とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五〇話、投稿します。
次は一月二四日月曜日です。


第一五〇話:〈先駆少年〉は奮い立たせる

エリザリーナ独立国同盟が用意したロシア製の軍用車に乗って垣根、上条、レッサーはフィアンマの基地へと向かっていた。

 

垣根はその車内の座席一列分に足を上げて横たわり、未元物質(ダークマター)で造り上げられた全身真っ白な服の上からロシア兵から貰った厚手の毛布をすっぽり被って体を休めていた。

 

フィアンマからの攻撃によって使い物にならなくなった体を、未元物質(ダークマター)で無理やり使えるようにしたのだ。

体力を消耗しており、休む必要がある。

そのため垣根は黙って静かにしていた。

 

垣根は一見冷静に見えるが、内心は(すさ)んでいた。

自分が何よりも大切にしたい少女を連れていかれてしまったのだから当然だ。

それでも思考は冷え切り、いつもより鋭くなっていた。

 

絶対に真守を取り戻し、真守の欲しかったものを手に入れるという強く鋭い意志で、垣根は動いていた。

 

「あなたはその想いを隠しながら必死に前へと進み続けてきた。その結果として幾人かの人生を救い、イギリスのクーデター阻止ですら含まれている。率直に言って、胸を張れる人生だと思いますよ」

 

垣根は窓に体を預けて座席に足を投げ出して目を閉じていたが、向かいの席に座っていた上条当麻を慰めるレッサーの声が聞こえてきたので薄く目を開いた。

 

どうやら上条当麻は記憶を失っているらしく、それを周りに隠していたようだった。

あの察しが良い真守は絶対に上条の記憶喪失を知っているに決まっている。

真守は誰かの力になることを躊躇(ためら)わない。

そのため上条が気にしているのでそれとなく真守はずっとフォローしていたのだろう。

 

垣根が真守の何もかもを知っているわけではないと歯噛みしていると、レッサーの隣に座っていた上条が悲痛な声を上げた。

 

「それでもさ。それでも、今まで俺が取ってきた行動がインデックスのためになっていたかどうかは、俺には決められないんじゃないかな」

 

「何ウジウジしてんだよ」

 

垣根が上条の気弱な言葉に思わず上条を睨みつけた。

上条がびっくりして自分を見つめてくるので、垣根は吐き捨てるように告げた。

 

「そのシスターは今も昏睡状態で苦しんでんだろ。大事な女が苦しんでるのにテメエは自分が間違った行いをしたかもしれねえって立ち止まるのかよ。ウジウジ悩むより、大事なことがあるだろうが。フィアンマのクソ野郎をぶちのめすっていう大事なことがよォ!!」

 

「!!」

 

垣根が苛立ちを込めて叫ぶと、上条は目を見開いた。

 

「……そのシスターを助けるのが先だろうが。助ける過程で知られちまったら助けてから誠心誠意謝れよ! ()()()()()()()()()()()()()()! 当然だろ、そんなこと!!」

 

垣根帝督だって朝槻真守を助けるとあの廃ビルで初めて告げた時、真守に隠し事をたくさんしていた。

だがそれでも、助ける方が先だった。

騙して済まなかったとか、利用しようとして近づいたとか、謝るのは二の次だった。

 

経験を(もと)にして上条に怒り向けた垣根は親指を外へビッと向けた。

 

「自分の行動(かえり)みて悩んでるヤツと一緒に行くなんて俺はまっぴらだ! メソメソしていちいち立ち止まって俺の邪魔するならここで降りろ!!」

 

垣根が怒号を上げると、上条は(うつむ)いて歯をグッと噛み締める。

垣根は真守を目の前で奪われている。切羽詰まっているのは当然だ。

 

「……悪い」

 

あからさまに気落ちする上条を見つめて、垣根は怒りを抑えるために息を吐く。

怒っても仕方ないのだ。それに上条が悩む気持ちを垣根は少し理解できる。

だから上条をフォローするために垣根は口を開いた。

 

「お前はそのシスターに対して思いやりを持って行動してきたのか?」

 

「え?」

 

上条が垣根の問いかけの意味が分からずに首をひねるので垣根は一つ舌打ちをする。

 

「ったく、理解が悪ぃな。テメエはそのシスターに自分がしてやりたいと思ったことを、ちゃんとしてやったのかって聞いてんだよ」

 

垣根の言葉に上条は目を見開いて、そして拳を握り締める。

上条当麻は思い出す。

今の自分になって初めてインデックスと会った時の気持ちを。

あの時、インデックスに対して自分が取るべき行動をとっさに取ったことを。

インデックスが泣かなくていいように、記憶があるフリをしようと決意した時のことを。

 

「俺は……俺はインデックスだけには泣いてほしくないなって思ったんだ。真っ白な俺でも、確かにそう思えたんだ。だから、俺はちゃんとインデックスにしてやりたいと思ったことをしてきた。それは胸を張って言える」

 

「だったらいいじゃねえか」

 

垣根は上条の言葉を聞いて吐き捨てるように告げ、自嘲するように一つ笑った。

 

「真守は俺のことなんて必要としてねえ。でも俺はアイツを一人にしたくないからそばにいるんだ。アイツがウザがっても、俺のこと本気で殺しに来ても、俺はなんとしてでも生きて、一生アイツのそばにいるって決めてる」

 

垣根は毛布の下で未元物質(ダークマター)で造り上げた右手で拳を握る。

力加減ができずにミシミシと音を立てるが、それでも垣根は力を込めて告げる。

 

「お前の大事な女はお前にどうしてほしいか言ってくれるんだ。だからちゃんとそのシスターの言うこと聞いてやれ。聞いてやるためにはあのクソ野郎をぶっ倒す。それしかねえだろ」

 

「……ああ、そうだな」

 

上条は垣根の言葉を聞いて、頷いた。

 

「ウジウジしてる場合じゃない。今は目の前のことに集中しないとな!」

 

上条が気合を入れて決意を口にすると、二人の様子を見ていたレッサーは内心で口笛を吹き、感心する。

 

(結構な荒療治でしたがこの人を立ち直らせるなんてやりますね。……朝槻真守はマクレーン家直系。彼女のことを大事に想っているこの方、イギリスの利益になるかもしれません。ああ、でも朝槻真守にゾッコンっぽいですし、どうにかしてこう、イギリスの味方に……)

 

感心してはいたが、結局最後はイギリスのためになるようにと画策するレッサーであった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

一方通行(アクセラレータ)は、もう限界だった。

 

突然現れた化け物、エイワスに『打ち止め(ラストオーダー)を救いたければエリザリーナ独立国同盟を目指せ』と唐突に言われた。

そしてエイワスが出現したことで、今にも死んでしまいそうな打ち止め(ラストオーダー)を助けるために学園都市から逃亡した。

 

学園都市からの追手と戦いながら、一方通行(アクセラレータ)は謎の羊皮紙を手にした。

この羊皮紙に打ち止め(ラストオーダー)を救う科学以外の法則というものがあるとして行動していた一方通行(アクセラレータ)だが、そこに学園都市から新たな刺客がやってきた。

 

第三次製造計画(サードシーズン)として作られた御坂美琴の体細胞クローンである番外個体(ミサカワースト)

 

彼女はミサカネットワークから抽出された負の感情を(もと)に動く妹達(シスターズ)の一人だ。

妹達(シスターズ)を絶対に殺さないと誓った一方通行(アクセラレータ)は彼女に攻撃できない。

 

それでも番外個体(ミサカワースト)一方通行(アクセラレータ)を殺すために動き、憎悪を向けてどこまでも一方通行(アクセラレータ)を追い続ける。

 

一方通行(アクセラレータ)はそんな番外個体(ミサカワースト)に追い詰められてついにプツッと切れた。

 

勝っても負けても引き分けだろうが、それ以外の道を選ぼうが何をしたって自分の心が壊されるのは決まっていた。

 

それに気づいてしまい、一方通行(アクセラレータ)はついに壊れてしまった。

 

この世界に絶望した。腐ってしまって変えようのないこの世界に。

 

一方通行(アクセラレータ)が絶望した瞬間、自分の手で(なぶ)られ、自爆した番外個体(ミサカワースト)はまだ生きていた。

 

彼女を見た一方通行(アクセラレータ)の中に新たな目的が生まれた。

 

この救いようのない世界を壊して、悠長に笑っている人間を殺して回ろうと。

自分が誰かを守れるなんて欠片も思っていない彼らに、自分は誰かを守ることができると証明しようと。

ヤツらの思惑なんかに(はま)ってたまるか、という反抗的な目的が一方通行(アクセラレータ)の中に生まれ、一方通行(アクセラレータ)番外個体(ミサカワースト)を抱え上げ、救いに動く。

 

圧倒的な怒り。

それが人間を人間として動かすために必要な原動力として彼の体に満ちていく。

 

一方通行(アクセラレータ)の中にあった温かいものが粉々に砕かれて、彼は怪物としての産声を上げた。

 

 

その時、視界の端に何かが映った。

 

 

学園都市製のものではない、何の変哲もない外の技術が使われたロシア製の車による車列だ。

 

その車列の中の一つの車。それを見たことによって一方通行(アクセラレータ)の心が揺れ動いた。

 

学園都市の操車場。そこで自分を倒した無能力者(レベル0)の横顔がそこにあった。

 

絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』を凍結させて、一万人弱の妹達(シスターズ)の命を自分にとって月のような存在である朝槻真守と共に救った正義の味方(ヒーロー)

 

そんな男の向かいには、決意を宿した瞳を持った超能力者(レベル5)が毛布にくるまり、車のシートに足を投げ出して窓に背中を預けていた。

 

たった一人のために学園都市を敵に回して、そして彼女を取り戻した悪で正義を為す半英雄(アンチヒーロー)

 

どんなに絶望的な状況でどんな危険にさらされても、絶対に救うべき人間を救うために動く、そんな人間たちが。

学園都市にいるはずの人間が。

ただの悪党である一方通行(アクセラレータ)が恋焦がれるヒーローが。

何故ロシアにいるのだろうか。

 

そして何故、すぐ近くで苦しみ悶えて命を失いそうになっている打ち止め(ラストオーダー)を助けずに、ただただ通り過ぎようとしているのか。

 

一方通行(アクセラレータ)は絶叫を(ほとばし)らせた。

 

そして雪まみれの岩を掴み取り、近くを走っていた大型車の後部に思い切りブチ当てて破壊、そして炎上させた。

 

はっきり言って一方通行(アクセラレータ)の行動はただの八つ当たりだ。

本人もそれを分かっていた。

だが、止められなかった。

 

妹達(シスターズ)を救ったヒーローなンだろォが……」

 

一方通行(アクセラレータ)の口から恨みの声が(こぼ)れる。

 

「アイツを悪行を為して救った、俺が求めてるヒーローなンだろォが……」

 

一方通行(アクセラレータ)は憧れていた。

罪を償いながらも懸命に生き続ける朝槻真守に。あの絶対能力者(レベル6)に。

そんな少女と共に正義の味方として突き進むあの無能力者(レベル0)に。

そして学園都市にケンカを売ってあの少女を取り戻した超能力者(レベル5)に、一方通行(アクセラレータ)は憧れていた。

 

だからこそ、自分の怒りが八つ当たりだとしても、何があっても許せなかった。

 

「だったら、あのガキの命だって救ってやれよ!! なんであのガキだけが、何も悪い事なンかしてねェのに、こンなに苦しめられなくちゃらねェンだよォォォおおおおおおおおおッッッ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)の咆哮と共に、一方通行(アクセラレータ)の背中から生えた黒い翼が凶悪に羽ばたき、辺りに広がっていく。

 

善意の象徴である打ち止め(ラストオーダー)の笑顔があっても抑えられないほどに、一方通行(アクセラレータ)は怒りを持って八つ当たりをしていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

垣根と上条は突然振り払われた後部車両を確認して、攻撃が飛んできた方向を見て目を見開いた。

 

黒い竜巻のような翼が二本、濃黒の雲空へと突き抜けている。

 

あの黒い翼。

 

垣根は一目見た瞬間、それを誰が暴走させているのか即座に悟った。

上条は吹雪で誰があの翼を広げているのか分からず、懸命に目を凝らす。

そんな上条の隣で、垣根帝督は拳を握る。

 

「何やってんだよ、あの野郎……」

 

やっと力加減が分かってきた拳を握って垣根は呟く。

 

「テメエは俺の上に立ってんだろ……真守に生き写しだって思われてんだろ……だから悪に落ちても這い上がれるって、真守に信じられてんだろ……っ」

 

そこで垣根は怒気によって空間を持ち前の鑑賞力によってヂヂヂィッと震わせた。

怒れる超能力者(レベル5)の干渉力にレッサーが本気で顔を青ざめている中、垣根は怒号を上げる。

 

「それなのに、何勝手に一人で絶望してんだコラ!!」

 

垣根は自分がくるまっていた毛布を無造作に()ぐと、車の扉を開けて外に出た。

慌てて上条もその後に続き、レッサーは恐怖で一度体を硬直させたが、それでも降りた。

 

垣根は一方通行(アクセラレータ)へと迷いなく進んでいく。

 

一方通行(アクセラレータ)の肩からは黒い翼が出ている。

 

アレは完全にこの世の法則では成り立たないものだ。

アレはここではないどこかの世界から一方通行(アクセラレータ)が引き出しているものだ。

一方通行(アクセラレータ)が司る力は、向きを操る垣根と対極にある有機的なモノだ。

神にも等しい力の片鱗を振るう者。

 

魔術的な言葉を借りれば『天使の力(テレズマ)』というのだろう。

それを一方通行(アクセラレータ)はあちら側の世界から引き出しており、一方通行(アクセラレータ)はあちら側と繋がっている状態だ。

 

あちら側とは、朝槻真守が神として統べている世界のことだ。

 

自分や一方通行(アクセラレータ)、そして真守はその世界へと繋がることができる存在で、その力の一端をこの世界に呼び込むことができる。

一方通行(アクセラレータ)や垣根も、()()()()()()()()()()()その世界を統べることできた。

だが既に、ここではないどこかの世界は真守の領域である。

 

真守がこの場にいれば、一方通行(アクセラレータ)へと流れ込む力を()き止めることができるのだろうが、真守はあいにくここにはいない。

 

ここで止められるのは自分だけだ。

 

だからこそ、垣根帝督もあちら側に繋がる準備に入った。

 

だが垣根帝督の体が天使の肉体に近づいていようとも、単体であちら側に繋がることは不可能だ。

 

一方通行(アクセラレータ)はミサカネットワークに繋がれることによって、AIM拡散力場を媒介にしてあちら側に繋がっている。

人間であった時の真守も自身のエネルギーを使ってAIM拡散力場と繋がり、それを緩衝材として使っていた。

そのため資格があろうと、人間が単体であちら側に繋がることはできない。

 

だが垣根帝督も、朝槻真守と一方通行(アクセラレータ)とも違う方法でAIM拡散力場という緩衝材を有していた。

 

自らのAIM拡散力場の一部を植え付け、未元物質(ダークマター)によって作り上げた人造生命体であるカブトムシのネットワーク。

それとAIM拡散力場を共有している垣根帝督は、自分が操れるAIM拡散力場の塊と一方的に繋がっている。

 

それが垣根帝督にとって、あちら側と繋がる鍵だった。

 

ロシアに連れてきたカブトムシはフィアンマに壊された。

そして現在、垣根は遠征に出していて残っていた数体のカブトムシを全て複製するための役割を与えている最中なので、使うことはできない。

 

だが遠い学園都市には、数万体のカブトムシがいる。

 

ネットワークに距離は関係ない。ミサカネットワークを使っている一方通行(アクセラレータ)だってそばにいつも妹達(シスターズ)全員を(はべ)らせているわけではない。

 

だからこそ、垣根帝督は自前のAIM拡散力場を媒介にしてあちら側へと繋がった。

 

その瞬間、垣根帝督の頭に鈍い痛みが走った。

 

右脳と左脳が真っ二つに引き裂かれる感覚。

頭の中からあふれてきたそれを、垣根帝督は力づくで支配した。

 

神さまのような公平な存在である真守を取り戻したくて。

神さまのように全てを許してくれる真守のそばにいたくて。

 

そして。

 

誰よりも大切な女の子である真守のことだけを想う純粋な気持ちを持って、それを支配した。

 

その瞬間。

 

 

垣根帝督の頭に天使の輪が浮かび上がった。

 

 

純白の輝きを放つ、一つの丸い輪。

 

その天使の輪と共に、未元物質(ダークマター)の翼が機械的な鋭利さを帯びて、四方八方を(おお)い尽くさんばかりに広げられた。

 

そして一方通行(アクセラレータ)の黒い翼を攻撃して、その強大な力によって一方通行の黒い翼と拮抗した。

 

「あァ……?」

 

そこで一方通行(アクセラレータ)は垣根に気が付いて声を上げた。

そして垣根帝督が自分と同じステージに立って敵対していることを認識すると、一方通行(アクセラレータ)は獰猛に嗤った。

 

「いいぜ。やってやるよォ!! ニヒルなヒーロー様をここで倒せば世界はもォ終わってるってことだろォがよォ!!」

 

垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)のその言葉だけで全てを悟った。

 

一方通行(アクセラレータ)は自分に降りかかるものだけではなく、この世界にすら絶望している。

 

朝槻真守が自分を犠牲にしても守ろうとした、この汚くも尊く、美しい世界を。

真守が愛する、善も悪も祈りも悪意も全てが内包された世界を。

 

一方通行(アクセラレータ)はその何もかもが内包された世界の悪という一部分が許せなかった。

だから、真守が愛するその世界を汚いものだと感じて、見放した。

 

「こんなヤツが……俺の上にずっと立ってたってことかよ」

 

垣根は完全にイカれてしまった一方通行(アクセラレータ)を見つめてギリ、と歯噛みする。

 

「こんなちっぽけな存在に、俺はずっと嫉妬してたってことかよ」

 

研究者たちが決めた自分の価値が気に食わなかった。

自分よりも一方通行(アクセラレータ)の方が優秀だとされて、永遠の二番手であると決められたのが気に食わなかった。

だが、あの真守が一方通行(アクセラレータ)を生き写しと言ったのだ。

だから一方通行(アクセラレータ)にも、何かしら真守のような尊い力があると垣根帝督は信じていた。

 

「ふざけんじゃねえ」

 

だが実際はこうだ。

一方通行(アクセラレータ)は絶望して全てを破壊しようとしている。

たった一度の絶望くらいで。

朝槻真守が懸命に守ってきた世界を破壊し尽くそうとしている。

 

「ふざけんじゃねえよ!!」

 

垣根帝督も朝槻真守が〇九三〇事件で絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)して自分から離れていってしまったことに絶望した。

だが『絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)してしまっても朝槻真守のそばにいる』というたった一つの約束を守るために、垣根帝督は戦った。

 

何度も何度も、朝槻真守のことを一人にしたくないと思った気持ちに従った。

 

まだ手の届くところに打ち止め(ラストオーダー)はいるのに。

たった一度の絶望くらいで。

道半ばで諦めるなんて、馬鹿げてる。

 

「何やってんだよ、一方通行(アクセラレータ)ァ!!」

 

そこで垣根は一方通行(アクセラレータ)へと黒い翼に自身の純白の翼をぶつけて弾きながら近づき、一方通行(アクセラレータ)へと右拳を振りかぶって殴った。

 

「真守が自分の存在を懸けて守ろうとした世界に、勝手に絶望してんじゃねえよ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)は突然肉弾戦をしてきた垣根の一撃によって頬を殴られてふらふらと後ずさる。

 

ガツン、と脳を揺さぶられた一方通行(アクセラレータ)だったが、キッと垣根を睨みつける。

そして一方通行(アクセラレータ)は垣根へと拳を叩きこむが、それを垣根は手のひらで楽々止めた。

 

そして再び反対の手で拳を引き絞ると、一方通行(アクセラレータ)の逆の頬を殴り、垣根は怒号を浴びせた。

 

「この世界は汚ねェよ!! 悲劇を見てそれで(えつ)(ひた)って笑ってやがるクソどもだっている! ……でも、アイツはそんな人間たちも守ろうとしてるじゃねえか!! だからいつだって戦ってきたんだ!!」

 

垣根はそこで一方通行(アクセラレータ)へと、純然たる事実を言い放った。

 

 

「だから一万人強殺したクソ野郎のテメエにだって、真守は手を差し伸べたんじゃねえのかよ!!」

 

 

「!!」

 

垣根は自分の言葉で動揺した一方通行(アクセラレータ)へと右拳を繰り出す。

未元物質(ダークマター)で造り上げた右拳だったが、一方通行(アクセラレータ)を殴ることで完璧に力の制御ができるようになった。

そのため拳だけで一方通行(アクセラレータ)の命を奪うことはなく、適度な威力を持って一方通行(アクセラレータ)のことを吹き飛ばして地面に叩きつけた。

 

そんな一方通行(アクセラレータ)を睥睨して垣根は叫ぶ。

 

「テメエは最終信号(ラストオーダー)を守りたいんだろ!? たった一回心折られたくらいで自暴自棄になんのかよ!! ふざけんじゃねえよ!!」

 

「………………俺みてェな」

 

一方通行(アクセラレータ)は垣根に吹き飛ばされてふらふらと立ち上がって垣根を睨み上げた。

 

「俺みてェなクソッたれな悪党が今まで立ち上がっていた方がおかしかったンだよ!! どォ考えても場違いだろォがよ!! ヒーローなンかなれるワケがねェだろ!! 何をどォしたって、俺は!! 血みどろの解決方法しか選べねェンだよ!!」

 

「テメエはいつまでそこにいやがるんだ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)が叫びながらふらふらと自分に向かって拳を振ってくるので、垣根はそれを楽々と受け止めながら叫ぶ。

 

「何が悪党だ、何が美学だ! そんなモンに酔いしれてる暇があったら大切な存在のそばにいろよ! 何があっても全力で守れるようにずっとそばにいろよ!」

 

垣根はそう叫び、一方通行(アクセラレータ)に初めて自分の思いをぶつけた。

 

 

「どうしても手放したくなかったのに零れ落ちた命だってあるんだ!! ()()()()()()()()、簡単に手放してんじゃねえよ!!」

 

 

「──、」

 

垣根は全てを悟って言葉を失った一方通行(アクセラレータ)へと右拳を振りかぶる。

 

「俺に見せてみろよ!! テメエが俺の上に立ってもいいって証拠をよォ!!!!」

 

そして垣根は全力で殴った。

 

これまで一方通行(アクセラレータ)が自分の上にいるのがコンプレックスだった。

 

どうあがいても自分の上にいる、目の上のたん瘤。

 

そんな一方通行(アクセラレータ)への嫉妬や執念、妄執を振り払うように垣根はその一撃を叩きつけて、そして一方通行(アクセラレータ)への全ての未練を全て断ち切った。

 

垣根帝督はそこで自由になった。

 

学園都市によって作られたしがらみを、垣根はやっとここで断ち切ることができた。

 








落ち着いたら垣根くんと一方通行、そして真守ちゃんとどこかの世界の関係性についての考察を活動報告に上げますね。


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