とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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Extra:05投稿します。


Extra:05:とある偶像の流動源力さま〈永遠篇〉

超能力者(レベル5)をアイドルとしてデビューさせ、ファンの力で絶対能力者(レベル6)への進化(シフト)(うなが)す、絶対偶像進化(ミラクルアイドリゼーション)計画が進行中の学園都市。

 

トップアイドルである朝槻真守と超能力者(レベル5)アイドルである垣根帝督はカップリングアイドル企画を行っており、それは順調に実を結び、二人の絆も深まっていた。

 

「真守ちゃん、今年も届いたよぉ!」

 

真守が自宅のリビングのソファでごろごろしていると、深城の声が響いた。

トップアイドルとして日々を(せわ)しなく生きている朝槻真守だが、今日は珍しくオフなのだ。

 

「何が届いたって?」

 

真守が体を起こして深城を見ると、深城は荷台に大量の段ボールを載せていた。

 

「バレンタインチョコ!」

 

「……ああ、もうそんな時期なのか」

 

真守はとことこ歩いて深城の近くに行き、一番上に積まれている段ボールに入っているバレンタインデーの贈り物を見つめる。

 

「外国では男の人が女の人に贈り物する日だからねえ。それに(のっと)って男の子からもたくさん来てるよぉ」

 

「えー……日本なんだから別に外国の風習に(のっと)らなくてもいいだろ」

 

真守は段ボールから出ているバラの花や、バラの花を持っているぬいぐるみを見て顔をしかめる。

 

「まだまだたくさんあるんだよ。あ。ちなみに全部事務所の人総動員で内容物に異物が混入してないか確認したから、これはだいじょぉぶ。あ、あとあと、真守ちゃんがチョコあんまり好きじゃないって言うんで、大半がぬいぐるみとか花とかアクセサリーだから、チョコは少ないよ」

 

「この段ボールの山だけじゃないのか? 年々増えていっているぞ……ファンの子たちからのプレゼントはもちろん嬉しいけれど、いつも色々買ってもらってるからバレンタインにまでわざわざ贈らなくてもいいのに」

 

真守はファンの気合いがこもった明らかに高価なジュエリーケースを手に取って、困り顔をする。

 

「みんなが真守ちゃんのことを想ってる贈り物だから、真守ちゃんは笑顔で貰って、今度のライブでいっぱいお返しすればいいんだよぉ」

 

深城は困り顔をしている真守にぎゅーっと抱き着いて微笑む。

 

「あ」

 

真守は深城にぎゅーぎゅー抱きしめられながら声を上げた。

 

「どぉしたの?」

 

深城が小首をコテッと傾げると、真守は顔をしかめて深城を見上げた。

 

「……垣根に、プレゼント用意してない」

 

深城は真守が凄い顔で汗を垂らしながら告げるのを見て、目を(またた)かせる。

そしてにやーっと笑って何度も頷いた。

 

「ふぅーん? へー、そぉなんだぁ?」

 

「なんだその反応。ちょっと(しゃく)(さわ)る」

 

真守が全て理解しました風に頷く深城の姿にムッと口を尖らせると、深城はくすくすと笑う。

 

「これまで男の子に全く興味なかった真守ちゃんが誰かにチョコあげようって思うなんて、なんだかすっごい嬉しくて。怒った?」

 

「……別に怒ってない。ちなみに垣根にあげるチョコは既製品だからな。私はもちろん作らないぞ。……あ、でも垣根もこうしてファンからチョコ貰ってるなら、チョコじゃなくてプレゼントの方がいいか……?」

 

真守が思案顔をしていると、深城は真守から離れて大きなバッテンを作った。

 

「だぁめ! やっぱり気持ちのこもったものは手作りなんだよぉ!」

 

「無理だよ。私、料理したことないから」

 

真守は超偏食家であまり料理に関心がなく、いつも深城にご飯を作ってもらっている。

そのため料理は愚か、包丁にだって触ったことがないのだ。

 

「ふっふふー」

 

真守が料理は無理、期待するなと眉を跳ね上げさせていると、深城が不敵な笑い声を零す。

嫌な予感がする。

そう思って真守がげんなりしていると、深城は真守から離れて、ないに等しい胸を張った。

 

「あたしが一緒に作ってあげる! ちょぉっと変わったバレンタインのプレゼント!」

 

真守はそれを聞いてため息を吐いた。

深城は割と頑固だ。そのため一度やると決めたことは必ずやる。

 

「分かった。ただし深城がほとんどやるんだからな。私は必要以上のことはしないぞ」

 

真守がはっきりと宣言すると、深城は笑った。

 

「うん! 一緒にがんばろぉね!!」

 

深城は真守と料理ができる喜びでむぎゅーっと真守に抱き着く。

真守は顔をしかめつつも、自分に抱き着いてきた深城のことを思って小さく笑った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「なんだそれ」

 

垣根が収録から帰って来ると、林檎がわくわく顔でお鍋を持っているのに出くわした。

 

「深城と朝槻が持ってきてくれたの!」

 

林檎はお鍋を持ったままくるくると踊り、テーブルにお鍋を置く。

垣根は林檎がパカッと蓋を開けたので、お鍋の中を覗き込む。

 

「ビーフシチュー? ……まさか真守が作ったのか?」

 

垣根が自分でも一〇〇%ありえないと考える推測をしていると、林檎が笑顔で答える。

 

「深城が中心になって朝槻と一緒に作ったんだって。深城の作るご飯はおいしいから大丈夫だって朝槻が言ってた!」

 

「本当に真守が……?」

 

垣根はビーフシチューを見ながら驚愕の表情をする。

真守のマネージャーである源白深城が主体となったと言えど、真守が料理を作ることがあるなんて、垣根は微塵も思ってもみなかった。

垣根は自分のために真守がありえない行動を取ってくれたことに驚きつつも、なんだかんだ嬉しくて顔がニヤけてしまう。

 

「でも、なんでビーフシチューなんだ?」

 

「バレンタインだって」

 

「バレンタイン? バレンタインってのは普通チョコだろ。なんでビーフシチューなんだ?」

 

垣根がビーフシチューとバレンタインチョコが結びつかずに怪訝な顔をしていると、林檎は人差し指を立てて嬉しそうに笑う。

 

「ビーフシチューにチョコが使われているんだって。だから実質バレンタインチョコ! 垣根はファンからもチョコ貰うでしょ? だから朝槻は垣根がチョコたくさんになって飽きないようにビーフシチューにしたんだって!」

 

「あー……そういや俺がファンからたくさんチョコ貰うのかって真守が聞いてきてたな」

 

アイドルはファンからのチョコを受け取らないと宣言する人間もいるが、垣根はファンが気持ちを込めたものならば貰わないわけにはいかないので、受け取ると言ってある。

 

体の一部分が入っていたりするものは流石に嫌だしごめん被るが、それでもきちんと精査して垣根はファンからのチョコを全部食べようとしていた。

 

だが今や垣根は超能力者(レベル5)のトップアイドルだ。

 

そのため大量にチョコが贈られてくると真守は予想し、チョコではなく一食分として消費できるビーフシチューを深城と共に作ったのだろう。

 

垣根は真守が自分のことを考えてくれたのが嬉しくて、ニヤニヤが止まらない。

 

「垣根! 早く食べよう! 早く!」

 

「分かった分かった。心理定規(メジャーハート)を呼んで温めてもらっから。少し落ち着け」

 

垣根は手をぶんぶんと振って食べたい食べたいコールを発する林檎を落ち着かせる。

そしてスケジュール調整をしていた心理定規(メジャーハート)を呼んで、垣根はビーフシチューを温めてもらって食べ始めた。

 

「本当に美味い。源白は料理上手なんだな」

 

垣根はほろほろと柔らかいお肉に感動しながら思わず呟く。

林檎はというと無言でバクバク食べており、垣根は林檎にがっつくなと注意した。

そんな林檎と垣根の目の前で一緒に食べていた心理定規(メジャーハート)は、ニンジンを(すく)いながら垣根に声を掛けた。

 

「一息つくと言ってもこれからも同じ業界で頑張るんだし、ちゃんとお返しはしておくのよ」

 

「あ? 一息つく? 何言ってんだ?」

 

垣根は心理定規(メジャーハート)から掛けられた言葉の意味が分からずに、怪訝な表情をして片眉を跳ね上げる。

 

「カップリングアイドル企画。もうすぐ終わりでしょう?」

 

垣根は心理定規(メジャーハート)から放たれた言葉の意味が理解できずに固まった。

 

「……終わり?」

 

「あら、忘れていたの? 来月上旬の収録で企画終了よ。前から決まっていたじゃない」

 

垣根はそこで思い出す。

真守とのカップリングアイドル企画は放送局が持ち込んできた企画だ。

だから終わりがある。

そうに決まっている。

 

「……そう、だったな」

 

垣根は企画終了をすっかり失念していたため、呆然としたままそう呟く。

 

(そうか。ずっとやるものとばかり思っていたが、アレは企画だから終わるに決まってるよな。そうだよな……)

 

垣根は自分が忘れていたほどに真守との企画に夢中になっていた事実に困惑する。

 

それほどまでに真守のことが気に入り、(とりこ)になってしまっていたのだ。

 

(真守は……企画が終わっても別に何も思わねえのか……?)

 

垣根は呆然と考え、自分の中にある感情を正しく理解した。

 

(……俺は、………………寂しい)

 

テレビ局主導であるカップリングアイドル企画を継続させる権利を垣根帝督は持っていない。

だからどうすることもできない。

垣根帝督はそれがとても悲しくて。

朝槻真守はどう思うのだろうと、真守が作ったビーフシチューを食べながら考えていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

バレンタインが無事に終わった某日。

真守はウェディングドレスを着た撮影の仕事に取り組んでいた。

 

「御坂。……と、お前が御坂と同じ学校の食蜂操祈か?」

 

ウェディングドレスでの撮影は一人ではない。

同じアイドルの御坂美琴と食蜂操祈と共に撮影をするのだ。

真守がウェディングドレス姿の御坂美琴と食蜂操祈を見ると、食蜂操祈はピースサインを目の横に持ってきて挨拶をした。

 

「はぁーい、朝槻さぁん。初めましてぇ☆」

 

「よろしくな、食蜂。……二人は同じ学校だが、一緒に撮影やるほどに仲が良いのか?」

 

真守が純粋な疑問を口にすると、美琴と食蜂は笑顔を見せた。

 

「仲がいいわけないでしょ」「仲は良くないわあ☆」

 

「……そうか」

 

(仲が良くなくても息はぴったりなのか……)

 

真守は笑顔で火花を散らしている二人を見て思わず呟く。

 

「そういえばどうかしら、朝槻さん。私がデザイン力を発揮して作り上げたウェディングドレスは☆」

 

食蜂は真守が着ているウェディングドレスを見ながら問いかける。

真守が着ているウェディングドレスとは、マーメイドラインで胸元からお尻に掛けてぴったりとしているウェディングドレスだ。

真守は胸があり、腰が細くて腹が薄く、尻が小さいといった典型的なアイドル体型だ。

そのため体のラインが綺麗に出るマーメイドラインのウェディングドレスが一番合うのだ。

 

「とっても気にいったぞ。私が好きなデザインにしてくれてありがとう、食蜂」

 

真守が自分のウェディングドレスを見ながら、手に持っているブーケをぎゅっと握り、微笑む。

真守がお礼を言うと、プリンセスラインのふんわりとしたウェディングドレスを着ている食蜂は再びピースを横にして目の横に(かか)げ、決めポーズを見せた。

 

「人の好みを全開力で考えるのは当然よぉ☆ 気に入ってくれて何よりだわあ」

 

蚊帳(かや)の外である美琴は、穏やかに会話をしている二人を交互に見ながら冷や汗を垂らす。

 

(この二人……やっぱりデカい……!)

 

美琴は食蜂ほどではなくて、普通に大きな真守の胸と、食蜂のどこからどう見ても大きい胸を見て、そして自分のぺったんな胸に目をやる。

真守は食蜂とにこやかに話をしていたが、会話を終えて自分の胸にぺたっと手を置いている美琴を見た。

 

「御坂も食蜂にデザインしてもらったのか? 良く似合ってるぞ」

 

「お子様力に合わせてデザインしてあげたんだから気に入らないはずないわよねぇ」

 

食蜂がニヤニヤ笑いながら自分の胸を触って顔をしかめている美琴に声を掛けると、美琴は胸に手を置いたままウェディングドレスを見る。

ふりふりのミニスカートの少しだけ子供っぽいデザインのウェディングドレスだ。

 

「……そうね、そこはどうもありがとう」

 

「え。何よ、突っかかって来ないの!? 気持ちわるぅい!」

 

食蜂は素直にお礼を言った美琴の様子にドン引きする。

食蜂の前で、美琴はふりふりのウェディングドレスの(すそ)を摘まみながら小さく微笑む。

 

(……黒子主導だったらこんなフリフリの着られなかったもかもしれないし。少しは食蜂に感謝しないとね)

 

真守は笑っている美琴とドン引きしている食蜂を見て、一人心の中で呟く。

 

(やっぱり仲は良くないけど、互いのこと知り尽くしていて息ぴったりなんだなあ)

 

真守はちぐはぐながらもなんだかんだ言って心が通じ合っている二人に穏やかな気分になり、そのまま撮影に臨んだ。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

垣根はぼーっとテレビを見ていた。

明日はカップリングアイドル企画の最終収録日だ。

明日の撮影が終わってしまえば、真守との撮影は当分ない。

 

もっと真守と共に撮影をしたい。

いいや、撮影をしていなくてもいいから一緒にいたい。

 

真守への愛しい気持ちを自覚した垣根は、ため息を吐く。

 

(いくらカップリングアイドル企画が好評だからって、マジモンのアイドル同士の恋愛なんて認められねえに決まってるだろ。そもそも真守がどう考えているか分からねえし……)

 

垣根は真守への想いをどうにか抑えようと心の中で考えていると、隣に座って雑誌を読んでいた林檎がちょいちょいっと垣根のジャケットの(すそ)を引っ張った。

 

「なんだ?」

 

「垣根。朝槻が載ってる。とってもきれい」

 

垣根は林檎にそう言われて、胡乱(うろん)げな瞳のまま雑誌を見た。

 

「な」

 

そこには真守がウェディングドレスを着た姿で映し出されていた。

控えめに微笑み、マーメイドラインの綺麗なウェディングドレスを着て、ブーケを持っている真守。

それを見て、垣根は焦燥が(つの)った。

 

いつか真守は誰かのお嫁さんになる。

 

誰かと恋愛をして、誰かと愛を育み、そして結婚し子供を産む。

トップアイドルだとしても真守は一人の女の子だ。

一人の女の子としての幸せは当然として享受できる。

 

真守が誰かのものになる。

 

自分から離れていって、どこか遠くで。

そして幸せになる。

 

そんなの嫌だ。

学園都市の『闇』と懸命に戦う真守に、女としての幸せを自分が与えてやりたい。

だがアイドル同士の恋愛は禁止だ。

 

だったら自分がアイドルを辞めればいい。

 

垣根はその解決策に気が付いた時、ハッと息を呑んだ。

 

学園都市上層部は『絶対偶像進化(ミラクルアイドリゼーション)計画』で絶対能力者(レベル6)を生み出そうとしている。

 

絶対能力者(レベル6)とは、人から乖離した存在だ。

その存在が人の精神のままでいられるはずがないと、真守はそう推測していた。

あの勘の鋭い真守が言うのであれば、絶対能力者(レベル6)とはろくでもないものなのだろう。

 

だったら垣根が真守や一方通行(アクセラレータ)とトップアイドルの座を奪い合ってAIM拡散力場の指向性が一定の方向に向かわないようにすれば、真守や一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)しない。

 

一方通行(アクセラレータ)はどうでもいいが、真守を絶対に絶対能力者(レベル6)進化(シフト)なんてさせたくない。

 

どうすればいい。

 

真守も自分もアイドルを辞めればいいのだろうか、と垣根は考える。

 

だがそうしたら、自分たちのことを応援してくれているファンのことを無下に切り捨てることになる。

それだけはやってはならないことだ。

だからアイドルを辞めるなんて選択肢を取ってはならない。

 

だが垣根帝督は、朝槻真守と一緒にいたかった。

 

その気持ちは、どう頑張ったって抑えられそうにない。

 

垣根が袋小路に立たされていると、林檎が垣根が自分から奪い取った雑誌の一文を読んだ。

 

「動画配信サイトで模擬挙式風な動画が公開されるんだって。垣根。私、見たい」

 

「……それだ!!」

 

垣根は林檎のおねだりを聞いて声を上げる。

ある。

真守との関係を続けたまま、アイドルも続けられるたった一つの方法が──!!

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守はカップリングアイドル企画の最後の収録が終わってしまって、控え室で片づけをしながら落ち込んでいた。

 

垣根帝督は自分が消えた八人目の超能力者(レベル5)だと知っている。

自分の偏食の理由も理解してくれている。

そして自分のことを(おもんぱか)って、食べられるような食事を作ってくれる。

自信たっぷりで、でもどこか劣等感にまみれており、ひたすらに足掻いてトップアイドルへと昇りつめようとしている。

 

いつからか、朝槻真守はアイドルとしてではなく、垣根帝督を一人の大切な男の子だと思うようになっていた。

 

だから真守は垣根との収録はとても楽しく、終わってしまうのが本当に心残りだった。

 

(でも企画はいつか終了するものだし。それにアイドル同士の恋愛なんて認められないし。垣根の方もどう思ってるか分からないし。……だからこれで垣根との関係も終わり)

 

真守は寂しい気持ちになりながらも、そこでハッと息を呑む。

 

(でも映画の撮影とかだと一緒になれるかも。それかバラエティーでカップリングアイドル企画をやっていましたよって話題にされてペアで呼ばれることも……って、それは私の願望か)

 

真守は自分ばっかり必死になってバカみたいだと、自虐的に微笑む。

そんな真守のいる控え室の扉が、突然コンコンッと叩かれた。

 

「真守」

 

「垣根。挨拶に来てくれたのか?」

 

真守は垣根が最後の挨拶をしに来てくれたのだと知って顔を明るくする。

そんな真守へと、垣根は一直線に向かって突然手を取った。

 

「垣根? ど、どうしたんだ?」

 

真守が顔を真っ赤にして自分の手を握っている垣根に問いかけると、垣根は真守の目をまっすぐと見つめた。

 

「俺はお前と一緒にいたい。お前もそうだろ?」

 

「ふぇっ!?」

 

真守は垣根から直球で訊ねられて、びっくりして体を固まらせる。

 

「どうなんだ?」

 

垣根がまっすぐとその黒曜石の瞳を向けてきたので真守はかちこちに固まる。

垣根は真守が答えるまで真守をまっすぐと捉えており、真守は答えなければずっと手を握られたままだとして、顔を真っ赤にしたまま(うつむ)く。

 

「私も、一緒にいたい。……でも、ダメだぞ。アイドルの恋愛なんて。それに……もうカップリングアイドル企画は終わったんだぞ……?」

 

真守がおずおずと事実を口にすると、垣根は真守の顔を手でくいっと上げて真守の視線を自分に合わせた。

 

「動画配信サイトでチャンネルを作るぞ」

 

「ちゃんねる……?」

 

携帯電話を取り出した垣根から解放された真守は、配信サイトの一つを見せられて目を(またた)かせる。

その動画配信サイトにはカップルチャンネルというジャンルがあるらしく、多くの動画が投稿されていた。

 

元々カップリングアイドル企画とは、昨今話題になっているカップリングチャンネルを基に企画されたのだ。

 

だから動画配信サイトで自主的にカップリングアイドル企画をすればいい。

それが、垣根帝督と朝槻真守が一緒にいる唯一の方法だ。

 

垣根と一緒にいる方法が見つかった真守は目を見開く。

そんな真守のことを、垣根はぎゅっと抱きしめた。

 

「俺と一緒にチャンネルを立ち上げてくれ、真守。それでずっと一緒にやって行こう」

 

真守は垣根に抱きしめられて心臓がバクバクと大きく跳ねる中、ゆっくりと垣根の腰に手を回して、自分もぎゅっと垣根を抱きしめた。

 

「私もっ……垣根とずっと一緒にいたいっ。一緒にチャンネルやるっ」

 

真守が感極まってしゃくりあげながら自分の気持ちを吐露すると、垣根は笑った。

 

「これからもよろしくな、真守」

 

「うんっ」

 

真守は笑顔で垣根の手を取って微笑む。

 

こうして朝槻真守と垣根帝督のカップリングチャンネルが開設され、ファンの莫大な支援と共に拡大し、カップリングアイドルは一大ムーブメントとなった。

 

一大ムーブメントとなったカップリングアイドルは他の超能力者(レベル5)アイドルの中からも生まれ、年越し放送でペアになった削板軍覇と麦野沈利が、そしてなんだかんだ言ってお似合いである御坂美琴と食蜂操祈がそれぞれ異性・同性カップリングアイドルとして誕生した。

 

朝槻真守と垣根帝督は、異例のツートップとして学園都市のトップアイドルの座を獲得することになった。

 

トップが二人になったことで、AIM拡散力場の指向性がまとまらず、ファンの力によって絶対能力者(レベル6)を生み出す『絶対偶像進化(ミラクルアイドリゼーション)計画』はとん挫した。

 

だが計画がとん挫しても、垣根帝督と朝槻真守は共にカップリングアイドルで居続けた。

 

いつまでも。

ずぅっと、一緒に。

『表』の世界で、アイドルとして輝かしい日常を歩んでいった。

 




とある偶像の流動源力さま、完結です。
これでExtra篇は終了です。三月からは新約篇を投稿したいと思います。
おそらく水曜日更新になる予定ですが、Twitterの方でも告知させていただきます。
新約篇も流動源力をよろしくお願いいたします。



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