とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第二話、投稿します。


第二話:〈安穏逢瀬〉は幸せに

垣根は真守が通っているとある何の変哲もない高校の前で立っていた。

 

時刻は昼過ぎ。一端覧祭の用意で午前授業であるため、人の出入りが多かった。

 

顔立ちの整った高身長の垣根が学園都市五本指に入るエリート高校の制服を着ているので、周りの生徒、特に女子たちはチラチラと垣根を見ながら自らのするべきことのために動く。

 

「垣根」

 

注目を集めることはいつものことなので垣根が気にせずに真守を待っていると、真守が正面玄関から出てきて、垣根に気が付いてパタパタと走って近寄ってきた。

 

「真守」

 

垣根が柔らかな視線を向けると、真守は垣根の前で立ち止まって見上げた。

 

「一端覧祭の準備についてちゃんと聞いてきたぞ。私の分担を吹寄が決めてくれたんだ」

 

真守は手に持っていた紙をぴらぴらと振りながら告げる。

 

ローマ正教と学園都市の争いのせいで、真守は九月三〇日から学校を欠席していた。

 

それでも出席日数については真守のことを神と崇め、真守の力になろうとしてくれる集団、『(しるべ)』の代表である八乙女緋鷹がどうにかしてくれていたのだ。

 

だが第三次世界大戦が終わり、再び学校に通うことができるようになっても真守は数日間寝込んでおり、学校に顔を出すことができていなかった。

 

そのため十一月に行われる世界最大の文化祭である一端覧祭についてどうなっているか気になっていた真守だが、どうやらクラスの委員長的存在である吹寄制理がきちんと真守の分担など色々と考えてくれていたらしい。

 

真守は絶対能力者(レベル6)となり、既に人間から完全な存在となった。

だから授業に出る必要はないし、そもそも学校に通う理由もない。

だが真守は一〇代の少女として、人間としての心を持っている。

 

だからかつて人間だった頃の友人と再び時間を時にするのが楽しく、真守は上機嫌になっていた。

 

「良かったな」

 

垣根が真守の猫耳ヘアを崩さずに頭を撫でると、真守は気持ちよさそうに目を細めた。

 

「垣根。これからどこ行く?」

 

「そうだな。少し早いけど昼飯食いに行くか。いつもの喫茶店で」

 

垣根が提案した喫茶店とは、真守と垣根が初めて会った時に入った喫茶店だ。

チェーン店でありながらもカロリーだけがバカに高い食事を提供していない、体のことを考えたメニューと落ち着いた雰囲気の店である。

 

「私もあのチェーン店好きだ。垣根と一緒に入ったからもっと好きになった!」

 

真守が柔らかな微笑を浮かべて告げてくるので、垣根はふっと目元を柔らかくした。

 

「真守」

 

「なんだ?」

 

真守が名前を呼ばれて幸せそうに目を細める姿を見て、垣根は真守の手を優しく握る。

 

「ずっと遠慮してて、辛かっただろ?」

 

「!」

 

真守は垣根に言われて目を見開く。

 

「……だって、垣根に申し訳なかったから」

 

朝槻真守は神さまを必要とする存在によって、神さまになるようにこの世に生まれ落ちた。

 

真守の危険性を感じた統括理事長、アレイスター=クロウリーは真守を『第一候補(メインプラン)』として『計画(プラン)』に組み込むことにより、真守のことをコントロールしようと画策した。

 

そしてアレイスターが真守を操るために用意したのが、『計画(プラン)』の『補助候補(サブプラン)』とされた垣根帝督だった。

 

だが元々、神さまになるために生まれ落ちた朝槻真守は垣根帝督と出会うことが決まっていた。

 

その運命にアレイスターが介入したことで、二人の運命は少々事情が複雑になってしまった。

 

だから真守は垣根に時期を見て事情を説明しようと思っていた。

 

それまで自分が心苦しい思いをしていても問題にしてはならないと思っていた。

 

何故なら真守は垣根帝督が最も傷つかずに、自分の選ぶべき道を選べるのが一番良いと思っていたからだ。

 

だがとある超常の存在が『エリザリーナ独立国同盟に行けば朝槻真守の欲しい結末へと行き着く』と真守に伝えた。

 

だから真守はエリザリーナ独立国同盟に向かって第三次世界大戦に参加することになったのだ。

 

喪うものもあったが、垣根帝督は全てを知り、朝槻真守と共にいる道を選び取った。

 

垣根が自分と共にいてくれると選んだならば、今更もう申し訳ないと思うことも遠慮をすることはないのだ。

 

だから真守は第三次世界大戦から帰ってきたら甘えん坊になったと、垣根は感じていた。

 

だがそれで良かった。

 

愛しい女の子に遠慮なんてしてほしくないからだ。

 

「もう気にするなよ。恋人なんだから甘えりゃいい。分かったな?」

 

垣根がぎゅっと真守と恋人繋ぎをして微笑むと、真守はふにゃっと幸せそうに笑う。

 

「分かった。じゃあ垣根。私、垣根と一緒にご飯食べに行きたいな」

 

「それくらいお安い御用だ」

 

垣根は真守としっかり恋人繋ぎをして、真守の歩幅に合わせて歩き出す。

垣根が何もかもを自分に合わせてくれようとしていることが嬉しくて、真守は幸せそうに小さく笑って垣根と共に歩き出した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「おいしいか、真守?」

 

「うん。オムライス、とってもおいしい!」

 

真守は垣根と入ったレストランで向かい合わせに座って小さい口でオムライスをはぐはぐと食べており、垣根はそんな真守を見ながらハンバーグを一欠片フォークに刺す。

 

「ほら」

 

垣根が真守にフォークに刺さったハンバーグを差し出すと、真守は幸せそうに目を細めてあーん、と小さな口を開けてハンバーグを垣根から貰って食べる。

 

「おいしいっ。垣根、ありがとう」

 

真守がふにゃっと笑ってお礼を言うので、垣根はそんな真守が愛しくなってしまって胸が締め付けられる。

真守は幸せを感じながら垣根に訊ねた。

 

「この後はどうするんだ?」

 

「アジトに行きたいが……まだ時間がある。だからお前の行きたいところに少し寄ってから行こうと思ってる。どこに行きたい?」

 

垣根と真守は昼食を食べた後、第八学区のとあるビルにある元暗部組織『スクール』のアジトへ行くことになっていた。

学園都市の『闇』である暗部組織は第三次世界大戦から戻ってきた一方通行(アクセラレータ)の手によって解体されたが、あのアジトは垣根が個人的に用意したものだったので所有権は変わらずに垣根にあるのだ。

 

「時間あるのか。……そうだな、じゃあマフラーが欲しいな」

 

真守が控えめに自分の要望を垣根に伝えると、垣根は目を一度(またた)かせて首を傾げた。

 

「マフラー?」

 

「うん。寒くなってきたから新しい防寒具が欲しい。ダメか?」

 

「ダメなんてことはねえよ。セブンスミストでいいか?」

 

「うん」

 

真守は垣根が一緒に行ってくれると言ったので、ご機嫌な様子でニコニコしながらオムライスをちまちま食べ始める。

 

その姿が愛しくて垣根は柔らかく笑いながら、自分も食事を再開した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「この白いのかわいい」

 

真守は第七学区にあるデパート、セブンスミストの中の高級志向の店で、もこもこでポンポンがついた白いマフラーを手に取る。

 

あ、でも黒いのもかわいい。と呟いて久しぶりにゆっくり買い物する真守を横目に、垣根は真守に似合いそうな他の防寒具を見ていた。

 

「垣根、やっぱりこの白いのにする」

 

「おう。じゃあこれと一緒に買ってやる」

 

「え」

 

真守が気に入った白いマフラーを手に取ると、垣根はそれを無視して真守に似合いそうなふわふわの白と黒の毛でできたファーが付いた耳当てを真守に着けた。

 

耳当ては後ろから付けるタイプなので、真守の猫耳ヘアを崩すことなくつけることができる。

 

「かわいい」

 

垣根が真守の様子を見て笑うと、真守は鏡の前に立って自分の姿を見つめる。

 

「本当だ。とっても私好み」

 

真守は鏡の中の自分を見つめて、ふわふわの耳あてに触れながらふふっと微笑む。

 

「気に入ったか?」

 

「うん。かわいいっ。選んでくれてありがとう、垣根」

 

真守が柔らかい笑顔を浮かべて色々な角度から耳当てを見ていると、垣根は真守を愛おしそうに見つめながら柔らかく目を細めた。

 

「じゃあそれと一緒に買ってやるから。ほら、マフラー寄越せ」

 

垣根が買ってプレゼントしてくれると言うので、真守は目を丸くする。

 

「……いいの?」

 

「いいっつってんだろ。ほら」

 

真守は垣根に強く言われて、耳当てとマフラーをおずおずと渡す。

だが垣根が手にしても真守はぎゅっとマフラーを握っており、垣根は怪訝な表情をして真守を見た。

 

「垣根、おねがい。買ってくれるか?」

 

「……、」

 

真守がおねだりしてくるので垣根は思考停止する。

かわいい。

眉を八の字にしてねだってくる様子がおやつを欲しがっている猫に見えて仕方がない。

 

「垣根?」

 

真守が固まった垣根へと声をかけると、垣根は真顔になってまっすぐと真守を見る。

 

「家でも土地でもなんでも買ってやる」

 

「なんで突然その選択肢が出てきた!? 私、別にお金ないわけじゃないぞっ!」

 

この学園都市では強度(レベル)の強さによって貰える奨学金が決まる。

 

真守は絶対能力者(レベル6)だが、学園都市第一位に位置付けられている。そのため第三位の垣根と同等かそれ以上の奨学金を受け取っている。

 

それに真守は学園都市に捨てられた置き去り(チャイルドエラー)だったが、真守が超能力者(レベル5)第一位に認定された時、父親に捨てられた真守のことを必死に探していたイギリスの古物商で魔術大家であるマクレーン家が血族だと名乗り出たことで、強力なバックもできたのだ。

 

だから真守は余りあるほどの金銭を持っているというわけである。

 

「恋人になんでも買ってあげるのは良くない!」

 

真守が慌てて(みつ)ぐのは良くない! と叫ぶと、垣根は不機嫌そうに告げる。

 

「お前が俺から搾取(さくしゅ)しようとか考えてねえんだから別に良いだろ。つーか逆に聞くけど、なんでダメなんだ?」

 

「えっ……そ、そうか。それだったら何も悪いことはない……のか?」

 

真守は垣根に直球で疑問を投げかけられて、何が良くて何が悪いのか分からなくなってしまってあからさまに考え込む。

 

「だったらいいだろ。ほら、行くぞ」

 

垣根はそこで真守からひょいっとマフラーと耳当てを取ると、そのままレジへと向かう。

 

(むぅ。かっこいい……)

 

垣根帝督ははっきり言ってイケメンの部類に属する人間だ。

すらっとした高身長に、整った顔立ち。

しかもなんでもするっと簡単にこなしてしまうため、とても様になっている。

 

真守は垣根のかっこよさにドキドキしながらも、歩き出した垣根へと向かってテテテッと走って隣に並び、レジへと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は垣根と一緒に歩きながらセブンスミスト内を歩いていた。

 

もちろん垣根が真守に買ってあげたマフラーと耳当てが入ったショッピングバッグは垣根が持っている。

 

荷物くらい自分で持つと進言した真守だったが、女に持たせられるかと垣根が吐き捨てるように言った結果である。

 

どこまでも自分のことを大事にしてくれる垣根を前に、真守は垣根と繋いでる手を引っ張って恥ずかしそうに垣根を呼んだ。

 

「垣根。……その、お手洗い行きたい……さっきご飯食べたから…………」

 

「あ? そうだな。お前も食ったり飲んだりしたら普通に行きたくなるモンな」

 

垣根が絶対能力者(レベル6)故に万能である真守の体について言及すると、真守は少し顔を赤らめた。

 

「垣根のばか。そんな明け透けに言わないで。私だってエネルギーの循環をイジればお手洗い行かなくても大丈夫だけど……でもそれだと体に悪いなって思っちゃうし、色々大変だからちゃんと行くの!」

 

真守は絶対能力者(レベル6)の前に、あらゆるエネルギーを生成できる流動源力(ギアホイール)という能力者だ。

 

そのためエネルギーの扱いならお手の物であり、真守は地球が滅亡しても死なない能力者なため、食事を摂らなくても生きていける。

 

だが当然、食事をしたら不要物を排泄しなければならない。

それでもエネルギー運用と絶対能力者(レベル6)としての力を駆使(くし)すれば、真守の言う通り不要物を排泄しなくてもいいのだ。

 

それでも生物の枠をはみ出ていない範囲で完全な存在である真守だってトイレに行きたいというのは真っ当な生理現象なので、絶対能力者(レベル6)と言えど自然に任せた方がいいのである。

 

それなのに垣根が外聞も気にすることなくはっきりと口にしたので真守が怒っていると、垣根は半笑いしながら真守と繋いでいる手を引く。

 

「悪かった悪かった。ほら、行くぞ」

 

垣根が自分をお手洗いへと連れて行こうとするので、真守はムッと口を尖らせる。

 

「別に一人でも行ける。垣根は気になるお店を見てていいぞ」

 

「お前は少し目を離すとすぐにナンパされるだろ。ったく、少しは自覚しろバーカ」

 

真守は異国の血が入っていることやアイドル体型やかわいい顔つきも相まって、すぐに男にナンパされる。

それが嫌で嫌でたまらない垣根は、真守の手を強引に引っ張ってトイレへと向かう。

 

「この学園都市で私に勝てる人間はいないと言うのに」

 

真守がぽそっと呟いた言葉を垣根は無視した。

 

真守は絶対能力者(レベル6)で、この学園都市の頂点で在り、確かに最強だ。

それでも垣根帝督がこの少女を守らない理由にはならない。

この少女を一人にすることがどうしても我慢ならなかった垣根帝督は、この少女を守るためならばそばにいてなんでもやると決めたのだ。

 

「あれ。垣根さん?」

 

真守がトイレから出てきて手を拭きながら垣根のもとへ行くと、垣根に声を掛けていた人物がいた。

 

「弓箭か」

 

そこにいたのは弓箭猟虎。『スクール』のスナイパーで枝垂桜学園に通う少女だ。

 

元々無能力者(レベル0)だったが真守の手によってその能力を適正にまで伸ばされ、現在強能力者(レベル3)程度の波動操作(ウェイブコンダクター)という、あらゆる波を操ることができる能力を持つ少女である。

 

枝垂桜学園の冬服に身を包んでいる弓箭は現在、同じ制服を身に纏った女生徒二人といて、どうやら彼女たちとデパートに来たらしい。

 

真守は手を拭きながら垣根と弓箭に近づき、コテッと小首を傾げて問いかけた。

 

「弓箭。どうしてここにいるんだ?」

 

弓箭は当然として垣根と一緒にいる真守を見て、幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「朝槻さん! わたくしは一端覧祭で必要なものをご学友の方と一緒に買いに来たんです」

 

弓箭は柔らかい笑みを浮かべている典型的なお嬢様二人に視線を寄越しながら告げる。

 

「初めまして。超能力者(レベル5)第一位の朝槻さまですよね?」

 

「お噂はかねがね。もしかしてそちらの殿方は恋人さまでございますか?」

 

女子生徒たちは真守と垣根に挨拶をして、そして高身長でイケメンの部類に入る垣根を見上げて、恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

超能力者(レベル5)の一人、垣根帝督って言う男の子だ。私の大切な人」

 

真守がはにかみながらにへらっと笑うので、女子生徒は顔を明るくして微笑む。

 

「まあ、超能力者(レベル5)の方なんですね」

 

「美男美女で高い地位をお持ちなんて……」

 

「「お似合いですわ」」

 

恥ずかしいけれど、お似合いだと言われて本当にうれしい。

真守が嬉しくて照れていると、そんな真守を愛おしそうに見つめていた垣根は弓箭を見た。

 

「どうやら互いに用事があるみてえだな。弓箭、また誉望から連絡させる。じゃあな」

 

「は、はい! 垣根さんもデートお楽しみください! 朝槻さん、またメールしますね!」

 

真守繋がりで垣根と確かな信頼関係が結ばれている二人の会話を聞き、真守は弓箭と弓箭の友人へと手を振った。

 

「じゃあな、弓箭。それと弓箭の友達さんも」

 

「ええ。ごきげんよう」

 

「またどこかでお会いできると嬉しいです、朝槻さま」

 

真守は弓箭たちと別れて、再び垣根と手を繋いで会話をしながらデパート内を歩く。

 

(幸せ。……垣根といられて、本当に幸せ)

 

真守は自分の手を優しく握ってくれる垣根の大きな手を感じながら、幸せを噛み締める。

 

だが第三次世界大戦で喪ってしまった者を思い出してしまい、少し寂しくなってしまった。

 

真守の友人である上条当麻。

 

だが真守は生死不明な彼が生きて戻ってくると信じて、この学園都市で日常生活を送ると決めた。

 

それにきっと、上条は自分がいなくなったことで周りの人が悲しむのが嫌なはずだ。

 

だから楽しく日々を過ごそうと真守は思い直して、垣根の手を引いて歩き出した。

 


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