そんな中、アイドルとなった
「ふふ。ふふふ。ふはははっ……!!」
SNSをチェックしている垣根の口から不敵な笑い声が
垣根がご機嫌になっているのは、垣根帝督と朝槻真守によるカップリングアイドル企画がSNSで話題になっているからだ。
「
「垣根、良かったね」
「朝槻と垣根が人気になって、私も嬉しい。朝槻も垣根も好きだから、もっと頑張って欲しい」
林檎はテレビで放映された垣根と真守のカップリングアイドル企画の録画を見ながら、とても嬉しそうに呟く。
「真守のこと知ってたのか?」
「朝槻は前に大好きなハンバーガーの広告と一日店長やってた。だから好き」
垣根は食事が好きな林檎が食いついた真守の知るきっかけとなった仕事を聞いて、片眉を少し動かす。
そして垣根は林檎に向き直って、
「林檎。真守はな、食事関連の仕事はあんまり得意じゃねえんだ。アイツを知るきっかけになったのは良いが、アイツに直接会ってそのこと言うんじゃねえぞ。それで好きになったって言ってもアイツを困らせるだけだ」
「どうして?」
「真守は超偏食家なんだが、アイツの偏食って味の好き嫌いじゃないんだ。ハンバーガーとか具材がたくさん使われている食べ物食べて、色んな食感が一度に来るのが苦手なんだよ」
口の中の感覚が鋭敏だから刺激され過ぎると不快に感じるらしい、と垣根は続け、真守のことを思ってため息を吐く。
「無理ならやらなくてもいいのにな。それでもしっかり仕事こなしてる辺りが、流石トップアイドルって感じだな」
垣根が素直に真守に感心していると、同じ部屋で事務処理をしていた
あの俺様気質の垣根が他人を
「……いつの間に彼女と仲良くなったの?」
「カップリングアイドル企画を一緒にやってくんだから、互いのこと知る必要あるだろ。だからちょくちょく連絡とってるんだ」
「ふうん。関係は良好ってことね。上辺だけの付き合いじゃボロが出るから良かったわ」
「これも企画を成功させるためだ。そのためならどんなことだって俺はする。そのおかげで企画は無事にファンに受け入れられ、良好に進行してるんだよ」
垣根が自分の行いの結果で企画が上手くいっていると告げると、そこでパソコンに向かっていた誉望が涙を光らせながら肩を落とす。
「ファンが受け入れられるように、SNSから情報集めた俺が企画調整を頑張ってるおかげスよ……」
「誉望。お前、今なんか言ったか?」
垣根はソファに座ったまま誉望へと目を向ける。
「何にも言ってません。垣根さんがガンバッテルオカゲデスネ」
誉望がカタコトながらも認めたので、垣根はふん、と鼻を鳴らす。
「そうに決まってるだろ。
「えーっと。『カップリングアイドル特別企画、ドキドキ☆シチュエーションデート!! 水族館編』……らしいわよ」
「なるほど。デートか、任せておけ。俺が完璧なエスコートを見せてファンを魅了してやる」
(
──────…………。
真守は第六学区の中央駅前にやってきていた。
そこには黒い水玉シャツにジーパン、そしてウォレットチェーンを下げて帽子を被った垣根帝督が立っていた。
「垣根」
垣根は真守に名前を呼ばれて顔を上げ、そして真守の姿に目を見開く。
白いシフォンワンピースに黒いジャケットコート。それに黒のニーハイソックスとスニーカー。そしていつもの猫耳ヘア。
女の子らしさ満開の真守の勝負服に垣根は固まった。
「ま、待たせちゃったか?」
真守がはにかみながら告げると、真守に見惚れていた垣根はハッと息を呑み、そこで現実に帰還した。
「いいや! ……俺も今来たところだ」
真守と垣根は二人で押し黙る。
(ど、どうしよう……)
真守は目を逸らしながら心の中で考える。
(……ヤバいな)
垣根は被っている帽子に手を触れながら心の中で呟く。
(想像以上にかっこよすぎる)(想像以上にかわいすぎる)
「ハイカーット。今の互いが綺麗だって思った感じいいねーっ! 次のシーン行こうかー!」
真守と垣根は互いに見惚れていたが、監督の声が聞こえてきてハッとする。
そして風に吹かれて乱れた髪の毛を直すためにメイク担当が走ってくるので、どぎまぎしながらも二人共対応していた。
こうしてカップリングアイドル企画、『カップリングアイドル特別企画、ドキドキ☆シチュエーションデート!! 水族館編』の撮影は始まり、順調に撮影は進んでいた。
──────…………。
真守と垣根は撮影の準備を待つ暇つぶしのために、水族館の一番大きな水槽の前へとやって来ていた。
「あれはトンガリサカタザメ、あっちはマグロにカツオだな。あれは……んー……ホシエイかな」
様々な魚たちが泳ぐ中、真守は一つずつ指を差して魚の名前を言っていく。
「よく覚えてるな。水族館好きなのか?」
「ん? 特に好きとかじゃないぞ。一度覚えたものは大体忘れないからな。だから覚え方間違ってなかったら合ってると思うぞ」
(一回覚えたら大体忘れない? ……そういやコイツの能力の詳細を聞いたことなかったが、頭が良いってことは能力者として優秀なのか?)
垣根は真守の言葉に内心で首を傾げていると、真守が垣根を見た。
「垣根は水族館とか遊園地とか、よく来るか?」
「あーウチにそういうのが好きな幼女がいるからな。ほら、お前のサインをせがんだヤツ」
真守は垣根に以前、サインが欲しいと言われたことを思い出して頷く。
「杠林檎って子だな。私のこと好きになってくれてありがとうって言っておいてくれ」
「今日連れて来てるからな。後で言ってやれ」
「来てるのか?」
真守が目をきょとっと見開いて問いかけると、垣根は林檎のことを考えて笑う。
「さっきも言っただろ。水族館が好きなお子サマなんだ。俺たちは収録あるから一緒に周れねえって言っといたから、そこら辺でお守してる弓箭と楽しんでるだろ」
真守は垣根から出た林檎とは違う人物の名前を聞いて目を開いた。
「! 弓箭と垣根は友達なのか?」
垣根は真守の問いかけに顔をしかめる。
統括理事会直轄の組織、『スクール』として共にチームを組んで、番組の収録で仲間として動いてはいるが、友達ではない。
「一緒にいるだけだ。友達じゃねえ」
そのため垣根がばっさり切り捨てると、真守はふーんと声を上げた。
「そうなのか。弓箭とは一緒に遊ぶ仲なんだ。街中で寂しそうにしてたから声掛けたら、気に入られてしまって」
真守がはにかみながら告げると、垣根は金の瞳に黒い髪をツーサイドアップにした弓箭猟虎を頭に思い浮かべ、『はん』と嘲笑した。
「あいつ、ぼっちだもんな」
おおよそ本人が聞いたらショックを受けることを垣根がはっきり言い放つと、真守は柔らかい笑みを見せた。
「とっても良い子だぞ。友達を作るには距離の取り方が重要だって教えたら、その通りにして私以外の友達作れたし」
垣根は真守のフォローを聞いて目を
友達の作り方を教えるまで真守と弓箭の仲が深いとは思わなかったからだ。
「……ふーん。面倒見いいんだな」
垣根が少しの嫉妬を込めて告げると、真守ははにかむように笑う。
「そうだと思う。私、人が頑張ってるのを応援するのが好きなんだ」
真守はそこで言葉を切って垣根の顔をまっすぐと見た。
「だからとても頑張っている垣根のことも応援したくなるんだ。そんな垣根のために私ができることは、カップリングアイドル企画を成功させることだ。だから私は精一杯を尽くす。あんまり分からないかもしれないけれど、私も結構気合いを入れて取り組んでるんだぞ」
垣根は突然自分に矛先が向かってきたので目を見開く。
真守がそこまで自分のことを評価して、真守自身も力になりたいと思って行動しているとは思わなかったからだ。
「……そうか」
垣根は真守の気持ちが単純に嬉しくてそっと目を伏せて笑う。
「朝槻さん、垣根さーん! 準備お願いしまーす」
そこでスタッフから声がかかったので、真守はスタッフがカメラを準備している方を見た。
「はーい。行こう、垣根!」
真守はふにゃっと笑うと、垣根の手を引いて歩き出す。
「あ、おい。分かってるから引っ張るなって」
垣根は真守に突然引っ張られて口では不機嫌になっているが、穏やかな気持ちだった。
打算で始めたカップリングアイドル企画だったが、今は真守のおかげで楽しく収録をしていた。
──────…………。
乗り気な垣根とやる気の真守の収録は
無事に食事風景を撮影し終わった真守と垣根は、丁度良いので二人で昼食休憩をしていた。
「……おい。大丈夫か」
垣根は真守が心配になって、思わず声を掛ける。
「大丈夫だぞ。私はこれでもアイドルだ。それに、ペペロンチーノみたいな味が単一化しているのは美味しく食べられる。だから大丈夫」
真守はしきりに大丈夫だと告げて、アサリのペペロンチーノを口にぱくっと入れる。
小さい口であむあむと食べているのは大変可愛らしいが、垣根は気になることがあった。
「……さっきからアサリに手、付けてないけど?」
真守は垣根に指摘されてドキッと体を振るわせる。
垣根の指摘通り、真守は先程からパスタばっかりを口にしており、皿にはたくさんのアサリが残っていた。
「……べ、別々に食べればお口の中は大変にならないから完食できる。だから大丈夫だ! ……そう、別々なら大丈夫なんだ。……そうすればパスタのもちもちとアサリのもにゅっとした感じが一緒に来ない……だから大丈夫……」
(お口って……かわいい言い方するなあ)
垣根は必死で自分に言い聞かせている真守がかわいくて小さく笑い、自分のフォークを振りながら真守に声を掛けた。
「ほら、こっちに寄越せ」
「へ」
真守が目をきょとっと見開くと、垣根は真守のペペロンチーノのアサリを見ながら告げる。
「食べられないなら食べてやる。しっかし、お前いつも苦労してるんだな。既製品なんてほとんど食えねえだろ」
垣根はアサリをフォークで刺してぱくっと食べる。
真守は間接キスに顔を赤らめながら、ぽそぽそと告げる。
「……深城が私のご飯作ってくれるんだ。既製品で食べられないものがあったら、深城が食べてくれるし。私は深城に甘えてばっかりだ。……でも食べ物に関しては本当にどうしようもないんだ」
真守は学園都市に人体実験と称されてご飯を貰えなかったことがあった。
そのため口内の感覚が鋭敏になり、食事を摂るのが難しくなってしまったのだ。
「深城?」
垣根は真守が食事をするのが大変になった理由ではなく、聞いた事のない少女の名前について首を傾げる。
真守は垣根の疑問を受けて、ちらっとヘアメイク担当と話をしている深城に目を向けた。
「源白深城。私のマネージャー。私のとっても大切な女の子だ」
真守がふにゃっとした笑顔を見せるので、垣根は真守の視線の先にいる深城を見た。
一二歳くらいの少女だ。
アレでもトップアイドルのマネージャーをやっているのだから、相当敏腕なのだろう。
「……ふーん」
垣根は真守が深城のことを本当に大事にしているのに気が付いて面白くなさそうに声を上げた。
「垣根?」
「何でもねえよ。ほら。もっと皿こっちに寄越せ。他のアサリも食べてやる」
「垣根は優しい。本当にありがとう」
真守がふにゃっと安心したように微笑むので、垣根は目を逸らす。
「別に優しくねえよ。……別にな」
垣根は真守を打算的に利用していることに胸を痛めながら呟く。
真守はにこにこと笑って垣根へと皿を寄せ、アサリを食べてもらう。
そんな真守が愛しくて。
垣根はフッと柔らかな笑みを見せた。
──────…………。
真守と垣根はロケバスに乗り込み、帰路についていた。
真守と垣根は隣同士で座っており、他の者たちもそれぞれ座席についていた。
杠林檎という少女も垣根の隣に座ってはいるが、遊び疲れて眠りについていた。
「垣根。今日も収録楽しかったな」
「撮影もうまくいったしな」
真守は垣根と軽く今日の話をしながらタブレットに目を落とす。
「明日も一緒の収録だよな。……えーっと、
真守がスケジュールに入っている収録の内容に首を傾げていると、垣根が真守を見た。
「ブロマイドがおまけとしてついているポテチだよ」
「へー、そんなのがあるのか」
垣根の説明を聞いて真守が感心した声を上げると、垣根は頷く。
「グラビアカード全三五種類とシークレット一種。特製ホログラム使用のレアカードやサインが入ってたりするんだぜ」
「そうなのか。垣根は全部のカード知ってるのか?」
「いや。自分のカードしか確認してない。ああいうサンプルは貰わないようにしてるんだ。本当に欲しいならきちんと買った方が良いだろ。金ないわけじゃねえしな」
垣根が何の気なしに自分の
「ちゃんとスタンスがあるんだな、垣根。……ところでシークレットって誰だろうな? ……ええっと、やっぱり
真守が
「違うみたいだぞ」
真守はそこでとても嫌な予感がした。
「…………じゃあ、誰だ?」
「消えた八人目の
真守の嫌な予感は的中し、それに真守は小さく息を呑む。
「つっても人の興味を引くためにシークレット作ったんだろ。もしそのシークレットを引き当てたとしても、それが本当に八人目なのか誰にもわからねえしな」
消えた八人目の
所詮、一般人の関心を引くためのシークレット枠だ。
垣根がそう断言すると、真守はひくっと口を引きつらせながら『そ、そうなのか』と、頷く。
「どうした、真守」
垣根が首を傾げて問いかけてくるので、真守はふるふると首を横に振った。
今日の収録はオフを装ったシチュエーションデートで、髪の毛を猫耳ヘアに結い上げているだけで良かった、と真守は心の底から本当に思った。
そうでなければアイドル用の脳波検知で動く猫耳と尻尾をつけており、それによって真守は垣根に焦っていることが駄々洩れになってしまうからだ。
「なんでもないぞ、垣根。ちょっと気になっただけだ」
真守はアイドル仕込みの完璧な笑みを垣根に見せる。
だが心中は穏やかではなかった。
(わ、私のグラビアカード……っ!?)
垣根帝督は自分の上にいる
そのため本当は第一位になるはずだった
(ど、どうしよう……収録ってことは私のカードも出てくるのか……っいや、上層部と取引したから私の存在が公になることはない。……でも、万が一ってことがあるし……っ)
真守は焦りながら胸がズキッと痛んだのを感じた。
朝槻真守は学園都市上層部に利用されるのが嫌で
その事実を、垣根にどうやって打ち明けたらいいか分からない。
どうすれば順位に固執している垣根が傷つかないで、今まで通りに付き合っていくことができるようになるのか分からない。
何が最善の策になるかまったく思い浮かばず、真守は胸の痛みをただただ感じていた。
垣根くんと真守ちゃんの仲が大分縮まってきました。