次は一月二九日日曜日です。
そこに逃げ込んできた浜面仕上と重病人である滝壺理后と会って色々あったが、
すると、エリザリーナ独立国同盟の主であるエリザリーナに羊皮紙を狙っている天使が来るから逃げろと言われた。
天使以外にも羊皮紙を求めたロシア兵がエリザリーナ独立国同盟へと流れ込む。
そのため
乗用車はあっという間に小さな市街地を抜けて雪原へと飛び込む。
「国境まで五分ぐらい。……それにしても、ここからでも分かるぐらいぶっ飛んでる戦場だよね。非科学的にもほどがある」
車のハンドルを握っている
その要塞をバックに、淡く光る二体の天使が激突を繰り返していた。
互いの翼が絡み合い、
「が、ぁ……!?」
それらをまっすぐと捉えた瞬間、
心臓がどうにかなってしまったのではないかと感じる程の息苦しさだった。
「……オマエ、本当にアレに心当たりはねェのか? ミサカネットワークから負の感情を取り出しやすい体質ってことは、そこから情報を取得することもできるンだろォがよ」
「それはどっちの天使について? あっちの氷の翼の方? それとも、紅い雷の翼の方?」
「ついでに言えば学園都市に情報があるからと言って、それが必ずしも科学的とは限らないと思うけどね?」
その二体の天使の
「あの片方の天使……、アイツはまさか!?」
源白深城。真守が自らの光で太陽のような存在だと言っていた少女だ。
深城の表情が鬼気迫っており、明らかに闘争心をむき出しにしているからだ。
遠目からしか見たことはないが、深城は普段、虫も殺せないような柔らかな笑みを浮かべている。
それなのに必死に戦う彼女の姿を見て、
そして、頭にいつか見たことがあるカブトムシを乗せているのにも気が付いた。
(なンだァ? アイツの周りではメルヘンなカブトムシを持つのが流行ってンのかァ?)
そんな
「……この羊皮紙の『匂い』につられて来やがったのか?」
「ひゅう!! どうするどうする、ハリケーンが向かってくるよりヤバいかもよこれ!!」
「……天災と人災の違いは簡単だ。殺す敵がいるかいねェか。明確なターゲットがいるのは幸せだ。やり場のない怒りなンて厄介なものに縛られる必要がねェンだからな」
「アイツの大事な人間が必死に戦ってンだ。俺だって参戦しなくちゃなンねェだろ。ガキはオマエに預ける。俺たちがケリをつけるまで足で時間稼げ」
「信頼されても困るなあ。ミサカそういうの一番苦手なのに」
「利用価値のある人間は運がいい。くだらねェジョークを言っても殺されずに済むチャンスが残っているンだからな」
「うん、ミサカそういう方が好き」
「あれぇ!?
深城は突然車から出てきた
虫も殺せないような顔をしている深城だが、ステゴロで天使に挑んでいる辺り、流石真守に『光』と仰ぎ見られる存在だ、と
「あれ!? ミーシャが追ってたのって『よーひし』を持ってる人だよね。もしかして
頭の悪そうで能天気で、妙に間延びした言い方だった。
だが天使がミーシャという呼称であり、そのミーシャが『羊皮紙』を狙っており、それを深城が止めようとしていると
だが
「うぇっ!?
「あァ? オマエ、何か知ってるクチかァ?」
「知ってるっていうか頭に入ってくるっていうか……!?」
深城が
「うっ!!」
深城が声を上げて
深城の翼を強制的に操ってミーシャへとぶつけた。
ミーシャは
「おぉっすごぉい!!」
(この能天気っぷり……アイツが
そこで
それを発したのはもちろんミーシャで、殺気が重圧となっていたのだ。
そしてそれをミーシャは集め、氷の翼を再び造り上げた。
その氷の翼は凶悪さを
「露骨な野郎だ。自己紹介のつもりか?」
「なんかヤバそうな雰囲気がするよ!?」
深城が勘によって声を上げると、
「オイ。アレを倒したらオマエにもアイツにも知ってること洗いざらい話してもらうからなァ。学園都市製の天使んら知ってること山ほどあンだろォ。例えばエイワスとかなァ」
「あの化け物はよく分かんないけど、あれはあたしから造られたものだから大体分かるかも!」
「曖昧すぎる回答どォもありがとォ!」
深城の言葉に
深城もミーシャも確かに怪物だが、エイワスには遠く及ばない。
何故ならエイワスには為す
(勝てる)
「……hbuiesdfosfnisadofhjohnvouaze──────……」
聞き取りにくいとかいう次元ではなく、どこの国でもない言葉で、何を語っているかも
「……sergv範hy設定……」
だが突然
「投gre準備……djku完了」
天使の言語を自分は理解できた。
そう
電波塔のアンテナのように天空にいる何かに合図を送るがごとく、ミーシャは翼を高く高く伸ばす。
そして無慈悲にも告げた。
「
夜空が輝いたと思ったら、半径二キロと設定された領域に数千万の破壊の
深城と
『源白!
深城はとっさにカブトムシを守っており、カブトムシは深城の腕の中で悲痛な声を上げた。
「ご……ご……がッ!?」
舞いあげられた雪で真っ白になった視界の中、ミーシャ=クロイツェフは変わらずに破壊の象徴として青く輝いていた。
そして夜天が再び不気味に輝く。
あの一発で終わらないのだ。
ミーシャは標的が動かなくなっても、目的の羊皮紙を回収するまで五発でも一〇発でも今の攻撃を放つだろう。
「
「問題ねェ……倒せるか倒せないかじゃねェ。叩き潰す理由がありゃ十分だ!!」
頑張って起き上がろうとする深城と共に
「第二ko波。攻wager撃準備ws開始。『一掃』再ise投下までnvsp三〇秒」
次が必ず来る。絶対に、確実に。
この大天使を止められるのは
だから二人は、絶対に譲れないものを守るために再び立ち上がった。
──────…………。
朝槻真守は意識を取り戻した。
真守の能力は
全てのエネルギーを生成、操る能力だ。
そして真守はここではないどこかの世界と繋がっており、そこを統べる力を手にしている。
そのため真守は自身の生命力の塊である魂をその世界へと移し、フィアンマからの精神攻撃を防いでいた。
その間、真守の体を守っていたのはここではないどこかの世界にいる住人だった。
真守を神と仰ぎ見て、真守を必要とする者たちだった。
それでも彼らに形はないし、ただそこに存在があるというだけ魂と呼べるものを持っているわけではない。
それでも彼らは自分たちが仰ぎ見る神である真守のことを守ろうとする。
真守の味方になろうと奮闘する。
だが彼らは真守以外をうまく認識できないため、真守を全ての脅威から守ろうとその力を無茶苦茶に振るうだろう。
手当たり次第に、何もかもを食い散らかす。
その様子を見た時、垣根帝督は全てを知るだろう。
自分がどういった存在で、どういった運命を仕組まれていて。
そして全てを知った垣根帝督は、そこで初めて自分の道を自由に選ぶことができるようになる。
その道が、自分から離れていく道だとしても真守は良かった。
人間は自由に生きていけるのだから、その資格を持っているのだから。
それを信じているからこそ、真守は垣根が自由に生きられることをただ一心に祈っていた。
垣根帝督は、自分の道を選んだ。
その道はどうやら自分と一緒にいることだと、真守は察した。
何故なら。
垣根が自分のことを抱き上げて、柔らかで安堵した表情で自分を見下ろしていたからだ。
真守はそんな垣根の頬へと手を伸ばす。
すると垣根は真守の手をそっと握って、自分の頬へと誘導した。
「よお。帰ってきたか、お姫さま?」
真守が垣根の頬に触れると、垣根は真守が完全に覚醒したと知ることができて、柔らかく微笑む。
そんな垣根を見て、真守は口を開いた。
「………………時期を見て、話そうと思ってたんだ」
真守は柔らかく垣根の頬に触れながらしっかりと口を開く。
「
真守は顔をしかませながらもまっすぐに垣根を見上げる。
垣根は真守に柔らかな視線を向けたままだ。
真守はそんな垣根へ、ゆっくりと真実を伝える。
「アレイスターは全ての偶然を利用しようとする。でも、どこまでが偶然でどこからが仕組まれたことかは私にも分からない。……だから、垣根の大切なあの子が死んでしまったことも、アレイスターが仕組んだことかもしれない」
真守はそこで言葉を切って、悲痛な表情を浮かべた。
「だから垣根にどう真実を話せばいいかとっても考えた。全部仕組まれたものだって知ったら、絶対に垣根が傷つくから」
真守は垣根の頬をゆるゆると撫でながら自分の気持ちを吐露する。
「私の気持ちも垣根の気持ちも本物だ」
一番理解してほしい事実を、真守は垣根に伝えた。
「だからこそ、なおさら話すタイミングが大事だと思ったんだ。だから今まで秘密にしてた。ごめんな、垣根」
真守が苦しそうに告げると、垣根は肩から力を抜いて微笑んだ。
「真守」
そして真守が自分の頬に添える手に重ねた自分の手に力をゆっくり込めて、真守の手を柔らかく握った。
「お前が俺のことを大事に想ってくれてるのはもちろん分かってる。だから別に怒ってねえ。お前がずっと苦心してたのは、俺だって分かってた」
真守はそれを聞いて切なそうに顔をしかめる。
「そんなお前から離れる理由がどこにあるんだよ。それに全部仕組まれてたとしても、今更お前を手放せるわけねえだろ。あの街で暮らしてるなら、何もかも仕組まれてるに決まってる。そんな街でお前と生きていくって決めたんだ。一々怒るわけねえだろ」
真守は垣根の言葉を聞いて、うるうると瞳を
「俺がお前を想う気持ちは本物だ。この気持ちは俺のモンだ。誰にも穢せない、俺だけが持てる気持ちだ。……ちゃんと分かってる」
垣根はそして一つ笑って、自分の気持ちを真守に伝えた。
「俺は、お前と一緒に生きていく。絶対に一人にはしない。ずっと一緒だ」
真守は鼻をスンと鳴らして、かすれた声を出した。
「…………本当に、それでいいの?」
「ああ。俺がこの能力を持って生まれたのは俺が俺だからだ。お前だって神サマになるために生まれてきた。俺たちが惹かれあうのは決まっていた。お前の言い方じゃ、アレイスターがそれを利用しただけなんだろ」
垣根はそこで言葉を切って、いたずらっぽく微笑んだ。
「だったらこういうのを、運命って言うんじゃねえの?」
真守は感極まった様子で息を呑む。
垣根が分かってくれて、でもそれでも申し訳なくて。
真守は切なそうに微笑んだ。
「そう思ってくれるの?」
真守が再度問いかけてくるので、垣根はふっと笑った。
「運命なんてのは免罪符だがな。……何があろうと俺はお前を離さない。お前は俺にとって一番大切な女の子なんだからな」
そこで垣根は笑いながら真守の薄い下腹部を柔らかく押した。
「ふぁ」
真守が突然垣根にお腹を触られて甘い声を上げると、垣根は意地悪く笑った。
「それにじっくり仕込んで俺好みにしたんだ。神サマなんて誰にも穢せないものに俺だけが手を出せる。そんな特権を手放すバカがどこにいるんだよ」
真守は垣根をぽかんと見上げた後、恥ずかしそうにムッと口を尖らせて顔をしかませる。
「……………………かきねのばか。えっち。信じられない」
ぷんぷん怒っている様子の真守だが、垣根が自分にいたずらをするほどに穏やかな気持ちになっているのが真守はとても嬉しかった。
そんな真守を垣根は柔らかく抱きしめた。
「お前はもう、俺に後ろめたいなんて思わなくていいから」
真守は垣根の背中に手を回しながら目を伏せる。
「………………垣根、ごめんな。ごめん、……本当にごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
「私、エリザリーナ独立国同盟に来たら垣根が欲しい未来を手に入れられるって言われたんだ。右方のフィアンマをどうにかしなくちゃいけなかったし、丁度良いと思った」
真守は垣根の体の異変を一身に感じて、震える声で告げた。
「でもお前が体を失うって分かってたら、絶対にお前を連れてこなかった。私があいつの言うこと真に受けたのが悪いんだ。やっぱり言う通りにしなければ良かった。ごめんなさい」
「お前が誰に言われたか、じっくり腰据えて話してもらうからな」
垣根は厳しい声を出したが柔らかく笑い、真守の首筋に頬を摺り寄せた。
「いつかお前と一緒にいるために造り替えなくちゃならなかった体だ。フィアンマのクソ野郎に壊されたことは気に食わねえが、元々この体に未練はない。お前が気にしてる方が心底嫌だ。吐き気がする。……だから、気にしないでくれ」
真守はスンッと鼻を鳴らしながら、垣根から体を離して、まっすぐ垣根を見上げた。
「私は垣根の心も体も、その能力も全部欲しい」
真守から自分の全てが欲しいと直球で言われて、垣根は嬉しくて目を細める。
「人の心としても神さまとしても、垣根が欲しい。私は神さまとして役割を果たさなくちゃいけない。でもそれ以外は全部垣根にあげる。……だから一緒にいて」
「当たり前だろ。そんなこと」
真守が切実に告げると、垣根は間髪入れずに答えた。
「お前の全部は俺のモンだ。俺のモンも全部お前にくれてやる。だからずっと一緒だ、真守」
真守はそれを聞いて、本当にうれしくてぽろっと涙を一つ零した。
垣根はそんな真守の涙を
「垣根」
真守はそんな優しい垣根の名前を呼んで、ふにゃっと微笑んだ。
「だいすき」
本当に親しい人にしか見せない真守のその笑みを見て、垣根も柔らかく微笑んだ。
「俺もお前のこと、愛してる」
そして垣根は真守のその唇にキスをした。
長いキスの後、真守は熱い息を吐きながら垣根をとろっとした表情で見上げた。
その様子が本当に愛おしくて。垣根は真守のことを再び抱き寄せた。
「あのな、垣根。深城が来ているんだ。私の天使が」
真守が垣根にぎゅっと抱き着きながら告げると、垣根は頷いた。
「ああ、分かってる。一緒に行く」
垣根は真守から体を離して、真守のことを起こしてあげる。
垣根と一緒に立ちあがった真守は柔らかく笑った。
「私幸せだよ、垣根。これからずっと幸せで、とっても嬉しい」
「ああ。……俺もだ」
垣根は自分よりも二〇㎝も身長が低い真守に目線を合わせ、コツッとその額を合わせた。
神さまになって真守が遠くに行ってしまったと垣根は思っていた。
だがこの時、垣根は神さまになってしまった真守のことを完全に理解することができた。
本当の意味で、垣根は大切な存在と心を通わせられるようになった。
そんな垣根に、もう怖いものなんて何もなかった。
「真守、行くぞ」
「うん」
だからこそ垣根は真守にそう不敵に告げた。
真守もふっと柔らかく微笑み、頷いた。
──────…………。
ミーシャと戦っていた
誰かにその力の大半を根こそぎ奪われ、そしてミーシャを構築するための何かが壊されたからだ。
そこを突いた学園都市の
その咆哮と共にミーシャの存在がブレる。
天使の力が枠にはまることができなくなり、莫大な量の純粋なエネルギーに戻ろうとしている。
それは最早爆弾であり、周囲を盛大に吹き飛ばすことは必至だった。
「……場違いだろォが、何だろォが……そンな事は問題じゃねェ」
「たった一つの幻想を守り抜くためなら、俺はどンな現実とだって立ち向かってやる!!」
「……そぉだよ。何も問題なんてないんだよ!」
「絶対に守りたいのがあるの……」
深城はキッとミーシャ=クロイツェフを睨みつけて叫ぶ。
「真守ちゃんの信じるものを守りたいの!!」
「そォだ……そォなンだよ!! ……だからやってやる。やるしかねェ!!」
「抑え込めェェェえええええ──────!!!!」
その力を
爆発は
そんな
時間にして刹那の一瞬だった。
それでも。全てを破壊し尽くさんという爆発は二人と一匹の手によって防がれた。