

白井が声を上げる前で、冥土帰しは振り返って真守を見た。

 

「ねえ、真守くん? 膨大な『知識』を有するキミに一つ訊ねたいことがあるんだね?」

 

「……何?」

 

冥土帰しが『解析研』で得た『知識』をアテにしての質問するので、真守は怪訝な表情をしながらも冥土帰しの質問を待った。

 

「同一の脳波を持つ人たちの脳波の波形パターンを電気信号に変換したら、その人たちの脳と脳を繋ぐネットワークのようなものを構築できるかな?」

 

「可能だが媒体を用意しないとな」

 

「媒体とは?」

 

即座に告げた真守の答えに、白井が首を傾げて真守に問いかける。

真守はつらつらと説明し始めた。

 

「PCとPCだって間に通信媒体として電気を使っているだろう? だからネットワークを構築するためには、当然として通信するための媒体が必要だ」

 

真守はそこで言葉を切って、神妙に告げる。

 

「もし脳波を同一にさせただけで意思疎通ができるならば、同一の遺伝子を持っている一卵性双生児はその時点で精神感応(テレパス)ができてしまう。でもそうじゃない。だから脳波を同一にして、かつ媒体を用いないとネットワークが構築できないということは明白だ」

 

「じゃあどうして木山春生の脳波に統一されているのかしら……」

 

美琴の疑問を浮かべる隣で、真守はふと、冥土帰しがモニターに表示していた木山春生のプロフィールが目に入った。

 

木山春生。AIM拡散力場専攻。誕生日:八月──。

 

「木山春生の専攻はAIM拡散力場だ」

 

真守がプロフィールの一文を読み取って呟く。垣根はその呟きにすぐさま反応した。

 

「そうか。能力者ならば誰でも保有しているAIM拡散力場を通信媒体に使って、ネットワークを構築できる」

 

「木山春生の論文は脳波、それも調律に関するものばかりだった。脳波を同一にしてAIM拡散力場を媒体としてネットワークを形成する理論を、木山は構築できるはずだ」

 

真守が木山春生がクロかもしれない、と判断すると、白井が息を呑んだ。

 

「……初春。初春が木山春生のところに行ってますの!」

 

黒子は即座に携帯電話を取り出して通話を始めた。

 

「──初春! ……繋がらないですの! お姉様! わたくし一度、支部に戻ります!」

 

白井と美琴は慌てて冥土帰しの研究室を後にする。

 

「先生、PC貸して」

 

真守が鋭い声で冥土帰しに願い出ると、冥土帰しは溜息を吐きながらも場所を退いた。垣根はそんな真守を見て首を傾げた。

 

「何するんだ?」

 

「木山春生の居場所を探す」

 

「……木山なら捕まるだろ。これだけ大騒ぎになってたら人質取ろうがもう終わりだ。学園都市からは誰だって逃げられないからな」

 

学園都市は外部に逃げる人間を許さない。

研究データを持ち逃げされたらたまらないからだ。

この学園都市に所属した時点で、外に逃げる事は困難を極める。

暗部組織に所属して、学園都市から脱走する人間が処分される部隊の存在を知っている垣根は、その事実を良く知っていた。

 

「それでも黙って見ているわけにはいかない」

 

真守は能力を解放して蒼閃光(そうせんこう)でできた猫耳と尻尾を出しながら焦った表情でハッキングを始める。

モニターに触れた真守の手からパリパリッと電気エネルギーが(ほとばし)ったかと思うと、素早い速度で情報が羅列されていく。

学園都市内の監視カメラにハッキングを仕掛けて、木山春生を片っ端から探しているのだ。

 

「……コケにされたからか?」

 

「違う、そんなことはどうでもいい。木山春生がネットワーク構築に使ったのはAIM拡散力場だ。アレを好き勝手されて黙ってるわけにはいかない! それに何でこんなことやったか聞き出さないと気が済まない!」

 

「だからなんで?」

 

「垣根、くん。だったかな? ちょっといいかい?」

 

垣根が切羽詰まっている真守に問いかけると、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が垣根を呼んだ。

 

それに反応した真守は、振り返って冥土帰しを見た。

 

「ボクが話すよ。時間が惜しいんだろう?」

 

冥土帰しが気の利いた言葉を告げたので、真守は目を見開いた後に真剣な表情になって頷いた。

真剣な表情ながらも真守の瞳には悲しみが浮かんでいたと、垣根は感じた。

 

冥土帰しはそんな真守に一つ微笑んでから、垣根を研究室の外に呼び寄せた。

 

「真守くんが超能力者(レベル5)に値する事は知ってるんだね?」

 

「あいつが狙われてんの知ってるから当然だろ」

 

「じゃあ、彼女が研究所から脱走した事も?」

 

「何が言いてえ」

 

何度も確認してくる冥土帰しの態度に苛立ちを見せていると、冥土帰しは再び訊ねた。

 

「真守くんが僕のところに連れてきた源白(みなしろ)深城(みしろ)くんのことも勿論知っているんだね?」

 

「……源白深城の話か?」

 

「そうなるね?」

 

源白(みなしろ)深城(みしろ)

真守がこの世の中で何よりも大事にしている、現在昏睡状態の少女。

この場面で何故、源白深城なのか。その問いに冥土帰しは答えた。

 

「深城くんはね、力量装甲(ストレンジアーマー)という能力者だ。でも倉庫(バンク)にある力量装甲とは字面が同じだけで明確に違う能力なんだね? 上層部がわざと書き換えたと言ってもいいかもね?」

 

「本来の力量装甲(ストレンジアーマー)の能力は?」

 

垣根はまた上層部が絡んでいるのか、と内心苛立ちを覚えながらも訊ねる。

冥土帰しは深城の能力を簡潔に説明した。

 

「AIM拡散力場を圧縮し、装甲にして自身の体に(まと)わせるんだ。深城くんはAIM拡散力場に干渉する、非常に珍しい能力者だったんだよ?」

 

「……だから真守と同じ研究所にいたのか」

 

『特異能力解析研究所』はエネルギーに関する珍しい能力者の解析を行う研究所だった。

AIM拡散力場という、計測機器でしか測れない微弱なエネルギーに干渉できる能力ならば、所属させられてもおかしくはなかった。

 

垣根が深城が研究所に所属させられた理由を知ると、冥土帰しは衝撃的な一言を吐いた。

 

「深城くんは、一度死んだんだね?」

 

「……は?」

 

冥土帰しの言葉の意味が理解できずに垣根は眉を顰めた。

冥土帰しはそんな反応をされると分かっていたので、淡々と話をする。

 

源白深城に起こった不幸中の幸いと呼べるか分からない結果と、朝槻真守が引き起こした罪のような(あと)について。

 

「深城くんは確実に死んだ。死んだところを無理やり真守くんがこの世に引き戻したんだ。その結果、『存在の希釈』とでも言うべきかな。確率的にあり得ない程の条件が揃って、深城くんの意識はAIM拡散力場を自身の体と認識しているんだね?」

 

あり得なさすぎる話に垣根は一瞬思考が停まった。

 

AIM拡散力場に干渉出来る能力をたまたま持っていた源白深城。

彼女は死んでしまった事により、自分の体と外の境界線が()()()()()()()()()()()()

そして自分の体と外の境界線が曖昧になったまま、真守が源白深城を蘇生した。

その時にAIM拡散力場に干渉出来る能力が偶然にも作用してしまい、AIM拡散力場自体も自分の体だと認識してしまった。──らしい。

 

そういうことを、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は言っているのだ。

 

「どういうこと、だ。じゃあこの学園都市に蔓延しているAIM拡散力場全部が、源白深城の体とでも言いたいのか?」

 

「その解釈で合っているよ? だから彼女の意識は、AIM拡散力場があるところには必ず存在している。深城くんを蘇生させたのも、深城くんを今生かしているのも、真守くんの力だ。だから二人の間には特殊なパスが形成されて、真守くんには深城くんが見えている。今もきっと、真守くんの近くにはA()I()M()()()()ともいうべき存在となった深城くんが、寄り添っているだろうね?」

 

「……源白深城の体を形成しているAIM拡散力場を木山春生がおもちゃにしてるから、真守は自分の手でどうにかしようとしてんだな?」

 

冥土帰しがそれを肯定するように深く頷いたところで、研究室の扉が開かれた。

真守がハッキングを終えて木山春生の居場所を特定したらしい。

 

「話は聞いた」

 

真守が現れたので垣根は即座に話しかけた。

 

「お願い、垣根。車出して。後は自分でなんとかする」

 

真守は哀しそうな顔をしながら垣根に懇願した。

 

真守にとって源白深城はこの世で何よりも大切な存在だ。

どんな事情があったかは分からない。それでも、真守は源白深城を人の領域から遠ざけてしまったことに負い目を感じているのだ。

垣根は真守の表情から、その想いを読み取ることができた。

 

「……助けてやるって言った。だから、最後まで面倒見てやる」

 

「ありがとう」

 

垣根が決意を新たにすると、真守は心底安堵した表情をして、ふにゃっと微笑んだ。

 

そして二人は、木山春生を追うために行動を開始した。

 




冥土帰しが言う『存在の希釈』とは、新約で垣根くんが白くなって無限増殖した時の状態と同じようなものです。
身体を修復した垣根くんと死んだのに無理やり蘇生させられた深城は、経緯は違えど自分の体と能力の区別が曖昧になってしまった。
垣根くんの場合は未元物質に命や精神が希釈される事により、未元物質と自分自身の区別がつかなくなった。
深城の場合は能力が能力だったので、AIM拡散力場全体に命や精神が希釈される事により、AIM拡散力場と自分の体の区別がつかなくなった。
二人は能力の違いによって別の道を歩みましたが、一連の流れは同じです。

アドリブ好きのあの人間のことですからほくそ笑んだんじゃないでしょうか。



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