真守は控え室でマネージャーの深城と顔を突き合わせていた。
「メーカーに問い合わせてみたらね、学園都市上層部から直々にオファーがあって真守ちゃんのグラビアカード作ったって言ってたよ。どうやら上層部はグラビアカードで真守ちゃんに注目を集めて、
深城が調べた限りの情報を報告する中、真守は手元にあるブロマイドを見ていた。
それは
「シークレット枠は超超超超超レアだから、SNSでもシークレットが出たって話はないねえ。でもこれから出るかもしれないし、バレる確率は変わらずにあるねえ」
真守は深城の推測を聞いて顔をしかめる。
「真守ちゃん。真守ちゃんはさ、どぉしたいの?」
深城は
深城が柔らかく問いかけてくるので、真守は眉を八の字に曲げながら自分の気持ちを吐露した。
「…………垣根に隠してるのが心苦しい」
垣根帝督は
順位に固執している垣根に『実は
「だいじょぉぶ」
深城は真守に笑みを向けながら、真守のことをそっと抱きしめた。
「きっと垣根さんは分かってくれるよ。絶対に分かってくれる。だって優しい人だって真守ちゃんは思うんでしょ? だったら大丈夫」
真守は小さな深城に抱きしめられると、そっと深城の背中に手を回す。
「ちゃんと、言う」
真守はそう呟くと、深城から体を離して深城をまっすぐ見つめた。
「垣根に伝える。それで垣根がもうカップリングアイドル企画やりたくないって言うなら、予定より早いけれど、私が話を付けて円満に終われるようにする」
「よぉし、良い子だ」
深城はにへらっと微笑んで、真守の頭を撫でる。
「じゃあ善は急げだね、真守ちゃん、行ってらっしゃい」
真守は深城に応援されてしっかりと頷いた。
「行ってくる。……深城」
「なぁに?」
真守は最後にきゅーっと深城を抱きしめる。
「ありがとう、深城。いつも一緒にいてくれて、力になってくれて。……本当にありがとう」
「……うんっ。いつまでもずぅっと一緒にいるよ。それにあたしは真守ちゃんにいつも助けてもらってるから。だからお互い様!」
深城は真守の首筋に頬をすり寄せて微笑み、真守から離れてふりふりと手を横に振った。
「頑張ってね、真守ちゃん」
真守は深城からの声援を受けて頷くと、垣根の控え室へと向かった。
──────…………。
「……
垣根は縮こまった真守の前で、真守から聞かされた身の上話に思わず呟く。
「学園都市の理念は
真守の動揺した声の推測を聞いて、垣根はぎりり、と奥歯を噛みしめる。
朝槻真守は源白深城が学園都市の『闇』で命を失いそうになった悲劇に直面した。
だから学園都市の『闇』が喜びそうな利益を生み出したくないと宣言し、
だがそれで真守のことを学園都市が諦めるわけがない。
垣根はそれをよく知っている。
だから真守を
真守はずっと自分を利用しようとする学園都市に抗っていたのだ。
たった一人で、大切な少女を守ろうと踏ん張っていた。
そんな少女を、誰が責められるだろうか。
「真守」
垣根が優しく真守の名前を呼ぶと、真守は顔を上げた。
「一人で抱え込むな。今は俺と一緒に企画やってんだ。だから俺を頼れ」
真守は目を見開いて垣根をまっすぐと見た。
「……隠してたのに、ゆるしてくれるの?」
「お前のどこに非があるんだよ。むしろ良く俺に素直に話したな、お前。
垣根が笑って真守の猫耳ヘアを避けて頭に手を置くと、真守は目をウルウルと
「じゃあ、垣根はこれからも一緒にカップリングアイドル続けてくれるのか?」
「当たり前だろ。好調なんだからここで辞める理由はねえ。……それに、お前とやってるこの企画で
垣根の言う通り、垣根は先日、ついに
真守のおかげで
「感謝してる、真守。ありがとな」
真守はそれを聞いてぐすっと鼻を鳴らすと、垣根に抱き着いた。
「かきねぇ……っよかった……っかきねが傷つくかと思って、怒るかと思って……っわ、私……言えなくて……っ」
「バーカ。アンチに慣れてるトップアイドルの俺が傷つくわけねえだろ。……それに、俺はお前のこと気に入ってんだ。怒るわけねえだろ」
「……ほんとう?」
真守はぽろっと涙を
「ああ。それにお前と一緒にアイドルやって分かったことがある」
垣根は真守の涙を
「ファンが喜んでくれれば、なんだっていいってな」
朝槻真守は学園都市上層部との交渉で嫌々アイドルにさせられたとしても、ファンに対しては真摯に向き合っていた。
塩対応の神アイドルとして。ファンを愛し、そしてそんな真守をファンも愛している。
そんな神アイドルとして完璧な少女の
真守はそれを聞いて、感激で眉を八の字にする。
「かきねー……っ」
「泣くなよ。メイクする前っつっても目が腫れたら意味ねえだろ」
垣根は感極まって泣く真守のことを
真守は垣根に隠し事がなくなってすっきりとした顔で、柔らかい笑みを浮かべる。
「ありがとう、垣根。私も収録の準備してくる。だから今日の収録も一緒に頑張ろうな」
真守がふにゃっと笑うと、垣根は真守の猫耳ヘアを崩さないように頭を柔らかく撫でた。
「ああ。今日もよろしくな、真守」
垣根が目を細めると、真守はコクッと頷いて部屋を後にする。
垣根は真守が去った後、部屋の中でぽそっと呟いた。
「……許せねえな」
垣根が怒っているのは真守に対してではなかった。
真守のことをどうやっても利用しようとする学園都市に、怒りを向けていた。
『
『
「……だったら俺がトップアイドルとして君臨し続ければ、ファンが真守と
垣根は学園都市の思惑を知って、そこで一つ笑う。
「学園都市のやり方には飽き飽きしていたんだ。真守のためにも、俺のファンのためにも。アイドルを続けてやるよ」
垣根はそこで拳をぎゅっと握って宣言する。
「俺がトップアイドルとして、この学園都市を支配してやる────!」
垣根は決意を瞳に宿し、そのために動き始める。
学園都市と懸命に戦っている真守のために。
自分のことを応援してくれるファンのために。
トップアイドルであり続けることを、垣根帝督は誓った。
そして部屋を訪れたメイク担当と打ち合わせをし、セットを終わらせると収録へと向かった。
「垣根、頑張ろう」
真守がふにゃっと笑いかけてくるので、垣根は頷く。
そして今日も、カップリングアイドル企画を収録するのであった。
──────…………。
真守が垣根にアイドルになった経緯を話した数日後。
垣根は変わらずに忙しい日々を過ごしており、今日も収録をしていた。
『さあ今晩も始まりました! 本日のゲストは学園都市でトップアイドルの地位を担う三人……
MCの紹介が入り、MCに呼ばれた
そして料理スタジオと、その前に立っている三人、そして番組企画のロゴがカメラに映し出される。
『さあ今日は一体どんな料理バトルが繰り広げられるのでしょうか──!? 司会の私もテンション上がってまいりました! それでは「どっちがクッ
湧き立つ観客席。
今日はアイドルの
垣根帝督ももちろん集められた中にいて、収録のためにポーズを取っていた。
だが、垣根は内心穏やかではなかった。
何故なら────。
『では審査員を発表します! 審査員はこの方! 学園都市のトップアイドル、朝槻真守さんです!!』
司会の言葉と共に、真守は完璧なアイドルスマイル(食関係仕事用)で現れる。
『偏食家として有名な朝槻真守さんを
(真守は超偏食家っつっても味覚の方には問題はねえ。問題なのは口の中の感覚が鋭敏で、色んな食感を一度に味わうことなんだが……審査員なんてやって、本当に大丈夫か……?)
垣根は明らかに営業スマイルを浮かべてファンの期待に応えている真守をちらっと見ながら、心の中で呟く。
『三人と朝槻さんの関係性と言えば、
(こいつらアイツと関係あンのか)
(
(カップリングアイドル企画は朝槻さんから聞いているけど、第一位は朝槻さんと先輩後輩なのね……)
『では御坂美琴さんの出番でーす!』
司会が声を上げると、美琴が料理器具を持って前に出る。
「はーい、がんばりマース」
美琴はにこにこしながら料理を始める。
途中美琴のマネージャーである白井黒子が何か言いたそうだった
「はい、朝槻さん! 魔法のオムライスできましたよ!」
「あ、ありがとう……」
真守は目の前に出された稲妻がケチャップで描かれているオムライスを見る。
そしてスプーンを手に取ろうとしたら、美琴が手の平を真守に向けた。
「待った!」
「……な、なんだ?」
真守が営業スマイルで食べたくないというオーラを隠して美琴を見ると、美琴は恥ずかしそうに顔を赤らめて汗を流していた。
「?」
真守が首を傾げていると、美琴はだらだらと冷や汗を流しながら告げる。
「こ…………こ、……ここで、おいしくなる呪文を唱えます♪」
真守は美琴が何か痛いことを言い出したとジト目をしながら、オムライスの皿をスッと美琴へと向ける。
美琴はそんな真守の前で、薄い胸の前でハートを作り、ウィンクをする。
「おいしくなぁれーるがん♡ ちゅーにゅー☆」
「「「ミ・コ・ト!! ミ・コ・ト!!」」」
莫大なコールが流れる中、真守は何とも微妙な気持ちになりながらオムライスに手を付ける。
垣根はその様子をはらはらと見つめていた。
オムライスはトマトケチャップに薄い卵。そしてケチャップライスで構成されている。
しかも美琴の料理風景を見ていた垣根だが、ケチャップライスにはグリーンピースに玉ねぎに鶏肉というオーソドックスな具材が入っている。
真守は味に好き嫌いはないが、感覚が鋭敏なため食感が異なる食物が一斉に口に入ってくるのが苦手だ。
あの具だくさんを一気に食べたら確実にヤバい。
垣根がそう思って見守っていると、真守はオムライスの卵とケチャップライスを一緒に食べた。
むぐ、と真守は顔を引きつらせたが、頑張ってもぐもぐと食べる。
「…………ケチャップライス……の、酸味が利いていてオムライスの卵のふわふわで塩味が効いていて、トテモいいデスネ……」
真守はにこやかに笑顔を見せるが、その瞳が笑っていない。
(よく頑張ったな……っもうゴールして良いぞ、真守……!)
垣根は食レポをしっかりしている真守を見て保護者目線で応援してしまう。
『次は垣根帝督さんの番です! カップリングアイドルとして絆を見せられるかーっ!?』
垣根は司会に言われて料理を開始する。
真守は単一な味付けで、食感が均一化しているものを好んで食べる。
だがそれだと飽きが来てしまうのだ。
そのため真守は完食をしたことがほとんどない。
真守の好みを完璧に把握している垣根は手早く料理を作り上げる。
垣根が作り上げた料理とは、市販のうどんを使った誰でも簡単にできる温かいうどんだ。
だが市販のうどんを使っているとしても、垣根はつゆの出汁をきちんと取り、薬味であるネギや味変ができるカレースパイスを用意した。
「真守、これが良いんだろ?」
垣根が告げると、真守は目の前に置かれたうどんに目を輝かせた。
うどんは垣根が初めて真守に作ってあげた料理で、真守の大好物なのだ。
「い、いただきますっ」
真守は顔を明るくしてはむっと一口食べる。
そしてちゅるーっとうどんを食べて幸せそうに顔を明るくする。
「お出汁がとても優しくて、これなら誰でも食べられると思う。とってもいいと思うぞっ」
真守が柔らかな笑顔を浮かべて告げるので、観客席の人々は一斉に携帯電話を
(この収録が放送された翌日の飯はうどんで決まりだな……!)
垣根はこの番組が流された日にはうどんがバカ売れするだろうと笑っていたが、まだ勝利を確定できたわけではない。
後には炊飯ジャーで料理を作っている
「おあがりよォ!!」
真守は煮込みハンバーグをじぃーっと品定めするために見つめる。
(くっ……煮込みハンバーグだと……っ!? 味は単一、しかもデミグラスソースは刺激物じゃない。……あいつ考えやがったな……!?)
垣根は心の中で
真守の顔色があまりすぐれないのだ。
(そうか…………っキノコか!!)
煮込みハンバーグのデミグラスソースには、マッシュルームやしめじが使われている。
デミグラスソースを食べなければならないのであれば、マッシュルームやしめじを避けることはできない。
「で、デミグラスソースはとても深みがあって美味いぞ。あ、後生クリームのハーモニーがとても良いと思う……っ」
真守は
その時点で、誰が勝ったかは明白だった。
垣根帝督が勝利したことにより、カップリングアイドル企画の宣伝権利を獲得。
真守と垣根は仲の良さをアピールすることができた。
カップリングアイドル企画をやっている二人の絆が本物だとして、会場は湧き立つ。
この収録によってカップリングアイドル企画には一層の注目が集められ、垣根帝督は野望であるトップアイドルへと、また一歩確実に近づいた。
とある偶像の流動源力さま、次回が最終回です。
自分的にはとても上手くまとまったと思うので、お楽しみいただけると幸いです。