とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五七話、投稿します。
次は一月三一日月曜日。旧約最終回です。


第一五七話:〈事態収束〉してあるべき場所へ

一方通行(アクセラレータ)は知らず知らずのうちに魔術的に歌った歌によって傷ついた体に力が入らず、膝から崩れ落ちた。

 

もうこれ以上は歌うことができない。これ以上歌ってしまったら死んでしまうという確信があった。

 

だがこれ以上歌を続ける意味なんてない。

 

一方通行(アクセラレータ)は満ち足りた表情でそう感じていた。

 

「……大、丈夫……? って、ミサカはミサカは尋ねてみたり」

 

そんな満ち足りた気持ちを抱えながらも、視界が揺らぎ息を切らしていると、小さな声が聞こえてきた。

 

一方通行(アクセラレータ)がずっと聞きたかった声。

 

彼女の声は、もう命をいつでも失いかねなかった状態ではなかった。

 

もう大丈夫だ、と一方通行(アクセラレータ)は確信する。

 

確信すると、とっさの行動を取っていた。

 

震える両手を伸ばして、一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)の体をそっと抱き寄せた。

 

もう二度と失いそうにならないために。

 

もう二度と離さないために。

 

強く、優しく、自身の最後の希望を抱きしめた。

 

「……良かった……」

 

ぽそっと呟かれた一方通行(アクセラレータ)の声は震えていた。

 

「ちくしょう。良かった。本当に良かった……ッ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)は自分が失ったと思っていた、もう既に自分の中にないと思っていた温かい感情と共にその言葉を吐きだした。

 

打ち止め(ラストオーダー)は意識が朦朧(もうろう)としており、命を失いそうになっていた時のことは何も覚えていない。

 

それでも一方通行(アクセラレータ)が自分のことを助けようと動いてくれたことだけは理解していた。

 

だからその小さな手を一方通行(アクセラレータ)の小さくなった背中に回して、ゆっくりと抱きしめた。

 

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)の存在を確かに感じて、心の中で呟く。

 

(確かにこの世界は冷たく、厳しく、どォしよォもないくらい悪意に満ちている。だが、テメエの意思で手を伸ばせば足掻いて足掻いた先に必ず光が存在するンだ。その一筋の光を奪い取るほどには、この世界は絶望的じゃなかったってことか)

 

一方通行(アクセラレータ)さん」

 

一方通行(アクセラレータ)はそこで声を掛けられ、打ち止め(ラストオーダー)の後ろに立っていた人物を見た。

 

そこには歩行するための八本足の義足を腰から伸ばして立っている八乙女緋鷹の姿があった。

 

彼女はアメンボのように水の上を滑るかのように八本足を動かして一方通行(アクセラレータ)に近づく。

 

「……アイツの配下か。アイツはどォした」

 

「大丈夫。オーバーヒート気味だけどすぐに回復するわ。ただマズいことがあるの」

 

緋鷹は真守の無事を一方通行(アクセラレータ)に伝えながら空を見上げた。

 

そこには学園都市製の超音速爆撃機が数機、襲来していた。

 

「学園都市が俺やこのガキを『回収』しに来てンのか」

 

「ええ。真守さんや私たちに学園都市は手を出せないわ。でもあなたは違うし、彼らはあなたの懐のモノを何が何でも回収しないといけないみたい。……それでもあなたを見捨てたりしないわ。だって真守さんはあなたを生き写しのように大切に扱っているのだから」

 

「支援はするって事かァ?」

 

一方通行(アクセラレータ)がハッと嘲笑するように快活に笑うと、緋鷹は腕を組みながら頷く。

 

「あの人は人のことを助けるのが大好きだから。私もそうしたいと思っているわ」

 

「……良かった」

 

一方通行(アクセラレータ)はそこで思わず安堵の言葉を(こぼ)した。

 

緋鷹がその言葉にきょとんと不思議そうな顔をすると、一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を抱き寄せてそっと呟いた。

 

「アイツが幸せな世界にいられて、本当に良かった」

 

「……あなたも、あの人のいる幸せな世界の一員なのよ」

 

緋鷹が柔らかく微笑むと、一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)から離れて懐の羊皮紙に触れた。

 

「そォか。コレは交渉に使えンのか。……なァ。このガキを頼めるか?」

 

一方通行(アクセラレータ)は緋鷹に打ち止め(ラストオーダー)を託す選択をした。

 

真守の配下ならば、打ち止め(ラストオーダー)をきちんと保護してくれると分かっているからだ。

 

「あなたの代わりに守ってみせるわ。もちろん、あの大きい子もね」

 

「どこへ行くの、ってミサカはミサカは質問してみたり」

 

緋鷹がしっかりと頷く中、打ち止め(ラストオーダー)は自分から離れようとしている一方通行(アクセラレータ)を見上げた。

 

「どこへも行かないよね、ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

 

「心配はいらねェよ。すぐに終わらせる」

 

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を安心させるように微笑む。

 

「嫌だよ。ずっと一緒にいたいよ、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

 

「……そォだな」

 

打ち止め(ラストオーダー)(すが)るように自分を見上げてくるので、一方通行(アクセラレータ)はそっと笑った。

 

「俺も、ずっと一緒にいたかった」

 

一方通行(アクセラレータ)はその言葉を放ち、黒い翼を広げた。

 

だが次の瞬間、黒い翼は根元から純白へと変化していき、柔らかな真っ白な羽根に包まれていく。

 

そして頭に黄金の天使の輪を浮かべて、一方通行(アクセラレータ)はその白い一対二枚の翼によって打ち止め(ラストオーダー)から離れていく。

 

打ち止め(ラストオーダー)が息を呑み、両手を上げて駆け寄ろうとするが、一方通行(アクセラレータ)はゆっくりと天に飛翔していく。

 

打ち止め(ラストオーダー)は遠くなっていく一方通行(アクセラレータ)へと手を向けて見上げ続けるが、緋鷹に肩を抱かれて緋鷹を見上げた。

 

「心配しなくても、あなたの天使は帰ってくるわ」

 

緋鷹が笑いかけると、打ち止め(ラストオーダー)はゆっくりと頷いた。

 

そして学園都市の超音速爆撃機へと迫る一方通行(アクセラレータ)の姿を、ずっと見守っていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

朝槻真守は、そっと目を開けた。

 

世界が変わる事に抗っている人々を支援して、一つ前の時代に戻されようとしていた世界を救った。

 

それと並行して世界を穿つ力から世界を守ったので、流石の絶対能力者(レベル6)でも演算領域がオーバーヒートを起こしたらしい。

 

白い雲で(おお)われた景色がぼうっと見える中、真守は自分の体が視界に入った。

 

純白のコート。その下には、真っ白な自分の所属する高校のセーラー服を着用していた。

 

下着もニーハイソックスも靴でさえ、垣根が未元物質(ダークマター)で造り上げてくれたものを真守は身に着けていた。

 

今の真守は絶対能力者(レベル6)として覚醒した姿ではない。

 

翼も転輪も服も全て形を失い、完璧に人に戻って素っ裸になってしまった。

 

そのため垣根が未元物質(ダークマター)で造って着せてくれたのだ。

 

真守は優しく自分のことを抱き上げてくれている少年に向かって口を開いた。

 

「……………………かきね」

 

真守が弱弱しく愛しい少年の名前を呼ぶと、垣根帝督は気が付いた。

 

「真守」

 

垣根は真守のことを優しく抱き直す。

 

「無茶しやがって、このバカ」

 

そして真守のことを罵倒しながらも、垣根は柔らかい笑みを浮かべた。

 

「八乙女が源白を追ってロシアに来てんだ。だからすぐに学園都市に帰れるぞ」

 

垣根がぼーっとしている真守にも分かるようにゆっくりと告げると、真守はどこを見ているか分からない瞳のまま呟く。

 

「…………………………かみじょう、は…………」

 

自分も大変なのにこんな時まで誰かのことを心配する真守に、垣根は怒っていいのか安堵して笑っていいのか分からないまま告げる。

 

「上条はまだベツレヘムの星だ。アレが落下して地上に被害が出ないようにイギリス清教と連携して北極に向かってる。さっきロシアに展開してたイギリス清教のヤツらが来て、説明してくれた」

 

お前の所業にヤツらは大層驚いてたよ、と垣根が続けて笑うと、真守は再び覇気のない声を上げた。

 

「…………………………いんでっくす、は?」

 

「安心しろ、あのシスターも無事だ」

 

垣根が真守のことを安心させるために優しく教えると、真守はふにゃっと笑った。

 

「……そう、か。………………よかった」

 

垣根はそんな真守のことを愛おしく思って優しく見つめる。

 

「もう大丈夫だ。お前は気にせずゆっくり休め。分かったな?」

 

真守は労ってくれる垣根を見上げて、そこで垣根の(かたわ)らに、深城と深城の頭に乗って力を供給し続けているカブトムシがいるのを見た。

 

真守は自分を柔らかく見つめている深城とカブトムシに向かってふにゃっと笑うと、垣根の真っ白なコートを掴もうと震える手を動かした。

 

だが手に力が入らなくて、真守は垣根の胸にトンッと手を寄せる。

 

「かきね」

 

真守は垣根の心臓の鼓動を感じながら、垣根に視線を戻した。

 

「なんだ?」

 

真守は自分を覗き込んでくれる垣根を見上げて、柔らかく目を細める。

 

「わたしが起きるまで、一緒にいてね…………ひとりはいや、だよ……」

 

真守はそう呟くと、そこで意識をふっと失った。

いつもの休眠状態ではなく、本当に意識がふっつりと途切れて深い眠りに落ちたのだ。

 

「決まってんだろ。起きた後もいつまでも一緒だ。……絶対にお前を一人になんかしない」

 

垣根は真守のことを優しく抱きしめて微笑む。

 

「俺は、お前を一人にすることだけは我慢ならなかったんだから」

 

あの廃ビルで。

 

朝槻真守の助けになりたいと、それまでの自分にはあり得ない思考に垣根帝督は至った。

 

あの時から全てが始まったのだ。それを垣根帝督はしっかりと理解している。

 

「何度だって助けてやる。だからいつまでもずっと一緒だ。……それこそ、永遠にな」

 

垣根はあの時からずっと胸の中に抱き続けている想いを今一度口にして、眠りについた真守が穏やかに眠れるように、真守を揺らさないように気を付けて歩き始めた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

右方のフィアンマは鉄の扉を内側から開けて、転がるように脱出用コンテナから外へ出た。

 

上条当麻と右方のフィアンマはベツレヘムの星で対決した。

 

だがその最中、機能停止に(おちい)っていた朝槻真守がその機能を復活させて、上条当麻の奥にあるものを示唆(しさ)した。

 

右方のフィアンマは上条当麻の力に戦慄(せんりつ)した。

 

だが上条当麻はその力を抑えて捨てて、拳で殴りかかってきた。

 

その結果。右方のフィアンマは、上条当麻との戦いに敗れた。

 

上条に命を救われて、右方のフィアンマはベツレヘムの星から脱出用コンテナで脱出して、この低い山の上に落ちた。

 

ベツレヘムの星など浮かんでいない、世界の改変もない。

 

戦争の砲撃音も聞こえない当たり前のロシアの風景を、右方のフィアンマは眺めていた。

 

全て終わった。

 

立場も権威も道具も何もかもを失った自分は、これから世界に追われる羽目となる。

 

世界に追われ、逃げ続けるのは神経をすり減らすことだ。

 

だからすぐにでも世界に追われるのに耐えられなくなって、(みじ)めに自分は死に行くことが決まっている。

 

それなのに、上条当麻は自分に世界を見ろ、と告げた。

 

ベツレヘムの星から脱出するための唯一の望みである脱出用コンテナを譲って、そう告げた。

 

右方のフィアンマは逃亡生活をしながら、上条当麻が自分に見てほしいと告げた世界が見られるとは到底思えない。

 

それでも、右方のフィアンマは上条当麻が見ているものを見たいと思った。

 

上条が見ている世界を知ることなく、この命を終わらせることなどできなかった。

 

先に進む。

 

右方のフィアンマはそう思い、よろめきながらも一歩踏み出した。

 

 

その瞬間、右方のフィアンマの右腕が肩から切断された。

 

 

まったく感知できなかった攻撃に右方のフィアンマは絶叫し、片方の手で傷口を抑えて振り返った。

 

 

そこには、一人の魔術師が(たたず)んでいた。

 

 

色の抜けた銀色の髪に、碧眼を持つ端正な顔立ち。

 

緑色の手術衣だけをまとった、男性にも女性にも。大人にも子供にも、聖人にも罪人にも見えるという奇妙な印象を抱かせる、その存在。

 

「アレイスター=クロウリー……?」

 

右方のフィアンマは、その魔術師の名前を呼んで呆然とした。

 

魔術師、アレイスター=クロウリーは右方のフィアンマを興味なさげに見つめる。

 

「やはり『容器』を抜けると正しく認識されるらしい。生命維持装置を使って魔力の基となる生命力そのものを機械的に生み出すことで、あらゆる探査をくぐり抜けてきた訳だが、この状態ではその加護が受けられなくて当然、か」

 

学園都市の『窓のないビル』にいなければおかしい魔術師。

 

それが目の前に何の変哲もなく存在している。

 

その時点で、右方のフィアンマは悟った。

 

アレイスターは、次元の違う場所に立っている。

 

人類すべてと世界を救済する力を持っている右方のフィアンマよりも、アレイスター=クロウリーは高い次元に、さも当然のように(たたず)んでるのだ。

 

「……何故だ? 俺様にはできなかった。『神の子』と同じ、この世界を救うだけの力があったはずなのに。俺様にはそれができなかった」

 

アレイスターは右方のフィアンマの疑問に、心底つまらなそうに答える。

 

「それは力の質や量というよりも、使い方の問題に過ぎんよ。私の持論は『法の書』の完成と共に十字教術式の時代は終わったというものでね。実際、君はいいところまで行っていたと思うよ。『神上』という着眼点も含めてね」

 

アレイスターはそこで言葉を切ると、自らの定めた世界の基準を簡単に説明する。

 

「オシリスの時代。つまり、十字教単一支配下の法則ではなく、その先のホルスの時代をフォーマットに定めていれば、私と似たような地点を目指していたかもしれないな」

 

オカルトという魔術を肯定し、そこへ精密機械である科学をねじ込もうとする発想。

 

それは旧時代であれば考えるだけで処刑台へ案内されてしまうイレギュラーな思考回路だ。

 

その思想を当然のように持つアレイスターに、右方のフィアンマは思わず訊ねた。

 

 

「エイワスは、そこまで魅力的な存在か。そこまで魅力的な存在だからこそ、お前は朝槻真守をエイワスの制御装置として()()()()のか?」

 

 

そして右方のフィアンマは告げた。

 

あの少女を精査したことで理解した、たった一つの真実に。

 

「あの娘は神へと至るために何者かの介入があって生み出された。その何者かとは、朝槻真守を神と仰ぎ見て必要とする意志のみが存在する者たちだ。神へと至る必然性を持っていたあの娘を、お前はエイワスはおろか、科学の全てを支配・制御できる装置に加工した。そうだろう?」

 

右方のフィアンマの言う通り、アレイスター=クロウリーは必然的に発生した朝槻真守を絶対能力者(レベル6)へと加工しただけだった。

 

その存在が脅威だったから、自分がコントロールできるように、利用できるように加工したに過ぎなかった。

 

それを、アレイスター=クロウリーは肯定した。

 

「だからわざわざ弱点として『光を掲げる者(ルシフェル)』の役割を与えたのだ。かの存在は私たちのためにいるのではないからな。……それでも、あの弱点は彼女を思いとどまらせることしかできないがな」

 

そこでアレイスターは『計画(プラン)』の一端を口にする。

 

「だからこそ『神の如き者(ミカエル)』の役割を与えた垣根帝督がその右腕を振るう事に意味がある。愛する者の鉄拳ならば、自分が間違っていると理解するだろう?」

 

右方のフィアンマは垣根帝督が、自分と同じ役割でも違う側面を与えられた男だと分かっている。

 

アレイスター=クロウリーは人間を駒のように操り、自身の目的へと邁進(まいしん)する。

 

そんなアレイスターに右方のフィアンマは問いかけた。

 

「お前は世界のどこまでを掌握している?」

 

世界を盤面に置き換えて、それを掌握しているアレイスターは語る。

 

「ものの価値も分からんのに、君はあれらに深入りしすぎだ。彼女を理解するのはまだしも、あの右手が単なる『異能の力を打ち消す右手』であると思っていればよかったのだ。……君はその奥にあるものを垣間見ただろう。流石にあれを知って放置はしておけん。まったく不本意だが、私の出る幕となったわけだ」

 

「奥に、あるもの……?」

 

右方のフィアンマは上条当麻の奥にある力とそれを押しつぶした力を思い出して息を呑んだ。

 

「おまけにこの結末。よもや、私の手元から離れるとは。おかげで大分『回り道』をしなくてはならなくなった。……そうか、私という生き物は月並みに怒りを自覚しているのかもれん」

 

「……アレはなんだ?」

 

右方のフィアンマは警戒心を(あら)わにして問いかける。

 

「分かっているだろう」

 

アレイスターはそれに淡々と答えた。

 

「不出来で古すぎるプランであったが、私の『計画(プラン)』と君のやろうとしていたことは似通っていた」

 

アレイスターはそこで自らの『計画(プラン)』の根幹を語る。

 

「異形の力で満たされた神殿を用意し、その中で右腕の力を精錬し、その力で持って位相そのものの厚みを調整し、結果として世界を変ずる思想。学園都市というある種の力を封入された小世界とどう違う?」

 

右方のフィアンマはその問いに答えられない。

 

まさか自分が学園都市を造ったアレイスターの後追いを、十字教という古い枠組みで行っていたとは夢にも思わなかったからだ。

 

「君は、自らの行動を別の視点で捉えるだけで良い。それだけで、あの力の本質を理解できていたはずだ。……もっとも、それさえ成功できていれば、キミは私よりも一足早く目的を達していたかもしれないな」

 

「俺様は俺様なりに、世界の真実に近づいていたんだな」

 

右方のフィアンマは世界の真実に気が付いた。

 

そのためアレイスターはその世界の真実をフィアンマに言いふらされて『計画(プラン)』の実態が明るみにならないように、右方のフィアンマを潰しに来たのだ。

 

それを悟ったフィアンマは、アレイスターを見つめながらフッと笑う。

 

「お前の顔を見ていると、自分がやってきたことの虚しさを感じるよ。多分、俺様もそんな顔をしていたんだろう。……本当に世界を救う人間はそんな顔をしない。あの時、あの場所で、あいつは誰にも追いつけんところに立っていた」

 

右方のフィアンマはアレイスター=クロウリーという、自分と最も似通った男と対峙して、自分に足りないものに気が付いた。

 

フィアンマは右腕の傷を抑えていた左手を離し、噴き出す血を透明な第三の腕で(さえぎ)った。

 

自らの意思で制御することはできないが、まだ戦えると右方のフィアンマは思い、行動に移った。

 

「無駄だと思うがね」

 

アレイスターはパントマイムのような仕草をして、何かを掴んだ。

 

あるはずのない杖が、そこにあるのだと右方のフィアンマは錯覚した。

 

気配や雰囲気もないはずなのに、そこに『銀色』という色を見た気がした。

 

衝撃の杖(ブラスティングロッド)

 

極悪人であるアレイスター=クロウリーが、純粋な尊敬から師と仰ぐ古い魔術師の伝説にある一本の杖。

 

「無駄かどうかは問題じゃなかったんだ」

 

右方のフィアンマは激情を爆発させた。

 

上条当麻はアレイスター=クロウリーよりも、もっと大事なものが見えている。

 

魔導書の『原典』に記されていると言われる真理。

 

それよりも重要な、目に見えないとても大事なものを彼は知っている。

 

「踏みにじらせるわけにはいかない!!」

 

そんな何よりも尊く、かけがえのないもの全てをデータ化して簡単に踏みにじる男を野放しになんかしておけない。

 

 

だが勝敗など。最初から決まっていた。

 

 

二つが激突し、当然の如く一つが斬り伏せられて。

 

辺りに静寂が戻ってくる。

 

「……たかが十字教程度で、あの右手や幻想殺し(イマジンブレイカー)……そして『神浄』を説明しようと考えたこと。それ自体が、キミの失敗だ」

 

アレイスターは自らの身を空気に溶かしながら呟き、そして消えていった。

 

一〇月三〇日。

第三次世界大戦は異例の一二日間で終結した。

勝利したのは、学園都市。

 

そんな第三次世界大戦の最中、世界は改変の危機に(ひん)していた。

 

そんな世界の窮地(きゅうち)を救ったのは神人(しんじん)

 

神であり、人であり。神ならぬ身にて天上の意思に辿り着いた少女だった。

 

少女は自らを神として祀り上げる科学の都、学園都市に帰還する。

 

この世で一番大切な男の子の胸の内に抱かれて。

この世で一番大切な女の子と、この世に新たに生まれ落ちた生命に見守られて。

少女を神と崇める人々に守られながら。

 

信仰の地(学園都市)へと帰還した。

 




次回。旧約篇、最終回です。

計画(プラン)』についての考察を活動報告にてあげたいのですが、『流動源力(ギアホイール)』内で度々出てきた超能力者(レベル5)に対応する七大天使や一方通行や垣根くん、真守ちゃんとどこかの世界の関係性についても現在まとめ中ですので、ゆっくり投稿したいと思います。


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