とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一五八話、投稿します。
旧約篇最終回です。


第一五八話:〈転変永久〉を再び誓う

垣根帝督は、自分たちが住んでいるアパート型のシェアハウスの真守の部屋にいた。

 

シンプルな家具でまとめられた部屋。

 

そんな真守の部屋で、垣根は約束通り、ずっと真守のそばにいた。

 

現在、垣根は真守の部屋にあるコンポからゆったりとしたクラシックの曲を流し、真守が眠るベッドの前に椅子を持ってきて本を読んでいた。

 

硬い書籍や専門書ではない。気軽な気持ちで楽しめるライトノベルだった。

 

このライトノベルは真守の所持しているものだ。

 

真守は超能力者(レベル5)第一位であり、貴族の身内がいるので興味があるならば金銭を湯水のように使っても問題ない。

 

だから真守の部屋には様々な本が置いてあり、その中の一つを垣根は手に取っていた。

 

実は垣根が読んでいる本を真守は入院中の一方通行(アクセラレータ)に貸し与えていたのだが、その事実を今の垣根が知っても、もう問題になることはなかった。

 

真守は第三次世界大戦の終盤で世界を救い、演算機能をオーバーヒートさせてロシアで眠りについたままこの学園都市に帰ってきた。

 

診察をしてくれた冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の見立てではすぐに目覚めるらしい。

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は生きている人間ならば必ず助けることができる。

これまでで助けられなかった人間は脳の細胞が死んでしまった上条当麻だけだ。

 

絶対能力者(レベル6)とは言っても、真守は人間性を保持している。

 

そのため人間の枠組みに入っているならば、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)にも治す手立てはあるのだ。

 

というか絶対に治してみせると意気込んでいる様子だったが、真守が案外普通に目が覚めそうなので逆にがっかりしていた。本当に何故だろう。

 

垣根は真守が目覚めるまでこうしてずっと真守のそばにいるつもりだ。

何故なら、約束したから。

絶対に真守を一人にしないと。

だからこうして、片時も離れずに一緒にいる。

 

垣根は本から目を上げて、眠っている真守を見て優しく笑う。

 

思えば、ここ数か月はとても濃密な時間だった。

 

七月初旬。

 

垣根帝督はこの学園都市を利用し尽くすためにアレイスターの主導する『計画(プラン)』を探っていた。

 

その『計画(プラン)』の第一候補(メインプラン)

 

消えた八人目の超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)

 

上層部は、真守の起こした多くの人間の存在を源流エネルギーで『焼失』させた殺戮の出来事を隠すために、源白深城を流動源力(ギアホイール)としていた。

 

事件当時に流動源力(ギアホイール)は眠っていたからその殺戮に関係していないと、記録をねつ造するためだった。

 

超能力者(レベル5)とされていた深城の近くにいる朝槻真守から、垣根は情報を得ようとした。

 

そんな真守は、清らかでありながらもきちんと汚れていた。

 

真守は過去に自分が誰よりも許されないことをして、罪を背負っていた。

真守が他人のことを何でも優しく許せるのは、誰よりも重い罪を自分が背負っているからだ。

そんな罪を持っていれば、誰も彼もを許せるようになる。

 

だから真守は決して、お人好しなんかではなかった。

懸命に光を求めていた。

ずっと一人で、この学園都市の『闇』に抗っていた。

 

そんな誰もに尊く見える()り方をする少女を放っておける人間なんて、この世にいないだろう。

 

そんな人間が本当にいたら、その人間は本当に救いようのないヤツだ。

 

過去に学園都市に星の数ある悲劇によって大切な存在を失った垣根は、当然として真守を放っておけなかった。

 

だから垣根帝督は朝槻真守の味方になった。

 

そしていつか人ではなくなるというとんでもない宿命を真守が背負わされていると知って、垣根は真守がどんなに遠くに行ってしまっても絶対に一人にしないと誓った。

 

真守が本当に愛おしくて。

 

真守が本当に大切で、絶対に離したくなくて。

 

身も心も自分のモノにした矢先に、真守は絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)して遠くへ行ってしまった。

 

朝槻真守は確かに絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した。

 

神として様々なものを背負うことになった。

 

それでも、その人間性を失わなかった。垣根帝督を愛したままだった。

 

だから真守は垣根や自分の周りにいる人々が自由に生きられる未来のことを、ずっと考えていた。

 

垣根のために、真守は第三次世界大戦の地に(おもむ)いた。

 

様々なことがロシアで起こったが、全てを知った垣根は眠りについた真守を連れて学園都市に帰還し、同じ時間を共有している。

 

一緒に学園都市に帰ってこられて本当に良かった、と垣根は思う。

 

大切な女の子のそばにいられて、心からの幸せを垣根帝督は感じていた。

 

「垣根」

 

そこでコンコンッと扉を叩いて開けたのは杠林檎だった。

 

「垣根。ご飯食べよう」

 

林檎はトテトテと入ってきて垣根の前に立つ。

その手の中のお盆には、白米と味噌汁、それとサラダが三セット載せられていた。

 

「おかずはどこいった」

 

「あたしが持ってるよぉ。ここでご飯を食べようと思って持ってきたの」

 

垣根の声に応えたのは深城で、深城は揚げ物をたくさん載せた皿を両手に持っていた。

深城たちはローテーブルを持ってきて、真守の前で夕食を食べ始める。

 

「垣根さん。お風呂は?」

 

未元物質(ダークマター)で汚れ全部落としたから問題ない。風呂入るより綺麗なくらいだ」

 

垣根は真守から片時も離れないと約束した。

その約束を守るために、トイレ以外は全て自分の能力でどうにかしていた。

 

「やっぱり超能力者(レベル5)は便利だねえ」

 

深城は垣根の献身的な姿を見てにこにこと笑い、垣根と林檎と共に食事を開始した。

 

天使化していた深城だったが、今回は妹達(シスターズ)の全面的な協力を得て天使になっていたためあっさりと元の姿に戻れた。

 

九月三〇日はミサカネットワークを強引に捻じ曲げ、深城の天使化を安定してできるようにするために打ち止め(ラストオーダー)の頭にウィルスを打ち込まなければならなかったのだ。

 

その話を聞いた垣根は、ついでと言わんばかりに安定を目的として絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)させられた真守を想って憤慨した。

 

垣根が話を聞いた時に覚えた怒りを思い出していると、林檎が唐揚げを箸でつまんで、垣根のお茶碗の中に入れた。

 

「垣根、元気出して」

 

三食の飯がどんなことよりも好きな林檎が、自分に食べ物を渡してきた。

林檎がとても自分を気遣っていると知った垣根は、柔らかく目を細めた。

 

「サンキュー」

 

垣根が笑ってお礼を言うと、林檎は嬉しそうに頷いた。

 

深城はそんな二人を見てから眠り続けている真守を見た。

 

深城は真守と繋がっている。

真守は深い眠りについていると、深城はずっと感じていた。

でもすぐに目覚めるとも感じていた。

 

だから、深城は何も心配していなかった。

 

(早く目ぇ覚まして、それでたくさんおしゃべりしようね)

 

深城は心の中でそう思って真守を見ながらにへらっと笑って、食事を再開した。

 

 

 

――――――…………。

 

 

 

『楽しそうだな』

 

真守は泥のように(まと)わりつくあちらの世界の住人であり、形を与えられることを望んでいる『彼ら』に手を伸ばしながら顔を上げた。

 

真守が顔を上げた先にはエイワスが形を持って、金色の光を放ちながら(たたず)んでいた。

 

『愉快だとも。……と言うより、正確には愉快な時間が長引きそうで喜んでいる。アレイスターは少々急ぎ過ぎだからな。あの方法ではあっという間に終わってしまう』

 

『そのために一方通行(アクセラレータ)をロシアへ寄越したのか?』

 

真守が問いかけると、エイワスは即座に頷いた。

 

『そうだとも。私の出現の有無に限らず、あの司令塔は長持ちしなかった。よって、必要な強度を与えるためのヒントを提示してやった。……彼はよくやってくれたよ。この方法は私を排除するというより、別の領域へ移すと言うかたちに近いが、まあここまでやれれば上出来だ』

 

『お前が口を出さなくても、最終信号(ラストオーダー)は死ななかったぞ』

 

『ほう? キミが助けるからか?』

 

真守が告げるとエイワスは興味深そうに問いかけてきた。

真守は首を横に振って口を開いた。

 

『違う。人には無限の可能性がある。最初からできないと諦めているだけで、人にできないことなんて実は存在しない。だからなんでもできる。たった一人の大切な人を救うくらい、できるに決まっている』

 

真守が柔らかく笑って告げると、エイワスは楽しそうに笑う。

 

『ふふ。やはりキミは面白いな。脆弱な人間に余りある多くの可能性を見出している。私と同じで価値を見出している』

 

『同じだと言われて光栄だな』

 

真守は皮肉を言いながらクスクスと笑い、エイワスを穏やかに見上げた。

 

『いつかお前を討ち滅ぼせる人間が現れることを、お前は楽しみに待っているがいい』

 

真守が柔らかく告げると、エイワスの存在が遠くなっていく。

エイワスが遠くなっているわけではない。

真守の覚醒が近付いているのだ。

 

『ではな、神人。現実でも会うことがあるだろう。その時は垣根帝督も一緒にな』

 

エイワスの声だけが響き渡る。

 

真守は自分を神と仰ぎ見る者たちを撫でながら、そこでゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

――――――…………。

 

 

 

真守がゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が見えた。

 

うっすら光が差しているから、今は朝なのだろうか。

 

「真守」

 

真守がぼーっと時刻を考えていると、自分が起きたのに気が付いた大切な少年が名前を呼んでくれた。

 

ゆっくり頭を動かすと、自分の横たわっているベッドの近くに椅子を持ってきて座っていた垣根帝督がいた。

 

「かきね」

 

真守はもぞもぞと動いて、大好きなこの世でたった一人の大切な男の子である垣根へと手を伸ばす。

すると垣根は椅子から立ち上がってベッドの(ふち)に座りながら、真守のその手を優しく握った。

 

「体の方は大丈夫か? 具合悪いところは?」

 

「だいじょうぶ」

 

真守は垣根の大きな手に自分の手が包まれて、その居心地の良さに微笑んだ。

そして真守はゆっくりと体を起こそうとする。

垣根は真守と繋いでいる手を基点に、真守の背中に手を回して真守を優しく抱き起こす。

真守が問題なく体を起こして自分の力だけで座ったので、垣根はほっと一息ついてから柔らかく真守に笑いかけた。

 

「ちゃんと約束守ったぞ」

 

垣根は真守に体を寄せると、その(ひたい)にキスを落とす。

 

「ん」

 

真守は垣根にキスをされて幸せそうに微笑む。

 

「垣根、ちゃんと口にちゅーしてほしい。大丈夫だから」

 

垣根が自分のことを(おもんぱか)っているのを理解している真守は、垣根にそうおねだりをする。

 

そのおねだりを受けて、垣根はそっと真守の唇に自分の唇を重ねた。

 

「ん」

 

真守は垣根とキスができて幸せを感じて小さく唸る。

 

「……垣根。約束守ってくれて、ありがとう」

 

長いキスの後、真守はとろんとした表情をしながら垣根に自分の気持ちを伝えた。

 

「当たり前だろ。このバカ」

 

いつものように口が悪い垣根を見て、真守はふにゃっと笑った。

 

「深城と帝兵さんは? 緋鷹は?」

 

「安心しろ。ちゃんと一緒に帰ってきてる。源白はいま林檎と一緒に寝てるぞ。お前が望むなら起こしてきてやる」

 

垣根の申し出に、真守はふるふると首を横に振った。

 

「垣根が一緒にいてくれるだけでいい」

 

「そうか」

 

垣根は真守の頭に手を伸ばして、ゆっくりと撫でながら笑う。

真守は垣根の大好きな大きな手に頭を優しく撫でられて、嬉しそうに目を細めた。

 

「他のみんなは?」

 

一方通行(アクセラレータ)たちも問題ねえ。あいつ、羊皮紙と引き換えに暗部組織の解体を要求しやがったぞ。本格的に悪党辞めるつもりらしいな」

 

垣根が気合の入っている一方通行(アクセラレータ)に笑っていると、真守は寂しそうに笑った。

 

「上条は?」

 

「………………。……北極海で行方不明だ」

 

垣根は心底言い辛そうに真実を告げた。

 

上条当麻は消息を絶った。

 

ベツレヘムの星が向かって落ちた北極海を探したが、どこにもその姿がないのだ。

 

垣根も学園都市にいたカブトムシを派遣して学園都市と別口で探しているが、消息が掴めない。

 

死体も上がってこないのだ。どこかで生き延びている可能性があるが、まったく情報が掴めていなかった。

 

あの時カブトムシで上条を援護できればよかったのだが、真守から溢れた『アレ』によって食い潰されてしまったし、唯一残っていたカブトムシも深城に力の供給をしていたので無理だった。

 

「大丈夫だぞ」

 

垣根が歯噛みしていると、真守は垣根の頬に手を添えて微笑む。

 

「上条は生きてる。帰ってくる。基準点が死ぬはずがない」

 

真守は柔らかく垣根の頬を撫でて、目を細める。

 

「私は上条が学園都市に帰ってくるのを待つよ。信じて待つ。だから一緒に待とう、垣根」

 

「……そうだな」

 

垣根は自分の頬を撫でる真守の小さな手に自分の手を重ねて微笑む。

 

「上条が生きてるってお前が信じられるなら、俺も信じられる。だから一緒に待ってやる」

 

垣根はゆっくりと真守を引き寄せて優しく抱きしめる。

 

そして優しく頭を撫でて真守の少し高い体温を感じる。

 

「愛してる、真守。無事に起きてくれて本当に良かった」

 

垣根の心の底からの愛の告白に、真守も垣根の腰に腕を回しながら微笑む。

 

「ありがとう、垣根。私も垣根のことだいすき」

 

そして真守は体を少し離して、ふにゃっと笑って垣根を見上げた。

 

「ずぅっと一緒だぞ。ずうっとだ、垣根」

 

「ああ」

 

垣根は真守の言葉に柔らかく笑った。

 

「今更手放せるわけねえだろ。バーカ」

 

垣根は柔らかく笑って、ズボンのポケットに入れていたものを取り出す。

 

それは垣根が真守に渡した指輪だった。

 

光の加減で虹色に光る、精緻(せいち)な模様が刻まれた銀の指輪。

 

それを垣根は、同じ指輪をつけている右手で真守の右手薬指に優しく通す。

 

「お前は俺のモンだ。俺の女だ。永遠にな」

 

真守は垣根に右手薬指に再び通してもらった指輪を見つめながら、とろけるようにふにゃっと笑った。

 

「うれしい」

 

真守がにこにこと笑うので、垣根も嬉しくて笑う。

 

「だいすき、垣根」

 

真守はぎゅーっと垣根に抱き着きながら微笑む。

 

「世界が変わっても、何があってもずぅっと一緒だ。絶対に、絶対だぞ?」

 

垣根は小さな真守の体を優しく抱きしめて首筋に頬を摺り寄せる。

 

「ああ。もちろんだ」

 

絶対能力者(レベル6)という永遠の命を持つ朝槻真守。

 

無限の創造性という永続性を持った垣根帝督。

 

それぞれの永久(とわ)を保有する二人は、絶えず変わっていくこの学園都市で共に生きていく。

 

この世界が続く限り。そして、この世界が終わってしまったとしても。

 

いつまでも。

 

永遠に。

 

ずうっと一緒に。

 

 

だから。

 

大切な友人である上条当麻を、二人は待ち続ける。

 




ロシア篇、終了。旧約完結です。

ここまで来られたのは一五八話もの膨大な話数を読んでくださる皆様がいてこそです。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

新約篇ですが、ストックの関係で週一投稿になる予定です。
スケジュールの調整もあり、三月から投稿を始めようと思っておりますが、それまで数話、場繋ぎとして閑話休題を不定期投稿する予定です。(以前あとがきに書いた偶像時空も……!)

また、一月三一日月曜日昼頃に活動報告にて『超能力者(レベル5)に対応する天使の考察』を上げる予定ですので良ければご覧ください。真守ちゃんについても触れております。

それと今年の一月にTwitterを始めました。※詳細はハーメルンのユーザープロフィールにあります。
そちらの方では『流動源力』の投稿予定日や裏話、そしてとある原作の考察などを日常的な呟きと共に上げていきますので、良ければご覧ください。

旧約篇はこれにて終了ですが、新約篇でも垣根くんと真守ちゃんの物語は続きます。
今後とも『流動源力』をよろしくお願い致します。


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