とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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新約篇、開幕しました。第一話、投稿します。
原作でもナンバリングが一巻となっておりますので、流動源力も心機一転して一話からです。


新約:新入生篇
第一話:〈平穏無事〉な日常生活


一〇月三〇日。

第三次世界大戦終戦直前。

 

その日、人々は切り(ひら)かれた夜天の先に黄金の空を垣間見た。

 

そして黄金の空と共に地上からは巨大な右腕が生えて、人々の息の根を止めようと動き出した。

 

黄金の腕に人々が抗っていると、人々の(うち)から湧き上がるような力と、それを授けた者の声を聞いた。

 

『お前たちの可能性を信じている』

 

人々がその御言葉と力を胸に黄金の腕に抗っていると、突然世界の黄金が消え去った。

 

そして、ロシアの地に立っていた人々はそれを目撃した。

 

黄金の天を引き裂くように貫く、(あお)き救済の光を。

 

専門家は第三次世界大戦による集団ヒステリー、所謂(いわゆる)『サードウォー症』だと主張するが、巨大な黄金の腕や肋骨が残されていることから信心深い者たちは新たな神の到来だと口々に告げた。

 

中には神が自分を選び、御言葉を囁いたのだと固く信じる者もいた。

 

だがその神がどんな教義を持って自分たちを導いてくれるのか、誰も知らない。

 

それならば信仰の場を作れば神は我らのもとに降臨するかもしれない。

 

かくして、人々は次々と『蒼星神(そうせいしん)』だの『(あお)い光の君』だの『(あお)き星』だのと、それぞれが名称を付けて新興宗教を打ち立ていた。

 

勿論、十字教に見つかると弾圧されるので秘密裏に水面下で行っていた。……が、十字教にもその話は届いていた。

新しい神など認められないが、学園都市に負けた身分での発言力というものはないに等しかったため、どうすることもできなかった。

 

その中でとある噂が流れた。

 

どうやらあの神は、学園都市が新たに作り出した人々を救済する科学の神であると。

 

そういった噂がまことしやかに(ささや)かれているのもあり、第三次世界大戦の勝者である学園都市には世界の注目が集まっていた。

 

注目が集まっているとしても、今日も学園都市では変わらない朝がやってくる。

 

そのため超能力者(レベル5)第三位、垣根帝督はゆっくりと目を覚ました。

 

垣根は携帯電話の目覚ましを止めると、気怠そうに体を起こす。

 

(ねむ……)

 

眠気に負けてもう一度寝ようかと思ったが、布団の中でもぞもぞと動きがあったので、垣根はそちらに意識を向けた。

 

布団をめくると、布団の中には垣根が動いたことで寒そうに身をよじって垣根の横っ腹に張り付く少女の姿があった。

 

長い猫っ毛の(あで)やかな黒髪。整った顔立ちに、一発で異国の血が入っていると分かる白い肌。

 

胸が大きいのに触れれば折れてしまいそうな細い腰を持ち、足がすらっと長いアイドル体型。

 

その黒猫のような優美な肢体にはもこもこのルームウェアがまとってあり、少女はゆっくりと目を開き、エメラルドグリーンの瞳で垣根を見上げた。

 

「垣根、おはよう」

 

超能力者(レベル5)、第一位。流動源力(ギアホイール)朝槻(あさつき)真守(まもり)。ついでに言うなら絶対能力者(レベル6)

 

垣根が永遠を共にすると誓った大切な女の子だ。

 

「? 垣根? どうした? 朝だからぼーっとしているのか?」

 

いつものダウナー声で、そしてぶっきらぼうな口調で真守はぼーっとしている垣根の顔を見つめるために、もぞもぞと体を起こして垣根へと顔を近づけた。

 

「おはよう、真守」

 

垣根はそんな真守に一つキスを落として、朝の挨拶をする。

 

「ん。おはよう、垣根。今日はお昼とっても寒くなるみたいだぞ」

 

「そうか。もう一一月だからな」

 

垣根は携帯電話でカレンダーを表示させながら告げる。

 

第三次世界大戦終戦からまだ一週間も経っていないが、垣根と真守は学園都市で日常を取り戻しつつあった。

 

それでも第三次世界大戦で喪われたものもある。

 

垣根はそれについて考えて目を細めていたが、そんな垣根に真守は猫のようにすり寄った。

 

垣根はすりすりと猫が甘えるように自分の胸に頬をすり寄せる真守に笑いかける。

 

「なんだよ、甘えん坊」

 

「垣根、今日もかっこいい。だいすき」

 

真守はすり寄るのをやめて垣根を見上げると、ふにゃっと笑った。

 

この愛おしい存在に垣根帝督が出会ったのは七月初旬。

 

当時、垣根は学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーに一矢報いるための突破口を、彼が進めている『計画(プラン)』にあると睨んで行動していた。

 

そんな中もたらされた情報は、『計画(プラン)』の主軸である『第一候補(メインプラン)』が学園都市超能力者(レベル5)第一位である一方通行(アクセラレータ)ではなく、消えた八人目の超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)であるというものだった。

 

垣根は流動源力(ギアホイール)という超能力者(レベル5)源白(みなしろ)深城(みしろ)という少女で、第七学区のとある病院に昏睡状態で入院しているという情報を掴んだ。

 

そんな超能力者(レベル5)の少女と研究所時代から一緒だった少女が、朝槻真守だった。

 

だが実際には違った。

源白深城が消えた八人目の超能力者(レベル5)という情報は上層部が流した嘘であり、真守が大量殺人を犯したという事実を隠蔽(いんぺい)するためのものだった。

 

真守が超能力者(レベル5)であるという真実を知らない垣根は、真守から源白深城の情報を聞き出すために近づいた。

 

その最中、垣根帝督は朝槻真守の優しさに惹かれつつあった。

 

そんなある日。学園都市上層部がデータを取るという名目で真守を攻撃するように、ネットの掲示板に書き込みをした。

 

それに幻想御手(レベルアッパー)事件が絡んでいることもあって、垣根は真守が実は超能力者(レベル5)であることを知り、そして真守が『闇』と戦いながら表の世界でずっと一人で戦っていたことを知った。

 

真守を一人になんてできない。この少女を一人にさせるのはどうしても嫌だ。

 

そう思った垣根は真守に手を差し伸べた。

 

垣根と共に日々を過ごしていた真守だったが、垣根と心も体も繋がり永遠を誓った直後、絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)して一度垣根のもとを離れざるを得なくなった。

 

垣根は何も言わずに去ってしまった真守のことを追って、自分が所属している暗部組織を引っ掻き回して真守を取り戻した。

 

そして本格的に科学と対局の位置にある魔術の戦いに巻き込まれ、なんやかんやでロシアまで行き、第三次世界大戦に関わった。

 

だがそれらを乗り越えた真守と垣根はその過程で強く結ばれ、文字通り永遠を誓い合った仲として、現在一〇代の少年少女としては重すぎる関係を構築している。

 

第三次世界大戦から帰ってきた真守は甘えん坊になった。

 

そんな真守が自分に再び頬をすり寄せてくる姿が愛しくて、垣根真守の頭にキスを降らせる。

真守は垣根にキスをされて愛されていることを今一度自覚して、満足そうに垣根から離れ、ふにゃっと笑った。

 

「垣根、着替えて深城のご飯食べに行こう?」

 

「ああ」

 

源白深城は真守のことを救い、そして真守が救った少女の名前だ。

 

彼女は昏睡状態である一二歳の体と、『天使』化して行動できる一八歳の体を持っており、第三次世界大戦の時は魔術サイドが降ろした大天使『神の力(ガブリエル)』を人生で初めて殴ったというとんでもない少女だ。

 

真守は深城の手料理が食べられるとご機嫌な様子でベッドから降りて、身支度を整えるために垣根の隣に位置する自分の部屋へと向かっていった。

 

自分は何を着ようか、と垣根は思う。

 

暗部組織という枠組みそのものがなくなった今、暗部組織として動く時に着ていたスーツを着る理由はもうない。

 

私服でもいいが、おそらく真守はセーラー服を着るのだろう。

 

だったら彼女の隣にいるための相応しい格好は、やっぱり男子高校生らしく制服だ。

 

垣根はそう思い、学園都市内の五本指に入るエリート校で自分が所属している制服を手に取った。

 

慣れた手つきで着て廊下に出て真守を待つと、真守が着替えて部屋から出てきた。

 

真守はやっぱりとある高校の何の変哲もない冬服のセーラー服に、黒いニーハイソックスを穿いている。

そして先程までおろしていた髪の毛はハーフアップにされて、真守のトレードマークである猫耳ヘアに綺麗に結い上げられていた。

 

女子高生らしい姿をした真守は部屋から出てきた途端、きょとっと目を見開いた。

 

絶対能力者(レベル6)になってからあまり驚くことがなくなった真守のその表情を見た垣根は、その表情が愛しくなって柔らかく微笑んだ。

 

「どうした?」

 

「九月三〇日のデートを思い出す」

 

九月三〇日、という言葉を聞いて垣根は目を細める。

 

あの日は真守が絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した運命の日だった。

 

そのことを思い出していると、真守は垣根の前で右手薬指に()められている指輪に触れた。

 

垣根の右手薬指に()めている指輪とペアで作られた、光の角度で虹色に光る精緻(せいち)な模様が刻まれた指輪。

 

「垣根の制服また見られてうれしい」

 

真守が幸せそうに胸の前で指輪を撫でながらふにゃっと笑うので、垣根はそんな真守の髪の毛を一筋すくって微笑む。

 

「俺も、また一緒にお前と制服が着られるようになれてうれしい」

 

垣根が微笑みかけてくれるので、真守は照れくさそうに笑って垣根の手を引っ張った。

 

「よかった。行こう、垣根!」

 

「ああ」

 

垣根は頷くと、真守と一緒に深城が食事を作っているキッチンがある二階のラウンジへと向かう。

 

垣根や真守たちが住んでいる自宅は五階建てのマンション型のシェアハウスで、当初の目的としては真守が内臓器官の治療をするために真守の主治医が特別に用意した家だった。

 

真守は真守は〇九三〇事件後から第三次世界大戦まで、ローマ正教は疎か、絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した関係上で学園都市からもその身を狙われていた。

 

だが垣根帝督率いる『スクール』が学園都市を出し抜き、第三次世界大戦が終結したこともあって身の安全が保障され、この自宅に帰って来ることができた。

 

それでも絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した真守には既に治療が必要ないため、入院代わりに真守の主治医である冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が用意したこの自宅にはもう意味がない。

 

だが真守がこれまでと変わらない生活ができるようにと、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は真守のことを神と崇めている『(しるべ)』という団体にマンションの権利を移譲して、真守が変わらずにこの家で住めるように手続きをしてくれた。

 

朝槻真守は多くの人に囲まれて、絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)しても穏やかな日常を過ごしていた。

 

そんな穏やかな日常のために一役買ってくれた『スクール』の構成員とも、真守は現在も良好な関係を築けている。

 

「あら。おはよう、二人共」

 

真守と垣根が階段を下りて二階のラウンジに顔を出すと、真守が良好な関係を築けている『スクール』の構成員である心理定規(メジャーハート)がソファに腰かけていた。

 

もう一一月だと言うのにドレスを着ている、中学生くらいの年齢の少女である。

 

心理定規(メジャーハート)。おはよう」

 

真守が挨拶をすると、心理定規(メジャーハート)はニコッと綺麗な笑みを浮かべた。

そんな心理定規(メジャーハート)を見て、垣根は不機嫌そうに顔をしかめた。

 

「お前なんでここにいるんだ?」

 

「あら。彼女には昨日、自分の家に帰るよりここに帰った方が手っ取り早いから一泊させてもらうってメールを送ったわよ?」

 

「うん。心理定規(メジャーハート)はちゃんとメールを送ってくれたぞ。それに垣根、心理定規(メジャーハート)が来たときお風呂に入ってたからな。知らなくてもしょうがない」

 

「ムカつく。そういうことはちゃんと言えよ」

 

心理定規(メジャーハート)の言葉に頷く真守を見て、垣根は苛立ちを込めて真守を睨む。

 

「この家の主は彼女なのだから、あなたにいちいち許可取らなくてもいいじゃない」

 

「それでも俺だってこの家に住んでんだ。知らないところで勝手に話が進んでんのは気に食わねえ」

 

「あなた、相変わらずね」

 

垣根の変わらない傍若無人な言い分を聞いて心理定規(メジャーハート)が笑っていると、ぱたぱたと軽いスリッパの足音が聞こえてきた。

 

「朝槻、垣根。おはよう」

 

近付いてきたのはエプロンにフライ返しを持っているショートカットの少女だ。

 

名前は杠林檎。『暗闇の五月計画』という学園都市の『闇』のプロジェクトの被検体となっていた少女で、八月末に真守が垣根と一緒に保護した少女だ。

 

「林檎、おはよう」

 

真守が林檎のことをぎゅーっと抱きしめると、林檎は『ん』と声を出して幸せそうに目を細める。

 

「ご飯できた。心理定規(メジャーハート)も」

 

「あら、ありがとう」

 

「お前も食ってくのかよ」

 

林檎が心理定規(メジャーハート)に声をかけたので垣根がげんなりとすると、心理定規は再び笑って真守を見た。

 

「あなたの男、心が狭いんじゃないかしら?」

 

「器が小さいのはずっとそうだぞ。でも大丈夫、器が小さいとこもちゃんと愛せてる」

 

真守がグッと親指を立てると、心理定規(メジャーハート)はくすくすと笑う。

 

「相変わらずあなたの(ふところ)は広いわね」

 

「オイてめえら何勝手なこと言ってんだよ。俺の器は小さくねえ」

 

真守と心理定規(メジャーハート)が会話しているのを聞いて垣根が片眉を跳ねさせると、真守はどこ吹く風でぷいっと顔を背けてぱたぱたと駆けていく。

 

そんな真守を垣根は『オイ待て真守逃げるんじゃねえ』と言って片方の手をポケットに入れて早足で追っており、どうやら垣根の苛立ちが心理定規(メジャーハート)に向かないように真守はその場を離れるという配慮をしたらしい。

 

心理定規(メジャーハート)は真守と垣根のいつもの様子に微笑ましくなりながら、林檎と共にラウンジの奥にあるダイニングテーブルへと向かう。

 

「あ、真守ちゃん垣根さんおはよぉ~……って、どぉしたの? なんで朝から垣根さん、真守ちゃんのほっぺつねってるの?」

 

真守と真守の頬をつねる垣根を目撃して声をかけたのは、薄桃色の髪の毛にはちみつ色の瞳を持つ豊満なボディをした源白深城だった。

深城が二人を見てコテッと小首を傾げると、真守は顔をしかめながら深城を見た。

 

ふぁひね(かきね)いひわる(いじわる)ひへふる(してくる)

 

「垣根さん、いじわるしちゃダメだよ」

 

頬を引っ張られて上手く喋ることができない真守の言葉を一言一句間違えずに聞き取った深城は、垣根を軽く注意する。

 

「別にイジめてねえ。コイツが生意気なだけだ」

 

垣根は真守の頬をつねりながら告げるので、真守はむーむー言って抗議する。

 

「真守ちゃんが生意気なのは神さまとして傲慢的な感じで、別に構わないんじゃないかなあ?」

 

「朝槻、垣根。遊んでないでご飯食べよう」

 

深城が苦笑していると林檎が催促するので、深城は垣根に反旗(はんき)(ひるがえ)そうとしている真守を宥めて食事の準備を再び進める。

 

真守と垣根が恋人同士らしくいちゃいちゃと喧嘩をするいつもの穏やかな朝。

 

そんな朝は、今日も変わらずに訪れていた。

 




新約篇、始まりました。
久しぶりの本編。
初っ端からアクセル全開で恋人らしいことをしていますが、新約は艱難辛苦を乗り越えたので大体こんな感じで進みます。
真守ちゃんと垣根くんの全開イチャラブをお楽しみいただけると幸いです。

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